2010年10月28日、ネット上に大量の公安テロ情報が流れた。ご記憶にあるかたもおられるかもしれない。警視庁の対テロ用の機密資料と思われるものがインターネット上に大量に流出した事件(※この原稿を書いている段階で当局はいまだに「確認中」としているので断定は控える)についての書籍を紹介する。
タイトルは
『流出「公安テロ情報」全データ イスラム教徒=「テロリスト」なのか?』
編集、出版は第三書館である。

→版元ドットコム:流出「公安テロ情報」全データ(販売ページ)
内容をざっくり紹介すると、
上記の事件でネット上に流出した資料にほとんど手を加えず、できるだけナマの形でそのまま収録した本である。まあようするに、ガチの資料だよってことだ。
本書はこの情報の全データを一冊に収録したものである。そこには捜査員の顔写真から実名、家族構成や連絡先などといった資料もあれば容疑者のアラブ人の詳細な履歴、事情聴取で得られた内容、「捜査」という名目で見張ったモスク(この資料を読むかぎり、テロを警戒する組織はイスラム系の人々を専門に捜査しているようだ)の構成人数の内訳や果ては取引口座の収支状況に至るまで事細かに、本当に事細かにこれでもかというくらい載っている。
終始こんな感じなので、生資料から情報を読み取ることに慣れていない一般読者には少々敷居が高い本かもしれない。
しかしこの本、
僕は一読の価値有りだと思っている。
これはただ単に野次馬根性から言っているのではない。これらの資料に、自分の頭で考えてみるべきことがたくさん隠れていると考えるからだ。
さらに本書は、いろいろワケありの書籍でもある。
初版はプライバシー保護を理由に東京地裁により四ページ半の該当部分を削除しなければ出版できないという仮処分をうけた。よって現在は流通不可。その問題箇所を黒塗りにして改訂版として作ったのが第二版である。
僕の手元にあるのもこの第二版だ。
その後、発売日当日にはたしかに存在していた amazon の販売ページも削除されてしまった。この原稿を書いている現在でも削除されてたまま復旧の様子はない。ようするに、 amazon 的に言えば、本書は「買えない書籍」ではなく「存在しない書籍」ということだ。
よって今回は、リンクは版元ドットコム、画像は自分で撮影したもの使って紹介させていただく。
→版元ドットコム:流出「公安テロ情報」全データ(販売ページ)
この本のなかにはプライバシーなんてものは存在しない。
なにしろ捜査関係者や容疑者の家族構成や妻や子どもの名前と年齢に至るまですべての個人情報が載っているのだから。
自分の息子や娘の名前がこのように本になって出版されたと考えると、誰しも背筋が寒くなるだろう。だから東京地裁にプライバシー保護を申し立てた人物の気持ちもわかるし、至極当然の対応だとも思う。
「プライバシーを侵害している」
その点から本書を責めることは充分にできる。
だが。
そこからもう一歩進めて考えてほしい。
本書の情報は、なにも第三書館が個人の情報を調べ上げてバラしたわけではない。ネット上にいまも流れ続けている情報をそのまま拾ってきただけなのだ。ということは、裁判によって本書から消された情報もネット上にはいま現在も存在している。それどころか、回線のなかを飛びまわりこの先未来永劫、地球上のどこかのコンピュータのなかに生き残って誰かに見られ続けるのである。
それを消すことは誰にもできない。
まったく、ひどい話だ。
では。
こんなひどいことをしたのはいったいだれか?
この原稿段階で当局は「確認中」と解答している。
確認が終わっていないのでどこから漏れたのか、またこの情報が本物であるのか決めつけることはできない。そして確認が出来ない以上、この資料に載っている捜査関係者の個人情報が警視庁に救済されることもない。本物かどうかわからないものになにか手を打てるわけがないからだ。……とこう言ってる間にもネット上ではコピーされ続けているわけなのだが。
このほかにも、
本書に収録されている容疑者の顔写真付きの資料に、出身国や出入国履歴、日本国内での住所やモスクへの出入り状況などまで細かく書かれているのを見ると、「ん? 捜査資料に『モスク』の欄があるのはなぜだ? これはテロリスト捜査なのか? それともイスラム系人種への捜査なのか?」と当局への疑問がいくつも生まれてくる。
※
出版した第三書館は、客観的に見て少し話題性を狙いすぎた気もする。結果、裁判沙汰にまでなったけれど、いくつも問題提起をしてくれているのもまぎれもない事実だ。
本書はこの情報の全データを一冊に収録したものである。当局が確認しないのでこの情報が本物であるかどうかの判断は読者にまかせるしかない。我々読者はこれを受け止めなくてはいけないのではないか?
受け取って自分の頭で考えてみなくてはならないのではないか?
だから僕は紹介する。
いろいろ問題があるのは承知で、あえて紹介するのだ。

→版元ドットコム:流出「公安テロ情報」全データ(販売ページ)
※
この第二版には、あとがきとして本書の出版社・第三書館の代表、北川明氏による東京地裁の決定に対する見解(版元ドットコムの12月3日付の版元日誌『「自殺」を迫られている、出版メディア』と同じ内容の文章)が収録されている。
