ブルーアーカイブRTA 称号「崇高」獲得まで 作:ノートン68
お待たせいたしました。
全5話で終わるとか宣いながらこの体たらく。
すまない、あと3話はかかる()
『………さい、起きてください先生!!』
【うぅん?】
小気味の良いノイズが耳に届き、男──先生は半醒半睡でユラユラと意味もなく彷徨く。
僅かな時間を置いてパチパチとゆっくり瞬きをしてから、ようやく自分が見知らぬ場所にいる事を認識した。
【頭がフワフワする……。】
『あっ、ちょっと!?危ないですよ!!』
辺りに人気は全くなく、山のように積まれた瓦礫、焼き焦げた壁、踏むと砂埃が立つ石畳。
その言葉がしっくり来る程に、辺りの景観はどうしようもなく終わっていた。
【なんだか凄く悲しい場所だ。】
『先生?まさかわざとですか!?もぉ〜!!』
時間の経過とともに意識が次第に覚めていく。
五感が明確になるのが遅い、泥にでも浸かってるかのような感覚だ。
そしてようやく、先生は誰かがポコポコと背中を叩き続けている事に気がついた。
『むぅぅッ、先生の意地悪〜!』
【……アロナ!?】
『もぅ、気づくのが遅いですよ!!』
ノイズと思われていた声の主の正体。
小柄で幼さを感じさせる淡い空色の彼女は、ぷっくりと頬を膨らませていた。
先生の秘書、青色の悪魔、
そして──《シッテムの箱》のメインOS、それが彼女だ。
尚も背中は、か弱い力で叩き続けられる感覚がある。
OSであるが故に本来外に出る事が不可能な彼女は、確かな実体を持ってココに存在していた。
『先生はここに来る前の事を覚えていますか?』
【覚えてない、アロナは?】
『補習授業部の皆さんと第二次特別学力試験の会場へ移動したところまで記録済です、それ以降はどうも……。』
アロナの言葉で少しばかり思い出す。
多少のハプニングはあったが、自分達はゲヘナの試験会場へと向かっていた筈。
それ以降を思い出そうとしても、頭に靄がかかった様に思い出せない。
以前も同様の経験をした事があるような、ないような。
思い出せないように強制されてるような不快な感覚を覚える。
釈然としないまま、先生は取り敢えずの行動方針を決める事にした。
【辺りを探索してみよう、手掛かりが掴めるかも。】
「その必要は無いよ、迎えに来たからね。」
気づいた時には傍に立っていた非常食、シマエナガを手に乗せている狐耳の生えた少女。
その気だるげそうな目は先生、そしてアロナに向けられ……もう一度アロナに向いた。
「本当に誰だ君は?いや、どこかで見た顔のような気もするが……。」
『ナンノコトデショー?』
「うーん、ダメだね思い出せない。この場所だと思考に弱化が入る。」
もう片方の手には唐揚げ棒が握られており、本来のミステリアスな雰囲気は台無しとなっていた。
モキュモキュと、口に含んでいたであろう唐揚げを飲み込んだタイミングを見計らい、先生は少女に語りかけた。
何となく、その姿を目にした時から感じていた感覚に従って。
【君、もしかして何処かで会ったことある?】
「……そうだね、初めましてと言うべきか迷っていたけど必要ないみたいだ。私は百合園セイア、今回は覚えてくれると嬉しい。」
百合園セイアと言えば、ティーパーティーの一角。
本来、今回のホストを務める筈だった彼女は、既に死亡したと聞いていたが……。
謎の場所といい疑問ばかりが尽きない、重い頭を何とか稼働させて質問を試みる。
【ここは何処なの?それに君は死んだ筈じゃ──】
「待ちたまえ、矢継ぎ早に質問されても私は聖徳太子じゃないから答えられない。まず何処まで覚えてるか教えてくれ。」
【それが全く思い出せなくて。】
「なるほど、何か強いショックを受けて直前の記憶が抜けてるとみた。色々と聞きたい事があるだろうから、順を追って説明するよ。」
そこから説明された言葉はどれも目を見開くものであった。
セイアは意識不明の重体を負ったが、救護騎士団長により保護されて未だ生きていること。
現在彼女は精神と肉体が不安定で植物人間に近いこと。
元々あった他人の夢に介入する体質で、あっちこっちをフラフラしていたら此処に辿り着いたこと。
この場所も同じく他人の夢、もしくは心の中であること。
そして今は、《エデン条約》で起こる悲劇を最小限に抑える為に奔走しているということ。
「具体的に何が起こるかは伝える事が出来ないんだ、すまない。」
【それはどうして?】
「私の協力者が余計な手を入れて事態を悪化させる事を極端に嫌っていてね、今回の件はできる限り先生自身の力で解決して欲しいそうだ。」
考えられている、そう素直に感心した。
ミカから聞いたセイアの予知能力は確かに強力だ。
だが、恐らくその分体にかかる負荷は大きく、元来から体の弱いセイアにとって連続酷使はご法度だろう。
ふと気になる。
セイアをサポートしているこの心象風景の主が。
キヴォトスでは稀に見る、先生と同じ価値観を共有できる人物の可能性がある。
先程は終末世界に例えたが、少し違うかもしれない。
空は晴れ渡っていて、空気も澄んでいる。
殺風景だがなんとも不思議な居心地の良さがあり、穏やかな印象も受けた。
『先生?』
【いや、なんでもないよ。】
本当に不思議な感覚だ、単純に先生自身も興味が湧いてきた。
一体どんな心持ちの人……いや、犬、猫、ロボ、etcなんだろうか。
進行方向の先に狼煙が上がっているのを確認する。
向こうから風に乗って来た食欲のそそられる匂いが先生たちを襲う。
これは、肉と野菜と油の焼ける匂いだ。
曲がり角を抜け、先生たちはこの場所の主と対面した。
その男はパタパタと、焚き火の加減を加減している最中だった。
「戻ったよ、肉の加減はどうかな?ほぅ、燻製とはまた乙なものに手を出したね。」
「遅かったな、肉は良い頃合だ。野菜はもう少し焼いた方が良い……ん?」
【え?】
『ヒェッ』
答えは予想したどれでもない。
犬でも、猫でも、ロボでもなく、その姿は骨と明言する他になかった。
「……おい、どういうことだ?」
「ククッ、さぁてね?私は君の言う通り意識がはっきりした者を連れてきたまでさ。」
「嘘をつけ、声色から愉悦が漏れ出ているぞ。」
見間違いかと思い、腕で顔を拭いもう一度見やる。
そこには見覚えしかないスーツ姿の骨男が。
ソイツは廃墟に似合わない、熱々の鉄板の上で肉と野菜を焼いていた。
「来てしまったのは仕方ないか、いま椅子を出す。」
「早く準備してくれ、私の胃袋はソレを所望している。」
こんなの分かる筈が無かった。
エリドゥで自分を追い込んだ男が、廃墟でBBQしているだなんて。
しかも謎に歓迎しようとしてる。敵同士だよね君達?
さっきまで怯えた態度だったアロナはご飯の匂いにつられてちゃっかり着席していた。
AIが餌付けされるなよ。
『毒味はお任せ下さい!!……うわぁ、美味しそう。』
「待ちたまえ、この肉は私のモノ。新参者はまずボイルしたこの野菜を食べるべきだ。」
「君はいい加減に腕のシマエナガを仕舞え、彼の顔色が悪くなってる。あと野菜を人に押し付けるな。」
頭がおかしくなりそうだ。
ひとまず精神統一のため、心の第一声を声高々に叫ぶことにした。
【なんで居るの!?】
「こっちのセリフだ、まさか死んだのか?」
「お互い積もる話もあるだろう、とりあえず座りたまえ。」
見知らぬ土地に飛ばされた以上、他に取れる選択肢があるはずも無く。
最近激務でまともな料理が取れてなかった先生は、不本意ながらもご相伴にあずかることになった。
「ここに訪れる者は、意識のハッキリした奴ほど精神と肉体が乖離している。つまり死にかけが訪れる最後の箱庭だ。」
肉汁を跳ね飛ばして焼ける肉を管理しながら、ホモは語る。
最後の箱庭、それは死ぬ前に最後による場所と言うだけでは無い。
ホモは後戻りできる魂の安置所のような扱いをしていた。
現にセイアはここでメンタルケアを行い、まだ意識は浮上してないが生き延びた。
「
ひとまず死んだ訳ではないようで、胸を撫で下ろす先生。
ただ1つ、小さな疑問が湧いた。
【なんでアロナも一緒にここへ?】
「……察しは付くが話せないし、したところで意味もない。」
どうやらこれ以上はやぶ蛇のようだ。
アロナも興味が無いのか肉に夢中でいた。
先生のコミュニケーション能力は天性のものだが、当然例外は存在する。
ホモの様に真逆の価値観の者とはとことん噛み合わない。
先生にも隠し事の一つや二つあるが、ホモの比では無い。
そもそも彼は自分の明確な目的を、仲間の生徒にすら話していない。
それでも彼に着いていく生徒が居る辺り、その求心力は相当なものだろう。
ホモとセイアのやり取りで完全に理解した。
向かう方角は先生と同じで、ルートが完全に真逆なのだと。
シンメトリーであり、アシンメトリー。
生徒にそんなタイプが居ないとは限らない。
全生徒の味方、それを達成するのにまだまだ自分は未熟だと勝手に落ち込んでしまう。
そんな様子に見かねたのか、ホモは咳払いしてから
「ゴホンッ、大事なのは話をする時間くらいはあるという事だ。」
「素直じゃないね、もっとストレートにアドバイスしてやるっt──モゴッ!?」
「よく喋るのはこの口か?」
「ングッ、待ちたまえ、両手に次弾を装填するのは待ちたまえ。」
【(なんだか、初対面の時と随分印象が変わったような気が?)】
以前の冷たさが最小限になったような、そんな感覚。
決して取り繕ってる訳でも無く、コッチが素だと言える程の……。
カカオ99%のチョコがビター並に甘くなったと言うべきか。
セイアの口に焼きトウモロコシをぶち込んだホモは話を戻す。
「で、どうなんだ?仮にも私はゲマトリアだが。」
【色々手詰まりだった所に既に手を貸してもらったんだ、もう貰えるものは借金以外貰うよ。】
理由もなく生徒を害する大人では無い、それこそキヴォトスが滅亡する規模のものでも無い限りは。
その一点だけ先生は完全にホモを信頼していた。
「セイアからの話で裏切り者──黒幕については察しが着いただろう。」
【うん、アリウス分校だね。】
そしてセイアに兵を仕向けたであろう裏切り者についても察しはついてる。
と言うよりも、セイア本人が言うのだから間違いない。
問題はどう対応するか。
「まず聖園ミカが裏切り者だと真意を伝えるのは控えた方が良いだろう、間違いなく積み上げた信頼が崩れ落ちる。逆に補習授業部には全て打ち明けた方がいい。」
幸いにもアリウスに通じている部員もいる。
協力さえ出来れば先生の指揮能力をもって撃退は可能だろう。
【うん、私もその方法しか無いと思ってた。……君がしてくれても良いんだけど。】
「抜かせ、私にその資格は無い。」
それは果たしてゲマトリアだからなのか。
答えはホモにしか分からない。
「だが安心したぞ、もし日和って生徒を取捨選択しようものならここで──」
『せ、先生には指一本触れさせませんよ!!』
「ただのゲマトリアジョークだ。」
【ははは……(冗談に聞こえないッ!)】
だが迷いは無い。
元々諦めるつもりなんて毛頭なかったが、不安がないかと言われると違う。
生徒にそれが露見すれば大問題だ、生徒たちに不安が伝染してしまう。
ただ軽々と隠し立てせずに話せる相手がいるだけで、こうもやりやすくなるとは。
ずっと自分が与える側だったから、これ程までに効果があるとは思いもしなかった。
鉄板の上にはもう食材は乗っていなかった。
同時に妙な感覚が先生に訪れる。
──現実側に戻る時間が来たようだ。
もっと話したい事があったが、*1欲した答えを得たので諦めるしかない。
「帰りは向こうだ。」
【うん、色々ありがとうね。】
『お肉ご馳走様でした!!』
「向こうでナギサとミカによろしく言っといてくれ。」
手を振り先生とアロナは廃墟の外側へと歩いていった。
さっきの賑やかさとはうって変わり、少しばかりの静寂が場を支配する。
耐えきれずセイアが話しかける。
「君にしては随分と甘いじゃないか?」
「彼には頑張って貰わなければいけないからな。」
「どうせならアリウス分校の場所とかも話しとけば良かったのに。」
「以前にも説明したが、そこまでの助力はダメなんだ。それに私にも立場があるからな。」
ホモが本格的に加われば必ず
それがベアトリーチェ側についてる理由でもあるが……。
だから何としても先生にはやり遂げてもらう必要がある。
誰しもが笑顔になれる、そんな甘ったれハッピーエンドを。
「君だけ途中下車なんてのは無しだよ?」
「当たり前だ、私が合理主義なのは知っているだろう?」
「既に1回、合理性を捨てて駆け出した事について何か言う事はあるかい?」
思い出されるのはレッドウィンターでの黒き神との戦い。
若干気まずさを感じながらも、なんでもないようにホモは話す。
「……だが今もこうして生きてる。」
「ダメだこの骸骨、全然懲りてないぞ。この唐変木で朴念仁の無愛想骸骨男め!!」
「言い過ぎでは?」
完全に悪手だった。
慣れない手つきであっかんべーをしながら、セイアも外へと駆け出してしまった。
完全に1人となった空間で、ホモは呟く。
「実は最近まで、色彩さえ倒せればそれでいいと思ってたのだがな。」
色彩を滅する、その為だけに始めは活動してきた。
だが今は違い無闇に自分の命をベットすることは無い。
自身の再発点を見つけたから。
「嘘でもあそこは否定しておくべきだったな。」
悪い事をしたと反省しつつも、考えを改める気はない。
いざ体が張れないようでは、ソイツは先生失格なのだから。
そしてホモの目指す先生像は正しくソレなのだから。
焚き火は今も音を立て揺らめいている。
【うう〜ん、ここは……?】
「先生が目を覚ましました!!」
「無傷で息もありましたが意識が戻らなくて、一時はどうなる事かと……。」
辺りを見れば少々埃で薄汚れた補習授業部の皆が。
サクラコに膝枕される形で、先生は横になっていた様だ。
各員差はあれど心配させてしまったようで、安堵の笑みの裏には疲労感が透けて見えた。
そんな全員の緊張がほぐれたと察したハナコは、場を和ます為にも先生にちょっかいを掛けることにした。
「それにしてもとても寝心地良さそうでしたよ?一体どんな気持ちの良い夢を見られてたんですかね?」
コハルは既に꒰ঌ(⸝⸝ↀᯅↀ⸝⸝)໒꒱の顔で待ち構えている。
対する先生は真面目な面持ちで呟いた。
【──怖い先達にちょっとアドバイスをね。】
「え、それってどういう……。」
そして先生は立ち上がり、決意を固めた目で全員を見渡し発言した。
【君達に、話しておくべき事があるんだ。】
次回はナギサ説得回です。