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清隆君と帆波ちゃん10/Novel by ベルナノレフ

清隆君と帆波ちゃん10

10,174 character(s)20 mins

お知らせ。

今回はオリエンテーリングです。

今回はメインヒロインが全く登場しません!!!!

しかも文字数が結構多いです。ごめんなさい。

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空は雲ひとつなく晴れ渡り。絶好のオリエンテーリング日和だ。
 たとえ晴れたとはいえ、まだ朝の早い時間なので気温は一桁しかなかった。

 そんな中、俺はケヤキモールのベンチに腰掛けていた。

「寒い」

 厚手のセーターの上からコートを羽織っている。マフラーは動き回るのにあたって邪魔になると思ったので除外した。
 だが、今思えば邪魔になったらコインロッカーに放り込む手もあったのだから持って来ればよかったと後悔している。

 スマホを取り出して時刻を見ると間もなく8時になる。
 待ち合わせの時間が8時という事を考えると待ち合わせ相手は時間にルーズなのではないかと勘繰ってしまった。

「もしかすると。これ来ないパターンじゃないか?」

 現在、俺は待ち合わせをしている。相手は櫛田だ。
 あれから、櫛田は俺に言った。「男子とクリスマス過ごすのはありえないけど、プライベートポイントは欲しいんだよね」

 いくら復讐とか言っていても、欲しい物があるのか櫛田は組めるパートナーを探していたらしい。
 そんなわけで退学の件は置いておいて休戦にしないかと持ちかけられたのだ。

 俺としても櫛田は悪くないパートナーだ。一緒にいて気を使わずにいられる上、運動能力や知力に関しても上位に位置する。
 こいつとなら上位を目指せるのではないかと思う傍ら妨害工作なのでは? とも深読みした。

 もっとも。エントリーできた時点でその事はどうでも良い。何故なら俺の最大目標はクリスマスパーティーに参加すること。
 それはペアを組めた時点で達成しているのだから。


 そんな訳で15分前から待っているのだが、櫛田は来ない。もしかするとペアを引き受けておいて俺を待ち惚けさせて笑うつもりなのだろうか?
 深謀遠慮が得意そうな櫛田がいかにも打ちそうな手じゃないか。ペアの相手がいなければオリエンテーリングは終了だ。30分待っても来ない場合は部屋に戻って枕を水でぬらすことにしよう。

「ごめんね。お待たせ」

 何か暖かい物が頬に当たる。

「一応時間通りだが待ったぞ」

 頬に当たっていたのは暖まった缶コーヒーだった。そしてそれを実行したのは櫛田桔梗。
 俺はケヤキモールのベンチを寮の方向に向けて座っている。素直に寮から出てきたのなら接近する前に気付くことが可能だ。

 つまり櫛田はわざわざ俺に気付かれないように回り込んで背後を取ったという事になる。

「寒い中待たせちゃったからお詫びに買ってきたんだよ。飲んでくれると嬉しいな」

 そもそも回り込まなければ待たされなかったんじゃないかという言葉は飲み込んでおく。

「何か変な物入って無いよな?」

 こいつが俺に渡すとなると警戒しすぎることは無い。

「酷いな。綾小路君は。これから一緒に周るパートナーに毒なんて盛るわけないじゃない」

 誰も毒とは言っていない。まさか殺すつもりまであるのか?

「それより。随分と動きやすそうな格好だな?」

 思わず俺は皮肉を言った。
 櫛田の格好は白のニットセーターに膝丈のチェックのスカートブラウンのロングブーツ。そして緑のベレー帽だった。スカートから下はストッキングを履き寒さを遮断するようにしているが、それならそもそもズボンでも良かったのでは無いだろうか?

「そうかな。これ新しく買ったんだよ」

 帽子を取って口元を隠す櫛田の口調は何かを期待しているようだった。

「まあ。可愛いとは思うが」

 実際。似合ってるかどうかで言えばかなり似合ってる。だが、ニットセーターから覗く肩はは寒そうだし。スカートから覗く足は寒そうだ。
 もしかするとこいつは口だけで勝つつもりは無いのか?

 俺の言葉に何故か気分をよくした櫛田は。

「それじゃあ開始の時間までパレットに行こっか」

 櫛田は自然と俺の隣に並び歩き出すのだった。


 パレットに入り。お互いに軽く注文をする。今日のイベントの開始時刻は午前10時。そして終了は午後6時だ。
 今回のオリエンテーリングのルールは下記の通り。

・開始から1時間おきにメールが送られ、スポットの場所を教える。
・スポットで得点を取得するには予め登録してあるスマホを使う必要がある。
・まず。一人が認証を行い。ペアの人間が認証を行うことでそのスポットから得点を取得する事が出来る。
・一つのスポットからもらえる得点は5・4・3・2・1点。認証した人間の順番に点数が配られる。
・同時に出現するスポットは全部で1~8箇所。これは1時間ごとに切り替わる。(スポット出現場所に関しては別紙の地図のポイントを参照)
・イベント終了時に一番高い点数を保持しているペアから順位をつけていくこととする。

「つまり。いかに早く。スポットを見つけて認証を行うかが鍵な訳だね」

 俺がルールを読み進めている間にも櫛田はそう結論付けると誇らしげに胸を張った。
 年齢に不釣合いなそれに俺の視線が寄りそうになったが、鋼の精神で制御する。

「そう思うなら動きやすい格好にすればよかったんじゃないか?」

 そもそも走ることが前提のこのイベントでスカートは無いだろう。

「イベントとはいえ、男女でデートなんだよ? お洒落を全くしてない格好だと嫌じゃない?」

 櫛田の女のプライドだろうか? だが、男とクリスマスを毛嫌いしていたんじゃなかったか?

「俺は別に櫛田がどんな格好しても別に興味ないんだが?」

「ふーん。そういう事言うんだ?」

 櫛田のワインレッドの瞳が俺を射竦める。ここがパレットで良かった。
 もし人気の無い場所だと罵倒されていた事だろう。

「じゃあさ。綾小路君が本当に私に興味が無いか試してもいいかな?」

 そういって悪戯を思いついたような笑顔を俺に向けてくる。なにやら恐怖を感じるのだが……。

 返事を保留していると、店の入り口から客が入ってきた。

「よお。綾小路に桔梗じゃねえか」

 現れたのは龍園。そしてその後ろには伊吹もいる。

「龍園くん。あっちの席があいてるよ?」

 出会いがしらに「あっちにいけ」と割と直球でいう櫛田。雑な扱いをされているのが自分だけではないと思うと何となくほっとする。
 なんせ。ペーパーシャッフルでは龍園はクラスを守る為に櫛田を裏切ったようなものだ。実際の所は裏切られた訳では無い。だが、櫛田の視点から見てみれば龍園は信頼に値しない協力者という立ち居地になる。

「そっちは。お前らがペアを組んでるのか?」

 所在なさそうな伊吹に俺は声を掛ける。

「嫌だったけど。仕方なくね」

 どうやらあまり乗り気じゃないらしい。無理も無い。伊吹は龍園の事を嫌っている。それでも実績が有り、クラスの代表と認めているからこそ付き従っている様子だ。

「本当はひよりと組もうと思ってたんだがな。あいつは家で読書したいからって断りやがったからな」

 椎名ひより。Cクラスでは珍しく龍園に意見を出来る人物だ。優れた洞察力と静かな物腰で、もうすこし表情が豊かなら人気がでそうといった女生徒だな。龍園のお気に入りなのか?

「多分それ椎名さんに拒否られてるんだよ。龍園君は女心もわからなそうだし。綾小路君と一緒で」

 何故か表の櫛田なのに辛辣な言葉を龍園に浴びせている。そんな事をしても周りの評価は変わらないとでも考えているんだろうな。龍園だし……。
 後、何故俺まで巻き込まれているのかについては一考しておきたい。

「くはっ! 言うじゃねえ桔梗。ここに居るってことはお前らもオリエンテーリングに参加するんだろ? そんな格好で出る時点で勝つつもりは無さそうだな? 精々楽しいデートを満喫してくれや」

 龍園が言ったのは櫛田の格好についてだ。ブーツは走るのに適していないし。スカートでは外に長時間居るのは辛いだろう。櫛田の格好はどれをとっても室内で過ごす前提の格好だ。

「なら賭けようか? 私達が負けたら20万プライベートポイント払うよ。そっちも同じ条件でどう?」

「いいぜ。ちょっと足が速いだけの奴と組んだぐらいでいい気になるとはな。桔梗。俺はお前を買いかぶりすぎていたようだな?」

 そう言って龍園は立ち去って行った。


 龍園が立ち去るとあたりにはざわめきが戻ってきた。
 もっとも、当事者の片割れが残っているので時折視線を送ってくる奴らがいるのだが。

「おい。何を勝手に決めてるんだ」

「駄目かな? これに勝てばCクラスとの差が詰められると思ったんだけど」

 確かに龍園からポイントを奪う事ができるのならそれは可能だろう。だが……。

「意外だな。Dクラスには協力しないんじゃなかったのか?」

 もしかすると櫛田も心変わりをしたのかもしれない。俺を退学に追い込むより一緒にAクラスを目指す方向に考え直したのか?

「そう言っておけば綾小路君も納得するかと思ったんだよ」

 どうやらそんな事は無かった。明るい笑顔で俺に宣言する。

「それに。綾小路君ならこの状態でも優勝させてくれるかなと思って」

 俺の彼女といい。なにやら評価が高いんだが。今回。俺はノープランなんだが。

「それで。どこで待機するかが肝心な訳だが……」

 それを言っても時間の無駄だ話を戻す。

 スポットが出現する可能性がある場所は全部で250にもなる。これは参加者全員に配られた街の地図に書かれているのだ。
 スポットの場所が1時間ごとに変更になるとして、どこで待機すれば良いかが勝負の鍵になるだろう。

 1時間ごとに届く運営からのメール。それと同時にスポットが切り替わる。それを見た俺達は最寄のスポットまで走ってスポットを回収するのだ。
 今回の勝負。8時間という時間の中で何度、最高得点を取れるかが優勝への明暗を分けることになるだろう。出現時間に到着するメールをみていかに早くスポットまで移動できるか。
 それ即ち、移動力の確保が肝心だが……。

 俺はチラリと櫛田の格好を見る。うん。どう見てもデートに出かける格好というか……。動き回れる格好じゃないな。

「ん? 綾小路君。今私の太もも見てなかった? そういうのはちょっと困るんだけど」

 わざとらしく頬を赤らめて皆に聞こえる程度の声で会話をする櫛田。これはもう確信犯じゃないだろうか?

「……ところで優勝するのには何ポイント必要だと思う?」

 龍園との勝負が掛かってしまった以上、ボーダーを計算しておくべき。俺はそう考えると櫛田に意見を聞いた。

「うーん。私が知ってる限りだと、勝ちに来るペアって多分10組も無いと思うんだよね。その中で5位に入りそうなのは。平田君と柴田君ペア。堀北さんと須藤君ペア。龍園君と伊吹さんペアかな?」

 どのペアも運動能力に自信がある上に知力面でもカバーできる人材が揃っている。

「全部で8回スポットが出現することを考えてもその全て採るのは不可能だから多分半分の20……いや23点もあれば優勝かな?」

 なるほど。お互いに潰しあう場合もあるだろう。大体そんなもんか。

「ありがとう。それじゃあ移動しよう」

「どういたしまして」

 俺のおざなりな挨拶にも櫛田は笑顔で答えてついてくるのだった。


「綾小路君。こっちのストールは似合うかな?」

「おお。いいと思うぞ」

【ブティックジュリア】

 現在俺達が居る店の名前だ。洋服からアクセサリーまでを取り扱うこの店は高級店の位置づけになる。
 普段ポイントをやりくりしている俺達学生にはとんと縁の無い店だ。

 櫛田に連れられて到着したのがショッピング街の一角にあるこのお店だ。周囲はクリスマスの装飾が彩られており、浮ついた空気が流れる中、この店に居るのは大人のカップルがほとんどで学校の生徒達は居ない。
 どうやら、他の店にいるようだ。。
それも当然。値段が高くて気後れするからだ。


 一応ここもスポット候補の一つなので問題は無いが、先程から櫛田は何かを見つけては持ってきて俺に意見を求めてくる。
 先程の俺の発言が胸に残っているのだろう。
 できればもうすぐ開始時刻になるので、すぐに移動できる体制を整えて欲しいのだが言っても聞いてくれなさそうなのでその辺は諦めるしか無いだろう。

「だんだんと返事が適当になってきているよ? そんなんじゃエスコート失格だよ」

 普段から外面は良い櫛田だが、今日はちょっとばかり様子が違う。裏の櫛田と言う訳では無いのだが、笑顔の輝きが10%増しに見える。
 やはりなんだかんだで女の子なんだな。新しい服を見るだけでこれほど楽しげになるのだから。

「悪いな。他人の服を見立てるのは苦手なんだ。そもそも自分の格好からして適当だしな」

 一応。帆波に見立ててもらったので服はそれ程浮くような感じではないと思うのだが。
 コーディネートした際の帆波の感想が「うん。これなら無難。動きの制限も無いし、妙に気合入ってるわけでもないから本命とのデートには見えないし安心かな」などと言っていた。

 そもそも今日の相手が櫛田と言ったあたりから帆波の笑顔が傾いたのだが、アレはなんだったんだ?
 まさか嫉妬なのか? でも行ってもいいって送り出してくれたしな……。

 まあいい。時間を見ると間もなく最初の告知が来る頃だ。俺は気合を入れなおしてスマホを手に持った。

【ブブブ】

 スマホが揺れる。用意をしていた俺と同時に櫛田も懐からスマホを取り出した。
 メッセージを確認してみると。

『以下の場所がスポットに登録されました』

・リフトエクリュ
・パリジャンケヤキ
・ラフォンタマジョーレ
・ブティックジュリア
・フォクシー
・チャネルケヤキ支店

 それと同時にそれぞれのスポットが地図アプリによって表示される。俺達から一番近いのは…………。

「えっ?」

 地図アプリにはクリスマスツリーの形をしたアイコンが落ちていた。
 どうやらこれがスポットらしい。目的の位置に到着するとアクティブになるのか現在地にあるクリスマスツリーは飾りが光っている。

「どうやらここがスポットみたいだな」

 俺は抑揚の無い声でそういった。

「あっ、綾小路君。認証してっ!」

 やや焦った声で櫛田が促す。どうやら自分の認証は終えているようだ。

「ああ。悪い」

 俺は急いでクリスマスツリーのアイコンをタップした。そうすると、『認証しますか?』とメッセージが出ると共に『はい』『いいえ』の選択肢が現れた。
 ここにきて『いいえ』を押す奴も居まい。

 この認証も早い者勝ちだ。折角運よくスポットにピンポイントで出会えたのだからこの機会を生かさない手は無いだろう。俺は即座にアイコンをクリックすると。

『認証しました。ペアに得点が加算されます』

 メッセージが現れた。

「やったね。ここは私達が一番だよっ!」

 嬉しそうに櫛田が近寄ってくる。邪気の無い瞳で見上げてくるのは計算だろうか? 彼女の魅力がこれでもかというぐらい発揮されてどうにも落ち着かないのだが。

「そうだな。次のスポットを押さえに……いや。無駄だな」

 俺はそう結論付ける。他のスポットまでの距離は結構ある。近い場所でも走って10分は掛かるだろう。
 それだけの時間が掛かるとなれば他のペアに抑えられるのは当たり前だ。どうやらスポット間には一定の距離があり、一度の更新で複数取るのは難しいようだ。

「うーん。そうだね。私も無理に走って疲れたくないし。……そろそろ次の場所に移動しよっか」

 櫛田はそう言って移動を促した。



 次に櫛田と訪れたのは。

【ジュエリーサロンケヤキ】

 ケヤキモール内にある宝石関係を扱っているお店だ。

「綾小路君。この指輪綺麗だと思わない?」

 ここでも櫛田は先程のブティックと同じような反応をしていた。
 やれ、ネックレスだ。やれイヤリングだと次から次へと持ってきては俺に意見を求める。

 先程の高級店と違って今度の店には何組かの男女が買い物に来ている。恐らくは付き合う直前か、ここでプレゼントを選んで勝負に出るのだと思われるのだが、もしかすると俺達もそんな風に見えているのかもしれない。

 そう考えるとなんとなく罪悪感が湧いてきたのか櫛田に対する受け答えを真剣にやってはいけない気になってくる。
 どうにも頭の中でアメシストの瞳が俺を恨めしい目で見ている気がするのだ。


「洋服の次は宝石って……本当にイベントの事考えてるのか?」

 もっとも、まだ法則を探す段階なので今すぐ何かを気張って考える必要は無い。チャンスは全部で8回あるのだ。最初のスポットを押さえたことにより俺達は今、確実に一番高い点数を獲得している。
 仮に一つのペアが全てのスポットを最初に獲得した場合、得られる最大点数は40点。つまりどうしても1位を取りたければ40点あれば確実という事。

 もちろんこの考えは現実的ではない。街一つがまるまるオリエンテーリングの舞台となっているのでいくつかは少ないポイントでも得られればラッキーだろう。
 更に、スポットの場所は1~8箇所となっていた。スポットが変化する回数が8回。つまり全ての回数が割り当てられているのだろう。そうすることによって同時優勝などの芽を摘んでいるとも言える。

「もちろんだよ。それより折角デートしてるんだからもっと楽しもうよ」

 何度も訂正しているのだが、無駄なようだ。俺は溜息をつきつつも櫛田の宝石選びに付き合うのだった。



「まさか二連続とはな……」

 俺達は今。レストランに来ている。
 普段学生達が使うようなチェーン店ではなく、それなりにこ洒落た感じの雰囲気の店だ。

 11時になり新たなスポットが判明した瞬間、店の外でガラスが割れる音が鳴り響いた。
 大半のカップルはそちらに集中する中、櫛田は俺の手を握ると意識をスマホへと誘導した。

 果たしてそこには新たなスポットとして登録されている俺達の現在地があった。他のカップルの隙をつくように認証を終えて得点を得た俺達は、自分達が最高得点を得た事を隠す為にその場を離れた。

 そして辿り着いたのがここという訳だ。

「ここは雑誌で評価されていたレストランでクリスマスには特別なメニューがあるらしいんだよ。折角なので一度来て見たかったんだよね」

 嬉しそうに語りかけるのは正面に座った櫛田。
 先程でたスポットの場所は4箇所だった。これはかなり運が良い。数が少ないスポットをピンポイントで抑えられたのなら、それは単独トップが確実になっているという証明でもある。

 そんな中、俺は櫛田をじっと見つめる。レストランのメニューを広げて楽しそうに見ている櫛田だ。そんな櫛田に対して俺は疑念を抱いている。
 こいつはもしかするとスポットが出る場所を知っているのではないか?

 先程のブティックも然り、宝石店も然り。いかにもクリスマスの恋人同士がデートでたまたま立ち寄りそうな場所にスポットが出現している。
 そして、このレストランも一応スポット候補になっているのだが……。

 ここで俺はある法則を見つけている。もしこの法則が正しいとしたら俺は櫛田が次に何処に行こうとしているかもはっきりと解る。
 それにはまず、ここがスポットになるかどうかが判断材料になる。

「綾小路君は何にするか決まった? 私はね。このクリスマス限定ランチにしようと思うんだけど」

 そういってテーブルの上でメニューを広げて指差してくる。
 チキングリルとビーフステーキにポテト。付けあわせでサラダとスープにドリンクバーとお好きなケーキ。
 学生には嬉しい量で更にワンコインと居たせりつくせりだ。きっと、クリスマスデートで散在した男の財布事情を汲み取ってこのようなサービスを行っているのだろう。

 もっとも。俺と櫛田は付き合ってないので、1ポイントたりとも使っていないがな。

「そんなに食うと体重が増えるぞ」

「綾小路君。それは女の子には禁句だよ?」

 にっこりと恐ろしい笑顔を向けられた。この失敗を帆波にはしないように心に刻み込んだのだった。

 折角なのでという事でクリスマス限定ランチを注文した。



 それから食事が到着している間にスポットの更新があった。案の定というかここでもスポットが的中した。残念ながら今回はここで食事をしている生徒達が多く、スポットの取り合いになって点数を得ることは出来なかった。だが、その時点で俺には本日の法則が完全に解明できた。

 次に訪れたのは美術館。ここでは世界の絵画や美術品が飾られている。
 外部から定期的に借り受けるので一定期間ごとに訪問すれば常に新しい美術品が見られる。

「綾小路君。こんなの見てみたかったの?」

 櫛田はショーケースを前かがみになりながら見ている。目の前には古代遺跡で発掘されたとされる土偶が飾られている。

「いや……別に」

 本当は櫛田が提案した場所は公園だった。何でもこの時間はクリスマスイベントをやっているらしく、カップルで訪れる客で賑わっているとか。

「雑誌に載ってたイベントも面白そうだったけど。こういう落ち着いた雰囲気で周るのもいいかもね」

 そう言ってはにかむ。

「それと。もしかして私の服装だと寒そうだから屋外を避けたのかな?」

 櫛田の何処か探るような視線に……。

 【ブブブ】

 メールを見る。新しいスポットが出現したようだ……。その出現場所は……。

「ありゃ。公園のイベントだ……。今回のスポットはそこだけだね。今から行っても間に合わないからこのままゆっくりしよっか」

「そうだな。まだ半分残ってるし、俺達は現時点でかなりリードしてるだろうしな」

 あまり残念そうに見えない櫛田の言葉に俺は同意するのだった。


 そして夕方。

「今日は楽しかったねー」

 俺は櫛田に散々連れまわされた。
 美術館や水族館。室内プール。そして街を一望できるビルの屋上。

 時にはスポットを完全に押さえたり、見当違いな場所に居たりしたのだが、それなりの数のスポットを回すことが出来た。
 櫛田はスポットの場所が外れていても特に焦る様子も無しに移動するつもりも無かったようで、他の生徒達が走り回るのをよそに俺達はデートをきっちり楽しんでいた。

 間もなく終了の時刻が差し迫っている中。櫛田は俺を誘ってこのビルへと上がった。

「俺は楽しかったより疲れたけどな」

 全力ではしゃいで楽しむ櫛田のエネルギーに引っ張られたというか、女との買物は疲れるというか。とにかく気が休まる場面が少なかった。
 もし帆波とデートをするとして俺は倒れずにいられるのだろうか?

「そうかな? そうかもね。綾小路君はそういうの苦手そうだもんね」

 そう言ってくすくすと笑う。今日一日付き合わされたが、櫛田は終始俺に対して笑顔を向けていた気がする。

 風がたなびき彼女の髪を揺らす。夕日は沈み、天には一番星がキラリと輝く。
 彼女が何を考えているのかは解らない。先程までの笑顔は無く、つまらなそうに風景を見ている。

 まるでこの宴が終わるのを望んでいないように。

「綾小路君。私ね――」

 そういって振り返った彼女は言った。ワインレッドの瞳を潤ませて――。

 その声は風に流れて俺の元へと届いた。



************************後書き***********************************

次の話はR-18のタグをつけます。
ご了承下さい。

Comments

  • せさせ

    R-18。 それはもしや「次も見ろ」と言ってるんですね? そうなんですね? フッ、そんな手に乗るわけ・・・あるじゃないですか

    October 22, 2017
  • Wrath

    続きはR-18ですか…凄く気になります! 次の投稿楽しみに待ってます!

    October 22, 2017
  • silver

    うわあ!続きはやく読みたいいいい!!!

    October 22, 2017
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