「警察学校はイエスマン養成所」勤続20年のOBが明かす“悪しき組織風土” 「ノルマ・上司が絶対」ブラック体質が“不祥事”の要因に?
どうすれば警察を再生できるのか
昨今の調査で、採用試験受験者が2割以上減少し、定員割れは47都道府県の警察本部中31だった。このデータにみられるように、警察官の成り手は減少の一途をたどる。 イエスマン養成の風土や組織体質がまん延しているなら、優秀な人材が就職先として希望する未来はみえづらい。どうすれば、警察を魅力ある組織に再生できるのか。安沼氏は「大きく3つある」と述べる。 (1)ノルマ至上主義の撤廃 安沼氏 「一般企業でも、ノルマ達成のためなら手段を選ばず、無理な勧誘を行うなどの実態があると聞きます。 警察でも似たようなことが行われており、例えば、車の中に放置してあったキャンプ用の十徳ナイフを軽犯罪法違反(凶器携帯)で無理やり検挙するなど、『犯罪を捏造』しているとも言えます。 ノルマを廃止しろとまでは言いませんが、個々の警察官がノルマに縛られず、住民の声を聞きながら、真に必要と思える職務に邁進してほしいと思います」 (2)組織の流動化 安沼氏 「警察組織は年功序列の意識が強く、階級よりも年次が優先される傾向にあります。そのため、新任警部が部下のベテラン警部補に頭が上がらない、といったことが散見されます。 こうしたベテラン警部補は仕事で大きな成果を出す一方で、誰も意見できなくなり、暴君となりやすいです。こうした暴君の存在が容認されていることが問題だと思います。 この課題を解決するため、経験者採用を強化して外部の人材を登用する、警察官を他官庁に出向させるなどして警察の組織風土を見つめ直すきっかけを作り、組織の硬直化を改善することが重要だと考えます」 (3)警察学校のカリキュラムの見直し 安沼氏 「警察学校の入校期間は大卒で6か月、高卒で10か月となっていますが、もう少し短縮してもよいとも思います。 私の体感では教練や武道などの訓練に多くの時間が割かれていた印象ですが、教練のような軍隊の名残とも思える訓練は前時代的ですし、現場で何の役にも立ちません。それに、警察官は全員必修の逮捕術に加え、柔道か剣道を選択する(女性は合気道の選択肢もある)のですが、逮捕術に一本化してよいのではないでしょうか。 また、拳銃の実射訓練もあまり実効性がないと感じますので、必要最小限にとどめ、シミュレーター訓練にもっと重点を置いて経費削減に取り組むべきだと思います。 教練や武道の訓練では、いわゆる体育会系出身者が幅を利かせており、学生間同士での上下関係が生じていました。この体育会系優位な組織風土がある限り、非体育会系の就活生から嫌厭(けんえん)され、体育会系色がますます強くなってしまうでしょう。 警察を辞めた後、出版を考えた一番の理由は、在職時代に私が受けた不条理を世間に知らしめたかったからです。告発本としての側面があることは否定しませんが、それ以上に、警察官の生の姿を知ってもらうことには意義があると考えました。 一方で、警察に希望がないわけではありません。拙著を通じて警察の組織風土が変わり、全国の警察官がやりがいを持って職務に邁進できるようになることを私は切に願っています。併せて、警察官を目指したいが、自信が持てない若者に、私のような『のび太タイプ』でも約20年勤務ができた、なんとかなるといったエールになればという思いもあります」(終わり) ■安沼保夫(やすぬま・やすお) 1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。約20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。
弁護士JPニュース編集部