指示役の男性に疑問をぶつけてみた結果
2回目の仕事は、応募時の説明にもあった相対取引で、取引先に向かうよう住所が送られてきました。住所の付近に到着するとメッセージアプリで次のような連絡がきます。
「立ち止まらないで、そのままその住所の家の前を通りすぎてください。周りにあなたと同じような同業者はいないでしょうか?」
特に人影もなかったので、彼女は「いません」と答えます。そして取引相手の服装が伝えられ「相手がこれから紙袋を持って来られるので、書類を受け取ってください」と指示されます。しばらくすると、指定の場所に、80代くらいの高齢女性が紙袋を持ってやってきます。
彼女は近づき、「書類を受け取りに来ました」というと、高齢の女性は「はい」と答えて紙袋を渡してきます。しかし、荷物を受け取って高齢女性と別れた後に、彼女の心に不安がよぎります。
「路上で紙袋を渡される。もしかすると袋の中身は現金かもしれない……」
ここで、女性は指示役の男性に電話をかけ、「この仕事はもしかして、詐欺や犯罪ではないですか?」とはじめて疑問をぶつけます。
しかし、指示役の男性は冷静に「それはあなたの先入観です」と諭してきました。そして、あらためて相対取引というのはどういうものかということを延々と説明されます。
結局、女性はうまく言い包められ、子どものお迎えの時間もあり、疑問を持ちながらも、紙袋を次の人物に渡す行為をしてしまったといいます。
指示役の男性の背後には犯罪グループが存在し、このような様々な事態は想定され、対策していると考えられます。そのため女性の疑いを丸め込むのはいとも簡単だったことでしょう。
疑いを持った時点で、誰に相談すべきだったか
さて、ここまで闇バイトの事例をみてきて、どこに罠があったかおわかりでしょうか? 女性が指示役の男性の説得で丸め込まれてしまった場面でしょうか? 実は、そうではありません。
この事例で、女性が切り抜けなければならなかったのは、闇バイトかもしれないと疑いを持った時点で、「誰に相談すべきだったか」という点です。
なぜ女性は、疑いを持った相手(犯罪グループ)に相談を持ちかけてしまったのでしょうか。犯罪グループに「犯罪ではないですか?」と持ちかけても、そのような事態を想定されていれば、丸め込まれてしまうことは目に見えています。冷静に考えれば、両親や家族、知人、警察など、第三者に相談することもできたはずです。
これには単純接触効果(ザイアンスの法則)と呼ばれる心理現象が働いていると考えられます。
女性は犯行に至るまで、指示役の男と長い期間、仕事の説明や指示などを電話やメッセージでやり取りしていました。非対面ではありますが、犯罪グループは、何度も話したり交流を持ったりすることで相手との接触回数を多くし、信頼を積み重ねていったと考えられます。