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自閉スペクトラム症者にみられる運動の問題について

運動の不器用に、診断がつく?

ボールを投げると変な方向にいってしまったり、家庭科の時間に縫い物がぐちゃぐちゃになってしまったり・・・。このような状態は、「運動音痴」とか「不器用」などと評されることが多いかと思います。

運動のスキルは、そもそも個人差が大きいものではありますが、このような運動の不得意さが日常生活に影響を及ぼすレベルになると、「発達性協調運動障害」という診断がつく場合があります。英語では、"Developmental Coordination Disorder"と訳されるので、略して"DCD"と呼ばれています。

精神障害の診断の基準を示す「DSM-5」では、DCDを次のように定義しています。

A. 協調運動の技能が、その人の生活年齢や学習、使用の機会によって期待さ
 れるものよりも明らかに劣っている。(例:物を落とす、物にぶつかる、
 はさみなどの使用・書字・自転車に乗る・スポーツ参加の困難

B. A.で示した運動技能の欠如が、日常生活の活動を明白に、また、持続的に
 妨げており、学業や就労前後の活動、遊びに影響を与えている
C. この症状の始まりは発達段階の早期である。
D. この症状は、知能障害や視力障害によってはうまく説明されず、脳性まひ
 や筋ジストロフィーなどの神経疾患によるものでもない

※わかりやすさのために、一部文章を改変しています。正確な定義は原文をあたってください。(DSM-5, 日本精神神経学会, 2014)

DCDの有病率は、5~11歳の子供で 5~6%、男女比は 2:1~7:1 で男性に多いとされています。また、50~70%の子供で、青年期になっても運動の問題が続くと見積もられています。(DSM-5より)

自閉スペクトラム症者の運動障害の発症率と、自閉症傾向との関連

発達障害の一つ、自閉スペクトラム症(ASD)者の多くは、DCDの傾向がみられます。イギリスで行われた研究では、11歳前後のASD児の中で顕著な運動の困難もつ割合は約8割と報告されています(Green et al.,Dev. Med. Child Neurol., 2009)。また、運動の不器用があるほど、ASD傾向が強いという報告もあり(Dziuk et al., Dev. Med. Child Neurol., 2007)、ASDの中核症状である、社会コミュニケーションの困難やこだわりの強さなどの背景に、運動の困難が関わっている可能性も考えられます。

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※Dziuk et al., 2007, Figure 1より抜粋。横軸は自閉症傾向縦軸は運動の不器用さを示します。

運動障害のアセスメント

DCDでは、手先を使う器用な動作、全身を使った粗大な運動のいずれの困難も含まれており、個人によって、どのような症状をもつか違います。一人ひとりが、どのような運動に困難があるのかを詳しく知るために、専用のアセスメントツールを利用します。ここでは、代表的なものをいくつかご紹介します。

①Movement ABC-2
(Movement Assessment Battery for Children - Second Edition, Pearson)
世界的に最も広く利用されているアセスメントツールで、3歳~16歳までの児童を対象にしています。
実際にいくつか短い運動タスクをしてもらった結果と、チェックリストを使って評価します。手の器用さボールスキル静的・動的バランスについて、評価ができます。残念ながらまだ日本語版はできていないようですが(2019年8月時点)、日本でも利用していけるような試みが行われているようです(Kita et al., Brain and Development, 2016)。

※M-ABCの紹介ビデオ

②BOT-2
(The Bruininks-Oseretsky Test of Motor Proficiency, Second Edition, Pearson)
①M-ABCと同じ会社が出しているアセスメントツールです。こちらは4歳~21歳までアセスメントできます。60分間かけて、次々に短い運動タスクをこなしてもらい、その結果によって、運動の種類ごとに、熟達具合を評価します。評価項目としては、手の器用さ(正確性)、両手の協調全身の協調全身の筋力と機敏性があります。こちらも、一部の作業療法士の方などが独自に取り入れている場合もあるようですが、正式な日本語版はまだありません(2019年8月時点)。
※私たちの研究でも利用しているアセスメントツールです。概要は、「運動障害が生じるメカニズムに関する研究」の引用ツイートを参照ください。

※BOT-2の紹介ビデオ

③DCDQ
(The developmental coordination disorder questionnaire)
5歳~15歳の児童を対象に、保護者が質問に答えることで、DCDの評価を行います。①②とは異なり、質問紙に答えるだけでよいので、より簡易的に実施することができます。動作における身体統制書字・微細運動全般的協応性の項目を評価します。こちらはすでに、日本語版が開発されています(Nakai et al., Res Dev Disabil., 2011)。

運動障害が生じるメカニズムに関する研究


ASD者の多くでDCDが生じる原因は、今のところよくわかっていません。
現在も多くの研究者が、そのメカニズムを探るために様々な研究を行っています。

以前に研究者の井手正和さんが紹介した論文も、その一つです。

Haswell さんらの研究では、ASD者が運動を学習するときに、視覚よりも固有感覚(関節の動きなど、身体の内部の感覚)に依存して学習しやすいことを示しています。言い換えれば、ジョギングなどの身体一つでできるような運動については問題ないものの、野球やバレーボールなど、視覚を大いに使うような運動は、学習しにくいことが予想されます。Haswellさんらは、自閉症の脳では、「1次運動野」と呼ばれる筋肉に運動の指令を出す領域と、「体性感覚野」と呼ばれる領域との結びつきが強すぎることで、このような症状が起こるのではないか、と推測しています。
(Haswell et al., Nat. Neurosci., 2009)

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私たちの研究室でも、ASD者でDCDが多い原因を探っています。
特に、脳の「興奮と抑制のバランス」が乱れることが、運動の困難に結びついているのではないかと考えています。
今までの研究で、特に脳の神経活動を抑制するはたらきがある化学物質 "gamma amino butyric acid" (通称、GABA:ギャバ)の量の違いが、とりわけ手足を協調させる運動や、全身の大きな筋力を要する運動の困難と関わることを示しました。

DCDは原因不明のため、本人の努力不足や、支援者の方の指導の問題とされがちです。DCDが生じるメカニズムを明らかにすることで、このような誤解を払拭して、神経科学的なエビデンスのある、有効な支援法の開発につなげていきたいと思っています。




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