ヘムの勉強になるシリーズ
=PBR編=
今日は「PBRを本気で深堀り」します。ご存じの通りPERとPBRというのは株式投資の銘柄分析で「根っこ」となる2大指標です。日本市場でまさに現在進行中である「PBR1倍割れ革命」に就いてのヘムの見解も述べたいと思います。
例によって初級・中級・上級・超上級編に分けて解説します。かなりの長文
となりますが、株式投資の本質に繋がる内容となっていると思うので、前作の「PERを本気で深堀り」とセットで見て貰えれば「点が線」になったりすると思われます
☆PERを本気で深堀り
x.com/pygmy_hem/stat
「おい、ヘム、PBR位分かっているぞ
」そう思われたかもしれませんが、そう言わずに見てください。多分多くの発見があると思います
PBRの基本(初級)
・株価純資産倍率の事
・PBR=時価総額÷純資産
・PBR=株価÷1株あたり純資産
・企業の資産価値(純資産)に対して時価総額が何倍になっているという意味。
・言い換えると一株当たりの純資産に対して株価が何倍になっているかと言う事。
◎PBRの本質的な意味
資産面での割安度を見ている。この企業の株を買い占めてから、企業を解散して現金化する。その時に得られる現金の何倍で株価が売られているかを確認する指標(解散価値と時価総額を比較している)。1倍割れという事は解散したら100億円入ってくるのに、時価総額が80億円という状態。よく10万円入っている財布が8万円で売られていると表現される。(ここでいう解散価値とは会計上のもの)
PBRは資産面から見た割安度を見る指標。株主にとっての企業の本質的価値は以下3点から導き出される。
今までに蓄積された資産
今この瞬間の稼ぐ力
稼ぎの成長力
これを分析に落とし込んでやると
①の割安度がPBR
②の割安度がPER
③がEPSの成長力
という事になる。
だからPERとPBRはものすごく大切。
ヘムが普段やっている事は①と②と③の組み合わせで良い銘柄を見つけるという事。だからPERとPBRについて深く理解しているという事は当たり前のように大切。PERとPBRを深く理解してROE等の他の指標との繋がりが意味を成すようにしなければならない。
銘柄分析時にはPERとPBRをセットでみて分析する事になる。この2つの繋がりに意味を持たせた分析が「理論株価」や「キャッシュニュートラルPER」という事になる。PERやPBRは現在と言う1点のみを見た割安度を示す。ここに企業の成長性を加味してやる。①と②の現在に重きをおくのがバリュー投資家、③の成長力に重きをおくのがグロース投資家。もちろんどちらの投資家にとっても①②③は全て大事。あくまで何をより重視するかというバランスの問題。
PBRの説明に戻ります。
PBRとは
・株価純資産倍率の事
・PBR=時価総額÷純資産
・PBR=株価÷1株あたり純資産
BS読めない人の為に、純資産について軽く説明します。下の図参照。水色に色々書いてある。水色の会計上の価値の合計が総資産。総資産から桃色の負債を引けば会社の会計上の解散価値(橙色)が分かる。これ(橙色)を純資産と呼ぶ。
この純資産より時価総額が大きい状態がPBR1倍以上の状態。企業には解散価値の他に事業価値があるのだからこれが普通の状態。
一方、純資産より時価総額が小さいケースがある。図では右側。これがPBR1倍割れの状態。今すぐ会社を解散して現金化して株主に配った方が良い状態。ただし総資産の構成要素(水色の中身)が会計上の値段で売却できるならという前提。
この辺りが分かっていればPBRの基本的な事は理解出来ていると考えて良い。
PBRの基本(中級その①)
・初級の説明で何度も「会計上の」と書いていたのは意識的にそうした。実際に企業を解散して総資産上の各資産を売却する場合は、その値段通りで売れない。だから純資産は本当の意味での解散価値ではない。
資産バリューで株を買う場合にPBRは目安にはなるが、純資産は真の意味で解散価値でない事は分かっておくべき。だから長年PBRは軽視されてきたのだと思う。
真の解散価値とは
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「今この瞬間に企業を解散して全てを現金化したら
手元に幾ら残るんだ
」という考え方
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企業にはどんな資産があるか
決算書の「貸借対照表(バランスシート)」を見れば分かる。企業の持っている資産を大きく分類訳すると以下の様になる。
「現金」
「売掛金/預け金/保証金」
「製品在庫」
「投資用有価証券」
「土地」
「建物」
「機械類」
「その他」
解散価値を求めるという事は、これらを全て現金化すという作業を行う事(正確に言うと全てを現金化して負債を差し引く)。
「現金」を現金化する。これはそのままでOK。では売掛金を現金化するとどうなるか。ひょっとしたら、代金を回収できないかもしれない。だから90%位にしておくか。製品在庫はどうだ?安く販売しないといけないから80%かなとか。こんな風に自分なりの基準を作っていく。その考え方は自分の方法でOK。ヘムの場合は大体こんな感じ。多分土地と有価証券報告書辺りで意見が分かれると思う。
「製品在庫・原料」の80%は高くないか?
処分する時はもっと価値が低くなるんじゃないか?
と思えば50%にしたり、0%にしたりすれば良い。同じ製品在庫でも「服飾メーカー」と「鉄鋼メーカー」では比率を買えた方が良いかもしれない。そんな事を自分で考えて比率を決める
投資有価証券はヘムは以前90%で評価していたが「清原本」を読んで税金を加味しないといけない事が分かり70%に変更した。
貸借対照表(BS)に記載されている土地は簿価方式(減損時以外)。簿価方式とは買った時の値段が書かれているという事。昔に購入した土地であれば当時の購入価格は今より遥かに安く、実際の今の価値はもっと高いというケースがよくある。厳密に解散価値を計算するなら、土地は時価に洗い直す作業が必要になる。ヘムはその辺りと、売却時の税金を加味して掛け率で90%にしている。
資産バリューで隠れた「α」を見つけようと思ったらヘムは「土地の含み益」位しかないのではと思っている。
PBRの基本(中級その②)
以下は令和の東証大号令以前のヘムの資産株に対する見方。
資産バリューで大きく儲けられないのは、「今」という現実から分析するから。正しい方法で行えば正しい価値が計算できる。つまりこれは予想ではなく分析。。分析は確度は高いが「α」は小さい。だから資産バリューは安全域が大きいが、大きくは儲けられない
PBRの基準となる純資産は真の解散価値ではない。実際企業が解散する時には、BS上の金額で資産は処分できない。また企業を解散する事自体に大きなコストが発生する。この信頼感の無さが低PBR銘柄がいつまで経っても低PBRである理由。BPSの蓄積がカタリストとなる事は少ない。それでもBPSの蓄積が企業の本質的価値にマイナスになる筈はないので下値不安は少ない。
資産バリュー投資家が良く言う「EPSは毎年振れるからPERやROEは当てにできない。過去の蓄積であるBPSこそ頼るべきものでPBRは信頼できる」という考え方は理解できる。ヘムは資産バリューを否定している訳ではなく、ヘムのPFにも資産バリュー株は多く含まれている。資産バリュー株は低ベータ(ボラが小さい)が多く、PFの成績安定に寄与する。ただ大きくは儲けにくい。
実際の銘柄選定では「資産面での割安度」「収益面での割安度」「EPSの成長見込み」に「還元姿勢」を合わせて行うのが普通だと思う。ただネットネットなど資産バリューをかなり重視した投資手法も存在する。ネットネットに就いては後述する。
と、今まではこんな見方だったのが、令和の東証大号令で全てが変わる
=令和の東証大号令
=
革命が起きる
東証が突如2023年前半にPBR1倍割れを問題視!
実は東証が言いたかったことは、資本コストとROEを考えろという事。理論上では「ROE<資本コストでPBR1倍割れ」(何故そうなるのかは超上級編で解説する)となる為PBR1倍割れにスポットがあたる。
そもそも日本企業のPBRは極端に低い。令和の東証大号令で低PBRはかなり解消されたがそれでも日米のPBRを比較すると以下の通り。
PBRの日米比較
日経平均PBR 1.53 (2024/4/1)
S&P500のPBR 4.88 (2024/3/28)
以下グラフ参照。PBR1倍割れ企業の割合でも日本は米国の3倍以上。しかも以下はTOPIX500銘柄での話。全上場企業でいうとPBR1倍割れ企業の割合は2024/5/2時点で約40%ともう少し高くなる。
以下は日本企業の直近のPBRの分布図。例によって異常値も存在するので中央値で見ると1.2程度。中央値とは全上場企業約4,000社をPBRの低い順に並べて真ん中の企業の数値をとったもの。この1年で随分是正がすすんだものの、まだこんな感じ。分布図からもPBR1倍割れ企業はまだまだ存在する
バリュー投資家を散々泣かせてきたのが毎年BPSが積みあがるが一向に株価が上がらないパターン。ひたすらPBRが低下していく。東証大号令前まではこんな銘柄ばかりであった。つまり市場は「純資産」を高く評価していなかった。
実際に株主が解散請求権を行使するような事はないし、経営陣への突き上げもさほどではなかった。EPSが安定しており、配当性向は30%程度。この場合は毎年EPS x 70%程度はBPSが積み上がる(自己株買いは無しとの前提)。EPSの成長は小さいが業績は安定、ひたすらにBPSが積みあがっていく。こんな銘柄はゴロゴロ転がっていた。
そんな時に「東証という神からの啓示」が舞い降りる。=PBR1倍割れは許さんぞ=
これは革命的な出来事。今まで下がり続ける事が許されていたPBRが(株主は許していないが実際はそうなっていた)「1倍割れは許さんぞ」との基準が出来た。
これは今PBR0.8倍の企業がPBR1倍になったとしても、そこで終わる話ではない。要はBPSの成長にあわせて株価をあげ続けないといけない。バリュー投資家に息の長い恩恵をもたらす事になる。もう少し具体的に説明する。
*株価1,000円、
*PER10倍 → EPS100(1,000÷100)
*PBR0.8倍 → BPS1,250(1,000÷0,8)
配当性向30%、配当30円
こんな会社があったとする。今でも、業績安定でこの程度の割安度の企業は沢山ある。
この会社は1年間の利益であるEPS100から、
配当金を30支払う。残りの70はBPSの積み上げに回る。
(ここでは単純化の為自己株買いは0とする)
来年のBPSは1,250+70で1,320になる。株価が変わらずの場合のPBRは1,000÷1,320=0.76になる。前年で0.8だったPBRは0.76。1倍割れが問題なのに更にPBRが低くなるのは困る。最低でも前年と同じPBRの0.8は確保しなくてはいけない。そうなると株価を5.2%は上げないといけない。株価が5.2%上がってやっと、前年と同じPBR0.8倍。企業がなんとか株価を5.2%上げた場合1年間の株主の利益は配当3%+5.2%=8.2%となる。
実際企業が株価をコントロール出来るわけではない。
利益成長がなければIR強化とか増配とかで株価を上げるしかない。増配は我々に都合が良いし、IR強化で株価を5.2%上げてくれても良い。企業が努力してEPSを成長させ株価を上げてくれれば尚更良し。どう転んでも株主には良い事づくめ。
これはイメージを掴むためだけのシミュレーションだが、PER10倍位の会社で業績安定企業の低PBR銘柄への投資は、今かなり歩が良い。だからヘムは昨年から、やや興奮気味に東証フォローアップ会議を追いかけている。
好都合な事にこのサイクルは当面の間は続く。東証がこう言っているのだからとアクティビストの動きも活発になる。実際株主提案の数は大幅に増えている
来年も、再来年も、配当性向を100%以上にしない限りは毎年BPSは積みあがり、株価が同じであればPBRの低下を意味する。
今までは軽視され続けてきたPBRが突如生きた数字として意味を持ったのが、令和の東証大号令だという話。
PBRの基本(上級編)
資産バリュー株投資ではネットネット株投資が有名。
ネット・ネット株投資とは、バリュー株投資の祖と言われるベンジャミン・グレアムが提唱した投資手法。普通は「解散価値 > 時価総額」でお買い得。
もし解散価値を純資産と考えるならPBR1倍割れの状態が「解散価値 > 時価総額」。グレアムはネットネット株には更に厳しい条件を設定。PBRで言うと0.67未満とした。
純資産は真の解散価値を表わしていない事から、グレアムは解散価値を純資産ではなく「現金などの流動資産から総負債を差し引いた正味流動資産」とした。機械・土地・投資用有価証券などは全て0の計算になるので「正味流動資産」は純資産よりは小さくなる。つまり条件は更に厳しくなる。これを満たす銘柄をネットネット株といい、グレアムはネット・ネット株への投資を推奨した。
ネット・ネット株の条件は
「解散価値 x 0.67 > 時価総額」
この解散価値をどのような計算方法で求めるかで
色んなネットネット株がある。
元祖のグレアム流は解散価値=正味流動資産
資産バリュー投資で有名なかぶ1000さんは著書で
解散価値を「現金・現金同等物+売掛金・受取手形・電子記録債権+投資有価証券-負債」と定義づけている。ヘムの場合は上の図で示した通りの方法で解散価値を計算する。
PBRの基本(超上級編)
先程の説明で
「ROE < 株主資本コスト」だから
PBR1倍割れになると説明した。
この意味が分かりましたか?
分かりませんよね。でもよく言われてますよ。
東証大号令での要請に対する開示でも頻繁に出てきます。
感覚的には分かるかもしれません。
株主資本コストとは株主が期待するリターンです。
ROEは実際にあげる利益です。
株主資本コストもROEも分母は同じ株主資本です。
つまり株主が期待するリターンより利益が少なければ株主の価値は毀損され続ける事になる。
事業価値がマイナスというイメージです。
事業価値マイナスの状態と言うのはPBR1倍割れを意味します。
ここからが超々上級編です。むちゃくちゃ難しいです
ただやろうとしている事は、ROE>株主資本コストというのは理論的にPBR1倍以上で、ROE<株主資本コストであればPBR1倍割れになるというのを数式で確認しようとしてるだけです。
=PBR1倍割れとエクイティスプレッドに就いて=
エクイティスプレッドとは
「ROE-株主資本コスト」の事。
各企業が東証大号令への開示で株主資本コストを計算しているのは、エクイティスプレッドを把握する為。
最終的に導き出したい公式は
PBR = 1 + エクイティスプレッド/株主資本コスト
この公式は何を意味するか。
エクイティスプレッドがプラスならPBRは1倍以上
エクイティスプレッドがマイナスならPBRは1倍以下
つまり
ROEが株主資本コストを下回っているから
PBR1倍割れと言う理屈。
東証が「ROEが株主資本コストを上回るような経営をしろ」と言っている理由を紐解く作業。
ここで定義の確認
ROEとは株主資本からどれだけの利益を生み出すか
株主資本コストとは株主資本の調達コスト。言い換えると株主が株主資本出資に対して期待するリターン
実際のリターンと株主の期待リターンの差が付加価値となる
話が少し変わるが時価総額とは何なのか?の話。
時価総額=資産価値+今後生み出される付加価値
と考える。感覚的には資産価値+事業価値
・資産価値は純資産と考える
・今後生み出される付加価値は
株主資本 X エクイティスプレッド(E-S)と考える。
つまり超過収益。感覚的に掴みにくいが、分からなくもない。元手の自己資本に超過収益率をかけるイメージ。
・今年の超過収益を起点として将来の超過収益を無限等比数列の和で求める。この際の割引率は株主資本コストとする。
ここまでを整理すると以下のような式になる
太字部分(「」の中)が超過収益を無限等比数列の和
時価総額=
純資産+「株主資本 x (E-S) / 株主資本コスト」
↓(両辺を純資産で割る
(左辺は時価総額÷純資産 これはPBRの事)
PBR = 1 + エクイティスプレッド/株主資本コスト
となる。(純資産=株主資本と考えて良い)
欲しい公式に到達
PBR = 1 + エクイティスプレッド/株主資本コスト
だからPBR1倍割れを解消する為には
ROE > 株主資本コストが大事なんだという話でした
色々書きましたが、
ファンダ派にとっての企業価値は何なのかという事。
株主にとっての企業の本質的価値は以下3点から導き出されます。
今までに蓄積された資産
今この瞬間の稼ぐ力
稼ぎの成長力
これを分析に落とし込んでやると
①の割安度がPBR
②の割安度がPER
③がEPSの成長力
という事になる。
PBRとPERが大切なのは当たり前ですね。
これにEPSの成長力を足してやるのですが、
この時にヘムが大切にしているのが
競争優位性(堀)と参入障壁とマーケットです。
なんとなく株式投資がどういうものか分かってきましたか
「α」と「カタリスト」です。「α」は①と②と③から導き出す。「カタリスト」は色々あるけど「小さいけど最も確実なカタリストである増配」に重きを置いている。これがヘムの手法という事です。余すことなく全てを話すと、「α」が最大限膨れ上がる暴落時に買い向かうというのを+しているわけです。
大変長くなりましたがPBR深堀り編はおしまいです。
PER深堀り編は以下から見てください
x.com/pygmy_hem/stat
長文見て頂き本当にありがとうございます。
お疲れ様でした
ヘムも疲れました

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