「生半可な気持ちではない」性別変更の外観要件、違憲判断が5件確認
戸籍上の性別を変更する際、性器の外観も変えるよう求める性同一性障害特例法の「外観要件」の違憲性が争われた家事審判の決定で、全国で少なくとも5件の違憲判断が出ていた。最高裁が取材に明らかにした。
特例法は、出生時に決められた性別と性自認が異なるトランスジェンダーの人たちが、戸籍など法的性別を変更する際の要件を定める。最高裁は2023年10月、精巣や卵巣の切除を求める「生殖不能要件」を違憲で無効と判断した。外観要件についての憲法判断は示さなかった。
全国の違憲判断5件、2件は札幌家裁
これを受け最高裁は24年1月から、全国の家裁や高裁を対象に、性別変更に関する家事審判の状況を調査。今年9月までに、外観要件を違憲・無効とする5件の決定を確認した。1件は昨年出されていた。最高裁の判断ではないので、他の裁判所を縛る法的拘束力はなく、法律の規定は無効にならない。
このうち少なくとも2件は、札幌家裁の同じ裁判体(佐野義孝裁判長)が9月19日に出していた。申立人と弁護団が30日、札幌市で記者会見して明らかにした。
札幌家裁では、トランスの男性による家事審判で、外観要件を違憲とし、これを満たさないまま性別変更を認める決定が出たことが判明していた。トランスの女性の審判でも同じ判断が示された。
法的にも「ありのまま生きること、認められた」
決定によると、申立人は男性として育てられたが、幼少時から性別に違和感があった。現在は職場や日常生活で女性として生活し、周囲にも女性として認識されている。体つきなど、性的な特徴を変えるホルモン投与を受けたこともあるが、ひどい脱力感や全身の震えなどの副作用が出て中止した。24年3月、医療的な措置を受けないまま、戸籍上の性別を女性に変更するよう申し立てた。
外観要件を満たすためには、手術やホルモン投与を受け、性器の形を変えることが必要だ。このような「医療要件」について、札幌家裁は「身体の侵襲を受けない自由」を保障する憲法13条に違反すると判示した。
申立人はすでに性自認に沿った社会生活を送っており、今回の決定により法的な性別が生活実態と一致する。
性別変更が認められたトランスの女性は会見で「働いて生活するだけで精いっぱいで、手術やホルモン投与を受けてこなかった。(法的にも)ありのまま生きることが認められ、自分は間違っていなかったのかなと思えた」と話した。
代理人の須田布美子弁護士は「法改正につながり、外観要件がなくなることが最も望ましい。現時点では、全国の裁判所に同様の違憲判断が広がることを願っている」と語った。
公衆浴場の利用、法的性別で左右されず
「今回の決定は戸籍上の性別変更に関するもの。裁判所が風呂の使い方について判断を示したものではない」。この日の会見で、須田弁護士は強調した。
札幌家裁の決定後、「男性の身体的特徴を持つ人が、女性用の公衆浴場に入れるようになる」といった趣旨の言説が、SNSを中心に広がっているためだ。
外観要件を満たさずに戸籍上の性別変更が認められれば、法的性別と一般的な性器の形が必ずしも一致しない状況が生じる。だが、厚生労働省は公衆浴場の男女について「身体的特徴」で分けるよう通知している。法的性別によって入れる浴場が左右されるわけではない。
当事者団体「恣意的に広げるのは差別的行為」
トランスジェンダーの当事者団体「Tネット」(野宮亜紀さんら共同代表)も9月23日の声明で、公衆浴場の利用は身体的特徴に基づいており、「戸籍が女だから女性浴場に入れるわけではない」と厚労省通知に即した理解を求めた。
そのうえで、SNSで広がる言説は「事実誤認」だと指摘。トランスの人たちが「戸籍を変更して女性浴場に入って来ようとしているという歪(ゆが)んだイメージ」を与えるとし、こうした言説を恣意(しい)的に広げることは「差別的行為と言わざるを得ない」と訴えた。
「あなたの言動で傷ついているのも同じ人間」
外観要件は、公衆浴場などで性器が人目に触れると「混乱が生じる可能性がある」として設けられた。これに対し札幌家裁の決定は、多くの当事者は公衆浴場の利用を控えるなどしており、混乱が生じることは極めてまれ▽法的性別が変わっても、変更後の性別で公衆浴場などを利用できるとは限らず、問題には浴場などの利用ルールで対応できる――とし、外観要件によって混乱を避ける必要性は「相当低い」と結論づけた。
性別変更が認められたトランスの男性は、この日の会見でこう訴えた。「生半可な気持ちで、性別を変えようとしているわけではありません。あなたの何げない言動で傷ついている人も、あなたと同じ人間です」