ブルーアーカイブRTA 称号「崇高」獲得まで   作:ノートン68

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お待たせしました。

すみません、やっぱ計10話行きそうです()
ダイジェストで進めるつったのに、うーんこの。
なるはやで投稿するので許して許し亭。



疑心融解

第三次特別試験まであと3日。

ティーパーティー現ホスト代行の桐藤ナギサは、いつも通り紅茶を喫していた。

彼女は今、待ち人を待つべくしてテラス席に座している。

 

 

「(少し、やり過ぎたかもしれませんね……。)」

 

 

思い起こされるのは、4日前の第二次特別試験。

先生とは裏切り者探しの競争といった体で、直接的な敵対関係までは至ってなかった。

裏切り者を探す、その1点でのみ先生とは協力関係であったが為に。

 

だから妨害行為なんて最初はするつもりなかった。

ならば何故ナギサは一転して行為に及んだのか。

 

 

「(サクラコさんは兎も角、ハナコさんまで乗り気になるなんて。一体何の心境変化が……。)」

 

 

トリニティきっての才女達の手により、落第寸前だった部員達はメキメキと力をつけた。

それはもう目を見張る勢いで、純粋に落第の危機にあったコハル達を成長させた。

気が付けば彼女たちは、既に合格するレベルにまで到達していたのだ。

 

裏切り者を炙り出す前に、補習授業部を解散してもらっては困る。

特にサクラコは反対する声を押し切り、無理して補習授業部に入部させたのだ。

部を再編成しても彼女を呼び戻すことは不可能に近い。

 

結果、焦ったナギサは急いで細工した。

試験時間と問題提出範囲と合格点数の大幅変更。

そして極めつけは温泉開発部による試験会場の発破を。

 

 

「(どうしてアソコ(ゲヘナ)の生徒たちは、こうも言う通りに動いてくれないのでしょうか。)」

 

 

約束と違う大量の爆薬を使用した報告を聞いた時は、思わず白目を剥いて気絶しそうになったが、先生が無傷であった為に息を吹き返した。

なんなら先生がサクラコに膝枕されてる写真を得た事で、揺さぶるネタが増えた分プラスに働くだろう。

 

 

「(裏切り者は必ずあの中に居る。いいえ、()()()()()()()()()()()()。)」

 

 

後戻り出来ないステージに踏み込んだが故の、強迫観念に近いレベルの決意。

そんな考え事をしていると、タイミング良くとある人物がナギサの目の前へと現れた。

待ち人の先生だ。

 

 

【ごめんね、待たせちゃったかな?】

「いえいえ、時間通りですよ。」

 

 

前回の試験の妨害を全く意に介してないのか、全く話題にも出さずに先生は席へと着席した。

これは自分が謝罪するまで言い出さないつもりか?もしそうなら意地悪な人だ。

などと、自分の事を棚に上げて考えていたが……。

 

いつにもなく本気の目をしている。

まるで何かを覚悟してきたかのような、そんな目。

異様な雰囲気に面食らってるナギサをよそに、先生は口火を切る。

 

 

【裏切り者について、大体の予想がついたよ。】

「それは本当ですか!?」

 

 

待ちに待った念願の吉報に、思わず身を乗り出すように聞き入るナギサ。

湧き出たのは驚愕、安堵、そして()()

ようやく裏切り者が判明するというのに、ナギサの心は全く穏やかではなかった。

 

 

【まず確認なんだけど、セイアの居場所を知ってるのは極一部なんだよね?】

「……そうですが、一体どんな意味が?」

 

 

先生が意図の掴めない質問をしてくる。

否、気づくなとナギサの脳が理解を拒んでいる。

ナギサが無意識に1番恐れていた事態から目をそらす為に。

 

 

【セーフハウスを知るのは学園の上層部だけ。それもほんのひと握り、それこそ各分派のリーダーでもないと知る由もない。】

「………何が言いたいんですか?」

 

 

気付きたくない、認めたくない、裏切られたくない。

本当は薄々気づいていた筈なのに、疑心と焦りで凝り固まった思考はその真実を中々受け入れようとしない。

 

先生も本当ならこんな事を言いたくなかった、しかし言わざるを得ない。

自分が裏切り者の処遇を決めるためには、この生徒の心を傷つけなければならない。

だから先生は心を鬼にして、その名を呼んだ。

 

 

【裏切り者の正体は───ミカだよ。】

「そんな筈ありません!!」

 

 

椅子から完全に立ち上がり、ヒステリックにそう叫ぶナギサ。

その様子はまるで必死に駄々をこねる子供のようで。

ナギサの頭脳は信じたいモノの為に、ぎこちなくフル回転する。

 

 

「そんな、はず、他にも候補は、そう、浦和ハナコさん、彼女ならセイアさんの居場所だって知ってる筈です!」

【うん、彼女なら知っていても不思議じゃないね。】

 

「だったら彼女も容疑者に──」

【目を逸らさないでナギサ、君なら知ってる筈だよ。】

 

 

諭されるようなその言葉に、ハリボテの虚像は破壊された。

そう、ナギサは知っている。エデン条約を締結させない為に動く動機を。

 

彼女がエデン条約を無下にしたい程にゲヘナが嫌いな事。

アリウス分校(ゲヘナに恨みを持つ同士)と和解したいと思っていた事。

そして何よりも、彼女と連絡がつかない時間帯が長くなった事。

 

彼女がアリウスと手を組んでるとしたら、全て辻褄が合う。

 

 

【ミカの中ではこうなる算段じゃなかったんだ、本気で和平を考えてた。コレは他ならないセイアから聞いたから間違いない。】

「…………今、なんと?」

【百合園セイア、彼女はまだ生きてるよ。】

 

 

くぐもった目に再び光が灯る。

聴き逃しはしなかった、先生は確かに彼女が生きていると発言した。

とっくに冷静さを失ったナギサは、感情のままに先生を問い詰める。

 

 

「セイアさんは一体どこに!?」

【彼女は今救護騎士団の元、療養に励んでいるらしいよ。意識は戻ってないらしいけど、夢で彼女とあって話を聞いたんだ。】

 

 

セイアの(予知)を知るのはティーパーティーの3人だけ。

いくら先生でも体験しなければ出てこない単語だ。

デタラメでは無く本当の話だと断言できる。

 

 

「良かった、本当に……。」

 

 

嘘偽りない安堵を吐露して、ナギサは床にへたり込む。

一瞬にして大量の情報で殴られたショックによるものだ。

セイアが生きていた事に対しての安心感も大きいがそれだけでは無い。

 

自分の守ろうとした親友が、裏切り者であるという喪心感。

関係の無い生徒を、自身の不安から退学させようとした罪悪感。

 

根がお人好しな気質も相まって、自身を攻める後悔の念は絶えない。

自分自身の不甲斐なさに意気消沈したナギサの感情は、ぐちゃぐちゃになっていた。

 

 

「ふ、うふふ……私は今まで何を見てきたんでしょうね?たとえ疑心暗鬼で視野が狭まっている事を加味してても、ずっと隣にいた彼女の事を疑えないなんて。」

【ナギサ……。】

 

 

決壊したダムのように自責の言葉が漏れ出していく。

ソレは彼女が溜め込んだ罪悪の塊(本心)であった。

 

 

「何がティーパーティーのホストですか、私の行いこそヒフミさん達への裏切りに他ならないというのに。

 

先生の言う通り見たいものだけを盲信し、ヒフミさんへの親愛を踏みにじり、各部へ牽制するためだけにコハルさんとサクラコさんを入部させ、()()()()()()その1点でハナコさんを疑い、同じく怪しい点だけで確証もないのにアズサさんを黒だと決めつけて。

 

ミカさんの気持ちを十分に汲み取らず、エデン条約を約束して。

セイアさんの生存も知らぬまま、復讐心は空回りして……。

 

私は一体何をしていたのですか?

何のためにエデン条約を結ぼうとしたのですか?

それは生徒を、親友たちを踏み台にしてまで取るべきものだったのですか?

これでは唯の道化ですよ。

 

嗚呼───

 

こんなはずではなかったのに……!!

 

 

ティーパーティーのホストという仮面はとっくに剥がれ、自分がどうするべきか分からない唯の生徒がそこに居た。

蹲ってしまった彼女に先生は優しく声をかける。

 

 

【疑う事は悪いことじゃない、全員が当たり前に持ってる感性だよ。私にだってある。】

「………。」

【大事なのは歩み寄ることだと思うよ、かくいう私もこの前失敗しちゃったんだけどね。】

「私がするべき事は排斥ではなく、歩み寄りだったということですか……?」

 

 

先生は無言で肯定する。

果たして悲しんでいるのか、悔しがっているのか、それとも怒っているのか。

判別のつかない感情でナギサは先生を見つめている。

それは藁にも縋るような表情にも見えた。

 

 

【彼女を、そして何よりも()()()を助ける為に手を貸して欲しい。】

「………どうやって、ですか?まず確実にミカさんの行いは表に流れます。」

 

 

トリニティの情報拡散速度は異常だ。

噂好きの生徒が多いからか、それとも派閥争いが盛んだからか。

 

どちらにせよ確実に学園中にミカの行いは拡散される。

今回のテロは最悪、退学だって有り得る大罪。

それでもなお、先生は首を横に振った。

 

 

【これは受け売りの言葉なんだけどさ、

 

例え虚しい結末だとしても()()()()()()()()()()()()()()()から。

 

それに言ったでしょ?

先に見つけたらその生徒の処遇は任せて欲しいって。無罪放免は無理だけど、最善の為に何とか頑張ってみるよ。だから一緒に頑張ってみない?】

「どうして貴方はそこまで──」

 

 

それが先生にできる精一杯の寄り添い。

最善ではない、しかし取るべき選択は違えなかった。

 

未だに完璧には程遠くても、それでも今の先生は紛れもない生徒全員の味方であった。

その優しさに、ナギサの疑心は完全に溶けきる。

 

 

「ッ──助けてください先生、私とミカさんを、どうか……!!」

【うん、それじゃ皆と一緒に考えよっか!】

「皆とは?」

 

 

擦れるようにドアの開く音がする。

入室してきたのは忘れるはずの無い5人組。

補習授業部が勢揃いしていた。

 

 

「あはは……、お話こっそり聞いちゃいました。」

【粗方の事情は先に話しておいたよ。】

 

 

既に補習授業部の作られた経緯、その理由は全員に説明済みだ。

つまりコレは()()()()()

ナギサは暫時、放心した後にその考えに至った。

 

そして段々顔が熱くなる。

自分が言った台詞を1字1句聞かれてたと思うと恥ずか死にそうだった。

ナギサに出来るせめてもの抵抗は、先生に対して恨めしい声を上げるくらいしかない。

 

 

「……先生。」

【騙すような真似をしてごめんね?】

 

 

コレも混じりっけの無いナギサの本心を聞くため。

決してハナコが考えついたとか、そういう事は断じてない。

 

ヒフミが語り出す。

 

 

「確かに色々大変でしたけど、私はナギサ様を憎んだりなんてしません。ある意味ナギサ様のお陰でこうして新たな繋がりが持てたんですから!」

 

 

次にコハルが

 

 

「わ、私はその、正義実現委員の一員として戦うだけだから!!……です。」

 

 

その次はアズサが

 

 

「ミカとは何度か話した事も、恩だってある。許されない事をしたとしても、私は全身全霊の力で手を貸す。

それにしても、自分の口癖を真似られるのは少し恥ずかしいな……。」

 

 

更に次はハナコが

 

 

「お痛する猫ちゃんをどう分からせてあげようかと思い悩んでいたのですが……。それよりも優先すべき事ができたようなので、まずは其方を片付けましょうか♡」

 

 

最後にはサクラコが

 

 

「私は何も聞いてません。……これは独り言です、近々シスターフッドが巡視するかもしれません。えぇ、勿論たまたまですが。」

 

「皆さん……。」

「謝罪の必要はありませんよナギサさん、私は何も聞いてないので。もしするとソレは後が宜しいかと。」

「ありがとう、ございます……。」

 

 

感涙のあまり、ポロポロとナギサの双眸から雫が垂れ落ちる。

サクラコのコレは純粋な優しさだ。

 

彼女は今も尚シスターフッドの頂点に立つ者、その彼女がナギサの為に動いたとなれば問題にもなる。

 

だから偶然にもナギサのセーフティハウス周辺で巡視が行われる。

流れによっては不審者を捕縛することも有るだろうが、それは偶然起きた事。

ナギサとサクラコの間には何の因果関係もない。

 

 

「あらあら、サクラコさんたらナギサさんを泣かせるなんて♡」

「えぇ!?いや、決してそういう意図はなくてですね!?」

「大丈夫です、──これは嬉し涙なので。」

 

 

涙をハンカチで拭ったその目には光が戻っている。

今ここに柵を越え、ナギサと補習授業部の合同作戦会議が開始された。

 

アズサから情報共有が始まった。

 

 

「まず私はアリウス分校からの転校生なんだが──」

え?

「あはは……。」

 





【祝】ナギサ様、脳破壊を神回避!!【フラグ建設】

次回も小説パート。
ラストスパートです。
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