ファミコンカラー研究その2・「任天堂伝統色」説
先日、「初代ファミコンがアズキ色である理由(ゲームウォッチ仮説)」(http://kanoh.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-365d.html)という記事を書きました。その続きです。まず、前回の記事からお読み下さい。
(注:この話は、「アズキ色安価説がもし正しいとしたら、それはどういう理屈でそうなるか」という思考を語るものであり、この内容を史実だと主張するものではありません! ファミコンを開発された上村雅之さんのご証言とも食い違います)
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ファミコン関連情報ブログ「ファミコンのネタ!! 」さん(http://famicoroti.blog81.fc2.com/blog-entry-764.html)が、記事を取り上げてくださって、おかげさまで多くの人の目に触れ、好評のようです。ありがとうございます。
その先方のブログ記事のコメント欄に、プラスチック業界方面からの情報が寄せられていました。
それを拝読して、あらためて考えを整理したのですが、ファミコン開発当時、ゲーム&ウォッチは、国内でも国外でもブレイク中でした。アズキ色(エンジ色・赤色)の、いわゆる「ゴールドシリーズ」は、その中でも主力商品でした。何度も再生産が行なわれていたはずです。
ですから、ゲーム&ウォッチとファミコンに、まったく同色・同質のプラスチックを使うことにすれば、一度に大きなロットでの材料発注が可能になります。大量に発注すれば、そのぶん安価になる道理です。
ファミコンというのは、任天堂にとって、当時まだ、売れるかどうかわからなかった商品です。一方、ゲーム&ウォッチは、当時、現在進行形で、作れば作っただけ売れるという金の卵を産む鳥みたいな商品です。
この二つを、材料的に同質化することでスケールメリットを出し、なるべくコストを下げようという魂胆は、非常に理に適ったものといえそうです。
●ファミコンはどうしてモノトーンではないのか
「そんなにコストを下げたいのなら、白一色のモノトーンにすれば良いのに、どうして白赤のツートンになったのだろう?」という疑問が、Twitter経由でわたしに寄せられました。
わたしは当時の開発経緯を知る立場にないので、想像するしかないのですが、初代ファミコンの本体で、アズキ色のプラスチックで構成されている部品は、電源スイッチ、リセットボタン、イジェクトレバー、コントローラー、カートリッジ端子のフタ、そして増設端子カバーです。
つまり、「手で触って操作する箇所」に限って、アズキ色が配色されているというデザインなのです。
当時、家庭用ゲーム機というものは、それほど一般的ではありませんでした。日本の多くの家庭では、「テレビに接続して、家でコンピューターゲームが遊べる玩具」というものを、ファミコンの登場によってはじめて体験したのです。
任天堂は、「この新しいおもちゃの使い方」を、まず知ってもらうことから始めなければならない立場でした。
ですから、「このおもちゃは、こことここを操作するものなのですよ」ということを、感覚的に認知できるデザインを必要としたのです。「操作可能な部位を色替えする」という処理は、最も端的で、わかりやすい方法であったといえます。
プラスチック材料が複数色になることで、コスト増にはなるかもしれない。けれども、それであっても「操作位置の色替え」は必須の条件であったろうと考えられるのです。
●ジャポニスムカラー(任天堂カラー)としてのアズキ色
ゲーム&ウォッチには初期には、ブルーの筐体や、オレンジの筐体の商品も存在しました。ですから、任天堂には、例えば「白と青でファミコンを作る」という選択肢も、あったということになります。けれども、青やオレンジや緑は使われず、アズキ色になりました。どうして青ではなくアズキ色になったのだろうか?
これは想像ですが、それも、かなり大ざっぱな想像になりますが、
「そのへんは、感覚的に、『こっちやろ』という感じでアズキ色が選ばれた」
くらいのことだと思います。
もちろん、当時のゲーム&ウォッチは、アズキ色のアイテム数が段違いに多かった。中期以降、ゲーム&ウォッチのボディカラーはアズキ色に統一されるのです。ですので、そっちのほうが明らかにスケールメリットが出た、ということもあるでしょうけどね。
でも、その「感覚的な、こっちやろ感」が、非常に重要な意味を持っていた。そんなふうに思うのです。
先述のとおり、ゲーム&ウォッチの最初期には、「ゲームウォッチの筐体はアズキ色」というきまりはありませんでした。初期に発売されたシルバーシリーズは、青だとかオレンジだとか、いろんな色のプラスチックが使われていたのです。。中期以降、アズキ色のゴールドシリーズが主力になっていきます。任天堂内部的に、
「青じゃなくて、やっぱ、アズキがしっくりくる」
という感覚があったのだろうと思われます。
これはほとんど結果論かもしれないのですが、ゲーム&ウォッチやファミコンに使われているアズキ色というのは、
「塗りのお椀の色」
に、きわめて近いのです。
そして、ゲーム&ウォッチにも、ファミコンのコントローラーにも、アズキ色のボディーの上に、「金色のプレート」が貼られています。
そこで思いだされるのは、
「漆塗りの器には、金箔の蒔絵がつきもの」
ということです。
つまり、塗り椀色のボディの上に、金色をあしらう、という配色は、日本が古来から伝えてきたゴージャス感覚に、きれいにマッチするのです。
アズキ色に金、というのは、きわめて日本的な美意識にかなう、ジャポニスムカラーそのものであるといえます。
このあたりは、任天堂が、日本の美意識を現代に伝える「京都」の会社であるということと、無関係ではないかもしれません。
そういえば、ファミコンのアズキ色は、「花札の裏地によく使われる色」でもあります。そして任天堂は、もとは花札を作って売っていた会社なのです。
花札で使われていた色を、ゲームウォッチに使い、そしてまた、最新のコンピュータゲームであるファミコンにも使う。
そのことで、
「この商品は、日本の遊技の系譜につらなるものであり、そしてまた、“任天堂が出してきたゲーム”の系譜にもつらなるものである」
(つまり、花札を作ってきた会社が、その延長上に作っている玩具なんだ、花札がすごく進化したものなんだ)
ということを表現している。
そういう意志をあえて読み取ることもできそうです。
また、「ジャポニスムカラー」という論点に戻れば、このアズキ色は、神社などに使われる丹塗りの色にもきわめて近いです。そしてファミコン本体は、畳の上に置かれて使われることが想定されていたはずです。その使用形態に合う色は、おもちゃっぽい青なんかよりも、だんぜんアズキ色なのです。これはまた、結果論に近い話ですけどね。
(というか、畳の上で使われたときにしっくりくる色として、「花札がアズキ色で作られるようになった」、それを踏襲した結果、ファミコンは畳の上に置いたときしっくりくる色あいになった、という順番なのでしょう)
●情報求む・白いゲーム&ウォッチ
ところで、これまで考えてこなかったファミコン本体の「白いプラスチック」のほうなのですが、ちょっと知っている方がいたら検証していただきたいのです。ゲーム&ウォッチに「オイルパニック」「ミッキー&ドナルド」というゲームがあって、これはネット上の写真を見るかぎりでは、白いプラスチックですね?
周囲に「オイルパニック」「ミッキー&ドナルド」を持っている人がいなかったので、触ったことがないのです。これらのプラスチックは、ファミコン本体と同質か、非常に近似した風合いの材質でできていますか? もし持っているか、鮮明に記憶が残っている人がいたら、情報をいただきたいのです。
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楽しく読んでおります。
オイルパニックですか。
ええとですね。
例えば、オリジナルのファミコンは黄ばむ傾向にありますよね。
タバコのヤニかも知れませんが
あと、気泡というか、ざらついてます。
G&Wにはそれがあまりないように思います。あるにはありますがなんか金属的です。
色はよくわかりませんが強いて言えばオリジナルのゲームボーイの方が近いですかね。ドンキーコングの赤はその後のFCカセットの赤として続きます。
プラ素材のカラーリングにはデザイン以上の意味はないのでは・・・
ファミリーベーシックとかはまったく同じ素材のようですけどね。
投稿: | 2015年1月 3日 (土) 14時07分