ブルーアーカイブRTA 称号「崇高」獲得まで   作:ノートン68

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お待たせいたしました。

今回は少々分量多めです。
トリニティから代わり、ゲヘナの視点に移ります。



その頃、空崎ヒナは

 

お日柄がよく銃声がけたたましい今日この頃。

キヴォトス内でも、最も治安が終わってると言われるゲヘナ自治区のとある一角、そこに建てられた一棟のビルが衝撃により倒壊した。

 

辺りは大量の砂埃が舞う。

されど死者は居らず、代わりにノびた不良達の山が積み上げられていた。

 

何人か意識が残っている者もおり、呻き声が聞こえる。

その声は隣に並び立つ小さな少女へ、恨みの感情が乗っていた。

肝心の少女は何処吹く風で涼し気な表情だ。

 

 

「戦闘終了、次の目的地へ移動する……その前にやる事があった。」

「ウウゥッ、痛い、もう動けない……。」

「おいどけッ、重い!!」

「身体中が痛くて動けないんだって!!」

 

 

山を築いた本人である少女、ゲヘナ風紀委員長の彼女は現在単独で仕事を行っていた。

少女、空崎ヒナ──現ゲヘナ最強と名高い彼女は戦闘直後にも関わらず、次の目的地へと駆け出そうとしていた。

 

いつも自分を補佐している頼もしい同僚達は別行動だ。

理由は単純に手が回らなくなってきたからである。

 

最近ゲヘナでは不良生徒の暴動が頻発している。

元より結構な頻度で問題を起こしていた彼女たちは、最近になって益々勢いをつけ始めていた。

本日の暴動鎮圧は既に7回目、既に一日の平均暴動鎮圧数を上回っている。

自分が居なくても、ただの不良生徒であれば同僚たちも問題なく片付けれる筈だ。

 

 

「そう思っていたのだけれど……。」

「うぅ、くそっ!」

 

 

倒れふす不良生徒に目をやる。

ソイツは恨めしそうにヒナの事を睨みつけてきた。

今にでも体が動けば襲いかかってきそうな雰囲気を纏って。

なんなら立ち上がろうとしている。

 

これが異常なのだ。

ヒナの攻撃をまともに食らって意識を保っている。

並の生徒なら気絶するレベルの弾幕を与えたにも関わらずだ。

勿論手加減したわけでは無い。

 

彼女達は確実に打たれ強くなっている、そう断言できた。

それも1人2人ではない、ゲヘナ全域の不良生徒のレベルが上がっている。

日を追う事にその数は増大してるようにさえ思えた。

 

別行動の部隊が負ける事は、流石にないだろうが心配だ。

この程度の不良相手なら遅れはとらないにしても、美食研究や温泉開発部レベルがパワーアップしてると不味い。

取り逃すだけなら良いが、場合によっては最悪返り討ちにあってる可能性さえある。

 

回復したのか、不良生徒は立ち上がっていた。

その目にはまだ闘志が燃えている。

体は今にも倒れそうな疲労感に包まれているだろうに、無謀にもまだ彼女はヒナに勝つつもりのようだ。

 

 

「だから、どこでそこまで強くなったか聞きたかったんだけど……。」

「うおぉぉぉッ!!」

「貴方達から聞き出すのは無理そうね。」

 

 

短く銃声が響き、不良生徒は再度倒れた。

もう起き上がってくる様子は流石にない。

 

現在ゲヘナ風紀委員を悩ませてる問題がコレだ。

鎮圧作業が嵩み、他の仕事に手がつかなくて困っている。

日に日に暴動件数は増える一方で、根本解決しなければキツい段階になってきた。

既に半数の風紀委員は目から光が無くなっていて、由々しき事態だ。

 

 

「嘆かわしい、こんなにも対応が遅れるなんて……。でもそれは今日で終わり。」

 

 

最近になって急激に暴動が増加した傾向があることから、何らかの原因がある筈だと睨んだ。

暴動を扇動している黒幕が居るのではないか?

もしくはまだ別の思惑が動いているのでは?

 

ここ数日はその調査と暴動鎮圧に掛かりきりになっていた。

万魔殿からの妨害行為もあったが、ヒナが積極的に現場へ向かうことで対処した。

因みに、遅れた理由の半分はコレだったりする。

 

 

おのれ許さんぞ羽沼マコト

 

 

妨害に屈したりなんかしない!!

そんな努力が報われて気になる噂をキャッチしたのは、つい最近の事だった。

ゲヘナの闇市でリスクなく簡単に強くなれる品が流れているという眉唾な噂。

 

その製品の名は《神名のカケラ》。

聞いたところによると、紫の宝石のようなソレを摂取すると力を湧き上がらせる不思議なアイテムなのだとか。

 

露骨に怪しい、簡単に強くなれるなんて胡散臭すぎる。

それでも現状から鑑みるに、与太話だと切り捨てることはできなかった。

 

 

「アコ達が必死で集めた情報だもの、必ず成果は出してみせる。」

 

 

アコ達の努力により、少ない噂話から販売所の所在地を特定するまでに至った。

販売所を叩いてこれ以上の治安悪化を防ぐ、本日がその決行日だ。

目的地へ向かう道すがらに、暴れてる不良生徒達を鎮圧しながらヒナはビルからビルへと移動し続けた。

 

 

 

 

 

ものの十数分で辿り着いたのは寂れた、と言うよりも廃退した地区。

その中でも如何にもな雰囲気のある廃工場地帯へと侵入した。

 

 

「……これは、当たりかな?」

 

 

今はもう動いていないはずの《食材廃棄場》。

その正門には謎のオートマタが警備を行っていた。

これなら例え不良暴徒化の黒幕でなくとも、施設の違法利用でしょっぴく事が出来る。

 

そうと決まれば話が早い。

ヒナはビルから正門の前へと降り立った。

弾丸のような速さで着陸した為、鈍い衝撃音が微かに響く。

 

 

「ッ誰だ!!」

「ゲヘナ学園・風紀委員会委員長、空崎ヒナよ。一体此処で勝手に何を作ってるのかしら?」

「まさかあの!?緊急連絡を!!」

「投降する意志はなしって事で良い?」

 

 

突然の事態にも関わらず、警備は優秀なようですぐに応援を呼ぼうとする。

ヒナがソレを許すはずがなく、通信機は破壊される。

 

 

「その格好、カイザー系列ね。めんどくさいけど……全員相手してあげる。」

「通信機がッ!?」

 

 

有無を言わさず放たれる弾丸の嵐。

無慈悲な破壊力により門番のオートマタは吹き飛んだ。

 

 

 


 

 

 

圧倒的な強さの前に蹴散らされるオートマタ達。

ヒナは重要人物が居るであろう事務所っぽい建物へと歩を進める。

途中の戦闘もヒナにとっては簡単な作業と変わらず、呼吸するかのような自然な動きで、あっという間に事務所の奥へとやって来た。

容赦なく足で扉を蹴破るとそこには3人の人影が存在した。

 

 

「流石ゲヘナの風紀委員長、想定よりずっと早かったな。」

「貴方が責任者であってるのね?」

「いかにも、私はカイザー・インダストリーの理事だ。」

「「……。」」

 

1人はロボット姿の高級そうなスーツを着た男。

もう2人は黒のフードローブを着ていて顔は不明だが、男を守るように両側に陣取っている。

その2人はヒナに感じ取れるほどの強者のオーラを放っていた。

 

 

「(なんだか面倒臭そうな相手、それも2人か……。)」

「クククッ、私が逃げなかった理由が分かるか?」

「その護衛の2人、随分とお金を入れ込んだみたいだけど?」

「必要資金だ。腐っても一流企業の端くれだからな。」

 

 

ヒナは黙って話を聞いている。

男は気分が良いのかペラペラと話し続ける。

 

 

「とある男との契約で《神名のカケラ》をばら撒くことになった私は、ゲヘナの土地へ目をつけた。」

 

「広大かつ良質な土地を持つにもかかわらず、それに見合わない少数の治安維持部隊。見回りの行き届かない場所なぞごまんとある。コレを逃す手などなかった。」

 

「ゲヘナを混乱に陥れるため、私は《契約》通り不良生徒へ《神名のカケラ》を販売した。予想通り彼女たちは力に溺れ欲の赴くままに破壊活動を始めた。」

 

「これも全て風紀委員……いや、空崎ヒナの力を削いでゲヘナを完全に手中に収めるための1歩。」

 

「それもこれも、全てはカイザーコーポレーションを貶めた()()()の喉笛を掻っ切るため!!」

「………。」

 

「ゲヘナの掌握はその前のワンステップ。空崎ヒナ、()()()()下せばその目的は────

「大体の話は理解した、残りの情報は留置所で聞く。」

 

 

話を途中で中断させ、ヒナは愛銃を3人へ向ける。

好き勝手に喋らせていたのも最低限の情報を引き出すため。

逃すつもりは無いが、2人の護衛者の実力がはっきりしてない以上保険は必要だ。

だが話半分で会話を中断した。

 

──ヒナはイラついていた。

しょうもない大人の思惑の上だった事もそうだが、何よりも風紀委員の全員を馬鹿にされたことによる怒り。

 

この男だけは二割増でギタギタにする。

そう決心したヒナに水を差すように、無言を貫いていたフードローブの片割れが口を開いた。

 

 

「いや、それより君はさっさと逃げた方がいいと思うよ?君を無傷で返す事は難しくなったから。」

「……なんだと?」

「空崎ヒナ、噂はよく聞いてるよ。実物を見るのは初めてだったけど……うん、最強の噂は本当みたいだ。」

「……だから何?」

だったら、こうするしかないよねぇ?」カチリッ

 

 

ドゴォォォォォンッ!!!

 

 

近くで何か爆発した音が鳴り響く。

それも1つ2つでは無い、周囲一帯から爆音が聞こえた。

あまりの衝撃波に事務室の窓ガラスが割れる。

 

状況が読み込めてないのはヒナも理事も同じようで、ローブフードの片割れはケラケラと愉快そうに笑っている。

心做しかもう1人の方はため息をついてるように見えた。

 

 

「生産工場と保管庫を()()爆発させたよ。多分残りカスもないんじゃないかなぁ?」

「「ッ!!?」」

「……。」

「そうそう、その反応が見たかったんだよ!私の仲間たちはリアクションが薄くてね、大きいリアクションに飢えてたんだよねぇ!!」

 

 

まさか躊躇無く爆散させると思っていなかった、ヒナもコレには目を見開く。

そして警戒度を更に引き上げる、手段の選ばないその姿勢に。

この手の相手(カスミとか)の厄介さは身をもって知っている。

 

 

「もうココは用済みだからさ、後で変に探られるのも癪だし証拠隠滅はこのタイミングがベストだよねぇ?」

「貴様、何を勝手なことを!!」

 

 

理事が詰め寄るがフードローブの片割れは意に介さない。

それどころか、先程とは一転して冷たい声で言い放つ。

 

 

「先に勝手を働いたのは君だろう?契約内容には生徒への加害行動及び依頼は禁止されてたはずだよねぇ。」

「ッ!?貴様まさかやつの──」

「はーい、ゴミはゴミ箱へってねぇー。」

「うぉおおおお!?」

 

 

スーツの首根っこを掴んまれ、理事は容赦なく割れた窓ガラスへと投げ出された。

ココは5階だ、落ち方によっては全然死ねる高さだが……。

 

どうやらゴミ袋の密集地帯へ落ちたようで無事そうだ。

一方ヒナはというと、目的の掴めない2人への行動を決め兼ねていた。

 

 

「貴方達はいったい……。」

「強いて言えば敵なのは変わらないねぇ。さて、少し遊ぼうゲヘナ最強。目当ての物はコレだろう?」

「………。」

「勝手な事をするなってぇ?良いじゃないか、せっかく最強と名高い生徒のデータが取れるんだからねぇ?」

 

 

何やら粒状のものが大量に入った袋を取り出したローブフードの片割れ。

もう1人の方は、喋れないのか手話でコミュニケーションを取っている。

彼女は袋をくるくると回しつつ、こう言い放った。

 

 

「これは君の探している《神名のカケラ》だよ。」

「ッ!!」

「生産工場はここだけじゃない、物証があればもっと多くの部隊を投入して捜索もできるだろうねぇ?」

「……そう。」

 

 

戦いの合図はなかった。

フードローブの2人を敵と再認識したヒナは、容赦なく弾丸を浴びせる。

 

空崎ヒナがゲヘナ最強と言われる所以は2つ。

1つは圧倒的な場の制圧力。

マシンガンで一掃するだけで、基本相手は死ぬ。

 

そしてもう1つ。

火力良し、耐久良し、敏捷性良し。

 

ヒナの銃の火力が十全に発揮されるのは中距離だが、当然近距離戦闘も強い。

遠距離攻撃も下手な狙撃はわざと当たって位置を割り出す鬼畜っぷり。

指揮能力も高く直接戦場へ赴かなくとも脅威となる。

 

ある程度の強さに至った者は何かしらに特化したものが多く、そこが長所にも短所にもなり得る。

 

ヒナにはソレ(弱点)が存在しない。

どの距離から、どの場所で、どんな状況でも、どんな策を弄しようとも彼女には届かない……最近はその限りではないらしいが。

それが彼女の一番の強みだ。

 

 

「エグい火力だねぇ、防弾仕様じゃなかったらすぐ蜂の巣だったよ。」

「………。」

「うん、宣戦布告する場所が悪かったねぇ、反省してるよ?」

 

 

2人はヒナの弾幕を避けるために、家具の陰へと身を潜めていた。

防弾仕様のソレも後数秒で粉々のスクラップになる。

スペースの限られた密室でヒナの相手をするのは不味い。

だから次の一手を打つことにした。

 

 

「ホッ!!」

「(書斎机を飛ばしてきたッ!)」

 

 

ダメージこそ無いが目くらまし程度にはなったのか、一瞬弾幕が止まる。

その隙にヒナの攻撃で脆くなった壁を蹴破り、2人は外へと脱出した。

 

 

「逃がさないッ!」

「鬼ごっこの時間だよ。」

「……。」

 

 

屋根を駆け上り、ゴミ箱や電柱を蹴り倒し、裏路地の角へ滑り込む。

ヒナの射線を切りつつ巧みに弾幕を回避していく。

 

そして角を曲がる瞬間、トラックがヒナの眼前に迫る。

トラップだ、しかし危なげなくソレを跳躍して回避する。

 

同時に体勢を仰向けに移行し、銃で頭上から強襲してきた1人の攻撃を防御した。

その手には()()()()()()()()()()黒い刃の短刀が握られていた。

 

その勢いは凄まじくトラックの天井へ叩きつけられる。

しかし、すぐに体勢を整えて強襲者を蹴り飛ばし、道路へと着地する。

そして気づいた。

 

 

「(……ッ袋が無くなってる!!)」

 

 

逃走経路のどこかで隠したのか、その片手に掴んでいたはずの《神名のカケラ》が入った袋が無くなっている。

視線に気づいたのかヒラヒラと手を振ってきた。

 

ヒナの目的はこの2人を倒すことでは無い。

一瞬引き返して探すことも考えたが、それでもヒナは2人を拘束することを優先した。

 

この2人が今回の件と強く結びついている、そう考えずにはいられない。

拘束したあとゆっくりブツは探せばいい。

 

 

 

再度2人に照準を合わせる。

 

 

───筈がヒナの体はよろめき、まともに立てなくなっていた。

 

 

「ッ!!?」

「やっと効いてきたねぇ、象とかの大型猛獣とかも一瞬で効果が出る筈なんだけど。化け物だねぇ〜。」

 

 

あくまでも冷静にヒナは自身の体の異常を分析する。

平衡感覚に異常、軽度な発熱、動悸も少々。

これはまさか………。

 

 

「ヘイローに守られているせいなのか、毒物系は効きが悪くてねぇ?有毒性のある物質はカットされるみたいなんだ。致死量以上を投入して突破するのも手なんだけど、オーナーからの依頼には見合わなくて困ってたんだよねぇ。

 

ソレで作ったのが()()さ。」

 

 

いつの間にか注射器を取り出していたソイツは、ピュルリと針先から桃色の薬液を垂らす。

隣に佇む奴の持つ刃からも同色の液体が滴り落ちている事に気づく。

 

 

「(刃がカスってたのね……。)」

「分かりやすく言うならお酒だよ。限りなく有害物質は取り除いた代物だがね?ありがとう、君で効果あるなら他の生徒にも効き目は保証され──ってまだ立てるのかい?」

 

 

一刺しで猛獣も動けなくなる薬を仕込まれてもなお、ヒナは立ち上がった。

流石にドン引くフードローブの2人。

だがちゃんと効いてるのか、その照準は明後日の方向を向いている。

 

 

「そんな乱雑に撃った弾なんて当たらないよ。」

「……。」

 

 

フードローブの女が1人、申谷カイは散歩するかのような緩やかさでヒナの元へ近づく。

弾幕はカイを掠めることなく無駄に辺りを傷つけていく。

そして──

 

 

「発勁!!」

「───ッ!!」

 

 

会心の一撃はヒナの額へと放たれた。

しっかり当たれば、怪力お化けのAL-1Sにさえ力負けしない強力無比な力。

コレにはヒナも頭を仰け反らせて後退した。

 

 

「更に、お薬の追加だよ。」

 

 

カイは爪にも薬を仕込んでいる。

勿論、例の酩酊薬だ。

爪の先端は髪の毛よりも細く短く靱性に優れているため、容易に注射器のように柔肌へ侵入する。

 

 

薬の追加でヒナはそのまま倒れ込む───ことは無く、その腕を掴まれる。

 

とても振り解けないその力でカイは悟る。

これ、無理なやつだ。

 

 

「は?ヤバッ───」

「お返しよ。」

 

 

急に吹き返したヒナはカイの腕を掴み、一本背負いの要領で地へと思い切り叩きつけた。

カイの痛烈な声が聞こえるも、もう1人のフードローブはヒナの背後へと迫り黒い短刀を振るう。

しかし後ろに目でもついてるのか、ノールックで銃底で殴られ退けられる。

 

 

痛みから回復したのか、カイもヒナから距離をとる。

挟み撃ちの状況だが、一気に場の優勢が切り替わった。

 

 

「痛っ、おかしいねぇ、なんで動けるのかな?」

「………!」

「いや、そもそも反応が早くなってないかいコレ?」

「(なんだろうこの気持ちは。)」

 

 

カイの推察通り、ヒナの反射速度はさっきの比ではない程に上昇していた。

そもそも、徹夜続きでヒナの戦闘能力は半減の状態だった。

自身のコンディションが最悪な事はヒナも理解しており、カイともう1人同時を相手にする事は無謀だと勘づいていた。

 

 

だから利用したのだ、()()()()()()()()()()()

 

 

ヒナの脳は長期間に及ぶロードワークにより、身体機能を制限していた。

同時に味覚、聴覚、嗅覚、触覚、視覚、それらの機能を大幅に規制。

脳の処理能力、事務作業の効率だけを万全の状態に維持するため勝手に能力が制限されていたのだ。

 

しかし故意的に発勁の衝撃を受け脳を揺らす事で、強制的に生存本能……火事場の馬鹿力を発動した。

ついでに薬の追加で幸福物資が増加した事で脳が回復したと錯覚。

 

 

「(面倒くさいはずなのに……今、とても楽しい。)」

「うわぁ、気づいてるかい君?最高にゲヘナみたいな顔してるよ?」

 

 

興奮作用も働き、面倒だと一蹴していた戦闘も楽しく感じてきた。

単純作業のように処理できる他の有象無象とは違い、確かな腕のある2人だからこそなのかもしれない。

 

当の2人は完全に形勢が逆転したことを悟っていた。

万全な状態になったヒナを倒す事も無理では無いが、リスクが大きすぎる。

最悪1人、もしくは2人ともがここで脱落する。

 

かと言ってこのまま逃げるのは、負けた気がしてなんだか嫌だ。

というか、逃げれる気がしないんだが。

 

 

「オーナーには止められてたけど、やるしかないよねぇ?」

 

 

奥歯に仕込んだ脳内麻薬を出すカプセルを噛み砕く。

コレで何発かは耐えられる。

拳法の構えをとり、ヒナへ相対する。

 

そして未だに喋らないフードローブはようやく口を開いた。

その両手の指は組まれている、まるで印を結んでるかのように。

身バレの可能性があるから、出来ればしたくなかったが仕方ない。

 

 

──忍法

バゴォォォンッ!!

 

 

再度爆発がここより遠くの方で聞こえる。

カイもフードローブもそちらへ意識を割いていた。

巨大な何かがビルをよじ登っているのが見える。

 

 

全体的に紫色で緑の液体を撒き散らし、円盤型にタコの触手を何本も持ち、粘液のようなものを辺りに塗りたくっている。

 

ソイツにヒナは見覚えがあった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なんで?………ってしまった!!」

 

 

パンちゃんに意識を逸らしすぎた。

フードローブの2人は既に忽然と姿を消していた。

程なくしてヒナの方にも連絡が入る。

 

 

『ヒナ委員長、ご無事ですか!?』

「大丈夫だけど……何あれ?」

『それが道路を突き破って現れたという情報しか得ておらず……。近くにいたので現在応戦中ですが銃弾の効きが悪くて。』

「わかった、すぐそっちの方に向かう。」

 

 

もう一度フードローブの2人がいた場所を見つめる。

取り逃してしまったが仕方ない、むしろ安堵さえしていた。

 

 

「(脳の錯覚が元に戻る前で良かった。それにあの二人、実力を隠してる素振りがあったし。)」

 

 

むしろ、色々情報が集まっただけ儲けものだ。

酔いが覚めて若干の頭痛のある頭を気にしながら、更なる混沌の地へとヒナは向かった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、巨大パンちゃん出現場所とは真反対の人気のない路地裏で。

 

 

「いやぁ、タイミングに助けられた。だからそんなに怒らないで欲しいねぇ?」

「お前、どこに《神名のカケラ》を隠したんだ?」

 

 

フードを外した2人組は逃走に成功していた。

カイともう1人、幼さの残る顔のその少女は、顔に似合わぬ凄みを出している。

そんな彼女に臆することなく、カイはヘラヘラと笑っている。

 

 

「マンホール開けて中へボッシュートしたんだけど、まさかあんな風になるとは。私の目を持ってしても見抜けなかったよ、()()()()()()()()()。」

「はぁ……。」

 

 

恐らくゴミ処理場から脱走したパンちゃんの一体が、下水道を流れてきた《神名のカケラ》を摂取したのだろう。

過剰な神秘を取り込みパワーアップした結果、あの巨大化に繋がったのだろう。

 

 

「あの委員長なら何とかしてくれるだろう、私は一足先に戻るけど君は?」

「私は引き続き百鬼夜行で監視しておく。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、ヒナが掃討したパンケーキの一部が分裂し、ティーパーティー内での目撃が入る事になるのは別の話。

 

 





ゲヘナでの動き、そしてパンちゃんの秘密が明らかになりましたね。
次回こそは補習授業部視点です。
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