ブルーアーカイブRTA 称号「崇高」獲得まで 作:ノートン68
お待たせ致しました。
ちょっとだけ様式を変えました。
掲示板回は掲示板回で、先生目線はおまけ回で分けて書きます。
re.プロローグ
時刻は18:00前
夏の日差しもすっかり大人しくなり、少しばかり過ごしやすい気温となった夕闇。
場所はトリニティの部室会館、そのテラス側に1人の少女が座っている。
傍らにはチェスの駒と盤があり、彼女はそれを1人で打っている。
以前まで自分の相手をしていた親友は居ない。
ただ意味もなくこんな場所で打っているのでは無く。
少女──桐藤ナギサは人と待ち合わせしていた。
こんなモノは時間つぶしの手遊びだ。
18:00ちょうど、足音が聞こえてくる。
奥から現れた人物は彼女の想像するとおりの人物であった。
「初めまして先生、ティーパーティーの代理ホスト桐藤ナギサと申します。」
【初めまして、知ってると思うけどシャーレの先生だよ】
ふと先生の目線が卓上のチェスへと向けられる。
黒と白で駒の違う配置のスタート。
あまり見ない配置に疑問を持ったのか、先生が尋ねてきた。
【1人でやってたの?】
「はい、
【ごめんね、ルールは全く知らなくて……】
「そうですか、では機会があればまた。」
すっかり日が落ち、当たりが夜へと切り替わる。
テラスの淡い光だけが2人を照らしている。
あまり世間話しをして時間を伸ばすのも悪い。
そう思ったナギサは早々に本題へと入ることにした。
「本日は日も暮れるというのに御足労頂き感謝します。こうして先生をお呼びしたのも、お願いしたいことがありまして。」
【お願い?】
「簡単なことです……補習授業部の顧問になっていただけませんか?」
ナギサの依頼、それは落第の危機にある生徒の救済措置であった。
本来ならばティーパーティーが直々に手を下すべき事案だが、エデン条約の事もあり手が離せない状態。
対策案を考えていると新聞で『シャーレ』の活躍を知った。
あまり良くない噂もあったが、あのゴシップ大好き達の事だから心配はしてない。
むしろ生徒と協力して問題を解決したという実績があるだけマシである。
最近だとレッドウィンターに向かい、『白き神』を名乗るモノを生徒と協力して倒したとか……。
また正規ではない特殊な部活動の為に、申請には少しばかり手間が掛かる。
出来ればエデン条約前には問題を解決したい、そんな折シャーレの持つ超法的権限に目をつけた。
シャーレであれば、面倒な手続きも横紙破りで補習授業部が創部可能となる。
手早く、親身になって生徒達を助けてくれる一石二鳥の手段。
「対象の生徒は5名、彼女達には合計3回の追試を受けてもらいます。どうか彼女達に救いの手を差し伸べてはくれませんか?」
【……。】
以前の先生なら二つ返事で受けていたであろう依頼。
他でもない生徒の頼み、それも生徒を救って欲しいという純粋なもの。
だが先生に1つの疑問点が浮かんだ。
それは勘であった。
表面上は澄ました顔をしているナギサ。
その微笑みは無理やり取り繕ってるような、何かしらのプレッシャーを抑圧しているような歪さがあった。
何か声を掛けねばと出た咄嗟の質問。
漠然とした心配であったが故に、先生は衝撃を受ける事になる。
【3回とも不合格になった生徒はどうなるの?】
「……全員退学になります。」
【!!】
「そもそも補習授業部は、生徒を退学させるために作られるのです。」
【……どうしてそんな事を?】
思っていた以上の返答に、一瞬頭が真っ白になる。
しかし、すぐ冷静さを取り戻した先生は話を促す。
ナギサの話ではこうだ。
・トリニティには裏切り者がいる。
・裏切り者はエデン条約締結の阻止を目論んでいる。
・エデン条約はトリニティとゲヘナの間で結ばれる不可侵条約。
・仲の悪い両校がようやく締結する所まで漕ぎ着けた。
・せっかく準備したのに台無しにされるのは我慢ならない。
・補習授業部に集ったのはその容疑者。
・シャーレを頼ったのも退学措置が取りやすくなるから。
「その為の補習授業部です、
【………。】
「私は
【(あぁ、この子も同じだ……。)】
観察してみてよくわかった。
彼女の顔色は薄らと青白く健康的とは言えない。
エデン条約か、または裏切り者によるストレスか。
定かではないが、彼女の重責となっているのは確実だ。
生徒という身の丈に合わない重責。
子供らしくない責任から、問題を1人で背負おうとしている。
大人にならざるを得ない子供。
例え自分がどんなに非難されても構わない、そんな姿が
【でも本当に私を利用する気だったら、今ここで話してくれないよね?】
「流石に理解が早いですね。すぐに信じて貰えるとは……
なら先生──補習授業部にいる裏切り者を、探していただけませんか?」
対する返答は早かった。
先生の出した答えは───
【
「っ!!なら──」
まさか二つ返事。
直ぐに受け入れて貰えると思わなかったナギサは、歓喜のあまり矢次早に言葉を続けようとする。
が、先生が手を突き出しソレを静止する。
【でも一つだけ、その裏切り者とされる
「……何故です?恐らくですがトリニティを、ひいてはキヴォトス全体の混乱を招こうとする輩ですよ?」
【だって容疑者が出なかったら全員退学させる気でしょ?】
「犠牲を出したくないと?ですがそれはもう無理なんです。」
【それはどうして?】
「……エデン条約は間近です。もう精査する時間なんて──」
一瞬の躊躇うような間、先生はそれを見逃さない。
【違うでしょ。君はそんな
「……ッ!!」
基本的に気品があり穏やかな性格の彼女は結構なお人好しだと。
そんな彼女が、他の生徒を退学に追いやる程の理由。
少なくとも、自分が念入りに進めてきた計画が台無しになるから
「……そうやって他の子も落としてきたのですね?」
【ちょっ、違うからね!?】
「ふふっ、冗談です。ですが……ええ、先生であればお話しましょう。」
【(冗談……ホントに?)】
一呼吸置いてナギサは話し始める。
その表情は苦虫を噛み潰したような、苦々しい表情であった。
「今からそう遠くありません、生徒会長の1人である百合園セイアさんが裏切り者陣営の襲撃を受けて
【!!?】
今回2度目となる爆弾を投下された。
キヴォトスでの殺人は珍しい……というかほぼ起こらない。
その神秘……ヘイローによって生徒達の体は頑強なものになっているからだ。
現状明らかとなっている死亡事例は1つ。
「実際に確認した訳ではありませんが、確実性の高い情報です。現にセイアさんとは連絡が付きませんし。」
【それは……。】
「親友を奪った裏切り者を私は許せません。もう1人の親友も失う訳にもいきませんから。」
そんな事を言われたら、先生は何も反論出来ない。
復讐は何も生まないと言うがそれはウソだ。
少なくとも、第三者の先生がそれを止める権利はない。
かつての自分は
それではダメだ、そんなもの皆の先生ではない。
愛好、嫌悪、無関心、全て引っ括めて生徒の要素なのだ。
【なら早い者勝ちだね?】
「……フフッ、そうなりますね?」
だから先生はナギサの復讐を否定しない。
その代わり先生も好きなように振る舞う、言外にそう示したのだ。
てっきり止められると思っていたナギサは面食らい、同時に微笑む。
「では補習授業部の事は、お願いしますね?先生のやり方がトリニティに利するものであることを願っています。」
【うん、また今度ね。】
そう言い、先生は退出する。
補習授業部丸ごとの廃棄から、裏切り者1人の処分に切り替わった。
今の自分の持ち札ではこれが限界だ。
ただ漠然と自分の欲求で動いていた頃とは違う。
どうすれば真に生徒達全員の味方になれるか?
完全な中立になるつもりはない、悪い生徒には変わらずお灸を据える。
ただ助けを求められたら必ず救ってみせる。
補習授業部もナギサも全員、勿論裏切り者だって。
【いつか君の疑心を溶かしてみせるよ。】
計5話での構想を予定しています。
はい、次話から文字数が倍増します()
コンパクトに濃い内容の話を書ければなと思います。
次回は補習授業部5名を先生が集めるところから。