ブルーアーカイブRTA 称号「崇高」獲得まで   作:ノートン68

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お待たせ致しました。

最終編はコレでラストとなります。



奇跡

 

色彩が討たれ、先生が解放された時の事である。

神秘の名残が宙を漂う幻想的な景色の中、ただ静寂が場を制していた。

 

この場にはプレナパテスを抱きしめるホシノテラーを後目に観察するミケしか居ない。

他は全員、ウトナピシュティムの本船に居る。

 

だからだろう。

ミケの()()()()()()事に気づいたのは、本人だけであった。

 

 

「これは……」

 

 

ソレは虫の様に蠢く、害意は感じられない。

やがてプレナパテスの影と重なると、ソレは染み込む様に溶けていった。

……こんな真似をする心当たりは1人しか居ない。

 

 

「(今は黙っておくか)」

『ピッ──ガガッ、あーあー、聞こえるかしら?』

「その声はリオか?」

『えぇ、遂にやったわね』

 

 

長年の夢であった色彩の討伐、正直に言えばあまり実感は無かった。

1番の大きな理由は、色彩が現れてから何一つ事故(ガバ)が起こらなかったからだろう。

恐らく今までの人生を振り返っても、ここまで上手くいった事は無いのではないか?

 

そんな風に物思いに耽っていると、ホシノテラーの視線が此方を向いてる事を察知する。

ミケが向き直ると、彼女は意を決した様に口を開いた。

 

 

「本当に、ごめ───」

「ありがとう。君達のお陰で助かった」

「えっ」

「君達が最後に動いてくれなければ、私は神秘を使い果たしてあの時に死ぬ運命だったからだ」

 

 

プレナパテスへの最期はホシノテラーだけではなく、A.R.O.N.Aの願いでもあった。

ミケ自身の神秘が切れたのにホシノテラーが現れたのは、A.R.O.N.Aが《ATRAHASISの箱舟》を制御しワープを発動させたからである。

彼女達が間に合わなければ、ミケは確実に死んでいただろう。

 

 

「それは貴方が私達の声に気づいてくれたから──じゃなくて、ええっと」

「左腕の事なら気にしなくていい、最後に有効活用出来た事だしな」

「……どうして、そこまで?」

 

 

ミケはホシノテラーの襲撃によって左腕を失っている。

軽く流していい話では無いし、多分ミケの仲間の内半分は許してない。

それでも、なんでもない様にミケは続けて言った。

 

 

「以前出会った時に感じた私への執着心と憎悪、アレは恐らく其方の世界線の私が何かやらかしたのだろう?だったらコレでお相子って事にしないか?」

 

 

ミケ基準で考えれば腕が取れたとか、ゲマトリア壊滅とか、色彩を呼んだだとか、まだ取り返しがつくレベルなだけマシである。

実際に滅んだからこそ言えるだけかもしれないが。

彼の仲間には取り返しのつかない事をした(偽神のカケラをばら蒔いた)生徒だっているのだ。

 

ミケに言わせてみれば()()()()、恨みを感じるに値しない。

故にコレに裏はなく、単純に申し訳ないと思っているからこその譲歩であった。

ホシノテラーにとっては謝罪が受け入れられないという意味では、厳しい対応かもしれない。

 

 

『………』

「なんだ、何かあるのか?」

『いいえ、別に』

 

 

その事実に気付いているのは、通信越しに冷たい目線を向けるセミナー会長だけであった。

少し溜息を吐いたあと、今度はリオが話し始める。

 

 

『ウトナピシュティムが直らなかったから、みんな順番に箱舟から脱出しているところよ。追加の脱出用シーケンスも用意してるから貴方も帰れるわよ』

 

 

ホモ達が上空でドンパチやっていた頃、黙々と1人で追加の脱出用シーケンスを作っていた。

リオの勘だが「コイツ(ミケ)は絶対生徒を優先して自力で帰ろうとする」、そんな予感がしていたから。

その予想は合っている。

 

 

『全く、脱出シーケンスが追加されなかったらどうしてたのかしら?』

「その時はAL-1S達と一緒に飛び降りていた」

『初耳なのだけれど!?』

 

 

自分とAL-1S、そして依星ケイならば可能ではあるだろう。

問題は、どうやって着地するかだが。

例え75000mからでも、AL-1Sがキャッチすれば問題ない気がする。

 

 

「それで、脱出用シーケンスの数は?」

『前もって言われてた通り、しっかり3()()()よ』

「そうか、それは良かっ──」

「止めて!!」

 

 

心からの静止が響く、ホシノテラーであった。

 

 

「そんな事をされたって、私はもう生きる活力なんてない……!!」

 

 

色彩から解放され、先生も取り戻した。

だが、それからはどうする?

 

取り戻した先生は既に息を引き取っていて、残っているのは罪悪の感情のみ。

罪を償う事が嫌な訳では無い。

だが償った後に残る物はなんだ?

 

とうの昔に失った物は取り戻せない。

彼女にはもう、幻聴(後輩達の声)が聞こえないのだから。

 

 

「八つ当たりな復讐心だけで生きてきたって言うのに、今更どんな理由で生きろって……!!」

「生きる理由ならすぐ横にある筈だ」

 

 

ミケがホシノテラーが抱えるプレナパテスを指す。

 

 

「死んだ先生なら君に生きろと言うに違いない!」

 

 

とでも言うつもりなのだろうか?

なんて無責任な……。

ホシノテラーに、フツフツと怒りの感情が湧き始める。

だがそんな感情は続くミケのセリフで吹き飛んでしまう。

 

 

「帰ったら直ぐ病院に連れてってやれ」

「ッ!?まさか───」

 

 

それはまるで──先生が生きているとでも言っているような。

温かみを失っていた筈である、プレナパテスの胸に耳を当てた。

そこからは確かに、弱々しくも鼓動が聞こえる。

 

 

あ、あぁ……

 

 

衝撃の事態に思わず声が震えてしまった。

手を握れば、か弱い力だが確かに握り返す反応がある!!

懐かしく、暖かい手だ。

 

 

小鳥遊ホシノは、生きる理由を見つけた。

 

 


 

 

「盛り上がっているな……」

 

 

あの後、脱出シーケンスを使って地上へと帰還したミケは、空が青色に戻って盛り上がっている大勢の生徒の声を耳にした。

そんな表舞台から、彼はわざわざ裏路地へと入る。

別に気恥ずかしくなったとか、そんな理由では無い。

 

此処へ来たのは、単純に人に会う用があったから。

わざわざリオに頼み込み、皆より少し遠くへ転送して貰ったのだ。

待ち合わせなどしてないが、奴は呼べば来るという確信があった。

そんな予感のままに、とある人物の名前を呼んだ。

 

 

「そろそろ出てきたらどうだ──黒服

「クックック、お久しぶりですねホモ。いえ、今は喰代ミケでしたね?」

 

 

まるで初めからその場に居たかの様に、ヌルリと背景から現れたのは、元ゲマトリアの黒服。

未だにボロボロな格好の彼だが、その感情の読み取りにくい顔から漏れた声で上機嫌なのは分かる。

 

 

「先ずはおめでとう御座います、でしょうか?いやはや、

崇高に至った色彩を倒してしまうとは思ってもいませんでした」

「賛辞は有難いが後で良い。時間が無いからさっさと本題に入らせて貰うぞ」

 

 

もう殆ど確定事項なのだが、念の為にミケは黒服に問う。

思い出されるのは色彩を討伐した直後の出来事。

 

 

「お前だな、プレナパテスに細工をしたのは?」

()()()()()()()()()

 

 

本来、あの場で先生が復活する事は不可能であった。

復活した要因は必ず自分たち以外の外的要因、それは予想通り黒服の仕業であった。

 

 

「何時から私に影の精霊(Umbar Genius)を付けていた?」

「最後にゲマトリアの解散を伝えた時ですね」

「やはりか……」

「クックック、大変でしたよ?貴方がピンチになる度に何度防ごうと思った事か」

 

 

大胆なストーカー野郎だった。

恐らく脳破壊の意趣返し的な側面もあったのだろう。

ミケは大きく溜息をついた。

 

 

「では本題だ。何故、先生の影と()()させた?」

「アレのテクストはドッペルゲンガーです。同時に影は形を変えるものですから決まった形は無いのですよ」

 

 

色彩から解放された当時、プレナパテスの魂は空であった。

だが影の精霊は本体の形に基づいて変化する。

アレも神秘の塊だ。

色彩が修復した肉体に影の精霊の魂が宿れば、擬似的な蘇りも可能ではある。

 

 

「私が知りたいのは、何故お前が貴重な研究結果(影の精霊)を擲ってまでプレナパテスを助けたのかだ」

「ゲマトリアから離れたとしても、私の探究心は本物です。ならば───」

 

「やはり見てみたいでは無いですか、崇高の器と成った聖人のその行先を!!」

 

 

ミケは思った、やっぱりコイツ糞だわ。

死体を実験体にしてる時点で、自明の理であった。

 

 

「影を忍ばせていたお陰で色彩の崇高化というレアケースのデータまで。やはりこの箱庭は素晴らしい!!」

「上機嫌の理由はそれだったか……」

 

 

何はともあれ、プレナパテスの状態はわかった。

もう話す事は無い、そう思い踵を返して黒服と別れようとするミケ。

そんな彼の背に黒服の声が掛かる。

 

 

「最後に、長い旅路の果てに辿り着いた景色は如何でしたか?」

「……お前に教えてやる義理はない」

「クックック、ご尤もです」

 

 

背後から気配が無くなる。

本当に、最後の最後まで食えない男であった。

 

 

 

 

 

少しの間、静かなストリートを歩く。

薄暮色の空は8月後半だと言うのに、涼しい風が吹いていた。

ミケは歩きながら黒服の言葉を思案する。

 

色彩を倒し、人生最大の目標を成し遂げた。

例えで言えば既に頂上、先生に成りたい我儘も叶えてしまった今、自分はどうなってしまうのか。

 

燃え尽き症候群とかになってしまうのだろうか?

多分、シャーレで働きだしたらそんな暇は無いから杞憂だろう。

 

ふと、

遠くの方で誰かが自分を呼んだ気がした。

 

 

「オーナー!!」

 

 

見える範囲だと、AL-1Sにアリウスチームに、工務部に、リオに、カイに……etc。

誰かの叫び声を皮切りに、堰止めるものが無くなった洪水の様に大勢が自分に向かってくるのが見える。

まともに受けては無事じゃ済まないだろうが、ミケに避けるという選択肢は無い。

 

再度、黒服の言葉を思い出す。

気が遠くなるような長い旅だった。

 

先頭集団が飛び掛かって来た。

臆せずミケはそれを腕を広げて迎え入れる。

 

何度も死ぬような思いをした。

それでも多くの力を借りて辿り着いた景色。

 

それがこの景色だと言うのなら。

 

 

「ただいま」

 

 

最高に決まっていた。

 

 





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