夜になってもドラえもんが中々帰ってこないと心配して机の引き出しをじっと眺めていると、突然ドラえもんが飛び出して来る。
ビックリしたじゃないかと文句を言おうとしたところで、ドラえもんが先に頭を下げて来た。
「ごめんねのび太君、うちでの小づち改を取り返してこられなかった」
「えぇ~!?」
話を聞くと、商品を配った後すぐに欠陥が見つかり自主回収騒ぎが起こり、未来デパートは大混乱。
その欠陥というのは、願い事を叶えた後それを認識出来るのが使用者だけになってしまい、その効果があまりにも強すぎたこと。
おかげで本来の歴史を第三者がちゃんと認識出来ない危険性が分かり、誰もが意図せず本来の歴史を大きく変えてしまう可能性が判明したのだ。
「そんな危険な物を試供品として百セットもばら撒いたんだ。回収後も誰がどんな願いをしたか判断するのに時間が掛かるから、安易に元に戻すことも出来ず。タイムパトロールが特別チームを組んで優先度が高い物から処理していくことになったんだ」
ささやかな願いをした者もいれば、なんでも叶う願いという言葉に踊らされとんでもない願いを叶えた者もいたらしい。
すぐさまタイムパトロールが調査に入り、歴史に致命的なダメージを与えそうなものは早急に修正をかけている真っ最中のようだ。
「そ、それじゃ出木杉はいつ元に戻せるの?」
「わからないんだ、個人の性別が変わっただけだから歴史に与える影響力は多くないはず……元に戻してもらうのは後の方になっちゃうかも。中には総理大臣になりたいとか、世界一の金持ちになりたいとか願った人がいるらしくてね、未来の世界経済が大混乱一歩手前で、原因究明の段階で大騒ぎなんだ」
未来の世界ではどこまでか改変されつつあることなのかそうでないことなのかを調べるところから始まり、タイムパトロールが出てくるほどの大事になっている。
いくらドラえもんが何度も時空犯罪者たちから歴史を守って来た名誉ロボットとはいえ、簡単に道具を取り返すことは出来なかったのだ
「もし早く事件が収束したらすぐにでも元に戻せるだろうし、逆に言えば時間が掛かれば掛かるだけ出木杉君を元に戻すのも時間が掛かるんだ」
「そ、そんなぁ~」
「とりあえず、なるべく早く元に戻しても貰えるようにドラミと一緒に未来で署名を集めて、未来デパートとタイムパトロールに掛け合ってくるよ。そんなわけだから未来と今を行ったり来たりするから、顔を合わせる機会も減っちゃうけど大丈夫かい?」
もちろん、こんなことですぐに手を引いて諦めるドラえもんではい。
セワシやドラミと署名を集めたり、お世話になった寺尾台校長に相談もしようとしていた。
こうなってしまえばのび太に出来ることはない。
少しでもドラえもんが動きやすいようにと思い、自分の出来る範囲で応援する他なかった。
「わかったよ、頼むよドラえもん!」
「任せて! それじゃ、また未来の世界に行ってくるね」
そうしてドラえもんはまた未来の世界へと旅立って行く。
「ってことはもうしばらく出木杉はあの姿のままなのか。まいっちゃうなぁもう」
可愛い女の子を目に入れるのはうれしい反面、中身を知るのび太からすればなんとも変な感じがする。
それに、勉強する約束もしてしまったし、これからそれとなく気遣いをしなくてはならないだろう。
「そうだ! 出来る限りしずかちゃんやジャイアンも誘ってみんなで遊ぶようにしよう」
勉強会はともかく、みんなで普段遊ぶときに出木杉を誘うようにすれば特に問題も起こらないだろう。
それにいつも遊んでるメンバーならのび太も気心が知れてるし、のび太一人が神経を使い続けることも減るだろう。
「そしたら明日の朝にでも出木杉を誘っちゃおう」
幸い朝一で学校に行けば確実に出木杉に会うことも出来るのだ。
宿題の心配もないし、今のうちにぐっすりと寝て学校に行けばいいのだ。
次の日、再び朝一番の学校に到着すると今度は先に出木杉の方が登校していた。
「おはよう出木杉君、今日は二番乗りだ」
「おはようのび君、今日も早いね。昨日はありがとう」
互いに朝の挨拶をすますと、出木杉は昨日のことでお礼を言ってきた。
「いやぁ、おかげで今日も宿題をきちんと提出出来て、先生に怒られなさそうだよ」
まさか二日連続で遅刻も宿題忘れもしないなんて、のび太の学校生活においてこれほどの快挙はないだろう。
それもこれも昨日出木杉と一緒に、普段ならしたくもない宿題を渋々ながらきちんとやり終えたからだ。
「それは良かった、でも、出された宿題は僕がいなくても毎日しなくちゃダメだよ」
こちらのことを想っての正論なのだが、のび太には耳が痛い話だ。
あまり広げて欲しくない話だし、放課後の遊びに誘う話をササっとねじ込もうとする。
「そんなことよりさ、よかったら放課後みんなで遊ばないかい? 勉強ばかりじゃなくてたまには思いっきり遊ぼうよ」
のび太はそれとなく出木杉を遊びに誘う。
女の子になったとはいえ中身はあの出木杉なのだから、そこまで緊張することはないだろうと高を括っていた。
「いいね! それじゃみんなで遊ぼうか。他には誰を誘う?」
思いのほかノリノリで、満面の笑みでのび太の誘いにのって来た。
これにはのび太も面食らってしまう、遊びに誘った時こんなに喜ぶ奴だったろうか?
(そう言えば他のみんなと比べると、僕から遊びに誘うことって少なかったよな)
大体のび太が遊び相手と言えば、しずか・ジャイアン・スネ夫の三人が基本だ。
思えば自分から出木杉を誘う時は、大体何かしら裏があるような時ばかり。
もしくはしずかが誘った時だけのような気もしてきた。
(なんか仲間外れにしてたみたいで悪いことしちゃったかな。中々遊びに誘うきっかけがなかったんだよね)
のび太の名誉のために言っておくと、決して毛嫌いしてるわけではない。
ただ、しずかを狙うのび太にとって、もっとも強力なライバルである出木杉を呼ぶのを躊躇してしまっていた。
それと同時に、何かしらの遊びをしても出木杉が優秀すぎてどうしても勝ち負けに差が出来てしまう。
だから遊びに誘うとしたら野球の試合とか、たくさんの人数が集まるような遊びになってしまう。
未来のケイドロ遊びが出来る『なりきりケイドロセット』をみんなでした時も、出木杉一人で八面六臂の活躍をしていた。
「どうも勉強ばかりしてるイメージや、人に教えてる時間が長いから遠慮してあんまり遊びに誘われないんだよ。かといって普段遊びに参加しない人が急に誘うのも気が引けてさ」
何をして遊ぼうかとすでにウキウキで話す出木杉。
のび太が思っていた以上に、出木杉はみんなと遊びたかったのかもしれない。
確かによく考えてみれば、のび太の知る限り勉強ばかりしているイメージが強いし、実際そうしているのだから仕方ないのだが……。
(でも、そんなことで気後れするタイプだっけ。結構遊びにはノリノリで参加してたし、みんなも頼りにしてたような気がするけど)
優秀すぎることが人を避けるなら、優秀だからこそ声を掛けられることもあるのだ。
それこそ野球をする時には秘密兵器としてジャイアンに呼ばれ、スネ夫たちがジオラマで映画を撮ろうとした時も一番に誘われてる。
事実のび太とドラえもんが映画を作ろうとした時だって、ドラえもんがその頭の良さを買って遊びに誘っている。
「そんなに誘われてなかったけ? みんな頼りにしてるイメージだってあるよ」
しかし、そんなのび太の言葉に出木杉は少し寂しそうな顔をする。
「誘ってもらえることは多いんだけど……ほとんどが男の子ばかりで、純粋に遊ぶってのとは少し違うんだよ。女の子とはあんまり遊ばないし」
実は出木杉が女の子の世界線は、ほんの少しのび太の知る世界と違っていた。
今まで男の子でクラスのスターだった出木杉が、女の子としてクラスのマドンナになる。
そのせいで、群がるのが女の子から男たちへと変わる。
これで面白くなく感じるのがそのまま男子から女子たちへと変化した。
すると積極的に遊びに誘うのは男子ばかり、遊びに誘うというのも多少の下心が混じる。
女子たちからするとモテすぎる出木杉は遊びに誘いづらいし、勉強を教えてもらう程度ならいいが、遊びに誘うのは同性で話しやすいしずかの下へ向かう。
年頃の男女が持つちょっとした気持ちの差なのだが、小学生の子供たちではかなり環境が変わるのだ。
「女の子たちに嫌われてるってわけじゃないと思うんだ。でもちょっと仲良くなれてなくて」
寂しそうに話す出木杉。
男にモテるのを自慢するわけでもなく、むしろ寂しそうにしている。
(そっか! 僕が出木杉に嫉妬してたみたいに、女の子たちが出木杉に嫉妬してるんだ)
成績優秀、容姿端麗、趣味で料理やお菓子も軽々作れてしまう。
女の子としてみればしずかに並ぶ、まさに完璧な存在だ。
前まではそれに並ぶ異性のしずかが横にいて互いのバランスを取っていたのだろうが、出木杉が女の子になってしまった影響でそのバランスも崩れた。
元々男子の中でも少し浮いていた出木杉は、この世界線でさらに他者との溝が深まってしまった。
男子と女子のコミュニケーションの違いや、文化の違いも大いに影響しているのだろう。
(僕は嫉妬しなくなったけど、代わりに出木杉がたくさんの人に嫉妬されるようになっちゃったんだ)
誰も知る由もないが、こうなってしまった原因はのび太の願いなのだ。
グッと自分がしてしまった願いに罪悪感を感じ、出木杉をどうにかして助けられないかと考える。
(せめて少しでも早く元の姿に戻ってくれればなぁ)
そう願うことしか出来ない自分が情けなくて仕方ない。
「ほら、のび君が一度女子野球のチームを作っただろ。あれにも参加してみたかったんだけど、ちょっと勇気が無くてさ……」
「野球チーム? あぁ、一度だけジャイアンズに対抗して作ったんだっけ」
「女の子が野球するクラブなんてこの辺にないだろ。本当は一度でいいから僕も野球をしてみたかったんだ」
出木杉は野球が上手い、ずっとエースで四番を務めるジャイアンが舌を巻くほどに上手い。
そのはずなのに、目の前にいる出木杉は野球未経験のような言い方だ。
「もしかして野球をしたことないの?」
「うん、やってみたいけど男の子が集まったチームに参加させて欲しいって言いづらいだろ」
こんなところでも歴史が改変されてしまっていた。
今まで出木杉が野球をしていたという事実は無くなり、野球は未経験で興味を持っているが出来ていないのが事実になった。
「そうだ、それならみんなで野球をしよう! ジャイアンにお願いしたらすぐに出来るよ」
「本当! すごく楽しみだよ」
「休み時間中に話をしておくから、放課後空き地に集合しよう」
「ありがとうのび君! 今から楽しみだなぁ~」
そう言って笑う出木杉の顔は、いつもの優等生の顔ではなく年相応の少女の笑顔だった。
「出木杉さんをジャイアンズのメンバーに入れろってか!?」
「うん、お願いだよジャイアン」
「でも出木杉さんは女の子だろ。男子の中に混じらせるなんて危ないよ、それに運動神経がいくら良くても野球が出来るとは限らないだろ」
突然の提案にジャイアンを驚き、スネ夫は否定的な意見を口にする。
確かに女の子を野球に参加させるのは危ないし、運動神経が良くても野球が出来るとは限らない。
スネ夫の言うことももっともだ。
「頼むよ、野球をしてみたいけどずっと出来ないでいたんだ。それにみんなと遊ぶ良いきっかけになるだろ」
「う~ん」
ジャイアンは腕を組んで悩み始める。
「絶対そこらの男の子よりも上手いのは決まってるんだ。チームを強くするためにもさ」
「なんでやったことない奴が上手いなんてわかるんだよ」
スネ夫のツッコミは正しく、出木杉は野球が上手い何てそれこそ本人も知りえない。
「とにかく保障するから、なんとか野球の試合を出来ないかな?」
のび太に出来るのはこうやって頭を下げることだけだ。
「良いだろう。俺がジャイアンズを集めるから、スネ夫は対戦相手を何としてでも連れてこい!」
「えぇ!? 本当にやるの」
「当たり前だ! 我がジャイアンズのマネージャーが優秀な選手をスカウトしてきたんだぞ、これに答えなくて監督兼エースが務まるか!」
ジャイアンの檄が飛び、スネ夫も渋々承諾する。
「ありがとうジャイアン!」
ジャイアンの手を握り、のび太は感謝の意を示す。
「良いってことよ、俺も出木杉さんとあんまり接点がなかったしな。本人が興味を持ってるならやらしてやりてぇもんな。心の友が頼んでくるなら仕方がねぇよ」
ガキ大将は人の面倒見も良い。
彼も出木杉がややクラスで浮いている存在であることを知っており、こうやって向こうからきっかけがやって来たのであれば率先して受け入れてやりたいと前々から思っていたのだ。
「ただし、面子が集まらなかったらのび太にも試合に出てもらうからな」
「もちろん、任せてよ」
『寺尾台校長』
ドラえもんが通っていたロボット養成学校の校長先生。
映画「2112年ドラえもん誕生」で初登場し、その後「ザ・ドラえもんズ」や大山版に逆輸入され時折登場。
ドラえもんズとセットで覚えてる人多いはずなのだが、水田版に移行する際ドラえもんズの存在はなかったことに。
他のキャラたちも消えてしまったのだが、なんと寺尾台校長だけは続投(さすがに中の人は変わったが)
私が一番好きなドラえもんズの映画は「怪盗ドラパン謎の挑戦状!」
水が苦手なのに立ち向かったり、友情のために一人奮起し、敵でさえ信じ抜くドラメット三世。
おとぼけてる癖に仲間のことは大好き、そんな仲間をひどい目に遭わせた敵の罠を見抜きながら、一人の女の子を信じるドラニーニョ。
何度見ても涙腺がウルウルとしてしまい、友情というテーマが一番響く作品。
ラストのドラえもんズ合体からの、みんなの個性で戦うのも王道的で盛り上がる。
『なりきりケイドロセット』
原作では登場しておらず、水田版オリジナルひみつ道具。
ケイドロを未来的に遊べる道具で、クラスメイト大多数で遊ぶ珍しいアニメ回。
余談だが水田版のモブキャラにも可愛い女の子が多いのだが、私の一押しは「中村」さんである。
それこそ彼女をヒロインにして話を書いても良いし、彼女に成り代わってドラえもん大長編や日常に挑むという話も悪くないのだが、如何せん知名度が薄すぎて読んでる人にも刺さりにくかろう。
ケイドロの回やジャイアンリサイタルの中毒になる回の彼女はすごく可愛い。
『ジオラマ映画』
実は子供ながら映画製作をしてることもある。
てんとう虫コミックスのドラえもん第20巻、及び藤子・F・不二雄大全集ドラえもん9巻に収録「超大作特撮映画「宇宙大魔神」」
ひみつ道具で特撮を撮ることになりシナリオやねんど細工を担当、宇宙船や怪物など見事な出来の物を短期間に作り上げている。
大山版で一回。水田版で二回づつアニメ化されているがなんとすべて特番で放送されている。
そのうち一回は撮影した内容は約八分(通常の一話分に相当)ノーカットで放送された。
もう一つは映画「宇宙小戦争」でジャイアンやスネ夫と共にプラモを使ってミニチュア特撮ビデオを撮影していた。
昔は映画研究会などが部活やサークルで数多くあったと聞いたが、私の周りではそう言った集まりは全然なかった。
もしも特撮映画を撮るとしたら……いや、私の特撮ど真ん中は「激走戦隊カーレンジャー」なので、きっととんでもないカオスは話に仕上がってしまうだろう。
『女子野球チーム』
てんとう虫コミックスのドラえもん第7巻、及び藤子・F・不二雄大全集ドラえもん4巻に収録「ジャイアンズをぶっとばせ」のエピソード。
のび太が野球でのけ者にされ、女子野球チームを作って試合をする話。
この回限定の個性豊か(のび太曰くすげぇのが集まっちゃった)な女子勢ぞろい。
映画「月面探査記」に出ているクラスメイトは原作キャラをちりばめてるのだが、なんとこの回から四名も引っ張ってきている
『ジャイアンズ』
ジャイアン率いる草野球チーム。
いくつのも野球チームがあるようなのだが、その中でもあまり強くない部類に入るようだ。
というのも運動音痴なのび太を度々試合に誘わないといけないほど選手層が薄く、大体のび太が参加する試合は負けが込んでいる。
一度作中でスネ夫が全員の個人成績を割り出しておりなんとのび太の成績は驚異の打率一分、これは百回打順に立てば一回ヒットを打つ計算となる。
所属選手は少ないだろうと思うことなかれ、なんと「引くえもん」を見るに六十名以上原作に野球をするモブ登場しており、どのくらいの規模のチームかいまいちわからない。
基本な名のある脇役たちが選手として参加しているが、ポジションなどもまちまち。
『ガキ大将』
ジャイアンを一言で表す言葉。
本来の意味合いとしては小学生以下の子供たちの中でリーダー的存在のこと。
古い漫画ではおなじみのポジションであり、腰ぎんちゃくとセットで登場していたものだが、近年ではガキ大将という言葉は使わなくなってきた。
そう言ったポジションのキャラはいるのだが、単に名称として使われなくなってきている。
今ではガキ大将=ジャイアンくらいの意味合いだろうか?
ジャイアンの持ち歌でも自分がガキ大将と歌っており、本人的にもしっくりくる肩書なのだろう。