太陽が南中し、オラリオは春のはじめの暖かな日差しに包まれている。
ベルとアイズは青春祭に参加するため、東のメインストリートを辿っていた。
そんな中、アイズは道行く人に、自らも歩きながら声をかけていく。
「……どうぞ」
「あら?ありがとう」
「【剣姫】さん! わたしにもちょーだい!」
「うん、はい……」
「わーいありがとう!」
その行為を見て、困惑を隠せない様子の少年が一人。
「えっと、アイズさん?」
「ん、ベル……なに?」
「
「本、だよ?」
「いや、そうじゃなくてですね……」
ベルが『それ』と言ったのは、アイズの言う通り正しく『本』なのだが、問題はその
「『ベル・クラネル英雄譚』って……僕、そんな本書いてないんですけど⁉︎」
「ギルドの人に協力してもらって、私が作ったんだよ……」
「何やってるんですかエイナさん?!」
誇らしげに、むん。と胸を張るアイズに、ベルは彼女から渡された本の内容を流し見して頭を抱える。
「
「あれは、恥ずかしかった……」
「じゃあなんで書いたんですか⁉︎」
「ゼウス様が、絶対に書けって……」
「ああ、もう、お祖父ちゃんッ‼︎」
他にもレフィーヤへの精力剤事件など、それはもう黒歴史が満載。
(正直、憧れていた
そんなやりとりをして、二人が賑やかに通りを歩いていると。
「い、いぃいいいやぁあああああああああああああああああああああ⁉︎⁉︎」
「待ちなァアアアア!」
後方から聞こえてきたのは、どちらも鬼気迫った悲鳴と怒声。
周囲の人々と一斉に後ろを振り返ると、全力疾走で逃げ惑う涙目の
瞬間、これまた一斉に逆方向を向いて見ない振りをする通行人達。
冒険者同士の抗争は日常茶飯事。関わらないが吉だからだ。
しかし、ベルとアイズとっては他人事ではなかった。
ベルに至っては、いつかの
「ヘ、ヘグニさんに……」
「フリュネさん……?」
「べ、ベりゅっ! た、たしゅけてくれぇ〜〜!」
「うわっ! ちょ、ヘグニさん!」
「んーー? ベル・クラネルに、【剣姫】じゃないかぁっ! アタイの思い通りにならない奴らの顔なんて見たくもない! 今すぐアタイの視界から消えなァ!」
追いついたフリュネが、ヘグニがすがるように抱きついている少年と、その隣の少女を目にして、眉間に皺を寄せて吐き捨てる。
しかしベルはそれに怯えながらも、華麗に
コノヒト、ハナシ、ツウジナイ。
「へ、ヘグニさん、どうしたんですか?」
「ヘディンが、ヘディンが……!」
「
「ヘディンが……
「それって、いつものことなんじゃあ?」
「いや、合ってるんだけどさぁあああ〜!」
思わず素直に反応してしまうベルに、ヘグニも泣きながら肯定する。
アイズはその光景を眺めながら
聞くところによると、近頃【
「コイツ、何回半殺しにしても一生付きまとってきてマジで怖いんだ……!」
「なんだいヘグニ、ヒドイじゃないかァ。せっかくこのアタイが夫にしてやるって言ってるのにさァ」
「ほらぁ〜! こうやって意味分かんないこと言ってくるんだぁぁ〜!! だからヘディンに助けてくれって頼んだのに『ヒキガエルきしょいからお前犠牲になれ』って……! いやだいやだ、もう死にたい……」
(
尖った両耳を押さえて左右にブンブンと頭を振り続けるヘグニに、ベルは遠い目をしながら引き攣った笑みを浮かべる。
(なんだろう、ヘグニさんが僕に見えてきた……)
目の前のエルフに過去の自分を重ねて同情する少年は、日頃の恩も兼ねてなんとか助けようと決意する。
「あの、フリュ……」
「聞いたよ、【剣姫】ィ。お前、ベル・クラネルをモノにしたんだってねェ。だが、アタイのヘグニと比べちゃぁ、そこのちんちくりんなんざ形無しさァ」
「……何が、言いたいんですか?」
大切な存在であるベルを侮辱する発言に、アイズは強い怒気を孕んだ言葉を返して、フリュネの前に立つ。
「言葉通りさァ。顔面も性格も身長も、全部ヘグニの方が上だって言ってんだよォ!」
「そんなこと、ない……! それにベルの方が、可愛い……!」
「あの、気にしてないですから喧嘩しないで……」
「俺がベルより上だなんて、彼に失礼だよ、ベルはこんな俺にも優しくしてくれる数少ない……とととと、友達なんだから」
「ベルは下がってて……!」
「お前は黙ってなァ!」
「「ええ……」」
一触即発の空気を宥めようとした二人の言葉を一蹴する女性陣の気迫に、男性陣は一歩後ずさる。
至近距離で睨み合うアイズとフリュネ。ついには、互いの得物に手を──
「おお、ベル・クラネルに【剣姫】……それにヘグニではないか!」
「椿、さん……?」
間一髪のところで通りかかったのは、【へファイストス・ファミリア】団長にして
張りつめていた空気を物の見事にぶち壊して乱入してきた第一級冒険者に、当事者達はそれぞれの反応を示す。
「【
「ん? なんだ、この街には口を利く蛙なんて
「あァン?」
「おお!やるか、やるんだな⁉︎ よし、かかってこい、ヒキガエル! 丁度
「上等さァアアアアアアアアア!」
「……私も、いくよ!」
「ちょ、ここ街中、街中ですから〜っ!」
*
「本当に助かりました、イズン様!」
「どういたしましてっ、ベル。でも、お礼は要らないわ。愛の押し売りはアオハルじゃないもの! 私は青春に生きるすべての
「我は
「ええい! もっとハッキリものを言え、ヘグニ!」
「こここ、この度はたしゅけていただき誠にっ、ありがとうございましゅ……」
あれから、あわや街中で第一級冒険者同士の抗争に、というところを仲介に現れた
いくら第一級冒険者といえど、都市の風紀を著しく乱した犯罪者としてフリュネは【ガネーシャ・ファミリア】の御用になる運びとなった。
「実は、【
「そうだったんですね……」
「ところで、ベル達はこれから
「は、はいっ」
(濃密なアオハル……?)
「あ、それと……【
「ん? 手前か?」
「ほへっ⁉︎ むりむりむりむり絶対無理!」
青春の女神は二人が反応するよりも先に、「新しい推しカプ見つけちゃった☆」とゴキゲンに去っていくのだった。
*
祭典の開始まで、ザルドとアルフィアは各々自分の時間を過ごしていた。
「おい、アルフィア」
「……なんだ?」
「そろそろ始まるぞ」
「そうか」
「……おい、」
「くどいな、なんだ?」
「ベル達と勝負すると聞いたが……お前、この祭りでどんな競技をやるのか知ってるのか?」
「露ほども知らないが? そもそも、
「俺も知らん」
「「…………」」
「どんな競技がこようと、私達が負けることはない。それだけは確かだ」
「嫌な予感しかせんぞ……」
──その予感は、正しかった。
『待ちに待ったぜ、アオハルフェスタ、いよいよ開幕だーーっ! 今回の実況解説はこのオレ、ヘルメスと!』
『アオハル〜☆ 青春の女神、イズン! そして〜っ』
『俺が、青春のガネーシャだあああああああ!』
『で、お送りするぜ!』
『みんないっくよ〜っ! レッツ〜☆』
「「「アオハルぅーーーーーーーーーッ!!」」」
『じゃあ早速、イズンに
『まっかせて〜!』
──────
・合計10種目を行い合計
・獲得できる
・1カップルにつき
・第10種目終了時点で合計取得ポイント上位8カップル(計16人)がトーナメントに進出。
───────────────────────
『ということで第一種目は〜っ! あなたのアオハル小手調べ! パートナーの好きなところ十選! ですっ』
「おい、アルフィア……」
「安心しろ、何も思いつかん」
《第1種目》パートナーの好きなところ10選
交互に互いの好きなところを言い合う。それぞれ10個言えればクリア(制限時間60秒)。
《配点》10ポイント
──ザルド×アルフィアの場合──
審査神:へファイストス
『それじゃあ、レッツアオハルー☆』
「ザルドは……強い」
「アルフィアは……強い」
「ザルドは……………………強い」
「ちょっと! 貴方たちの語彙は『強い』しかないわけ⁉︎」
「当たり前だろう、この脳筋には強さしか取り柄が無い」
「お前も似たようなものだろ……」
「何か言ったか?」
「いや、何も……」
「あと四十秒だけど?」
「ザルドは……………………意地汚い」
「アルフィアは………………暴力の化身だ」
「筋肉馬鹿」
「妖怪地獄耳女」
「雑食」
「我儘」
「なんで悪口言い合ってるのよ!!」
悪口ならいくらでも浮かんでくるとばかりの
もちろん、クリアできる筈がなく、失格。
──ベル×アイズの場合──
審査神:???
『それじゃあ、レッツアオハルー☆』
「アイズさんは……か、可愛い」
「ベルも、可愛い、よ……」
ニコニコ。
「っ!あ、アイズさんは、格好いい」
「ベルも、すごく、すごくて……かっこいい……」
ニコニコニコ。
「ひっ! ……ア、アイズさんは努力家で、尊敬してます」
「べ、ベルもたくさん頑張ってて、えらい……」
ニコニコニコニコ。
「アイズさんは、とても優しくて……」
「ううん、ベルの方が、優しいよ……」
「それでそれで?」
「な、なんでシルさんがいるんですかぁ〜〜!」
「えへへ、来ちゃいましたぁ! どうぞ、気にせず続けてください!」
「続けられるわけないじゃないですか⁉︎」
審査神(?):シル・フローヴァ
時間切れのため、失格。
『運もまた、