ブルーアーカイブRTA 称号「崇高」獲得まで 作:ノートン68
前回のあらすじ
ホモ「全部思い出したよ。」
お待たせしました。
今回がクライマックスパートになります。
──接続開始
機械的なアナウンスが流れた後、『バレル』が変形した。
それはまるで多足類の生物のごとく、ホモの背後へと這い回る。
『バレル』はホモの丁度背骨のある位置まで到達すると、創り出した足を背骨──脊椎にガッチリとくい込んだ。
人間ならば激痛が走るであろうその接続方法は、既に骨であるホモに無償で力を分け与えてくれる。
ホモの身に文字通り、
「懐かしい感覚だ。」
文字通り
あの頃とは違い万全装備ではないが、それでもホモは絶望的な力を持つチェルノボグに勝機を見出していた。
神秘が、身体中を巡る。
その頃、チェルノボグはというと
───やはり仕留めきれてなかった
「うおぉ、全員退避ーッ!!」
エーセーヘ!エーセーヘ!!
メディークッ!!
「(……大したものだ。)」
何人かの親衛隊員が雪の上に倒れていた。
権能の使用不可状態のお陰で死人は居ないようだが、半数以上が戦闘不能になっている。
被害は甚大だ、何人かが引き摺られて戦線を離脱していく。
チェリノは全員に退避をさせ態勢を立て直す間、この場はホモ達第3陣営に任せるつもりらしい。
中々に肝が据わっているとホモは感心していた。
──成程、成程…杖が本体であったとは
チェルノボグはホモを完全に見据えていた、正確にはその神秘溢れる体へ。
黒き神は歓喜に震える。
──その神秘の質、量、共に素晴らしい
チェルノボグはもとより破壊と死を好む悪神。
どこまでも黒き神は己の生き方に忠実であった。
勿論理由はコレ以外にも存在し、それは神格相手にホモ達がここまで生き残れた理由に直結する。
単純な話、黒き神は完全体ではない。
対の神格である白き神ベロボーグが同時に顕現している状態でこそその真価は発揮される。
この世界の仕様として
光あるからこそ闇がある。
チェルノボグは本来の力の3割程度しか出せない状態でいた。
だが腐っても神格、制限ありとは言えホモ達は完膚なきまでにボコボコにされた。
ゲームでいうバグとは違う、言わば特定条件を満たした時に発生する特別シナリオ。
ミノリが聖書を元にした複製の作成が可能になったからなのか。
チェリノが焦り対抗策として守護神の噂を思い出したからなのか。
それとも、ホモがこの地へやってきたからなのか。
なんの因果か、先に黒き神の方が封印から解き放たれることとなった。*1
兎に角、黒き神は己を完全体に近づけるべく良質で大量の神秘を欲していた。*2
──その神秘、貰い受ける
チェルノボグは構え、雪原を駆ける。
一呼吸の間もなくホモの眼前へ迫り刃は掲げられ、神速の黒き剣閃が軌跡を描く────筈だった。
気づけば刃の、
──捉えただと
「お前は後だ。」
──ッ!?
チェルノボグの視界が突如グルンと回転する。
投げられたと認識したのはその直後であった。
ホモはチェルノボグではなく、カイ達の元へと歩きだしている。
前とは全くの別人、チェルノボグから『遊び』という認識が消えた瞬間である。
警戒し動きを止めるチェルノボグにホモは呼びかける。
「お前はコッチを片付けてから直ぐに滅する。」
──いいだろう
「あはは、おめでとうオーナー。全て思い出したんだね?」
「……あぁ。」
「お、おい?なんか凄く怒ってないか?」
「そりゃ
「お前……まじでお前……ッ!!」
明らかに怒っているホモを見て、ミノリはオロオロしている。
反面、カイはニヤニヤと愉快そうに血で汚れたその顔を喜びに歪ませていた。
「君には言いたい事が山ほどあるが……あとが控えている、先ずはそれだ。」
ホモの指さす先にはカイの
歪みは『偽神のカケラ』により増幅させた神秘のキャパオーバーが原因だ。
明らかに具合が悪そうなカイだが、それでも微笑んでいる。
杖を、『バレル』を使いこなしているという事は即ち
「ふぅん、どうするって言うのかな?」
「その歪んでしまった
「いやいや、ヘイローには触れられないって……え?」
通常は視認は疎か接触すら出来ない、ただ存在する事だけ周知されているヘイロー。
前の付き合いを覚えているカイは、ホモがヘイローを視認できる事は知ってるし、触れない事は知っていた。
──なら何故、今彼は自分のヘイローを摘んでいる?
「酷い状態だな、一体何欠片取り込んだ?」
「3つ…だけどッ……何この、感覚ッ?」
カイのヘイローを確実に捉えた指は輪郭にそってなぞり始める。
不思議なことにそれだけでヘイローは整っていった。
歪み澱んだヘイローが、まるで陶芸品を扱うが如く繊細な手つきで修復されていく。
ヘイローはその者の魂の器だ。
それに直に触れられる
当たり前だ、魂に直接触れているようなものなのだから。
嫌悪、羞恥、快楽、苦痛etc……触られる対象によって個人差はある。
カイは現在どうなってるかと言うと──
「無茶をする、時間がなければ最悪衰弱死だったぞ?」
「アッアッアッアッアッ」
「うわぁー……」
「質疑!何も見えませんッ!!」
──…………
いつものアンニュイな雰囲気はどこへやら、らしくない惚けた顔で痙攣している。
どうやら快楽の反応が大きいらしく、だらしない顔になっていた。
やってる事は医療行為のようなもので、特段気にすることではない筈なのだが……。
声が完全にあれなせいで雰囲気がおかしい事になっていた。
何か冒涜的な景色を見せられてる気がしたメンバー1は、無言でAL-1Sの目と耳を覆っている。*3
おかしい、さっきまでホモの復活と強化であんなにも盛り上がっていたのに。
ホモは至って真剣だし、カイは喘ぐしで台無しだ。
戦いの前にこんなのを見せられるチェルノボグは怒っていい。
「……応急処置としてはこんなところか、説教は後だ。」
「ふへぁ……。」
未だにビクンビクンと痙攣してるカイ。
だが彼女の顔色は普段の色を取り戻していた。
ヘイローもいつもの形に修復されている。
それを確認し、ホモはチェルノボグへと歩み寄る。
そこは既に死の間合いだ。
──気になるな、貴様がどうやってそんなに力をつけたのか、その神秘その魂を手に入れ
「講釈が長い。」
──ゴフッ!?
文字通り一蹴。
チェルノボグの腹部に今まで受けたことの無い痛みが迸る。
油断したつもりは無かった。
ホモが予想を上回る動きをしただけで──
『瞬き』を使用して攻撃を仕掛けてきたのだから。
未だに痛みの残る腹部を気にせずチェルノボグは立ち上がった。
「これで先の不意打ち分*4はチャラだ。」
──使えたのか、あの妙な歩法を
問いには答えずホモは地に爪先を突き、雪を蹴り払う。
強化されたその脚撃により、雪崩を思わせる勢いでチェルノボグに襲いかかる。
チェルノボグは刃を一振し雪崩をやり過ごすが、ホモの姿は再び視界から消えていた
──その技は何度見たと思っている
それはとある男が発明した歩法だ。
暗殺、侵入、人質の解放etc…
相手の
その歩法の名は『瞬き』
だがある程度上の実力者相手だと、初見殺しとしてしか使用できない。
チェルノボグの読み通り死角に入り込む特性上、背後へと先んじて攻撃すればカウンターは可能だからだ。
チェルノボグの膂力をもってすれば迎撃は容易だった。
しかし、
──居ない!?
歩法の開発者である男、ホモは
あらゆる失敗の経験が、今は彼の背中を押している。
1度背後へと周り、相手がカウンターの為に方向転換した瞬間に再度『瞬き』を使用したのだ。
そのまま死角へと無事潜り込んだホモは拳を引き絞る。
「発勁」
──ッ~~~!!?
解き放たれた拳は確実にチェルノボグを捉え、誰もいない方向へと吹き飛ばした。
存在しない内臓が裏返るような激痛がチェルノボグを襲う。
雪の上を転がり距離を取りつつ起き上がると、ホモは既に眼前へと迫っていた。
チェルノボグが刃を振り、
ホモが太刀取りを行い、
謎技術でチェルノボグが投げられ、
ホモが殴る蹴る、
その繰り返し。
男が積み上げてきた武の極致が、神格に通用していた。
チームⅤ達はその光景に魅入っていた。
「凄いっすねオーナー!?」
「あぁ、そうだな……。」
「いけぇー!!そこですッ!!にはは、爽快ですね〜!!」
「記録中……。」
誰もが見とれる中で唯一AL-1Sは情報の記録に注力していた。
AL-1Sは確信した、フロントアタッカーとしての完成系はアレだと。
圧倒的フィジカルに頼った無作為な暴力ではない、武力による一方的な蹂躙。
この日を境にAL-1Sの近接戦闘スキルが急上昇する事になる。
怪物は眠る、今はまだ。
一方、事情を大体把握してる
「おい!!あれは不味いんじゃないのか!?」
「うん?あぁ、君は『対神格殲滅兵装』の作製に立ち合ってなかったね。」
「という事は、私が
「流石工務部。見ただけで大体は分かるんだね。」
滅びに抗う為の切り札、出来れば使いたくない奥の手として作成された『対神格殲滅兵装』。
その一部である『
「『バレル』は常人を神のステージに強制に立たせる為の機構だよ。あのレベルの神格をボコボコにしてる時点で300人分の神秘は固いんじゃないかな?」
「さんびゃッ……なら彼の魂は!?」
「そうだねぇ、前に彼が使ってる所を見た時は満身創痍だったけど。」
「だったら止め──!!」
「大丈夫だよ、前はともかく今の彼なら。」
宥めるような言葉とは裏腹にカイの表情は暗い。
その表情はカイに似合わず、悲哀の感情が漏れ出ていた。
──その神秘の量で何故まだ動ける、とっくに魂が体が崩壊してもおかしくない筈だ
「教えると思うのか?」
前にも説明した通り、神秘が燃料なら魂は器だ。
器に燃料を詰めて、初めて秘められた力を発揮できる。
ホモはどうか?
神秘は持ちえていない、何故なら彼は外から来た大人だから。
ならば魂はどうか?
神秘を持たないものでも生物なら魂は持っている。
黒服も先生も、当然ホモにもある。
ただその魂の容量はキヴォトスの生徒と比べればちっぽけなものだ。
対して今バレルから注入してる神秘の量は300程度。
ホモの体は直ぐに弾ける筈だった。
ならば何故無事に大量の神秘を扱えているのか?
答えは簡単だ。
ホモの魂は既に粉々に砕けている。
器が穴だらけでどれだけ注ぎ込んでも抜け出していく。
だから満杯にはならないし、体に負担もそうかからない。
穴の空いた容器に注ぎ込むと、当然神秘は抜けていく。
現在『バレル』に残存する神秘はおよそ
それが前の世界で男が救えなかった生徒の結晶の数々だ。
使えば消えてなくなる生徒達の神秘、ホモはそれを必要最適量を計算して惜しみなく発揮していた。
「(許してくれなくてもいい、恨んでくれていい。烏滸がましいことは承知の上で、私に力を貸してくれ。)」
──グゥッ……クカカッ
圧倒的な武力で押さえつけられて尚、チェルノボグは歓喜の感情を抱いていた。
黒き神にとって命を屠る行為は息をするのと同レベルの行為だった。
自分が刃を振るえばそれだけで死ぬ。
初めての出来事だったのだ、自分がただの
デバフの影響もあるだろうが、チェルノボグはホモに感謝すらしていた。
今まで自分の存在意義に従って屠ってきた迄だったが……。
こんなにも命のやり取りが愉しいものだとは思わなかったのだ。
──今なら試せるな
この期に及んで黒き神は成長を遂げようとしていた。
それは3種の斬撃全てを内包した真なる一撃必殺。
誰もが等しく死を迎える必死の剣技。
だが今のホモに剣を当てることは至難の業。
故に選んだ、攻撃を貰いつつさし貫くと。
神らしからぬ肉を切らせて骨を断つ戦法。
その作戦は幸をなし、
──貰った!!
突きは恐ろしい程に的確にホモの右目あたりを刺し貫いた。
べキリと軋み音をたててヘルメット全体に亀裂が広がっていく。
勝利を確信したチェルノボグ、その剣を持つ利き腕が
驚愕、そして気づいた───自身の敗北を。
今、自分の体に刺さっている物の正体を知覚した。
「生憎と、そっちは空っぽだ。」
完全に広がった罅によりヘルメットは粉々に地へと落ちていく。
現れたのは眼窩に灯る光が顕在の骸骨男。
そしてチェルノボグの刃は空間にできた穴へと吸い込まれていた。
発動したのは『ワープ』。
ホモが『バレル』へと追加したこの機能は、接続し一体化した事で本人が使える技能へと化していた。
ワープにはいくつかの制約があるが、その内のひとつは【必ず入口と出口を作り出すこと】である。
ならば今、出口はどこへ繋がっている?
丁度チェルノボグの胸のあたりを黒き刃が貫いていた。
──天晴なり
その剣は等しく万物を殺す、たとえ神格であったとしても。
己が刃により黒き神は塵と化し消え行った。
完全に黒き神が消失したのを見届けホモはポツリと呟いた。
「全てを思い出せたのは君のお陰だ、それだけは感謝する。」
勝者──ホモ
次回からはRTAパートに戻ります。