米国関連

トランプ大統領は米国への投資を重視、トルコにBaykarの米国進出を要請か

米陸軍のドリスコル長官は「今後2年間の改革中に主要企業の1つが防衛分野から撤退して構わない」「残りの企業が強化されるなら成功と見なす」と述べていたが、トルコ外相は「米当局がBaykarに米国内での生産を要請した」と明かし、変化しなければGA-ASIですら救済されないのかもしれない。

参考:US officials seek Baykar’s advanced tech, production: FM Fidan
参考:Washington también se apunta a la tecnología militar turca y pide a Baykar que fabrique drones en EEUU
参考:With munitions and CCA in mind, small engines make a big show at AFA

今回の動きは「変化を始めなければGA-ASIですら切り捨てる」「GA-ASIに競争を促すには無人機分野で強力な競争相手が必要」と示唆している

米陸軍のドリスコル長官は5月「現在の状況について伝統的な防衛産業企業が誤解しているのは、トランプ大統領やヘグセス国防長官が改革のため一時的な痛みを容認してる点だ。私の予想では(伝統的な防衛産業企業は)今後数日、数週間、数ヶ月以内に新しい状況へ対応し、変化を始めなければ死が待っていることをに気づき始めるだろう。我々は国家として彼らを救済するつもりは全くなく自らの力で成功して欲しい。数年以内に陸軍へ販売できるシステムは素晴らしいものだけしか残らない。なぜなら、そうでないシステムを購入するつもりはないからだ」と述べた。

出典:US Army Photo by Joseph Cooper

Breaking Defenseも「もう大手元請企業は救済されない」「効率的な運営が出来ないなら撤退しても構わないと考えている」「大手元請企業も改革の嵐をやり過ごしたり、ロビイストを動員して議員を動かすことで乗り切ることが出来ないと気づき始めている」と、American Enterprise Instituteで上級研究員を務めるフェラーリ元陸軍少将も「今回の改革で印象的なのは米本土防衛と中国への対応に最適化された状態の追求、特に伝統的な武器システムからドローンとAIに軸足を移していること」と指摘し、これは陸軍改革に限定される話ではないのは誰の目にも明らかだ。

トランプ大統領が掲げるAmerica Firstは「米国製システムの優先」を掲げているものの、これは米国資本で開発されたシステムではなく「米国内で生産された(特定の条件を満たした)システムの優先」で、トルコのフィダン外相は「ニューヨークの会合に出席した際、Baykarが開発した技術に関する要請や動きがあった。これはBaykarが米国内に生産拠点を設立する可能性を秘めたもので、米国はトルコのBaykarがもつ先進技術から恩恵を受けられるだろう」と言及。

出典:Baykar

スペインのディフェンスメディア=Infodefensaも「米国はBaykarに国内への製造拠点設立を要請し、この分野におけるトルコの世界的なリーダーシップを認めた」「米国がトルコの無人機技術に関心を持っているのは米企業が製造するシステムが高価で、生産効率の点においても中国に遅れを取っているためだ」「スペイン(Hürjetの共同開発)に続き米国もトルコとの軍用機開発に関心を示した点が非常にユニークだ」と報じている。

この動きがBaykarの米国進出に繋がるかどうか、米軍がTB2、TB3、Akinci、Kızılelmaの取得に関心を示しているのかどうかは不明だが、今回の動きは「変化を始めなければGA-ASIですら切り捨てる」「GA-ASIに競争を促すには無人機分野で強力な競争相手が必要」と示唆しているとも解釈することができ、その脈略から言えば「トランプ大統領が米国内で生産されたシステムの優先=米国への投資」を重視しているのが透けて見える。

因みに空軍協会のイベントで最も多くのスペースを獲得したのは無人機関連の展示だが、有人戦闘機に随伴可能な無人戦闘機、武装可能な無人航空機のジェット化、低コスト巡航ミサイルなどに対する関心の高さは、低コストのジェットエンジンに対する需要も喚起し、このイベントに参加した伝統的な防衛企業から新興企業まで同カテゴリーに向けた製品を多数披露して注目を集めている。

Breaking Defenseは「伝統的な防衛企業や軍事分野に転用可能な商業技術をもつ民間企業は『使い捨てのジェットエンジン』や『有人機向けほど高度ではないジェットエンジン』の分野で優位かもしれないが、新興企業にとっても白紙状態からアプローチできる数少ない分野だ」「この分野は確実に成長が見込まれる市場で、エンジン開発への投資するという各企業の決断はリスクの高い賭けではない。むしろ慎重な賭けと呼ぶべきものだ」と指摘し、この分野は今後急成長する可能性を秘めていると言えるだろう。

CCAは米空軍だけで1,000機、ドイツ空軍も推定400機に調達を予定しており、米海軍、米海兵隊、他の西側諸国の調達まで加味すると「有人機向けほど高度ではないジェットエンジン」の需要規模は数千基、低コスト巡航ミサイルも米空軍が2026会計年度予算で約3,000発調達を予定し、同じコンセプトのシステムも複数の国から多数登場しているため「使い捨てのジェットエンジン」の需要規模も数万~数十万基規模に成長する可能性がある。

Breaking Defenseの取材に応じたアナリストも「これだけ大規模な調達が見込まれるエンジン供給には抗いがたい魅力がある。競争には勝者と敗者がつきものだが、だからと言ってこの市場を無視することもできない」と述べており、防衛企業への投資を考えているなら「使い捨てのジェットエンジン」や「有人機向けほど高度ではないジェットエンジン」の動きを注目しておくと大きなリターンを得ることができるかもしれない。

関連記事:米陸軍の改革に救済なし、適応できない主要企業が撤退しても構わない

 

※アイキャッチ画像の出典:Baykar

米陸軍の長距離火力への取り組み、次期自走砲調達に向けて提案依頼書を発行前のページ

韓国がAEW&C入札の結果を発表、勝者はL3HarrisのGlobal6500-AEW次のページ

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コメント

  • コメント (10)

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    • リンゴ
    • 2025年 10月 01日

    >防衛企業への投資を考えているなら「使い捨てのジェットエンジン」や「有人機向けほど高度ではないジェットエンジン」の動きを注目しておくと大きなリターンを得ることができるかもしれない。
    投資をやっている身としては良い視点を貰った
    エンジン、っていうとどうしても重厚長大で新規参入障壁の高いイメージがあるけども、案外フットワークが軽い部分もあるなと
    ただ、金を集めるだけ集めて逃げる、という企業もあるんでそこら辺は腕が問われるか

    15
    • kitty
    • 2025年 10月 01日

    一時期、墜落したUAVから、日本のラジコンメーカーのエンジンが出てきたなんて話もありましたね。
    さすがにジェットエンジンまでは日本のメーカーはなさそう。
    たぶん、安くて高品質な小型ジェットエンジンなんてのは、ロット数が確保できるなら日本が得意な分野なんでしょうけどね

    7
    • daishi
    • 2025年 10月 01日

    そういえばF-5/T-38のJ85エンジンのルーツは、ジェット爆撃機のデコイADM-20 Quail用でしたね。
    デコイ=使い捨てですから回帰しているのが興味深いです。

    現時点ではどの程度の性能と可用性・耐久性を見込むか難しいのですが、採用数が見込めるだけに投資は高まりそうです。

    5
    • 胡瓜
    • 2025年 10月 02日

    トランプ政権はあらゆる産業で米国内への投資呼びかけがいつもの事になってますが、工場がめでたく開設したとして米国内で工場労働に従事できる人口が残っているのか甚だ疑問
    プアホワイト様達は工場労働に関心なんて無いでしょうし

    そもそも先日の韓国企業の工場のように施設立ち上げ人員の派遣すら不法移民呼ばわりで州議員の人気稼ぎ程度の理由で送還して台無しにする有様なので有効な生産ラインの立ち上げもやれるか怪しい(リモート指示?無理でしょ)

    16
      • 2025年 10月 02日

      それは仕事しに来る人に就労ビザ取らせなかった韓国側の問題
      法治国家なら当たり前の話
      それと米国民が工場労働を忌避するかは全く関係ない話
      働けるんなら働きたがる層はそれなりにいるでしょ
      都市部の極一部のsns情報を鵜呑みにして、他国をくさすのは止めようよ

      15
        • 2025年 10月 02日

        技能職向けの短期就労ピザを実質的に発行しない米国政府に問題があるでしょうよ。何年も前から問題視されて法制化しようと協議をしても全く動こうとしない米国政界、そこでグレーゾーンを使わざる得ない企業とそれを暗黙の了解として黙認していた米国政府というバランスで経済を回していたので、「就労ピザを取らせなかった」のは韓国側の問題では無く、アメリカ側の問題でしょう

        9
        • あばばばば
        • 2025年 10月 02日

        (アレは韓国側が悪いけど、そもそも数か月前から就労ビザの発行を申請していたが下りなかったという話もあるが)
        これから申請するには就労ビザに年間10万ドルかかるという話なので、確かに外国企業がアメリカ現地で法人や企業立ち上げ、社員の教育を行うのは難しくなる
        それでいざ現地で製造業を立ち上げた所で投資に見合った利益が帰って来るのか
        特に高度技術が多い軍事兵器を、現地のアメリカ人に教育・監督も不十分で製品として生産できるのか
        雇用コストの高いアメリカ人を雇うには資金が必要であるが、その(補助金を含めて)コストは誰が払うのか

        USスチールの高炉停止を阻止した黄金株の様に経営に介入してくる事もあるし、アメリカに投資なんて金を溝に捨てるような行為そのものだよ

        11
    • SB
    • 2025年 10月 02日

    新陳代謝はや淘汰自体は進むとは思うんだけど、一方で何ヶ月か目の記事にも書いたけどこの長官投資銀行出身の銀行マンだから話半分に聞いておいたほうがいいと思う
    確か空海軍にも同じようにやりましょうとか誘ったけど、ふーんあっそみたいな反応だったはず

      • なんとも
      • 2025年 10月 03日

      仰る通りです。
      過度な期待を持たないっていうのは、F-35という前例がある以上、必要かと思います。今日のロイターが報道していましたが、トマホーク提供も在庫的に厳しいのでは、、、、な状況らしいです。現政権だけでなく、アメリカ政府は全体的に誇大広告気味なので話半分な側面はあるかと思います。

      しかし、考えてみるとアメリカもだいぶ弱体化しています。効果な兵器をバンバン作れなくなってきているわけですから。
      まあ、9.11からこっち、20年以上戦い続けているわけですから流石のアメリカでも疲弊するのは当然かと思いますが。

    • elmoelmo
    • 2025年 10月 02日

    > 「使い捨てのジェットエンジン」の需要規模も数万~数十万基規模に成長する可能性がある。

    大量生産で価格が劇的に下がれば、軍用以外のジェネラルアビエーション、それこそ空飛ぶクルマレベルへの応用もありそうですね。

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