2025年10月4日(土)

プーチンのロシア

2025年10月2日

日本から一番遠いヨーロッパ

 前半の持ち物検査や事情聴取が約5時間、後半の調書作成が約5時間で、計10時間を要した入国審査が、ようやく完了した。預けさせられていた手荷物とスーツケースを受け取り、今度は優先的にパスポートコントロールを受け、やっとの思いでロシア入国を果たした。最初にパスポートコントロールの列に並んだ時は昼の12時前だったはずだが、時計は夜10時を回っていた。

 ところで、先方は所持する金品にはまったく目もくれなかった。国際的なクレジットカードがロシアで使えないので、多目にドルを持って出かけたのだが、先方がそれに手を付ける様子はまったくなかった。

 思うに、くだんの機関の職員たちは、今日では国から生活を保障されており、変に不祥事を起こしてその安定を失いたくないのだろう。90年代の旧ソ連諸国であれば、長時間の拘束は賄賂目的と相場が決まっていたが、今のロシアには当てはまらないようだ。

 それにしても、札幌を出発したのが土曜日13時50分の便であり、ロシアに入国できたのは日曜日の22時過ぎである。一時期、ウラジオストクが「日本から一番近いヨーロッパ」などともてはやされたことがあり、実際距離的には札幌~ウラジオストクは1200キロメートル(km)ほどで、札幌~広島よりも近い。しかし、今回経験した10時間取調べは例外にしても、今や所要時間では日本から一番遠いヨーロッパと言って過言でない。

ウラジオストクではちょうど、東方経済フォーラムが開幕しようとしていた時であり、空港には参加者登録用の特設デスクが開設されていた(撮影:服部倫卓)

ロシアの係官は今や「ITボーイ」

 ロシアのその筋の機関というと、尾行や盗聴といったイメージが強い。しかし、今回空港で対峙した係官は、「ITボーイ」といった風情だった。相手からデバイスを奪い、それを丸裸にすることを生業にしている雰囲気だ。

 その意味では、今回、普段使いしているスマホとパソコンを無防備にそのまま持って行ったことが、そもそも失敗だった。ロシアでは通話はしないのだから、レンタルのスマホでも持って行き、出入国の際はGoogleの適当なサブアカウントでログインしておけばよかった。

 逆に、ラッキーだったのは、今年の春にパスポートを切り替えたばかりだったことである。4月に切れた古いパスポートには、コロナ前まで毎年のようにウクライナを訪問していた記録が残されており、それが見付かったら、もっと厄介なことになっていた。

 取り調べで、「ウクライナへの渡航経験はあるか?」と訊かれたので、「一回だけある。あれは確かヤヌコーヴィチ大統領の頃だったか」などと適当に答えておいたのだが、その話は一応信じてもらえたようだ。

 さて、柔軟派の係官は「次回はもっとスムーズだろう」と言っていたし、そもそもロシアという国は入国に比べ出国の検査はそれほど厳しくないと個人的にイメージしていた。だいたい、出国時には、乗る飛行機に間に合わないといけないので、そもそも長時間の取調べなど無理であろう。

 しかし、結局は、出国時にも、またしても別室に案内され、入念な取り調べを受けたのである。幸か不幸か、ノボシビルスク発・北京行きのS7便は1時間ほど遅延しており、出発間際まで、今回の滞在中の行動や、写した写真などを、念入りに調べられた。

 ただ、不思議なことに、先方はこちらが写した写真や入手したアイテムを問題視しつつも、写真の消去を求めたり、没収したりはしなかった。むろん、写真などはすでにクラウドに保存済みであり、そのあたりの現実的な判断があるのだろうか。

 実は、今回のロシア旅行に向け、ロシアで使えるeSIMをスマホに入れていたのだが、入国時に係官が何らかの操作をしたらしく、スマホを奪還した時点で、eSIMのギガはもう残っていなかった。そして、ロシア出国後にスマホをチェックすると、何やら見慣れないアプリがバックグラウンドで悪さをしている雰囲気で、そのアプリがバッテリーを使い果たしている様子だった。

 即座にその怪しいアプリを削除した。帰国後にスマホの初期化を行った。パソコンの初期化も思案中である。

 それにしても、今回の筆者の振る舞いは、「私はロシアにとって要注意人物ですよ」と、自分から名乗りに行ったようなものだった。上手くやればもっと楽に入国できたはずなのに、国境での取り締まりに不利な材料を大量に携えて入国検査に臨んでしまった。

 果たして、次回ロシア入国を試みたら、次はどんな結果になるだろうか。あれだけ酷い目に遭いながら、もう次のことを考えているのが、我ながらおかしいが。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る