前回記事『「もう二度とカンボジアに行く機会はないでしょう」身に覚えのない罪で突然逮捕された飲食店チェーン経営男性の独白』より続きます。
賄賂の金額調整に1か月半
刑務所に着くと藪本は全身素っ裸にされ肛門の中まで検査される。まさに映画のようなワンシーンだ。そしてアルミの皿とスプーン、サイズの合わない囚人服を渡され収監された。
5メートル四方の雑居房に30人位の囚人。臭い体臭が漂う上半身裸の全身入れ墨の殺人犯から頭のおかしいドラッグの売人などカンボジア人の囚人たちと一緒にタイル3枚分のスペースに寝た。ここでもベッドは段ボールだ。房内の周囲から丸見えの和式トイレの横にあるポリタンクはトイレを流す水と飲料水、シャワーの兼用。ハエが集まった臭い食事は速攻で下痢になる。「一週間後には死ぬやろな」と覚悟した。
しかし、パパと呼ばれる終身刑を何度も食らっている牢名主を含め厳つい囚人たちは皆一応に優しかった、という。何とか地獄の日々に耐えながら現地店長や会社の専務らと連絡を取り、彼らが奔走して弁護士を決めた。が、その弁護士は法的手続きや裁判対応の弁護士業務は何ら行わず裁判所と自分たちの手数料を含めた「金額調整」に動くだけ。しかも当初提示された金額は理由もなく翌週にはどんどん膨れ上がっていく。藪本はさすがに堪えきれず色々な伝手をたどって弁護士を3人代えた。この過酷な刑務所に1月半も収容されたのは、なんと裁判所と弁護士たちの賄賂の金額調整の期間だったのだ。
カンボジアの腐敗は二系統ある。前回の記事でも述べたが、街場の警官や交通警察たちの恐喝まがいの賄賂と、それとは別に法務大臣や裁判官、弁護士など司法機関の中枢や行政機関トップたちが仕組んだ賄賂システムだ。こういう腐敗した司法機関と組んだ原告が虚偽告訴し、弁護士を介して裁判所が被告に巨額の賄賂を請求する。原告側へのキックバックなどの還流も当然あるのだろう。大臣クラスの政府高官から弁護士や検察官、裁判官への金銭の分配システムが完成されてしまえばもはや誰にも止めることはできない。