ブルーアーカイブRTA 称号「崇高」獲得まで   作:ノートン68

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お待たせいたしました。

駆け足でしたがこれにてVol.3の2章は終了です。
よろしくお願いします。


ブレーキの無い崇拝者

トリニティ総合学園の屋外。

開戦してから1分も満たない頃、アズサは既に劣勢を強いられていた。

 

原因は圧倒的な練度の差。

後手に回らざるを得ないアズサは脱出を試みる。

 

 

「隙が無さすぎる、だったらコレで!」

「煙幕か。」

 

 

使用したのは改造したスモークグレネード。

何とかリーダーの追撃を凌ぎ、別館へ転がり込む事に成功したアズサ。

すぐに追従してくる気配はない。

 

別館は深夜帯のため当然人気はなく、代わりにワイヤー等のブービートラップが満載の空間。

急いで屋上まで駆け上がり、息を潜めて静寂に溶け込み獲物を待つ。

 

彼女は戦う上で、必ず念頭に置いている事がある。

 

 

・相手に有利な条件で戦わない事

・自分に有利な条件で戦う事

 

 

この2つ。

基礎スペックでは差を空けられている為、現在の状況が続けば勝ちの目は無い。

ならば自分の土俵に持ち込むしかない。

 

アズサの得意分野は単騎ゲリラ戦法だ。

別館には多数のトラップを備えていて、足止め用のものが多いが勝ち筋はある。

 

 

「(来るなら来い、来ないならその間体力を回復させてもらう。)」

 

 

対するリーダーも、アズサの狙いには気づいていた。

というのも彼女の活躍はオーナーに出会う前から知っている。

奇襲という弱者が強者に勝つための戦法、その手の戦いで彼女はアリウス内でトップだった。

 

 

「(いいだろう、ノッてやる。)」

 

 

それでもリーダーは真正面から挑む事を決意した。

普段の彼女ならば取らない、リスクを度外視した手段。

強化を実感した事による傲慢では無い。

かと言って確実な勝算がある訳でも無い。

 

勝つだけなら、待機してるメンバー3に別館を火の海にして貰う方がリスクも小さく成功率は高い。

何より彼女を無視して体育館の方へ援護に向かっても良い。

そんな合理性をリーダーは捨て去った。

 

 

「(真正面から砕いてこそ、私は自身の価値を認識できる。)」

 

 

今までリーダーはオーナーの命令最優先で動いてきた。

オーナーの命令であれば、命すら渡すレベルの狂信者故に。

そんな彼女が初めて、自分のために行動しようとしている。

 

《真正面からこの天才を打ち倒したい》

 

幸いにもオーナーからの依頼は全て達成済み。

今の作戦行動は元雇用主(ベアトリーチェ)の依頼によるもの。

だから別に失敗しても構わない。

 

 

「押し通らせてもらう。」

「(正面から突っ込んできた!?)」

 

 

巧妙に偽装された落とし穴、目を凝らさなければ気付かない程のワイヤートラップ、これみよがしな罠の近くに隠された本命の地雷。

その全てを見通してるかのように、ドンドンと突き進んでいく。

 

 

「誰から教わったと思っている?」

 

 

オーナーからは勿論のこと、最近仲間になった()()の教えもあってリーダーは軽々と罠の密集地帯を抜ける。

そしてあっという間に、屋上へと繋ぐ扉の前までやってきた。

 

あとは屋上への扉を開くだけ──その手が止まる。

第六感とでも言うべき直感が、リーダーの脳内で警報を鳴らしていた。

 

 

「(この扉、何か仕掛けているな?)」

 

 

どうやって突破したものかと考えていると、ノイズ音が近くで鳴る。

廊下に備え付けてあるスピーカーから、聞き覚えしかない声が聞こえた。

 

 

『そんなにあっさりトラップを抜け出されると、自信が無くなる。』

「日々の訓練の賜物だな、もっと殺す気のトラップでないと私は欺けんぞ。」

 

 

ただの挑発。

心の底から思っているわけでもないが、それは決して嘘でもない。

 

人を、生徒を倒すには殺意が必要だとリーダーは考えている。

トラップについて教えは受けていても、その道のプロフェッショナルには敵わない。

事実、本気のアズサが仕掛けた罠であれば、無傷では済まなかっただろう。

 

 

「だがスジは良かった。どうだ、()()()()に寝返らないか?」

 

 

勿論、寝返るだなんて可能性はこれっぽっちも信じてない。

ただ言ってみただけ。

そして予想通りそんな見え透いた挑発を、アズサは跳ね除けた。

 

 

『断る。私はお前達とは違う、表側でだって幸せに生き抜いてみせる。』

過去(アリウス)を忘れて光に生きるだって?随分と都合のいい未来だな。」

『それこそ屁理屈だ。ちゃんと罪の精算は果たすし、例え未来が虚しくても私は諦めない。』

「お前達の友情を認めてくれると思うのか、()()トリニティだぞ?」

 

 

嫌味混じりに挑発するが、これはアズサの覚悟が本気か否かの確認作業。

 

幼少の頃から、諦めない強さを持っていたアズサを知っているリーダーは既に彼女を認めていた。

オーナーに出会う前の自分には出来なかった事だったから。

 

だが、些か相手を興奮させすぎた。

売り言葉に買い言葉ということわざが存在する。

結果、アズサは的確にリーダーの地雷を踏み抜いた。

 

 

『その言葉そっくり返す。あんな()()()()()()()()()()()()()に着いていくなんてどうかしてる。』

 

 

「はぁ?」

 

 

気がつけば、反射的にスピーカーを破壊していた。

物言わぬ箱と化したソレは、ノイズ音を撒き散らし地に落ちる。

 

コレがリーダー自身に対してなら、チームⅤに対してだとしても耐えられた。

だが彼女が心底崇拝してやまないオーナーになると、話は別であった。

 

 

()()()()()()()()()()()()を軽々と……!!」

 

 

リーダーは知っている。

買出しに行くたびにヘルメットをつけて外出する煩わしさを。

 

リーダーは知っている。

唯一素顔で出歩けるレッドウィンターでは、少数の生徒に化け物呼ばわりされて若干落ち込んでた事を。

 

裏でそう呼んでいた生徒は半殺しにした。

 

 

「殺す。」

 

 

ブレーキがお亡くなりになった狂信者が、今ここに誕生した。

ドアノブにかかる力が増大し、ミシミシと悲鳴をあげている。

神敵を屠るために、リスクを躊躇わないリーダーは勢いよく扉を開いた。

 

 

瞬間、襲いかかる大量の爆風。

ドアはひしゃげて反対側の壁へと叩きつけられた。

 

その威力はバカにできず、生徒であったとしても当たりどころが悪ければ気絶は免れない威力なのだが──

 

 

「……。」

 

 

若干服が煤けているが、リーダーは無傷に近い。

扉を背に後ろへ飛ぶことで受ける衝撃を最小限にしたのだ。

 

もし何も考えずに開けていたら、ああなっていたのはリーダーの方だったろう。

ふと、がら空きとなった扉の中を見やる。

 

 

「居ないな、逃げたか?」

 

 

リーダーの視線は屋上へ向かうが、人影一つも見当たらない。

まさか飛び降りたのかと、下を覗くために中へと踏み出し──

 

振り向きざまに()()()()()()()()アズサをキャッチした。

どうやら扉側の天井に上がり、待ち伏せしていたようだ。

完璧な奇襲を防がれて、アズサは驚愕で目を見開いている。

 

 

「クソッ!?」

()()がこんな所で生きるとはな。」

 

 

隙あらば気配を殺して死角に入るいけ好かない奴(申谷カイ)の対策はもう知ってる。

力任せに首根っこを掴み、片手でアズサを持ち上げた。

 

感情の昂りで、リーダーの握力はとんでもない事になっている。

ギュウギュウと、ジワジワと、首をそのまま閉められていき悲鳴さえ出ない。

 

 

「かっ、はぁっ……!?(力が強すぎる、振り解けない!)」

 

 

《至近距離からの放銃》という博打に負けたアズサ。

満足に息ができない中でも諦めずに打開策を探す。

 

ふと、リーダーの目がガスマスクのゴーグル越しに見えた。

──完全に殺らかす気の目だ。

 

 

「(殺される!?)」

「さて、どうしてやろうか?」

 

 

久しく体験していなかった本気の殺気に当てられ、パニックを起こすアズサ。

バタバタと暴れるが、拘束は弱るどころか強くなっていく。

 

意識がだんだん朦朧としてきた。

視界が霞み、聴覚は途切れ途切れに音を拾ってくる。

 

 

ちょっと何しようとしてるんですか!殺しちゃ駄目って言われたでしょ!?

ジョークだメンバー3、運が良ければ半殺しで済む。

あぁもう!どうしてオーナーが絡むと途端に…

 

 

通信越しで何かやり取りしてるのだろうか、内容は聞き取れない。

そこでアズサは思い出す、己のポケットの中に入ってる切り札の存在を。

 

 

「(コレを使えば最悪両方死ぬ、けど……このまま殺されるくらいなら!!)」

 

 

回らない頭で、半ば無意識的にコトリとソレを力無く落とした。

 

 

「ん?……なッ、お前──!!」

 

 

炸裂したのは()()()()()()()()

 

その爆発は神秘を持たない無機物には効果がなく、逆に生徒達にとっては脅威となる。

文字通りヘイローを破壊可能な爆弾だ。

 

自身の命の危険があったとはいえ、アズサはソレを使ってしまった。

()()という手段を。

 

至近距離で使えば、自分も巻き込まれるが躊躇はなかった。

当たれば誰でも絶命必死の爆撃を仕掛けられたリーダーは──

 

 

「なんて無茶をするんだお前は!!」

「(あぁ、生きてる……。)」

 

 

完璧に避けていた。

 

リーダーは怒りに支配されながらも冷静であった。

爆弾を蹴り飛ばし、アズサを掴んで反対方向へ飛び込んだのだ。

彼女を本当に殺す訳にはいかない、何故ならオーナーの望みではないから。

 

 

「(……そうか、分かったぞ。)」

 

 

アズサからすると理由は知らないが、リーダーは自分を殺せないらしい事が理解出来た。

本当に殺すつもりなら、ヘイロー破壊爆弾と一緒に投げこめば良かったのだから。

なら、()()()()()()()

 

 

「おい?」

「死なば、諸共だ!!」

 

 

リーダーにしがみつき、体勢を狂わせて屋上の柵を越えた。

ここから地上までおよそ15mある。

生徒でも骨折する高さから2人は真っ逆さまに落ちていった。

 

 

「一緒に落ちる気か!?」

「あ、あぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

意地でも離すものかと必死でしがみつく。

唯一の勝機、これを逃せば後がない。

 

着地までの猶予は思ったよりも長かった。

リーダーを下に2人はそのまま地面へ落下していき──

 

鈍い音がなると同時に、地面が揺れた。

着地点には小さなクレーターができており、その威力は計り知れる。

モクモクと立ち昇る砂煙から、1人が立ち上がった。

 

「ウグッ、これは骨が何本か逝った感覚がする……。」

 

 

立ち上がったのはアズサだった。

リーダーは仰向けで地に倒れ、起きる気配はない。

 

ただ勝利の代償は決して軽くなかった。

衝撃をモロに受けたリーダーをクッションにしたが、アズサもしがみついていて受身が取れてなかった。

 

2人分の体重が乗った衝撃は凄まじく、体の全身から悲鳴が上がっていた。

少なくとも肋骨、腕、足の骨はヒビが入ってるだろう。

 

 

「鎮痛剤でも用意すれば良かったかな……。」

 

 

後悔はなかった。

生き残り、実力が上のリーダー相手に大金星を上げれたのだから。

痛みの残る体を引きずり、アズサは体育館へと向かう。

 

 

──後ろから人の立つ気配を感じた。

 

 

「………。」

「嘘だろう、何で動けるんだ!!」

 

 

アズサ以上の衝撃をくらったにも関わらず、リーダーは立ち上がった。

流石に無傷ではないのかフラフラとしている。

逆に言えば、その程度の被害で抑えられていた。

 

高み(AL-1S)に近づく為にオーナーに内緒で訓練した成果が出たのだろう。

《化勁》に似た何かを成功させて、落下ダメージを分散させていたのだ。

首を鳴らしながらリーダーはアズサに近づく。

 

 

「ぶっつけ本番だったが、成功して良かった。」

「う、オォォォォッ!!」

 

 

最早それは特攻であった。

満身創痍での防御を一切捨てた突進。

 

もうソレをする程度にしか体力は残っていなかった。

対するリーダーはあくまで冷静に、照準をアズサへと合わせる。

 

その引き金にかかる指を止めるようなタイミング。

突如として頭上から降りてきた榴弾の嵐が、物の見事にアズサだけを巻き込み炸裂した。

 

リーダーだけは理解出来た、メンバー3の横槍だ。

単発の火力だけであれば、チームⅤの中でもトップに立つ榴弾をモロに受けて無事な筈もない。

 

 

「ガァッ──!?」

 

 

既に限界だった意識が、不意打ちの榴弾で完全に途切れそうになる。

何とか体を動かそうにも、どちらが前で後ろかの方向感覚すら無くなったアズサには酷な事で。

 

 

「(こんな所で、ヒフミが、先生が、皆がまだ戦ってるのに……ッ!!)」

 

 

残念ながら、アズサにはもう指1本動かす元気もなかった。

抗えない感覚に身を任せ、アズサは気絶した。

 

 

なんで横槍を入れた?

オーナーの依頼はアリウス生徒の戦力調査。殺しは御法度と言われましたよね?

忘れてない、ちょっと熱くなっただけだ。

そろそろ正義実現委員会も動き出すので早く撤収してください。オーナーにチクリますよ?

わ、分かった……。

 

 


 

 

次にアズサが目を覚ましたのは、見知らぬ天井の病室だった。

自分の体を見てみると、あっちこっちがギプスで固定されている。

 

体を動かそうとすると全身が痛む。

全身に包帯を巻かれてるのではないかと思うほどに息苦しい。

 

いや、息苦しいのは誰かが自分の体を枕替わりにしているからだ。

ここからだとよく見えないが、視界の端にペロロストラップを捉える。

 

 

「ヒフミか。」

「んぇ?ッ目を覚ましたんですねアズサちゃん!本当に良かった……!!」

「うぐっ、待ってヒフミ、私は一応重症患者だ。」

 

 

未だにミシミシと軋む骨をかばい、苦痛に顔を歪める。

あの時はアドレナリンがドバドバで気づかなかったが、どうやら相当の無茶をしていたらしい。

 

 

「心配をかけてすまない。だが見ての通りだ安心して欲しい。」

「何処がですか!?そんな全身包帯になるまで無茶するなんて!!」

「うぅ……そうだ、アリウスは?試験の方はどうなったんだ!?」

「お、落ち着いてください。順を追って説明しますね。」

 

 

まず試験についてだが、ナギサが便宜を図って予定日をずらしてくれた。

試験範囲も合格点数も通常の60点まで戻され、今のアズサなら問題なく合格できるレベルとなっている。

 

アリウス側の事の顛末だが、セイアがあの場に現れた事で吹っ切れたミカが投降。

その後、統率が取れなくなったアリウス生徒を捕縛。

後に正義実現委員会も加勢し、チームⅤを除いて全員の捕縛に成功した。

 

そして外へアズサを探しに出ると、()()()()()()のアズサが倒れていたという。

全身の骨にヒビが入り速攻入院したらしい。

今日から2日前のことで、長い時間眠りについていたらしい。

 

 

「なんですけど、今ちょっと騒ぎが起きてまして。」

「騒ぎ?」

「捕らえられていた筈のアリウス生徒が全員脱走してしまったみたいなんです……。」

「!?」

 

 

アリウス生徒を押し込んでいた牢屋はもぬけの殻だった。

押収した武器もひとつ残らず回収されて。

まるで、最初から居なかったと言われたかのような不気味な感覚。

 

まだ学園内に裏切り者がいるのでは?と再び疑念が舞い戻ったが、証拠不十分で事件は迷宮入りとなった。

 

 

「でも良いニュースも有るんですよ、何とアズサちゃんが正式にトリニティの生徒と認められたんです!!」

「何と!!」

 

 

シャーレの力では無い。

アズサに助けられたいじめられっ子生徒が、大勢いた事が大きな要因だ。

多くの嘆願書が寄せられたらしい。

 

後はシスターフッドの根回しがあったとか無かったとか、真相は闇の中である。

特に意味は無いが、サクラコには礼を言わなければ。

 

 

「コレでまた一緒に居られますね、アズサちゃん!!」

「そう、だな……。」

「アズサちゃん?」

 

 

アズサは心から喜ぶ事が出来なかった。

 

スクワッドがこの程度でテロを諦める筈が無い。

アズサの裏切りも向こうの耳に入ってるはずだ。

まだ虎視眈々と転覆の機会を伺っているに違いない。

 

そしてアズサも自分の事を認めきれていなかった。

果たして自分は此処にいても許されるのかと。

 

 

「(私は本当にここに居ていいのか?)」

 

 

あの時……リーダーと一騎打ちをした時、自分は()()という選択肢を取った。

殺されると思ったとはいえ、明確な殺意を持ってヘイロー破壊爆弾を使用した。

 

1度でも殺人という選択肢を取ってしまえば、麻薬のように段階的に抵抗なく使う様になってしまう。

例え結果的に殺してなかったとしても、その癖は古い返り血の様に直ぐには取れない。

 

そんな血塗れた自分にヒフミ達と一緒にいる価値があるのか。

すぐに答えは出なかった。

 





次回からはRTAパートに戻ります。
所々不穏さの目立つ回でした。

次回、走者は桜の木の下に埋められてしまうのか。
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