米国防長官、戦闘将兵に「最高の男性基準」要求 「太った軍に嫌気」

ワシントン=青山直篤

 ヘグセス米国防長官は30日、米軍最上層の将軍や提督ら数百人を世界中から一斉に招集し、演説した。ジェンダーなどを考慮する「DEI」(多様性・公平性・包摂性)の行き過ぎが米軍にあったとの主張を改めて展開したうえで、「太った軍を見るのは嫌気がさす」として、戦闘に関わる将兵らに「最高水準の男性の基準」を求めるとした。

 将官らはバージニア州のクアンティコ海兵隊基地に集まり、ヘグセス氏とトランプ大統領の言葉を聞いた。明確な理由を示さずに米軍幹部を一斉に招集するのは異例で、演説内容が注目されていた。結果的には党派色・政治性の強い政権の持論を一方的に伝達する場となった。

 国防総省を「戦争省」とも呼称する方針を導入したヘグセス氏は「『戦争省(the War Department)』へようこそ。『国防総省』の時代は終わった」と演説を切り出した。「戦士(warrior)の気風」の回復を改めて訴え、「我々は『ウォーク省』になってしまっていたが、もうそうではない」と語った。「ウォーク」とは、社会正義や人種・性差別への問題意識が高いことを揶揄(やゆ)する言葉だ。

 ヘグセス氏はまた、軍隊は「全て肉体的壮健さと外見から始まる」と述べ、「太った軍を見るのは嫌気がさす。太った将軍や提督も絶対に受け入れられない」と主張。戦闘に関わる将兵には、性別に関わらず、一律の高い基準を課すことを命じた。あごひげや長髪といった「表面的な個人の表現」も認めないと述べ、「髪を切り、ひげをそり、基準に従う。ささいに見えることが大事だ」と語った。

 ヘグセス氏は「あまりにも長く我々(米軍)は、人種、ジェンダーに基づいて割り当てるクオータ制、いわゆる『史上初』……などの誤った理由で、あまりにも多くの制服組の軍人を昇進させてきた」とも語った。トランプ政権は2月、黒人で史上2人目の米軍制服組トップに就いたチャールズ・ブラウン統合参謀本部議長や、女性として初の海軍の制服組トップ、リサ・フランチェッティ作戦部長を解任している。ヘグセス氏は「私が語った言葉に気落ちした人がいたら、その人は名誉ある決断をし、辞めるべきだ」とした。

 ヘグセス氏に続き、トランプ氏も1時間を超える演説を繰り広げた。「我々は外敵と変わらない、内側からの(敵による)侵略にさらされている」と主張。サンフランシスコやシカゴなど民主党が強い都市を挙げ「極左の民主党員に支配されている都市は治安が非常に悪い」と述べ、「こうした危険な都市を州兵の訓練場にすべきだ」とヘグセス氏に伝えたことを明らかにした。トランプ氏はこれまで、ロサンゼルスや首都ワシントンなどに州兵を派遣してきた。

 党派政治から一定の距離を置くことが期待されてきた将官らに対し、バイデン前大統領への批判など、選挙集会などで定番の内容を語り続けた。「我々は米国の腕力(マッスル)を発見しつつある。バイデンと無能な人々が支配した4年間のようなことはあるべきではなかったし、これからは決して起きることがない」と述べた。

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この記事を書いた人
青山直篤
アメリカ総局員
専門・関心分野
米国、国際政治・経済、日米関係、近代史
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    小谷哲男
    (明海大学教授=外交・安全保障)
    2025年10月1日7時22分 投稿
    【視点】

    トランプ政権は軍の改革を目指しており、ヘグセス長官は民主党政権の下で多様性を重視するようになった軍の組織文化を変えようとしてきた。女性や黒人の司令官を軒並み解任し、国防省を戦争省と改称して戦うことを重視する姿勢を示してきたが、今回行われた異例の会合では髭や肥満を許さないとするなど、現代戦を戦うことに無関係な兵士の外見にまで注文をつけるようになった。 世界中に展開する軍の将官を対面で集めなくても、秘匿化されたビデオ会議で行えばよかった。軍の即応態勢を犠牲にしてまで対面で行ったのは、政権の方針に反対する将官には辞任を求めるなど、大統領と国防長官に軍を従わせるためであり、その模様をメディアを通じて見せるためであった。まさに軍の私物化である。 1番の問題は、トランプ大統領が軍を「内なる敵」と戦わせると宣言し、ワシントンに続き民主党系市長のいるシカゴなどの都市に今後も州兵を派遣すると表明したことである。本来米軍は外敵から国家を守るために存在している。軍を国内政治上の目的のために利用すれば、軍の士気が下がり、返って米軍の弱体化を招くだろう。

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    三牧聖子
    (同志社大学大学院教授=米国政治外交)
    2025年10月1日8時18分 投稿
    【視点】

    この演説のために世界中から将官を招集する必要があったのだろうか。国防長官の権威を誇示し、軍幹部の忠誠をテストするための会議だったともいわれている。 テレビ司会者時代からヘグセス国防長官は、「「政治的正しさ(ポリコレ)」が軍を支配し、女性やマイノリティーの積極採用が進んできたことが、アメリカ軍を弱くした」ということを自論としてきた。この演説でも、「今日、私の指示により…すべての指定された戦闘部隊のポジションの要件を、男性の最高基準のみに戻すことを保証します」と宣言した。 ヘグセスは、「我々は愚かな交戦規則で戦うこともなく、戦闘員の手を縛ることもありません… もう政治的に正しい交戦規則は不要です」と、戦時のルールを定めた国際法についても「ポリコレ」だと批判し、守る必要がないといった趣旨の発言も行った。ヘグセスは先日、数百名の先住民が殺害された1890年のウーンデッド・ニー虐殺に関与した20名あまりの米兵を「勇敢な兵士」と呼び、彼らに授与された勲章をそのまま維持すると発表したばかりだ。先住民コミュニティーの求めに応じて、バイデン政権時代に勲章の見直しが進められていた。 男性優位を公然と打ち出し、虐殺に関与した米兵の「勇敢さ」を讃える。これがヘグセスが米兵に求める「戦士の気風」なのだろうか。そしてそうした「戦士の気風」が対象とするのは、外敵ではなく、自国民なのではないかとの懸念は拭いされない。現在、トランプ政権は民主党地盤の州に対し、知事の要請もないにも治安維持を名目に派兵しているが、この場に登場したトランプ大統領は、「アメリカは内部から侵略されている...外国の敵と何ら変わらないが、制服を着ていない分、対応がより難しい」「サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルス… 私たちは一つずつ立て直します。この部屋にいる一部の人々は大きな役割を果たすでしょう。それは...内部からの戦争です」と、「内部からの戦争」における軍の役割を強調した。

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