TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】 作:GT(EW版)
──極楽である。
ほのかに感じる硫黄の匂いに、立ち上る白い湯気、身体の芯まで温まるこの感覚。
まさに、温泉にやって来たという感じだ。事前に「サーチ」を使って効能や成分は調べていたが、異世界でも温泉の質は変わらないようだ。この心地良さは世界共通である。
しかし立派な温泉である。寧ろ、大自然の中の天然の露天風呂としては、綺麗に舗装されすぎているぐらいだ。
もしかして……
「この温泉は、キミが作ったのかい?」
『……私は環境を整えただけです。温泉自体は自然のものです』
「やっぱりそうか。もしかして、ボクらが入るのはマズかったかな?」
『……別に、私専用ってわけじゃない。野生の動物とか、たまに入ってきますし』
「そうか」
へえ、やっぱり普通の野生動物もいるんだこの世界。猿とかカピバラさんとかが入浴しにくるんだろうかねー。動物と一緒にお風呂でくつろぐマルクト様ちゃんの姿を想像し、僕は一人ほっこりする。ぶつくさ文句言いながらも、丁寧に身体を洗ってあげたりしてそうである。
あっ、カバラちゃんもぷかぷかと仰向けに浮かびながらスイーッと湯に浸かっている。かわいいね。
「いいところだね。キミも好きなんだ、温泉」
『……嫌いじゃ、ないです』
ほほほ、照れるでない照れるでない。
島の絶景を堪能しながら外からは見られることなく、いい感じに木々の衝立が周りを囲んでいる環境を整えてくれたのは、全て彼女のおかげだったようだ。
このレイアウトも、実にいい趣味しているね。僕はこれだけでもう、彼女への好感度が鰻登りだった。
手で汲んだ湯をちゃぷちゃぷと自分の肩に浴びせながら、よりすべすべになった肌の感触を確かめて僕は微笑む。
やはり、いいものだね温泉は。到着と同時に全裸の先客がいるという実にオリ主らしいラッキースケベイベントを満喫した僕だが、この温かな湯の中ではその時抱いた邪な感情も洗い流されるようだった。
「はい、もう大丈夫だよ」
「ありがとうエイト」
程よく上気した顔でひと心地つきながら、僕はハラリと崩れ掛けていたメアちゃんの頭のタオルを巻き直してあげた。
この子のように髪が長い子は、湯船に入らないように気を遣わなきゃならないから大変だよね。
その点、エイトちゃんは肩に掛かる程度のショートカットなので楽である。
そしてマルクト様ちゃんの髪も相当に長かったが、こちらの世界では文化が違うのか彼女はノーガードでお湯に浸かっていた。
「マルクトの髪も結い上げようか? 髪の毛、中に入ってるよ」
『……そんなもの、気にしなくてもいいでしょう。中に入った髪は聖術で掃除します』
「でも、髪が傷むよ?」
『それも聖術でケアできます。私なら余裕です』
ふふん、とちょっとドヤ顔で言うマルクト様ちゃんである。便利だね聖術。異能の原型と呼ばれているだけのことはあるわ。
聖術と異能は原理で言えば変わらないけど、イメージ的に聖術は使う者によっては何でもできる万能の力で、異能はよりオーダーメイド的に使い手に合わせて特化した能力のような感じかな。基本的には聖術の方が優秀だけど、一分野に関しては聖術以上の力を発揮することがあるのが人間の異能である。
まっ、僕の異能は両者のいいとこ取りみたいな性能だけどね。聖術並に応用範囲が広く、異能並の出力がある。まさしくチートオリ主に相応しい能力だった。
でも、何でもかんでも不思議な力に頼るのはそれこそ風情が無い。
特にこのような温泉に入る時などは、ありのままの姿でいたい自分がいた。わかる? このフィーリング。
「それでも大切にするに越したことはないと思うけど……せっかく綺麗な髪をしているのだから」
『ティファみたいなこと言いますね、貴方は……』
「ん、そうかい?」
髪は傷んでも一瞬で治せるし、中に入った髪もすぐに掃除できるので問題ない。寧ろ美少女大天使の毛とか御利益があって良さそう……と言うのはセクハラだな、ごめん。
合理的に論破されたので大人しく引き下がるが、それはそれとして彼女のうなじが見たかったので僕は残念だった。
……邪な心、洗い流せてねぇな僕。
ちゃうねん、何もかんもマルクト様ちゃんがえっちすぎるのが悪い。
上と下の秘部は折り畳んだそれぞれの羽に覆われ巧妙に隠されているのだが、それがまた余計にフェティシズムをくすぐるのである。
流石は僅かな出番ながら原作ファンからは、灯ちゃん、ティファレトと並ぶ三大セックスシンボルに数えられていただけのことはある。マルクト、恐ろしい子……!
弁明させてもらうが、僕は決してハアハアと性犯罪者みたいに欲情しているわけではない。浴場で欲情……ごめん何でもない。
子供の時の僕の性癖を破壊した美少女天使が、今僕の前で裸身を晒している。この背徳感が何か、物凄く感慨深かったのである。ケセドもそう思うだろう?
……あっ、そう言えばケセドから見たこの状況どうなっているんだろう。いや、気にしない方がいいな彼の名誉的に考えて。
──さて、この状況。
せっかくの温泉、雰囲気を悪くしたり難しいことを考えて脳を働かせたくない。故に僕は実にリラックスした姿勢で湯に身体を預けていた。
しかし、マルクトとメアはお互い警戒し合っている様子であり、チラチラと窺う表情はぎこちなかった。
むむむ……いただけないなこれは。僕だってそんなつもりでメアちゃんをここへ連れてきたわけではないのだ。
よし、ここは僕が一肌脱いで二人をリラックスさせてあげよう。
「てい」
「……?」
まずはメアちゃんからだ。
僕は彼女の背中に生えている白い羽の一枚に触れると、付け根の部分から優しく揉みしだいてやった。
突然の感触に、彼女の肩がピクリと揺れる。
「ぁぅ……っ、エ、エイト?」
「メア、表情固いよ? 肩肘張らないでほら、リラックスリラックス」
「う、うん……」
天使の羽って痛覚とかどうなっているのだろうと思ったが、その反応を見る限り身体機能の延長線として神経が通っているようだ。どうやら僕とは違うらしい。
僕が力を使う時に背中から出している羽は、見た目こそ本物と遜色無いが、あくまでも「闇の呪縛」をベースにしたエネルギー体だからね。だから僕の羽に神経は通っていないのだ。
しかしそうなると、天使の皆さんって肩が凝りそうな種族である。
いや、それも癒しの聖術とかでどうとでもなるんだろうけどさ。
だけどメアちゃんは聖術使いとしてはまだ未熟なわけで……ああ、やっぱり凝っておられる。
そりゃあつい最近まで生えてなかったものが、背中から四枚も生えてきたのだ。いかに強化された肉体だろうと、凝るものは凝る筈だろう。
それに、彼女の白い翼はよく見ればところどころ色がくすんでおり、この世界に来てから相当酷使しているのがわかった。頑張り屋さんである。
「ああ、ここのところの毛が傷んでいるね。治してあげるからじっとしてて」
「ん……ありがとう……ぁ……」
ほうほう、手触りは思ったよりもふもふしているね。コボルド族の少年やカバラちゃんの毛並みと似た質感である。
ならば、村長さんから貰ったこのブラシが役に立つというもの。
僕はヒーリングタッチで彼女の羽の傷んだ部位を修復しつつ、カバラちゃんの為に練習中のブラッシング技術でその羽毛を手入れしてやった。
もちろん、抜けた羽は全てアイテムボックスに回収しているので、湯を汚すこともない。やっぱりあって良かった、この異能。
「ん……ぁ……ふふ……エイト、気持ちいい」
「そうかい? お褒めに預かり光栄です、お嬢さん」
『…………』
メアちゃんは喉元をゴロゴロと揉まれた子猫のように、目を細めながら気持ち良さそうにしていた。時折漏れる声が少し艶やかな気がしたが、それはまだ僕の心が洗い流されていないからに違いない。
それではいけない。今の僕は綺麗なエイトちゃんである。いつも綺麗だけど。
サーチを使いながら即興で試してみたマッサージだが、上手くいったようで何よりである。
人体とは不思議なもので、身体の緊張と心の緊張は強く結びつく。その点身体をほぐしたことでメアちゃんの心も同様にリラックスしてくれたようだ。
綺麗な景色に温かい温泉、そこにエイトちゃんマッサージを合わせれば、どんな荒熊だってテディである。自分の才能が怖いなー!
そして僕たちがそのようにキャッキャウフフと安らぎの時間を過ごすことで、そんな僕らを見たマルクトの緊張も解れないかなぁと期待していたのだが……漠然と僕たちのやりとりを眺める彼女は、意外な反応を寄越してきた。
『……お兄ちゃん……』
彼女は昔を懐かしむような、寂しそうな顔で小さく笑ったのだ。
お兄ちゃん──とは、ケセドのことだろう。しかし首を捻る。
えっ、今の僕たち、ケセドと重なるようなところあった?──と。
まさかケセド、お前……
「キミも、誰かにこうしてもらったことがあるのかい?」
『……昔のことです。あの時のケセドは……嫌いじゃなかった。温かい手を、していたから……』
お、おう……ケセド君、君は妹と一緒に風呂入りながら、毛繕いまでしていたのか。マジかー……
その時のマルクト様ちゃんはもっと幼かったのかもしれないが、なんだかインモラルな気配がする。
びっくりして「えっ……」と声を漏らした僕に対して、彼女が赤い顔で訂正した。
『い、一緒に入ったことなんてあるわけないでしょ!? 翼のことです翼の!』
「ふふっ、そうだよね。すまない」
良かった……安心した。危うく僕の中で、ケセドに対する酷い解釈違いが発生するところだったよ。
だけど『ケセドは私の翼をこう治してくれたのです!』と実演する最中、彼女の羽がピコピコと動き、その度に隠されていた秘部がチラチラと見えていたのは指摘した方がいいのか迷ってしまう。
いや、どうなんだろう? 流石の僕も、こういう時の女の子のマナーはわからんのである。
そんなセクハラ染みた思考に気づかれることなく向き合った僕に、マルクトは語った。
『……貴方たちを見ていると、妙なことを思い出します』
昔、彼女がまだ未熟で怪我ばかりしていた頃──彼がその度に癒やしの聖術を掛けて治療し、さっきのメアちゃんのように羽の綻びを手入れしてもらっていたと。
そのおかげで彼女は美容に気をつけるようになり、ティファレトとの仲が深まったらしい。へえ、そんな経緯があったのか。
なんだケセド君、いいお兄ちゃんじゃないか。僕は聞こえていないだろうが僕の中にいる本人を褒め称えてやった。
そしてそんなマルクトの隠しきれないお兄ちゃんへの親愛は、メアちゃんにも伝わったのか……彼女は意を決したように目を開き、言い放った。
「ケセドは……戦いを止めたがっていた」
『ふん、だからあの天使は愚かなんです!
「それは貴方の為……貴方を戦わせたくないと、思っていたから……」
『……は?』
……うん?
あれ? ケセドが人間世界との衝突を止めたかったのって、罪の無い人間を守りたかったからじゃなかったの?
おーいケセドー……駄目だ。僕の中にいるからって、なんでもかんでも教えてくれるわけではないか。彼にだって選択の自由があるのだから当然である。
メアちゃんにだけは教えたのはアレか……凄くいい子だもんね、この子。姪感覚で相手をしていたら、ついつい口が軽くなったのだろう。
そんなメアちゃんが、呆気に取られたマルクトに続けてポツポツと語り出した。
「マルクトは、とても優しい子だから……戦っていくうちに良い人間もいることを知ったら、きっと誰よりも苦しんでしまうって……だからそんなことは、貴方にさせたくないと言っていた」
『……! な……な……っ』
あー、なるほどね。
わかる。確かにフェアリーワールドを守る為とは言え、かわいい妹の手を汚したくはないだろう。
しかも、マルクトはサフィラス十大天使の中でも特に感情的なタイプだ。
今の彼女が人間のことを言葉通り嫌っているのは間違いないのだろうが、だからと言ってこの子がコクマーのように無慈悲にその他大勢の人間を殺しに掛かれるかと言うと、ちょっと想像つかなかった。今の時点で僕に対してはちょっと絆されているもの。
まあ、それでもケテルの命令ならば忠実に働くのがマルクトという大天使だが、もしも人間サイドの事情を理解したらお互いに辛いことになると、ケセドは思ったのだろう。
彼の慈悲とて無償ではない。彼なりに自分たちの為を思って戦いを止めたがっていたというのはわかる話だった。愛されているなぁ末妹。
しかし、そんなことを言ったら彼女がどう思うかは火を見るより明らかである。
案の定、マルクトは湯しぶきを上げながら立ち上がると、凄まじい剣幕で僕──の中にいるケセドへと詰め寄ってきた。
『舐められたものですね! たかが人間にいいようにされた貴方と違って、私は貴方より強いんです! 馬鹿にするなっ! 人間なんて、今すぐにでもこの手で……!』
「マルクト」
『──ッ』
それ以上いけない。
続く言葉に危険な空気を察した僕は、マルクトの両肩に手を掛ける。
そうして彼女の顔を、息が掛かるぐらいの距離でじっと見つめてやった。
「落ち着いて、マルクト。キミはそんな子じゃない」
『……! ……っ』
はい、僕の目をよーく見て深呼吸、深呼吸。
幼女の前で「殺す」とか、そう言う言葉は言わないでよね。原作知識とは関係無く、それは何となく君のキャラではないと思うのだ。
『わ、わかったから離してくださいっ』
「うん、わかったならいいんだ。少し、頭を冷やそう」
一旦立ち上がって湯船から身体を出すと、僕は足だけを浸けながら端にある岩場の上へと腰を下ろした。ふぅ……あー風が気持ちええ。
メアちゃんはと言うとそんな僕を真似するようにちょこんと隣に腰掛け、一方カバラちゃんはのぼせたのかお湯から出てブルブルと身体中の水分を飛ばしていた。
そしてマルクトは僕の向かいの岩場へと座り込み、すぅっと息を吐いて気を鎮めた。
マルクトの人間嫌いは筋金入りだと思っていたが、真っ正面から言ってみれば聞いてくれるものだ。
それともコレも、僕のオリ主補正って奴が出ちゃったかな? やー参ったなー。
僕はこの温泉から下に広がる景色へと視線を移す。大自然と一体化した、険しくも美しい世界に溜め息混じりに感嘆の声を漏らした。
「ここはまるで、彼の心を表したような島だね」
『……当たり前でしょう。ケセドの島なんですから……』
「うん、そうだね。そしてここは、彼が守ってきた場所でもある」
いやあ、素晴らしいね本当に。僕この島好き。温泉あるし、綺麗だし、あと立地が高いのがいい。こういう高いところに住むのは前世からの夢だったんだよねー喘息だったから無理だったけど。
まあ、前世のことはどうでもいい。個人的に、SSでもそういう設定にはあんまり触れてほしくないと思っている。ああいうの、現実に引き戻されるようで少し苦手なのだ。
「ふー……空気が気持ちいい。いい湯だった」
立ち上がって僕は、両腕を広げながら風を感じた。
こんなにも神秘的で壮大な大自然の中で、こうして真っ裸でいると悟りを拓けそうになる。
生命の素晴らしさとか、そんな感じのテーマである。僕の行動目標は完璧なチートオリ主になることだが、今この時だけはそれ以上にこの世界に浸っていたい気持ちに溢れていた。
身体の火照りが収まったことで、賢者モード的な何かになったのである。何だろうかねこの切り替わり。
ふふ……と、思わず笑みを漏らし、僕は月に照らされた大自然の景色を眺めながらマルクトに訊いた。
『マルクト……キミは、この世界を憎いと思ったことはあるかい?』
『……?』
彼女のことを説得したいとか、そういうわけではなかったが、今は何となく真面目な話をしたい気分だった。
なので僕は月に照らされた裸のエイトちゃんもカッコいいなと思いながら、湯けむり舞う場所で彼女と語り合った。
そして翌日──マルクトはセイバーズに決闘を挑んだのである。
……何故に?
とある世界線では、神懸かり的なカメラワークにより放送時間の変更を阻止されました。今にしてビビるらんま1/2の温泉回のモロっぷり