【連載】第13回部員オススメ作品紹介『斜め屋敷の犯罪』
今回は、島田荘司『斜め屋敷の犯罪』(講談社)を紹介する。
本作は島田氏の人気シリーズ〈御手洗潔〉シリーズの第二作にあたる。第一作はかの有名な『占星術殺人事件』なのだが、別に本作を読むために占星術を読まねばならない、ということはないと私は思う。もちろん読んでいた方が楽しめる部分も存在するが、必須ではないし、おまけ程度に考えていい物である。また、完全な余談になるが、斜線堂有紀氏のペンネームはこの作品に由来しているらしい。
さて、本作は完全にミステリー特化、トリック特化の作品である。ヒューマンドラマ的な要素もないわけではないが、まあ、濃くはない。そういう点では読む人を多少選ぶかもしれないが、占星術の読みづらさというか、途中の退屈さに比べれば、序盤から中盤までどこをとっても面白いし、読みやすい。
先にミステリー特化と述べたが、本作はいわゆる館ものの一種で、密室殺人を題材にした作品となる。北海道の岬にそびえたつ、建物全体が奇妙に傾いた館。招かれた客たちと、彼らを招いた資産家家族。彼らはパーティに興じていたが、ある晩、招待客一人の遺体が見つかることとなる。ざっくりこのような感じで始まる作品だ。
本作の少々変わったところは、探偵一行となる御手洗潔・石岡和己ペアが、中盤まで姿を影も形も見せないことだ。探偵が端から事件に巻き込まれていたり、探偵が現場に到着したところから物語が始まったりする構成ではないものだから、登場人物の動向や心情を多少読者も知ることができ、より物語に没入することができる。これは、本作の魅力であるとも言えるだろう。
※以下、閲覧注意。結構なネタバレになりかねない内容を含みます。
本作のトリックについてだが、物理学を専攻している、あるいは知識をお持ちのお歴々は、ふざけるなと怒りを覚えてしまうかもしれない。いかにも島田荘司らしい、ぶっ飛び物理トリックであるために。しかし、現実的に考えて実行可能かどうかを考えてしまうと、世のミステリー小説は全て駄作となってしまう。ゆえに、どうか寛容に受け止めてほしい。「こんなアイデアが!」と驚くこと請け合いの、実に面白いミステリー小説を、しょせんフィクションだと思って。
(文責:今井みそ)


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