小さな記事が告げた大きな転換
2025年9月17日、日経の一面でもなく、目立たない片隅に載った一本の記事に私は震撼した。
それは「NTT、通信管路60万kmを水素の道に」という短い報道である。
一見すると、地味で技術的な話題に過ぎない。だがその裏に潜んでいるのは、日本の未来を決定づけかねない巨大な構想である。
宝の山が開かれる
通信管路とは、かつて電話線や光ケーブルを通すために全国に敷設された地下インフラだ。
その総延長はおよそ60万キロメートル。地球を15周できるほどの距離である。
加えて全国には7000の局舎が点在する。これらは光ファイバ網の中継拠点であり、耐震設計、電源設備を備え、都市や地方の中心に立地している。
普通の人々の目には「古びた通信設備」でしかないかもしれない。だが、これはまさに宝の山である。
その潜在力に私はずっと注目してきたし、繰り返し「ここに未来が眠っている」と指摘してきた。
光の道の夢と忘却
思い起こせば十数年前、「光の道構想」が日本を揺るがせた。
光回線を共同管理会社が引くという壮大な夢を、孫正義氏が掲げたのだ。
だが、政治的な壁、費用対効果の議論、そしてスマホの普及という時代の転換により、この夢は霧散した。
「光の道」は過去の話題となり、国会やメディアで繰り返されたNTT法論争も、結局は古びた枠組みをなぞるに終わった。
その結果、私たちの眼差しから管路や局舎の存在は遠のいた。
「過去の資産」と見なされ、宝の山は眠り続けた。
しかし今、状況は一変している
AIの進化は、想像を超える速度で電力を食い尽くしている。
データセンターは都市規模の電力を必要とし、冷却と安定供給が最大の課題になった。
再生可能エネルギーだけでは賄えず、原子力や水素といった新たな解決策が求められている。
そのとき、NTTが静かに差し出した答えが「通信管路を水素の道に」という静かな構想だった。
管路に二重配管を施し、水素を運ぶ。
局舎には燃料電池を設置し、自立型のマイクロデータセンターとする。
光ファイバは同時にセンサーとして漏洩を検知し、安全を担保する。
通信とエネルギーが融合し、AIの心臓部に電力を送り込む。
これは単なる技術ニュースではなく、AI時代の基盤インフラを握る戦略の始動だと受け止められてはいないようだ。
一人勝ちの予感
ここで重要なのは、同じ規模の資産を持つ競合が存在しないという事実だ。
KDDIもソフトバンクも、残念ながらこれだけの管路や局舎を有してはいない。
新たに掘削し、導管を敷設するには莫大なコストと時間がかかる。
そしてNTT法改正では管路や局舎について大きな議論もなかった。
この資産の強力さに競合他社が気がついていないのかもしれないが。
つまり、NTTが動き出した瞬間に、他社は一歩も動けない。
これは「独占的地位」ではなく「唯一無二の立場」と言ってよい。
かつて世界一の時価総額を誇ったNTTが、再び覇権級のプレイヤーに浮上する日が近いと感じた。ただしNTT経営陣が気がついていればだが。
独占をどう見るか
かつて私たちは、新電電としてNTTの独占を批判し、戦った。
競争のない市場は停滞を生み、国民の利益を損なうと信じていたからだ。
だが、AIエナジーグリッドという国家級のインフラにおいては、話は異なる。
管路や局舎といった自然独占型資産は、二重化しても無駄である。
むしろ一本化し、速度と効率を優先した方が国益に適う。
独占はかつてのように弊害一辺倒ではなく、うまく管理すれば極めて国際競争力に富む存在となり、トランプ政権を見ても戦略的に管理すべき国家資産の形になりつつある。
このテーマに、再び「規制か自由化か」という議論の余地はほとんどない。
日本が立ち遅れる余裕はないと国民が理解し始めているからだ。
小さな記事に震撼した私は、その震えを胸にしまいこんだ。