SNSの「不自然な拡散」、総裁選でも? セキュリティー会社が発見
X(旧ツイッター)などのSNS上で、7月の参院選に続いて、自民党総裁選(10月4日投開票)でも投稿が不自然に拡散される懸念が広がっている。参院選では、特定の候補者の印象を悪くするようなナラティブ(物語・語り)も目立ったため、専門家は投稿内容を冷静に見極める重要性を訴えている。
参院選では特に、海外からの介入によってSNS上の偽・誤情報が拡散しているのでは、という指摘があった。
介入工作の代表的なものとしては、「ボット」と呼ばれる自動投稿プログラムを使って、SNS上に特定テーマの投稿を、瞬時に大量に吐き出す手法が知られる。
参院選でも「ボット的な動き」
サイバーセキュリティー会社「ジャパン・ネクサス・インテリジェンス」(JNI)は、今回の参院選について詳細な分析結果をまとめた。
「外国勢力の介入があったとも、なかったとも、いずれの断定も現時点ではできない」としている。一方で、介入の可能性を念頭に置きながら、SNSの利用者が冷静に情報を受け止めることが重要だとも指摘する。
同社は専門の分析ツールを使い、短期間に投稿の引用・拡散などを大量にしたり、同一人物の投稿を時間を置かずに拡散したりする「ボット的な動き」をしたアカウントを、参院選期間中に約9400件検知した。そこからさらに170件を抽出して詳しく調べると、77のアカウントで6月から参院選のあった7月にかけてリポスト(再投稿)量が急増していたという。
リポスト数が急激に増えたアカウントの一部が拡散していた言説は、「外国人」に関わるものや、石破茂首相や日本政府を批判するものなどだったという。
同社は「これらのアカウントの動きが選挙結果に直接つながったとは言えないが、選挙期間中に注目された話題が広く拡散された背景と強く結びついていることは確かだ」と指摘する。
ネット空間の情報工作などを調査しているサイバーセキュリティー会社「コンステラセキュリティジャパン」(東京)によると、参院選の期間中に凍結されたXアカウントの中には、ロシアのプーチン大統領を称賛し、ウクライナ侵攻を正当化するなど「親ロシア」的な投稿を拡散するアカウントが複数あった。拡散にはボットが使われた形跡もあったという。
親ロシア的な内容をボットで拡散させる行為は、ロシアがルーマニアやモルドバで展開したとされる選挙介入と類似。その一方で、拡散はクリック数などに応じて報酬を受け取る「アフィリエイト」を利用する金銭目的である可能性もある。同社の陶山航・シニアアナリストは「参院選をめぐるSNS上の投稿のボットによる拡散について、ロシアによる選挙介入だと断言することは難しい」とする。
「協調して動くアカウントの可能性」検知
総裁選ではどうか。
平将明デジタル相は総裁選告示の3日前にあった9月19日の閣議後会見で、「あるサイバーセキュリティー会社から、外国勢力に次に狙われるのは総裁選だという指摘をされた」などと述べていた。
実際に、総裁選でも不自然な拡散が検知されている。
JNIによると、Xでフォロワー数が10万人を超えるアカウントが、総裁選のある候補者について批判的な投稿をした。投稿から約27時間後でも327のアカウントにより引用やリポストをされて拡散された。そのうち238件が、不自然な日本語を使う同じアカウントからフォローされているなどという共通の特徴を持っていた。このことからJNIは、「協調して動く不自然なアカウントによるものの可能性が高い」と分析する。竜口七彩ヘッドアナリストは「選挙は人々の注目が集まりやすいからこそ、悪意のある拡散を狙う何者かにとっても利用しやすい。一度に広く拡散活動が起きれば、言論空間がねじ曲げられる危険性もある」と指摘する。
情報戦について研究する明治大の斎藤孝道教授(情報セキュリティー)も、最近の海外事例から、今回の総裁選においても影響工作を受けている可能性を指摘する。「特定の候補者の印象を悪くするようなナラティブが流布されるケースは世界中で見られる」といい、「報道機関がファクトチェックすればいいという話でもない。政策的な取り組みに加え、情報の受け手ひとりひとりがクリティカルシンキング(批判的思考)することが求められる」と話した。
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