英空母打撃群は約8ヶ月間に渡るインド太平洋地域への展開を終え、インド洋、スエズ運河、地中海を経て本国に帰国予定だが、プリンス・オブ・ウェールズが地中海に帰ってきたタイミングでF-35Bの完全運用能力の宣言を予定しており、会計検査院や議員らはFOCを宣言できるのか疑問視している。
参考:UK F-35 Full Operational Capability Path Faces Scrutiny
もしFOCを宣言すれば第809航空隊は実戦部隊として扱われるため本国の訓練効果が低下するだろう
英会計検査院は7月に発表したF-35Bの費用対効果に関する報告書の中で「これまでに110億ポンドを費やして達成された能力は当初計画と比べて期待外れだ」「7つの任務全てを遂行できるF-35Bの割合=Full Mission Capable Rateは目標の1/3に過ぎない」「7つの任務のうち少なくと1つの任務を遂行できるF-35Bの割合=Mission Capable Rateも目標の約半分だった」「低調な数字の原因はF-35のエンジニア不足とスペアパーツ不足に起因している」「空母のインド太平洋展開に合わせてMC率とFMC率の目標を達成したが、この数字は持続可能なものではなく、空母の極東展開が終われば再び低下するだろう」と指摘。

出典:UK National Audit Office
さらに「国防省は予定されていたスタンドオフ兵器の統合遅延、ステルス性能を維持する独自施設の確保、運用に必要な人員不足といった問題を解決せず、F-35Bの完全運用能力を年内に宣言するつもりだ」「英国が運用する37機のF-35Bは戦闘機戦力の能力を大幅に向上させるものだが、これまでに達成した能力は国防省とJPOの失敗で2013年計画時の想定を大幅に下回っている。年内に宣言される完全運用能力は一般的ものよりレベルが低く、スタンドオフ兵器も2030年代初頭まで統合されない。会計検査院の見解では110億ポンドを費やして達成された能力は当初計画と比べて期待外れの成果に留まっている」と言及している。
参謀総長を務めるリチャード・ナイトン空軍大将も9月に開催された会計委員会で「最大の懸念はF-35B向けのスタンドオフ兵器が不足している点だ」「これが欠如した状態だとステルス能力を最大限活かすことが出来ない」と発言したため、会計委員会の監査人や議員らは予定されている「完全運用能力=FOCを宣言できるのか」と疑問視し始めているにも関わらず、国防省はF-35BのFOC宣言を強行するらしい。

出典:Royal Air Force
IOCやFOCの定義は国毎に異なり、英国はFOCについて「2個作戦飛行隊を展開・維持できる能力」と定義しているためエンジニアリング上の欠陥やスタンドオフ兵器の不足に影響を受けないが、会計検査院は「2個作戦飛行隊(空軍の第617飛行隊と海軍の第809航空隊)の内、第809航空隊は完全運用能力を満たしておらず、F-35Bへの機種転換訓練を行う第207飛行隊から機体と技術者を借りなければならない状況だ。もしFOCを宣言すれば第809航空隊は実戦部隊として扱われるため本国の訓練効果が低下するだろう」と指摘している。
因みにスタンドオフ兵器の不足とはBrimstoneから派生した空対地ミサイル=SPEAR-3統合遅延のことを指しており、F-35Bへの統合は当初「2020年代半ば」と報告していたが、2022年2月には「早くても2027年頃になる」と、2024年1月には「2020年代末」と遅延を繰り返し、イーグル防衛装備担当閣外大臣は「統合遅延はBlock4に関連している」「Block4へのSPEAR-3統合は2030年代初頭と見込まれている」と報告し、英メディアも「F-35Bは2030年代初頭までSPEAR-3が使用できないため、地上目標を攻撃するためにはランカスターと同じリスクを冒す必要がある」と指摘している。

出典:Forsvaret
F-35Bのスタンドオフ兵器不足は英国やF-35Bに限った話ではなく、ノルウェー、日本、オーストラリア、米国、ドイツがF-35A向けに導入を決めたJoint Strike Missileも初期運用能力=IOCを獲得したという公式のアナウンスがなく、ノルウェー政府も「Kongsberg Defence&Aerospaceからも初めてJSMが納品された」「オーランド空軍基地でJSMの備蓄作業が開始される」と発表しただけで、ノルウェー国防省の高官も「JSMの納品は必要なソフトウェアが供給されるまでの間『JSM備蓄を積み上げる機会』が得られる」と述べているため、まだF-35AはJSMの運用能力を獲得できていないと解釈するのが妥当だろう。
Naval Newsも「Lot15のF-35BとF-35CにはLRASMの統合、GBU-53/Bの早期運用能力=EOC、Sidekickの搭載が含まれる」「米海軍はAARGM-ERのような長距離攻撃兵器との互換性もLot15の機体に搭載される予定と述べたが、Lockheed Martinや米海軍が統合テストを完了させたのか、そもそもテストを開始しているのかも不明だ」「Lockheed Martin、米海軍、F-35JPOの何れもAARGM-ER統合に関する発表を行っていない」「GBU-53/BはEOCに最も近く、2025会計年度の第2四半期までにEOCの宣言が行われる見込みだ」と言及している。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Blake Wiles
JASSM、LRASM、JAGM、SiAWの統合もBlock4とリンクしているため2030年代初頭になる可能性が高く、スタンドオフ兵器の不足はF-35運用国共通の悩みかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:Royal Air Force
海軍機が対艦ミサイルも使えないのは、今時困るよなあ。
日本の場合、ほとんどアラート任務だからマシだけど。
かわぐちかいじさんの漫画好きでして。
現実には無理があるなあと思いながら、見つつ楽しんでいるのですが。
F-35対艦任務に使いものにならないは、やはり想定外でした。
かわぐちかいじ先生によれば、いざとなったら、F-35Bの25mm機関砲が敵艦の甲板を貫くのです!
まさにロマンです!
残念ですが、現実に目を向けるしかないですよね。
多額の予算を費やして、期待値も上がりすぎたため、引くに引けなくなっているのでしょう。
民間企業ならば、責任者は処分左遷されるレベルですよ。
多国間開発なのにパーツ足りないはもう、、、
どんだけ無計画だったのよって感じがする
予め需要を満たせる製造量を保てないなら売るなと言いたい
ランカスターの例え話は以前記事で見ましたが進展なしですね
せめてジェット機でたとえてあげて欲しいところだが、ブリティッシュ・ジョークだからきつめなのね。
ステルスモードで使えるスタンドオフ兵器の選択肢はなかなか増えず、JDAMにしてもあくまで命中精度が上がるだけで投下タイミングの制約はランカスターの現役時代と大きく変わらないという判断でしょう。
ブロック4も「現実にできるところの範囲を決めてリリースする」と仕様縮小の判断ですし、兵器統合は遅れ気味になるでしょうね。
JDAMって通常の状態でも30kmERなら80km滑空出来るし、突入方位や突入角度指定できる結構高度な爆弾なんだけどね……
英国人の問題の捉え方自体がヘンだなと感じる。
F-35Bがちゃんと爆撃できれば万事オッケーなの?って
言ったらそんなことないよね。
遠隔地まで言って戦争をするのに必要な能力はいくらでもある。
空母なんておそらく必要なものの一つに過ぎない。
英国自体にその遠征能力が無いのに空母だけ持ってても仕方ないのでは。
例えばF-35Bがちょっと爆撃してそれだけで解決する状況って何かあるんだろうか?
実数は機密と断り書きがされているのは承知の上で。
稼働率の目標、90パーセントというほぼありえない設定だったとしても推定45パーセントとアメリカのF-22並なんですが……
フルミッションも同様で60パーセントと仮定しても20パーセント?
リアリティのある目標設定だったならそれぞれ80%、50%ってところでつまり40%、16%がリザルトですかね。
あくまでも推定ですが、改善されている兆候は見受けられず。
F-35はこのまま永遠に「飛べない250億円」なのかもねぇ。
この、「将来のブロックじゃないと〇〇の兵器は使えないです」
ってのが曲者ですね…なんとかならなかったのだろうか
基本レベルの設計やコンセプト設計の段階で何かを間違えていると思います。
巨額の費用が動き、契約もあるため中断できずズルズルと行ってるパターンではないかと。実のところ、運用コストがかかる兵器であり、同時に完成が見えないとなると欠陥品と言われても仕方ないように思います。
GCAPが首尾よく完成したら、次は艦載機の新規開発を始めちゃったりしますかね?
F-35Bに苦しんでいるのは日英伊で共通ですし。