米国の次期ICBMの開発はミサイル本体ではなく発射インフラの問題で「大規模な不動産プロジェクト」と呼ばれており、米シンクタンクは「ミニットマンIIIの発射インフラが流用できないと判明した以上、車輌搭載型ICBMを真剣に検討すべきだ」と提言した。
参考:Forge ahead with the Sentinel ICBM, but consider making it mobile
サイロ発射型と車輌搭載型の組み合わせは現実的な落とし所なのかもしれない
米国の核の3本柱は大陸間弾道ミサイルのミニットマンIII、潜水艦発射型弾道ミサイルのトライデント、戦略爆撃機のB-2で構成され、陸上発射型のミニットマンIII(運用想定は約10年間)は運用開始から50年以上が経過しており、開発に携わった設計者や技術者の大部分が死去、ミニットマンIIIの設計図や技術文書の一部も行方不明、もう生産されていないスペアパーツの確保も困難で、2019年12月にミニットマンIII更新計画の入札勝者としてノースロップ・グラマンが選ばれた。
この新型ICBMは「LGM-35 センチネル」と命名され、ミサイル本体は鋼鉄ではなく複合材料で製造され、新しい技術を後から追加可能なようにモジュール式コンポーネントが採用され、誘導システムもミニットマンIIIとは比較にならないほど高性能なものを採用し、管制センターのコンピューターシステムも最新機器に刷新され、発射インフラ(地下サイロ、管制センター、通信ケーブルなど)のみ流用する予定で、プログラムコストは777億ドル、2027年までに開発を完了し、2029年までに初期作戦能力獲得を宣言できると見積もられていたが、この甘い期待は直ぐに問題を引きこすことになる。
政府説明責任局はセンチネル計画が酷い状況に陥った原因について詳しく説明しているが、端的に言うと「不確実性に基づいた非現実的な作業スケジュール」「不十分なシステムエンジニアリング」「不完全な基本システム設計」「ICBM産業基盤の衰退」がコスト超過の根源で、例えばミニットマンIIIを運用する地下サイロは運用状態にあるためノースロップ・グラマンはアクセスすることが出来ず、空軍協力の下で実物大のサイロを再現してセンチネルへの交換方法を検討したものの、発射インフラの設計が統一されていないこと判明しコストの算出が困難になった。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Michael A. Richmond
さらに流用予定だった地下サイロと管制センターを繋ぐ12,000kmの銅線ケーブルも光ファイバーへの変更が要求され、このケーブル交換には農地や私有地を掘り起こす必要があるため急速に土木工事コストが膨らむ原因になり、ノースロップ・グラマンの関係者は「この変更でセンチネルプログラムは完全に別物になった」と証言している。
センチネルプログラムのコストが777億ドルから1,400億ドルに膨らんだ原因の大部分は発射インフラ関連の土木工事プログラムに関連しているため「センチネルプログラムは新型のICBM開発プロジェクトではなく大規模な不動産プロジェクト」と呼ばれており、空軍もセンチネルへ移行を2036年までに完了させるのは困難と予想し、ミニットマンIIIの運用を2050年まで延長することを検討しているらしい。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Jonathan McElderry
この事態について米シンクタンク(American Enterprise Institute、Hudson Institute、Heritage Foundation)は「米国の安全保障にとってICBMは核抑止力の中核だ」「この能力のお陰で壊滅的な核攻撃を受けることなく通常戦力の海外投射が可能になっている」「政府説明責任局はサイロ発射型に依存する現行の計画は敵対勢力の急速なICBM増加に対応できないリスクを強く指摘している」「ミニットマンIIIの発射インフラも流用できないことが判明した以上、車輌搭載型ICBMを真剣に検討すべきだ」と提言した。
シンクタンクの提言内容を端的に言うと「センチネルを流用した車輌搭載型はサイロ発射型よりも早く配備できる」「センチネルプログラムの初期段階で検討された車輌搭載型はコストが高いと判断されたものの『現在判明している現実的なコスト』と比較すれば安価だ」「サイロ発射型の一部を車輌搭載型に変更することでセンチネルプログラムの総コストを圧縮することができる」「サイロ発射型と車輌搭載型を組み合わせることで敵の計算も複雑化して標的設定を困難にさせる」「ミニットマンIIIの運用期間延長は賢明な選択肢ではない」となる。

出典:Vitaly V. Kuzmin/CC BY-SA 4.0
つまりセンチネルプログラムで検討された車輌搭載型は「サイロ発射型よりもコストが高い」という理由で実現しなかったが、ミニットマンIIIの発射インフラが流用できないと判明したため「サイロ発射型と車輌搭載型の経済性が逆転した」という意味で、ミニットマンIIIを75年間も維持するのも信頼性の観点から賢明ではなく、車輌搭載型の導入でセンチネルとミニットマンIIIの交換を進めながらサイロ建設を進めるべきだと言いたいのだろう。
因みにシンクタンクは「中国が急速に核戦力を増強し、ロシアが日常的な核の脅しを行う中、米国は生き残るための究極の保証としてICBMを維持しなければならずセンチネル配備はそのための唯一の手段だ。そのためには間違いなく費用がかかるものの、米国の安全保障にとってセンチネルは欠くことが出来ない手段だ」と述べてセンチネルプログラムを支持しており、サイロ発射型と車輌搭載型の組み合わせは現実的な落とし所なのかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:Vitaly V. Kuzmin/CC BY-SA 4.0
ミニットマンIIIの設計図や技術文書の一部も行方不明
これやばくないですか?
下手するとインクがかすんで文章ロストしているのとかもあると思う。
あとは保管機関過ぎたからたき付けに使ったのとか
まぁ昔の図面とか管理杜撰だから
紙が多すぎて台帳に載ってても保管されてないとか洋の東西を問わずままある事
そういう時はリバースエンジニアングで現物から図面起こすんですけどね
昔ある装備品の関連で1回やったわ
北朝鮮が、車輌型を山岳トンネルに隠していると言われてましたが。
合理的だったという事でしょうね。
アメリカは特に、原子力潜水艦+SLBMがあるわけですから、移動式でも尚更いいのかなあと。
潜水艦も爆撃機もあるんだから使えない核兵器より海軍の立て直しと通常兵器の在庫を確保するのが先じゃ無いですかね?
ノウハウ無いのにまた新たな開発しても金の無駄になる未来しか見えない
トライデントをベースにして40feetコンテナに収まるようにするってのはどうだろう?
簡単に秘匿が出来そう。
トライデントだって初飛行は50年前なので、設計図残ってるか怪しいし、50年前をベースにしてHGVも無しに新規開発するなら、ミニットマン使い続けるか、トライデントベースにHGVを魔改造するなら、完全新規のほうがまだ良くね?という話になりそう。。。
秘匿性高すぎて紛失したりすり替えられたりしないかな?
昔のイスラエルならモサド使って盗みに来そう
今のアメリカの技術力、工業力で二兎を追ったら両方失敗すると思います。
どちらかにしましょう。
二足歩行型にしようず
核搭載型戦車「そうはさせない!」
グリスボックですねわかります
彼がゲームメーカーKONAMIの作品見たら、やりかねない。
地上発射型のICBMを残してるのって、数が限られた貴重な敵ICBMに、こちらのICBM発射サイトを狙わせて、自国大都市への攻撃数を減らさせる、いわば被害担当艦としての役割を担ってるので、地上発射型のICBM発射サイトは秘匿してはいかんのです。
核のスポンジ理論や標的の拡散による抑止はもっと知られててもいいと思いますよねぇ
車両搭載型だって各車両の護衛ていう金額以外のコストも掛かるわけですし
ICBMのインフラが古すぎてメンテナンス・更新にコストが莫大に掛かるってのは笑えない話しですな
まるでバブル期のインフラが使えなくて困っている日本のよう
核戦力すらまともに更新できないアメリカに存在価値あるのか? というくらい割とシャレになっていない事態なのが怖いですね。
いやここまで来たら車載型ICBMをさっさと作り、稼いだ時間でサイロ方式の更新も進めるしかない気がします。
それにしてもまともに兵器が作れなくなった21世紀のアメリカになるなんて、冷戦が終わったころには露とも思わなかったのですけど。本当にどうしてこうなった…。
>本当にどうしてこうなった…。
それはアメリカの製造業の経営者が「アメリカの人件費は高いので、人件費が安い国で作るのが良い経営」という考え方を徹底しすぎたのが大きな原因だと思います
つまりグローバリズムの被害はアメリカにも及んでいるのです。
ロシアあたりがデータ持ってたりして
アメリカは濃縮ウランの供給能力も貧弱極まりなくロシアから買っているという無様過ぎる現実w
アメリカで過去に行われた核軍縮の議論を見ればわかるけど
要するにF-35みたいな高価な玩具が欲しい軍と、売りつけたい防衛産業側のコラボ
こいつのせいでアメリカの核戦力はここまで弱体化が進んだ
本邦でも大いに覚えがあることだが、天下りは全てを破壊するのだ