Tears for Fears - Sowing the Seeds of Love 歌詞和訳
2025年も明けて間もないですが、いきなり歌詞対訳記事がやってきました。
これまで歌詞和訳記事はある程度事前に予定のようなものがあって、
「和訳の候補曲リスト」の中から選ぶような感じだったのですが、
この曲に関しては全くリストの中などには入れてなかったのですね。
それが1月1日ぐらいに無性に「この曲の和訳がしたい」と思い始めて、
「今はこの曲の和訳をすべきじゃないか」という気持ちが高まって、
「じゃあその気持ちがあるうちに一気にやってしまえ」と進めました。
けっこう解釈が厄介なところがあったりしましたが、何とか乗り越えました。
さて、ここからは今回和訳に選んだ
Tears for Fearsの“Sowing the Seeds of Love”について、
いろいろと解説していきます。
Tears for Fearsはイギリスのバンドで、
80年代のニューウェイブ/シンセポップムーブメントを代表する存在です。
ポストパンクに通じるようなダークな質感を帯びつつ、
シンセの要素を多めに取り入れたニューウェイブのサウンドを鳴らすバンドです。
代表曲として今回紹介する“Sowing the Seeds of Love”以外に
“Shout”や“Everybody Wants to Rule the World”があり、
どちらの曲も全米1位を獲得するなど大きなセールスを収めました。
特に“Shout”は日本でもかなり知ってる人が多い曲だと思います。
Tears for Fearsというバンドは、人間の心の闇の部分であったり、
人間の持つ必然的な愚かさなどを描写することが多いバンドです。
1stアルバムの代表曲“Mad World”などは特にそういう要素が強かったですし。
それに対して今回紹介する“Sowing the Seeds of Love”は、
「愛の種をまこう」と何度も歌う曲であり、
それまでの彼らに比べてポジティブな空気感があふれています。
一見すると「それまでの彼ららしくない詞の曲」なんですよね。
ただこれはそれまでのスタンスとはある意味では表裏一体なのですよね。
「人間を愚かさを描くことで、そこから脱することを願う」のか、
「人間の目指すべき心や社会をストレートに描く」のかの違いであり、
裏から書くか、表から書くかの違いであって、目的地は同じわけです。
ここで彼らはあえて「表から書く」というスタンスを取ったわけですね。
ただし歌詞をよくよく読むと今の社会への強い怒りも込められており、
決してただポジティブなメッセージだけに彩られているわけでもない、
彼ららしく人間社会や現代社会の負の部分にスポットを当てながら、
「それをプラスの力に変えるんだ」と訴えかけている曲でもあります。
さてこの曲で見せたその方向転換はどのように生まれたのかを次の節では見ていきます。
この“Sowing the Seeds of Love”を語るうえで外すことができないのが、
この曲と60年代のフラワームーブメント/ヒッピームーブメントとの関係です。
60年代後期にはベトナム戦争への反対運動や自由な社会を求める声と共に、
“Love & Peace”をキーワードとした巨大なムーブメントが起こり、
これがロックとしてはサイケデリックロックへと繋がっていきました。
この当事者がヒッピーと呼ばれ、この運動はフラワームーブメントと呼ばれます。
この曲は「僕達は再びこのフラワームーブメントの価値を呼び起こすべきではないのか」
という強いメッセージ性が込められています。
フラワームーブメントを音楽的に主導したバンドの一つがThe Beatlesなのですが、
この曲では曲の展開の様々な部分でThe Beatlesの曲へのオマージュが見られます。
音の大きな方向性は彼ららしい「陰りのあるシンセポップ的ニューウェイブ」なのですが、
そこに「The Beatles的サイケデリア」の手法を大幅に取り込んでいるのですよね。
The Beatlesの“All You Need Is Love”に代表されるように、
サイケデリックロック期の歌詞は非常にピースフルでポジティブでした。
要は「平和や自由の価値を直接的に訴えることで、その意義を再確認しよう」
というのがサイケデリックロックの考え方だったわけです。
そして時は流れて70年代後半、パンクロックムーブメントが訪れますが、
彼らは「戦争や人間の愚かさを描写することで、その無意味さを訴えよう」
というスタンスで主張を始めます。
Tears for Fearsの従来の歌詞はまさにこのパンクロックの流れを汲むものでした。
そういう点からすると、この“Sowing the Seeds of Love”の歌詞というのは、
パンクロック的な「現代社会の愚かさへの怒り」と、
サイケデリックロック的な「愛の価値の再確認」を
融合させた歌詞というふうに言えるでしょう。
そしてこれは以前に紹介した、エルヴィス・コステロがカバーした
“(What's So Funny 'Bout) Peace, Love, and Understanding”
とも共通するものとも言えます。
今回の曲のほうがよりポジティブなメッセージ性が顕著ではありますが。
Tears for Fears - Sowing the Seeds of Love (1989)
[New Wave / Synth Pop / Neo-Psychedelia]

このミュージックビデオにはっきりと表れていますが、
この一見意味不明でシュールな展開を持ちながら、
平和や愛を連想させるパーツを多く登場させるというのは
まさに60年代のサイケデリックアートそのものと言えます。
ここにもフラワームーブメントへのオマージュが明確に表れていますね。
Lyrics by Roland Orzabal and Curt Smith
(作詞:ローランド・オーザバル、カート・スミス)
High time we made a stand
もう立ち上がるべき時が来てるんだよ
And shook up the views of the common man
そしてよくいる“常識人”どもの価値観を揺さぶるんだ
And the love train rides from coast to coast
そして愛の列車に乗って国中を回ってやるんだ
D.J.'s the man we love the most
列車のDJには誰もが愛するあいつを雇ってさ
Could you be, could you be squeaky clean
おまえさん、そうやっていつまでも“清廉潔白な常識人”のままでいたら
And smash any hope of democracy?
民主主義の希望なんて粉々に砕かれちまうけどそれでいいのかい?
As the headline says you're free to choose
新聞の見出しには「あなた達には『選択の自由』がある」なんて書かれてるけど
There's egg on your face and mud on your shoes
顔には卵を投げつけられ、靴には泥をかけられる
One of these days they're gonna call it the blues
そんな毎日を暮らしてたって、連中は「ご愁傷様」と言ってくるだけなんだよ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Anything is possible when you're sowing the seeds of love
何だって可能にできるんだ、愛の種さえまけば
Sowing the seeds
Sowing the seeds of love
種をまくんだ、愛の種を
Anything is possible
そうさ、何だって可能にできる
Seeds of love
Sowing the seeds of love
Sowing the seeds
愛の種、愛の種をまくんだ、種をまこうじゃないか
I spy tears in their eyes
人々の目に本当は涙が滲んでいるのを密かに見ていたんだ
They look to the skies for some kind of divine intervention
みんな空を見上げて、何らかの天の裁きが起きて社会を変えてくれないかと願ってる
Food goes to waste
食べ物は廃棄され
So nice to eat, so nice to taste
十分に食べられる、むしろ美味しい食べ物だってのにさ
Politician granny with your high ideals
“崇高な理想”を持ってるつもりの「おばあちゃん政治家」さんよ
Have you no idea how the majority feels?
あんたには大多数の人達がどう感じてるか少しでもわかってるのか?
So without love and a promised land
We're fools to the rules of a government plan
愛も約束の地も奪われちまってるってのに、
俺達はそんな政府の方針に支配されるだけの愚か者のままでいいのかい?
Kick out the style, bring back the jam
見て見ぬフリをする生き方なんてやめちまえ、怒りを持ってた頃の自分に立ち戻るんだ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだよ、愛の種を
Anything
そうすれば何だって可能にできるんだ
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだよ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくのさ、愛の種を
Sowing the seeds
種をまくんだよ
Sowing the seeds
The birds and the bees
My girlfriend and me
In love
鳥とミツバチがそうであるように
僕の恋人と僕がそうであるように
種をまこう、愛を胸に
Feel the pain, talk about it
痛みを感じてるんだったら、それを言葉にしよう
If you're a worried man, then shout about it
悩みを抱えているのなら、それを叫べばいいんだ
Open hearts, feel about it
心を開いて、感じることに素直になるんだ
Open minds, think about it
頭を開いて、まっすぐに物事を考えるんだ
Everyone, read about it
さあみんな、学ぼうじゃないか
Everyone, scream about it
さあみんな、声に出して叫ぶんだ
Everyone, Everyone
さあみんな、みんな
Everyone, read about it, read about it
さあみんな、学ぶんだ、学ぶんだよ
Everyone, read it in the books, in the crannies and the nooks,
さあみんな、本やありとあらゆるものから学ぼうじゃないか
There are books to read for us
僕達に知識という力を与えてくれるものはいくらでもあるんだ
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだ
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだよ
We're sowing the seeds
僕達は愛の種をまいているんだ
Sowing the seeds
種をまくんだ
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだよ
We're sowing the seeds
僕達は愛の種をまいているんだ
Sowing the seeds of love
さあ、愛の種をまこう
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだよ
Mr. England sowing the seeds of love
ほら、ミスター・イングランドも愛の種をまいてるじゃないか
Time to eat all your words
「いいえ、今は言葉など全て飲み込むときです」
Swallow your pride
「自尊心が壊されようが飲み込みなさい」
Open your eyes
こんな声に騙されず、目を見開くんだ
Time to eat all your words
「いいえ、言葉なんて飲み込んでしまいなさい」
Swallow your pride
「自尊心なんて飲み込んでしまいなさい」
Open your eyes
いいや、目を見開くんだよ
High time we made a stand
さあ、立ち上がるべき時が来たんだよ
And shook up the views of the common man
こんな政府に支配されるだけの“常識人”様の価値観を揺さぶってやろうじゃないか
And the love train rides from coast to coast
そして愛の列車を国中に走らせてやるんだ
Every minute of every hour
どんな瞬間だって
I love a sunflower
僕はフラワーパワーの象徴たる“ヒマワリ”を愛してる
And I believe in love power
そう、愛の力ってのを信じてるってことさ
Love power
そう、愛の力だよ
Love power
愛の力さ
(Time to eat all your words)
「今は政府に対して声なんてあげるべき時ではありません」
(Swallow your pride)
「自尊心なんて飲み込んで静かにしていなさい」
(Open your eyes)
ダメだ、目を開くんだ
(Open your eyes)
目を開くんだよ
(Open your eyes)
目を見開くんだ
(Open your eyes)
目を見開かなきゃダメなんだ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds
種をまくんだよ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds
種をまくんだ
Sowing the seeds
種をまくんだよ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまこう、愛の種を
Sowing the seeds of love, sowing the seeds
愛の種をまくんだ、種をまこう
Sowing the seeds
種をまくんだよ
An end to need
もう終わらせないといけないんだよ
And the politics of greed
こんな富裕層共のためだけの強欲な政治はさ
With love
愛の力でもって
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだよ、愛の種をさ
Anything, anything
そうすれば何だって、何だって可能にできるんだ
Sowing the seeds
種をまくんだ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだよ、愛の種を
Sowing the seeds
種をまくんだ
An end to need
さあ終わらせようじゃないか
And the politics of greed
この強欲な金持ち共のためでしかない政治を
With love
愛の力でさ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds of love
愛の種をまこうじゃないか
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだよ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds of love
さあ、愛の種をまこうじゃないか
この“Sowing the Seeds of Love”の歌詞対訳には少々厄介なところがあって、
それは曲のいくつかの背景や予備知識がないと解釈できない部分があるところです。
まずはちょっとそのあたりの箇所について先に説明しておきます。
>Politician granny with your high ideals
>“崇高な理想”を持ってるつもりの「おばあちゃん政治家」さんよ
まずはここですが、ここでは誰を指しているのか明言はしてませんが、
当時のイギリスの首相だったマーガレット・サッチャーのことを指しています。
サッチャーに孫ができたばかりであることとかけた表現でもあります。
まずこの曲の意味を読むには、サッチャーの政治姿勢を知っておく必要があります。
サッチャーの政治姿勢はいわゆるゴリゴリの「新自由主義」的なものでした。
日本にたとえるなら、竹中平蔵氏の政治姿勢と言えばわかりやすいでしょうか。
とにかく社会保障や福祉を「働く意欲を削ぐだけのもの」として嫌悪して削り、
経済的な規制を全面的に撤廃するとともに富裕層に大幅な減税をすることで、
「大企業や富裕層の経済的自由」を何よりも重視しようとします。
そうすることで「経済的自由によって社会に活力が生まれて成長する」と考えるわけです。
ただこうした政策は結果的にすさまじい貧富の差を生むことにも繋がります。
その最もわかりやすい例が「人頭税」という税制です。
これは「その人の所得や資産に関わらず全員に同じ税額を収めさせる」という税制です。
たとえば人頭税が10万円なら、所得が0円の人も10万円の人も1億円の人も
誰もが10万円を税として徴収されるということになります。
(ちなみに竹中平蔵氏はこの人頭税を「最も公平」と称賛しています)
累進課税の正反対の極致とも言える税制ですが、サッチャー氏はこれを実際に導入しました。
そういう政治姿勢であることを踏まえつつ歌詞を読むと意味がよりわかりやすくなります。
>Kick out the style, bring back the jam
>見て見ぬフリをする生き方なんてやめちまえ、怒りを持ってた頃の自分に立ち戻るんだ
ここは予備知識がないと何を言っているのかサッパリわからない箇所ですね;
これはThe Jamというパンクロックバンドをやっていたポール・ウェラーになぞらえた歌詞です。
The Jamはパンクバンドらしく反権威主義的な政治姿勢を明確にしていましたが、
その解散後に作ったThe Style Councilでは政治的・社会的な主張は控えるようになります。
すなわちこの歌詞は「(今のThe Style Councilみたいに)社会を見て見ぬフリをする
姿勢なんて蹴飛ばしてしまえ、The Jam時代のようにはっきり主張する姿勢に戻れよ」
という意味なのです。
これはポール・ウェラー個人にそう訴えたいというよりも、
リスナーに対して「The Style Councilみたいな社会的無関心な態度じゃなくて、
The Jamみたいなはっきりと声を上げる態度でいこう」と呼びかけてるのでしょうね。
>Mr. England sowing the seeds of love
>ほら、ミスター・イングランドも愛の種をまいてるじゃないか
これも普通に読むと「Mr. Englandって何?」となる箇所ですね。
一見すると「イングランド人への呼びかけかな」と思えたりするのですが、
実はこれはこの曲の元ネタと関わっている歌詞なのですね。
この曲のヒントになったのがイギリスの古い歌である“The Seeds of Love”で、
その曲を歌っていたのがJohn Englandという人なのです。
だから「イングランド氏(=John England氏)も~」という歌詞が出てきたというわけです。
前節で書いた予備知識を踏まえつつ、和訳を細かく解説していきます。
>And shook up the views of the common man
>そしてよくいる“常識人”どもの価値観を揺さぶるんだ
この曲、どうも「皮肉としての肯定的表現」ぽいものが多く見られるのですよね。
“common man”って、一般的には肯定的な表現のはずですが、
ここでは明らかに皮肉を込めて“常識人様”的な言い方をしてますよね。
こういう皮肉的表現がたびたび登場することを意識しておく必要があります。
>Could you be, could you be squeaky clean
>おまえさん、そうやっていつまでも“清廉潔白な常識人”のままでいたら
>And smash any hope of democracy?
>民主主義の希望なんて粉々に砕かれちまうけどそれでいいのかい?
ここは和訳するのに困った箇所なのですよね。
普通に訳すと「君は清廉潔白な人間になんてなれるの?
そして民主主義の希望とやらを叩き壊せるかい?」という感じになりそうです。
でもこの曲は「民主主義の希望を打ち砕こうぜ」というメッセージの歌詞ではないですし、
これだとこの曲のテーマ性と齟齬をきたしてしまうようにしか見えないのですよね。
そこで先の「皮肉としての肯定的表現」なわけです。
そしてandという単語の持つ「そうすると~になるよ」という意味合いです。
すなわち「“清廉潔白”(=今の政府に唯々諾々と従う“常識人”)でいるの?
そうしてると民主主義の希望を砕いてしまうことになるよ?」と解釈できるわけですね。
>As the headline says you're free to choose
>新聞の見出しには「あなた達には『選択の自由』がある」なんて書かれてるけど
ここはちょっと政治的な知識が必要になってくるところですね。
サッチャーのような新自由主義的、反福祉・反社会保障的な政治姿勢の人達は
「我々は社会主義のような『結果の平等』ではなく『機会の平等』を重視する」
と言いますが、ここの「選択の自由」はこの「機会の平等」と同義でしょう。
>There's egg on your face and mud on your shoes
>顔には卵を投げつけられ、靴には泥をかけられる
>One of these days they're gonna call it the blues
>そんな毎日を暮らしてたって、連中は「ご愁傷様」と言ってくるだけなんだよ
そしてこの箇所に繋がるわけですが、
これは「で、その『機会の平等』とやらだけを保障した先にあるのは、
貧しい労働者は立ち上がることすら許されない社会でしかないんだよ」
というメッセージとなっているわけですね。
>Politician granny with your high ideals
>“崇高な理想”を持ってるつもりの「おばあちゃん政治家」さんよ
"high ideals"は「崇高な理想」ですが、これも「皮肉としての肯定的表現」でしょう。
ここで気を付けないといけないのは、日本では政治不信のよくある形として
「政治家なんて崇高な理想を語るけど、実際はダーティーなだけだよね」
というふうに「理想と現実の落差としての政治不信」が語られがちですが、
ここで語られているのはそうした意味での政治不信とは別物であることです。
というのも、この作者がサッチャーを本当に「崇高な理想の持ち主」と考えてるわけがないからです。
要はサッチャーの「社会保障だの福祉だのを廃止して、全員に同額の税を課せば
それによって社会は豊かになる」という価値観に対する皮肉として、
「あぁそれは実に“崇高な理想”ですね」と言っているわけですね。
>The birds and the bees
>鳥とミツバチがそうであるように
「鳥とミツバチ」というフレーズは
60年代のフラワームーブメント的な表現をあえて用いたものと見ていいと思います。
>I love a sunflower
>僕はフラワーパワーの象徴たる“ヒマワリ”を愛してる
これも背景がわからないと「何でここで急にヒマワリ?」となりますよね;
これは明確に60年代のフラワームーブメントへのオマージュ的表現です。
フラワームーブメントでは花や太陽がその象徴的な存在として扱われていて、
そうしたことから“sunflower”(ヒマワリ)というのは、
「(“Love & Peace”などを掲げる)フラワームーブメントを象徴する存在」
として解釈することができるのですよね。
このあたりはミュージックビデオを見るとおおむね理解できますが。
>Time to eat all your words
>「いいえ、今は言葉など全て飲み込むときです」
>Swallow your pride
>「自尊心が壊されようが飲み込みなさい」
>Open your eyes
>こんな声に騙されず、目を見開くんだ
この箇所も最初に見たときに和訳に困ったのですよね。
というのも、前段の2行は明らかにこの曲の趣旨とは正反対だからです。
少し前に“shout about it”や“scream about it”のように「声を上げよう」と言いながら、
ここでは急に「言葉も自尊心も飲み込みなさい」という正反対の言葉が出てくるわけです。
それならここは「相手」の側からの「声をふさごうとするメッセージ」ととらえて、
そうしたメッセージと対抗としての“Open your eyes”のせめぎ合いとして
訳すのが最もきれいに意味が通ると考えてこのようにしました。
>And the politics of greed
>こんな富裕層共のためだけの強欲な政治はさ
“greed”は「強欲」なので、シンプルに訳すのなら
ここは別に「強欲な政治」とだけ書いてもいいのですが、
バンドのメンバーがサッチャーの政治姿勢を
「一般の労働者を踏みにじって富裕層だけを優遇する政治」
ととらえているのは歌詞からも明確に読み取れるので、
そのことがはっきりとわかるように明示して訳しました。
実は訳す前はこんなにポリティカルな歌詞だとは思っていなくて、
シンプルにポジティブなフラワームーブメントへのオマージュ的な
歌詞と思っていたのですが、実際に訳すとかなり政治的なスタンスが明確なのですよね。
ここまで政治的な主張が明確な歌詞であるのであれば、
変に抽象的にするよりも政治的な背景なども明示したうえで
意図がはっきりとわかるように訳して解説することにしてみました。
それを踏まえると思った以上に歌詞が力強くて、
「大衆への強い呼びかけ」という感じの和訳になりましたね。
そういう力強さが伝わってくれるといいなと思っております。
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・Tears for Fears - Everybody Wants to Rule the World 歌詞和訳
・Tears for Fears - Mad World 歌詞和訳
・Tears for Fears - Sowing the Seeds of Love 歌詞和訳
これまで歌詞和訳記事はある程度事前に予定のようなものがあって、
「和訳の候補曲リスト」の中から選ぶような感じだったのですが、
この曲に関しては全くリストの中などには入れてなかったのですね。
それが1月1日ぐらいに無性に「この曲の和訳がしたい」と思い始めて、
「今はこの曲の和訳をすべきじゃないか」という気持ちが高まって、
「じゃあその気持ちがあるうちに一気にやってしまえ」と進めました。
けっこう解釈が厄介なところがあったりしましたが、何とか乗り越えました。
さて、ここからは今回和訳に選んだ
Tears for Fearsの“Sowing the Seeds of Love”について、
いろいろと解説していきます。
◎Tears for Fearsというバンドとこの曲の特異性
Tears for Fearsはイギリスのバンドで、
80年代のニューウェイブ/シンセポップムーブメントを代表する存在です。
ポストパンクに通じるようなダークな質感を帯びつつ、
シンセの要素を多めに取り入れたニューウェイブのサウンドを鳴らすバンドです。
代表曲として今回紹介する“Sowing the Seeds of Love”以外に
“Shout”や“Everybody Wants to Rule the World”があり、
どちらの曲も全米1位を獲得するなど大きなセールスを収めました。
特に“Shout”は日本でもかなり知ってる人が多い曲だと思います。
Tears for Fearsというバンドは、人間の心の闇の部分であったり、
人間の持つ必然的な愚かさなどを描写することが多いバンドです。
1stアルバムの代表曲“Mad World”などは特にそういう要素が強かったですし。
それに対して今回紹介する“Sowing the Seeds of Love”は、
「愛の種をまこう」と何度も歌う曲であり、
それまでの彼らに比べてポジティブな空気感があふれています。
一見すると「それまでの彼ららしくない詞の曲」なんですよね。
ただこれはそれまでのスタンスとはある意味では表裏一体なのですよね。
「人間を愚かさを描くことで、そこから脱することを願う」のか、
「人間の目指すべき心や社会をストレートに描く」のかの違いであり、
裏から書くか、表から書くかの違いであって、目的地は同じわけです。
ここで彼らはあえて「表から書く」というスタンスを取ったわけですね。
ただし歌詞をよくよく読むと今の社会への強い怒りも込められており、
決してただポジティブなメッセージだけに彩られているわけでもない、
彼ららしく人間社会や現代社会の負の部分にスポットを当てながら、
「それをプラスの力に変えるんだ」と訴えかけている曲でもあります。
さてこの曲で見せたその方向転換はどのように生まれたのかを次の節では見ていきます。
◎フラワームーブメント/サイケデリックロックリバイバルとしての“Sowing the Seeds of Love”
この“Sowing the Seeds of Love”を語るうえで外すことができないのが、
この曲と60年代のフラワームーブメント/ヒッピームーブメントとの関係です。
60年代後期にはベトナム戦争への反対運動や自由な社会を求める声と共に、
“Love & Peace”をキーワードとした巨大なムーブメントが起こり、
これがロックとしてはサイケデリックロックへと繋がっていきました。
この当事者がヒッピーと呼ばれ、この運動はフラワームーブメントと呼ばれます。
この曲は「僕達は再びこのフラワームーブメントの価値を呼び起こすべきではないのか」
という強いメッセージ性が込められています。
フラワームーブメントを音楽的に主導したバンドの一つがThe Beatlesなのですが、
この曲では曲の展開の様々な部分でThe Beatlesの曲へのオマージュが見られます。
音の大きな方向性は彼ららしい「陰りのあるシンセポップ的ニューウェイブ」なのですが、
そこに「The Beatles的サイケデリア」の手法を大幅に取り込んでいるのですよね。
The Beatlesの“All You Need Is Love”に代表されるように、
サイケデリックロック期の歌詞は非常にピースフルでポジティブでした。
要は「平和や自由の価値を直接的に訴えることで、その意義を再確認しよう」
というのがサイケデリックロックの考え方だったわけです。
そして時は流れて70年代後半、パンクロックムーブメントが訪れますが、
彼らは「戦争や人間の愚かさを描写することで、その無意味さを訴えよう」
というスタンスで主張を始めます。
Tears for Fearsの従来の歌詞はまさにこのパンクロックの流れを汲むものでした。
そういう点からすると、この“Sowing the Seeds of Love”の歌詞というのは、
パンクロック的な「現代社会の愚かさへの怒り」と、
サイケデリックロック的な「愛の価値の再確認」を
融合させた歌詞というふうに言えるでしょう。
そしてこれは以前に紹介した、エルヴィス・コステロがカバーした
“(What's So Funny 'Bout) Peace, Love, and Understanding”
とも共通するものとも言えます。
今回の曲のほうがよりポジティブなメッセージ性が顕著ではありますが。
Tears for Fears - Sowing the Seeds of Love (1989)
[New Wave / Synth Pop / Neo-Psychedelia]
このミュージックビデオにはっきりと表れていますが、
この一見意味不明でシュールな展開を持ちながら、
平和や愛を連想させるパーツを多く登場させるというのは
まさに60年代のサイケデリックアートそのものと言えます。
ここにもフラワームーブメントへのオマージュが明確に表れていますね。
Tears for Fears - Sowing the Seeds of Love 歌詞和訳
Lyrics by Roland Orzabal and Curt Smith
(作詞:ローランド・オーザバル、カート・スミス)
High time we made a stand
もう立ち上がるべき時が来てるんだよ
And shook up the views of the common man
そしてよくいる“常識人”どもの価値観を揺さぶるんだ
And the love train rides from coast to coast
そして愛の列車に乗って国中を回ってやるんだ
D.J.'s the man we love the most
列車のDJには誰もが愛するあいつを雇ってさ
Could you be, could you be squeaky clean
おまえさん、そうやっていつまでも“清廉潔白な常識人”のままでいたら
And smash any hope of democracy?
民主主義の希望なんて粉々に砕かれちまうけどそれでいいのかい?
As the headline says you're free to choose
新聞の見出しには「あなた達には『選択の自由』がある」なんて書かれてるけど
There's egg on your face and mud on your shoes
顔には卵を投げつけられ、靴には泥をかけられる
One of these days they're gonna call it the blues
そんな毎日を暮らしてたって、連中は「ご愁傷様」と言ってくるだけなんだよ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Anything is possible when you're sowing the seeds of love
何だって可能にできるんだ、愛の種さえまけば
Sowing the seeds
Sowing the seeds of love
種をまくんだ、愛の種を
Anything is possible
そうさ、何だって可能にできる
Seeds of love
Sowing the seeds of love
Sowing the seeds
愛の種、愛の種をまくんだ、種をまこうじゃないか
I spy tears in their eyes
人々の目に本当は涙が滲んでいるのを密かに見ていたんだ
They look to the skies for some kind of divine intervention
みんな空を見上げて、何らかの天の裁きが起きて社会を変えてくれないかと願ってる
Food goes to waste
食べ物は廃棄され
So nice to eat, so nice to taste
十分に食べられる、むしろ美味しい食べ物だってのにさ
Politician granny with your high ideals
“崇高な理想”を持ってるつもりの「おばあちゃん政治家」さんよ
Have you no idea how the majority feels?
あんたには大多数の人達がどう感じてるか少しでもわかってるのか?
So without love and a promised land
We're fools to the rules of a government plan
愛も約束の地も奪われちまってるってのに、
俺達はそんな政府の方針に支配されるだけの愚か者のままでいいのかい?
Kick out the style, bring back the jam
見て見ぬフリをする生き方なんてやめちまえ、怒りを持ってた頃の自分に立ち戻るんだ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだよ、愛の種を
Anything
そうすれば何だって可能にできるんだ
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだよ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくのさ、愛の種を
Sowing the seeds
種をまくんだよ
Sowing the seeds
The birds and the bees
My girlfriend and me
In love
鳥とミツバチがそうであるように
僕の恋人と僕がそうであるように
種をまこう、愛を胸に
Feel the pain, talk about it
痛みを感じてるんだったら、それを言葉にしよう
If you're a worried man, then shout about it
悩みを抱えているのなら、それを叫べばいいんだ
Open hearts, feel about it
心を開いて、感じることに素直になるんだ
Open minds, think about it
頭を開いて、まっすぐに物事を考えるんだ
Everyone, read about it
さあみんな、学ぼうじゃないか
Everyone, scream about it
さあみんな、声に出して叫ぶんだ
Everyone, Everyone
さあみんな、みんな
Everyone, read about it, read about it
さあみんな、学ぶんだ、学ぶんだよ
Everyone, read it in the books, in the crannies and the nooks,
さあみんな、本やありとあらゆるものから学ぼうじゃないか
There are books to read for us
僕達に知識という力を与えてくれるものはいくらでもあるんだ
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだ
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだよ
We're sowing the seeds
僕達は愛の種をまいているんだ
Sowing the seeds
種をまくんだ
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだよ
We're sowing the seeds
僕達は愛の種をまいているんだ
Sowing the seeds of love
さあ、愛の種をまこう
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだよ
Mr. England sowing the seeds of love
ほら、ミスター・イングランドも愛の種をまいてるじゃないか
Time to eat all your words
「いいえ、今は言葉など全て飲み込むときです」
Swallow your pride
「自尊心が壊されようが飲み込みなさい」
Open your eyes
こんな声に騙されず、目を見開くんだ
Time to eat all your words
「いいえ、言葉なんて飲み込んでしまいなさい」
Swallow your pride
「自尊心なんて飲み込んでしまいなさい」
Open your eyes
いいや、目を見開くんだよ
High time we made a stand
さあ、立ち上がるべき時が来たんだよ
And shook up the views of the common man
こんな政府に支配されるだけの“常識人”様の価値観を揺さぶってやろうじゃないか
And the love train rides from coast to coast
そして愛の列車を国中に走らせてやるんだ
Every minute of every hour
どんな瞬間だって
I love a sunflower
僕はフラワーパワーの象徴たる“ヒマワリ”を愛してる
And I believe in love power
そう、愛の力ってのを信じてるってことさ
Love power
そう、愛の力だよ
Love power
愛の力さ
(Time to eat all your words)
「今は政府に対して声なんてあげるべき時ではありません」
(Swallow your pride)
「自尊心なんて飲み込んで静かにしていなさい」
(Open your eyes)
ダメだ、目を開くんだ
(Open your eyes)
目を開くんだよ
(Open your eyes)
目を見開くんだ
(Open your eyes)
目を見開かなきゃダメなんだ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds
種をまくんだよ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds
種をまくんだ
Sowing the seeds
種をまくんだよ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまこう、愛の種を
Sowing the seeds of love, sowing the seeds
愛の種をまくんだ、種をまこう
Sowing the seeds
種をまくんだよ
An end to need
もう終わらせないといけないんだよ
And the politics of greed
こんな富裕層共のためだけの強欲な政治はさ
With love
愛の力でもって
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだよ、愛の種をさ
Anything, anything
そうすれば何だって、何だって可能にできるんだ
Sowing the seeds
種をまくんだ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだよ、愛の種を
Sowing the seeds
種をまくんだ
An end to need
さあ終わらせようじゃないか
And the politics of greed
この強欲な金持ち共のためでしかない政治を
With love
愛の力でさ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds of love
愛の種をまこうじゃないか
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds of love
愛の種をまくんだよ
Sowing the seeds of love, seeds of love
愛の種をまくんだ、愛の種を
Sowing the seeds of love
さあ、愛の種をまこうじゃないか
◎“Sowing the Seeds of Love”の和訳を読むうえでの予備知識
この“Sowing the Seeds of Love”の歌詞対訳には少々厄介なところがあって、
それは曲のいくつかの背景や予備知識がないと解釈できない部分があるところです。
まずはちょっとそのあたりの箇所について先に説明しておきます。
>Politician granny with your high ideals
>“崇高な理想”を持ってるつもりの「おばあちゃん政治家」さんよ
まずはここですが、ここでは誰を指しているのか明言はしてませんが、
当時のイギリスの首相だったマーガレット・サッチャーのことを指しています。
サッチャーに孫ができたばかりであることとかけた表現でもあります。
まずこの曲の意味を読むには、サッチャーの政治姿勢を知っておく必要があります。
サッチャーの政治姿勢はいわゆるゴリゴリの「新自由主義」的なものでした。
日本にたとえるなら、竹中平蔵氏の政治姿勢と言えばわかりやすいでしょうか。
とにかく社会保障や福祉を「働く意欲を削ぐだけのもの」として嫌悪して削り、
経済的な規制を全面的に撤廃するとともに富裕層に大幅な減税をすることで、
「大企業や富裕層の経済的自由」を何よりも重視しようとします。
そうすることで「経済的自由によって社会に活力が生まれて成長する」と考えるわけです。
ただこうした政策は結果的にすさまじい貧富の差を生むことにも繋がります。
その最もわかりやすい例が「人頭税」という税制です。
これは「その人の所得や資産に関わらず全員に同じ税額を収めさせる」という税制です。
たとえば人頭税が10万円なら、所得が0円の人も10万円の人も1億円の人も
誰もが10万円を税として徴収されるということになります。
(ちなみに竹中平蔵氏はこの人頭税を「最も公平」と称賛しています)
累進課税の正反対の極致とも言える税制ですが、サッチャー氏はこれを実際に導入しました。
そういう政治姿勢であることを踏まえつつ歌詞を読むと意味がよりわかりやすくなります。
>Kick out the style, bring back the jam
>見て見ぬフリをする生き方なんてやめちまえ、怒りを持ってた頃の自分に立ち戻るんだ
ここは予備知識がないと何を言っているのかサッパリわからない箇所ですね;
これはThe Jamというパンクロックバンドをやっていたポール・ウェラーになぞらえた歌詞です。
The Jamはパンクバンドらしく反権威主義的な政治姿勢を明確にしていましたが、
その解散後に作ったThe Style Councilでは政治的・社会的な主張は控えるようになります。
すなわちこの歌詞は「(今のThe Style Councilみたいに)社会を見て見ぬフリをする
姿勢なんて蹴飛ばしてしまえ、The Jam時代のようにはっきり主張する姿勢に戻れよ」
という意味なのです。
これはポール・ウェラー個人にそう訴えたいというよりも、
リスナーに対して「The Style Councilみたいな社会的無関心な態度じゃなくて、
The Jamみたいなはっきりと声を上げる態度でいこう」と呼びかけてるのでしょうね。
>Mr. England sowing the seeds of love
>ほら、ミスター・イングランドも愛の種をまいてるじゃないか
これも普通に読むと「Mr. Englandって何?」となる箇所ですね。
一見すると「イングランド人への呼びかけかな」と思えたりするのですが、
実はこれはこの曲の元ネタと関わっている歌詞なのですね。
この曲のヒントになったのがイギリスの古い歌である“The Seeds of Love”で、
その曲を歌っていたのがJohn Englandという人なのです。
だから「イングランド氏(=John England氏)も~」という歌詞が出てきたというわけです。
◎Tears for Fears “Sowing the Seeds of Love”の歌詞和訳の解説
前節で書いた予備知識を踏まえつつ、和訳を細かく解説していきます。
>And shook up the views of the common man
>そしてよくいる“常識人”どもの価値観を揺さぶるんだ
この曲、どうも「皮肉としての肯定的表現」ぽいものが多く見られるのですよね。
“common man”って、一般的には肯定的な表現のはずですが、
ここでは明らかに皮肉を込めて“常識人様”的な言い方をしてますよね。
こういう皮肉的表現がたびたび登場することを意識しておく必要があります。
>Could you be, could you be squeaky clean
>おまえさん、そうやっていつまでも“清廉潔白な常識人”のままでいたら
>And smash any hope of democracy?
>民主主義の希望なんて粉々に砕かれちまうけどそれでいいのかい?
ここは和訳するのに困った箇所なのですよね。
普通に訳すと「君は清廉潔白な人間になんてなれるの?
そして民主主義の希望とやらを叩き壊せるかい?」という感じになりそうです。
でもこの曲は「民主主義の希望を打ち砕こうぜ」というメッセージの歌詞ではないですし、
これだとこの曲のテーマ性と齟齬をきたしてしまうようにしか見えないのですよね。
そこで先の「皮肉としての肯定的表現」なわけです。
そしてandという単語の持つ「そうすると~になるよ」という意味合いです。
すなわち「“清廉潔白”(=今の政府に唯々諾々と従う“常識人”)でいるの?
そうしてると民主主義の希望を砕いてしまうことになるよ?」と解釈できるわけですね。
>As the headline says you're free to choose
>新聞の見出しには「あなた達には『選択の自由』がある」なんて書かれてるけど
ここはちょっと政治的な知識が必要になってくるところですね。
サッチャーのような新自由主義的、反福祉・反社会保障的な政治姿勢の人達は
「我々は社会主義のような『結果の平等』ではなく『機会の平等』を重視する」
と言いますが、ここの「選択の自由」はこの「機会の平等」と同義でしょう。
>There's egg on your face and mud on your shoes
>顔には卵を投げつけられ、靴には泥をかけられる
>One of these days they're gonna call it the blues
>そんな毎日を暮らしてたって、連中は「ご愁傷様」と言ってくるだけなんだよ
そしてこの箇所に繋がるわけですが、
これは「で、その『機会の平等』とやらだけを保障した先にあるのは、
貧しい労働者は立ち上がることすら許されない社会でしかないんだよ」
というメッセージとなっているわけですね。
>Politician granny with your high ideals
>“崇高な理想”を持ってるつもりの「おばあちゃん政治家」さんよ
"high ideals"は「崇高な理想」ですが、これも「皮肉としての肯定的表現」でしょう。
ここで気を付けないといけないのは、日本では政治不信のよくある形として
「政治家なんて崇高な理想を語るけど、実際はダーティーなだけだよね」
というふうに「理想と現実の落差としての政治不信」が語られがちですが、
ここで語られているのはそうした意味での政治不信とは別物であることです。
というのも、この作者がサッチャーを本当に「崇高な理想の持ち主」と考えてるわけがないからです。
要はサッチャーの「社会保障だの福祉だのを廃止して、全員に同額の税を課せば
それによって社会は豊かになる」という価値観に対する皮肉として、
「あぁそれは実に“崇高な理想”ですね」と言っているわけですね。
>The birds and the bees
>鳥とミツバチがそうであるように
「鳥とミツバチ」というフレーズは
60年代のフラワームーブメント的な表現をあえて用いたものと見ていいと思います。
>I love a sunflower
>僕はフラワーパワーの象徴たる“ヒマワリ”を愛してる
これも背景がわからないと「何でここで急にヒマワリ?」となりますよね;
これは明確に60年代のフラワームーブメントへのオマージュ的表現です。
フラワームーブメントでは花や太陽がその象徴的な存在として扱われていて、
そうしたことから“sunflower”(ヒマワリ)というのは、
「(“Love & Peace”などを掲げる)フラワームーブメントを象徴する存在」
として解釈することができるのですよね。
このあたりはミュージックビデオを見るとおおむね理解できますが。
>Time to eat all your words
>「いいえ、今は言葉など全て飲み込むときです」
>Swallow your pride
>「自尊心が壊されようが飲み込みなさい」
>Open your eyes
>こんな声に騙されず、目を見開くんだ
この箇所も最初に見たときに和訳に困ったのですよね。
というのも、前段の2行は明らかにこの曲の趣旨とは正反対だからです。
少し前に“shout about it”や“scream about it”のように「声を上げよう」と言いながら、
ここでは急に「言葉も自尊心も飲み込みなさい」という正反対の言葉が出てくるわけです。
それならここは「相手」の側からの「声をふさごうとするメッセージ」ととらえて、
そうしたメッセージと対抗としての“Open your eyes”のせめぎ合いとして
訳すのが最もきれいに意味が通ると考えてこのようにしました。
>And the politics of greed
>こんな富裕層共のためだけの強欲な政治はさ
“greed”は「強欲」なので、シンプルに訳すのなら
ここは別に「強欲な政治」とだけ書いてもいいのですが、
バンドのメンバーがサッチャーの政治姿勢を
「一般の労働者を踏みにじって富裕層だけを優遇する政治」
ととらえているのは歌詞からも明確に読み取れるので、
そのことがはっきりとわかるように明示して訳しました。
◎まとめ
実は訳す前はこんなにポリティカルな歌詞だとは思っていなくて、
シンプルにポジティブなフラワームーブメントへのオマージュ的な
歌詞と思っていたのですが、実際に訳すとかなり政治的なスタンスが明確なのですよね。
ここまで政治的な主張が明確な歌詞であるのであれば、
変に抽象的にするよりも政治的な背景なども明示したうえで
意図がはっきりとわかるように訳して解説することにしてみました。
それを踏まえると思った以上に歌詞が力強くて、
「大衆への強い呼びかけ」という感じの和訳になりましたね。
そういう力強さが伝わってくれるといいなと思っております。
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