投票で「大差の2位」の人が学長に選出…またも繰り返された学内軽視 大学自治が揺らぐ原因をたどった先には

2025年10月2日 06時00分 有料会員限定記事
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 「ステマ」問題で自民党総裁選が揺れる中、こちらのトップ選びも波乱が起きている。国立大の一つ、新潟大では、学長選考時に行った教職員の意向投票で、今の副学長がダブルスコアで2位に甘んじたのに、次期学長に選ばれたのだ。なぜこんな事態になったのか。他の大学も、あの組織も人ごとで済まない「自治の揺らぎ」の行く末は。(山田雄之、中根政人)

◆有志が抗議「はなはだ理解に苦しむ」

 「はなはだ理解に苦しむ事態と言わざるを得ない」
 理事で副学長の染矢俊幸氏(67)を選出した学長選考・監察会議から一夜明けた9月26日、教職員有志は抗議声明を発表した。

新潟大の教職員有志による抗議声明

 有志の一人が人文学部の原直史教授。「こちら特報部」の取材に憤りをあらわにした。「明らかに支持を得られていない方が学長に選ばれ、今後の大学運営を握るのは好ましくない」
 新潟大は人文学部や法学部、医学部など10学部がある総合大学。約1万人の学生が在籍する。広報室の担当者は「本州の日本海側にある国立大では在籍人数では最大規模。中堅より上位に位置する」と胸を張る。

◆意向投票では副学長2人を抑えて1位だったのに

 来年1月の任期満了に伴う学長選考はまず、学内約50人による教育研究評議会と学内外15人の経営協議会が候補者を推薦した。具体的には理事で副学長の染矢氏と川端和重氏(69)、脳研究所長の小野寺理氏(63)の3人だ。
 8月下旬には教職員の意向投票があり、投票者1515人(投票率47.3%)のうち、小野寺氏が882票、染矢氏が420票、川端氏が197票。理事で副学長の2人が後塵(こうじん)を拝す格好になった。

新潟大次期学長に選考された染矢俊幸氏=新潟大学公式サイトから(スクリーンショット)

 新潟大職員組合の中央執行委員長、工学部の酒匂宏樹准教授は「現執行部への不満が現場にはあった。教員に説明がないまま、人事配置に関するシステムを大幅に変えたほか、労働組合との交渉に消極的な姿勢を示した」と口にする。

◆選考会議「総合的に判断」と言うが…

 だが外部有識者と学内関係者らで構成した学長選考・監察会議は合議後、3回に及ぶ投票で染矢氏を選んだ。公表した選定理由には「過去の実績、所信書、意向投票の結果および面談の結果を総合的に判断」「取組の継続性や理事としての経験を鑑み、本学の将来の発展を目指す識見と能力が最も優れている」とある。
 酒匂氏は「投票の過半数を得た候補が選ばれない。意向投票の結果がないがしろにされており、選考基準の規定は空文化している。染矢体制では、現場と執行部が一体となって頑張る機運が生まれない」と嘆く。

◆2005年の学長選考では裁判沙汰に

 実は新潟大では、2005年の学長選考会議でも意向調査で2位が学長候補に決まった。当時、教授たちが原告となり、決定の無効確認を求める訴訟に。訴えは裁判で退けられたが、20年を経て再び悶着(もんちゃく)が起きた。

新潟大学の公式サイト。写真は牛木辰男学長(スクリーンショット)

 染矢氏は文部科学相から任命を受け、来年2月に学長に就任する見通しだが、前出の原氏は「教職員は現状に不安を抱き、ノーを突きつけた。大学側はなぜ小野寺氏がだめで、染矢氏がいいのか、納得できるように説明する必要がある」と求め、「学問の自由や独立性を保障するためには、自治による運営が望ましく、各構成員の意思は最大限に尊重されるべきだ。選考に関わる委員は『意向投票』が持つ重みを理解してほしい」と訴える。
 大学広報室の担当者は「会議体での選考のため答えづらいが、慎重に慎重を重ねた議論だったと聞いている。声明が出たことは承知しており、教職員への説明は検討したい」と話した。

◆東大、筑波大、千葉大でも…

 学長選考で教職員らの意向が軽視されたのは新潟大だけにとどまらない。
 東京大では2020年の総長(学長)選考を巡り、1次候補者選挙でトップだった候補者が最終候補者に残らなかった。

(左から)東京大学、筑波大学、千葉大学=資料写真

 筑波大では同年、学長選考に当たって学長の任期上限を撤廃し、教職員の意向投票も廃止した。教職員への意見聴取では、現職だった永田恭介氏への支持が対立候補を下回ったが、選考要件とは扱われず、学長選考会議が「情熱と実行力を有する」などとして、永田氏を再任した。永田氏は2023年にも学長に再任されたが、学内外の委員による審査のみで決定され、実質的な選考は行われなかった。
 千葉大では、2024年1月に実施された学長選考で、教職員による投票で実施された「学内意向聴取」で1位だった候補が選任されなかった。

◆「法人化」を境に選考方法が変わった

 国立大の学長選考の方法は、2004年4月の法人化を境に大きく変わ...

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