天下の大宰相・呉鳳明伝   作:後世の歴史家

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理解不能の変人・呉鳳明と王建王

 

 

 

 後に、前代未聞の友好条約を取りまとめて斉より帰国した信陵君は、狂王と揶揄される王建王の所感を問われた際にこう答えたそうです。

 

 

 ──アレは最悪です。つま先から脳みそまで、余す所なくクソを詰め込んだ鳳明のような男でした。

 

 

 その回答に質問者である蕭阿はとても驚いたそうです。

 

 あの温厚で言動も慎重な信陵君が、よもやここまでの暴言を吐き散らすとは、と……。

 

 そして子供のように蹲った信陵君はこうも漏らしたそうです。

 

 

 

 ──私は愚かでした。この世で一番引き合わせてはいけない奴等を引き合わせてしまった。

 ──最悪です。何もかもが最悪です。私は二度とあの男に会いたくない。

 ──クソみたいな性格をしたあの男が鳳明の盟友として名を残すなど許せるものか。

 

 

 そんな異母弟を安釐王は優しく抱きしめたそうです。

 

 そして不幸にもその場に居合わせた綺丹公主は、叔父の名誉のためにも生涯このことを漏らさなかったそうです。

 

 

 

 

 

「ウフ。ウフフ。キャハハハハハハハ……!!」

 

 

 よもや自国に招いた賓客をこのような狂笑で出迎えるとは……唖然とさせられた信陵君はさすがに怒りを覚えます。

 

 何がそんなに可笑しいのか、玉座の上を転げ回る王建王の非礼もそうですが、諌める立場にあるにも拘らず何も言わない高官達もそうです。

 

 この国は狂ってる──生真面目な信陵君は確信しました。

 

 

 そして猛省もしました。

 

 このような場所に鳳明を連れてくるべきではなかったと……。

 

 

「クフ、フヒヒ……ハァー、ともあれよう来た。よくもこのオレをさんざん待たせおってと言ってやりたいところではあるが、あの舟を持ち出してまで急いだ本気は認めてやる。次からはオレが来いと思った次の瞬間にはもう来ていろ。それで許してやる」

 

 

 ……ともあれ会談はもう始まってしまった。

 

 危険な国ではあるだろうが、一応はそれなりに歓迎の意思を見せていることから、実力行使の危険は当面ない。

 

 油断はできんが、自分と鳳明ならこの場を切り抜けることも──そう思って鳳明の様子を確認する信陵君でしたが、この天然のトラブルメーカはどこまでも平常運転でした。

 

 

「あの、もし違ってたらすみませんが、あなたは人夫の建さんですよね? 玲麟のお尻を触ったっていう?」

 

「えっ!?」

 

「さすがに憶えておったか。そうとも、このオレ様こそがあの魅惑たっぷりなケツの割れ目に指を差し入れて、しっかりと揉んでやった人夫の建さんよ」

 

「その節は玲麟が粗相をしでかしたようで大変失礼しました」

 

「ニョホホ、良い良い。対価は先に貰い受けたでな。それに淑やかなだけな女など詰まらぬ。女はやはりアレぐらい元気がなければな……良い妹を持ったな。羨ましいぞ鳳明よ」

 

「はいっ! ありがとうございます建さん!!」

 

「えっ!? 何なのこの会話……ええっ!!?」

 

 

 ……渾身の顔芸とツッコミを披露する信陵君がよほど面白かったのでしょうか?

 

 信陵君に新しいオモチャを見つけたような視線を寄越した王建王は、ある意味魏国のプライドをズタズタに引き裂くような一言を放ちます。

 

 

「鈍いヤツよな。今の会話でオレが結構な頻度で開封に出入りしてたと判らんのか?」

 

「なッ!?」

 

「だからオレは貴様らのコトなら何でも知っとるぞ? こちらでも採用した貴様らの農法も、普及工事を急がせてる上下水道のことも、鳳明の酒と飯が死ぬほど美味いことも、あの舟のことも、貴様の愛人の締まり具合もなァ?」

 

「なななッ!?」

 

「うヒヒ、悔しかったら戸籍管理を徹底しろ。それさえしておけば魏国全土より数十万の人夫が集まろうとも、ああも堂々と紛れることはできなかったであろうに、最も大事な仕事を後回しにしおって……その点は貴様と蕭阿の失態だぞ。

 まったくもって国家の礎を何と心得る? 民であろうが。

 鳳明の登用以降、紙の実用化や農政改革、遷都に測量と多忙を極めたのは考慮するが、あのザマで国家を標榜するとは恐れ入る。中華一の技術大国を名乗るなど片腹痛いわッ!!」

 

「う、ううっ……」

 

 

 まさか紛れもない狂人と思われた王建王の口から、こんなにも真っ当な批判の言葉が出てくるとは思わなかったのでしょう。

 

 膝から崩れ落ちる信陵君を慌てて介抱した鳳明が堪らず弁護します。

 

 

「あの、あまり信陵君をいじめないであげてください。この方は父と僕の恩人ですが、色々と大変なんです」

 

「んっ? オレはいじめてなどおらんぞ。今のは其奴が勝手に吐血しただけよ。おそらくオレを気狂いと決めつけていただけに、真っ当な批判に耐えられなかったのだろうな。貴様もよく覚えておけ。偏見など囲うものではないぞ」

 

「ううっ」

 

 

 残念ながら何もかも王建王の言う通りで、信陵君は返す言葉を持ち合わせませんでした。

 

 

「ま、そんなワケでオレは貴様らが何の話を通しにきたか承知しておる。余計な説明は要らんぞ」

 

「い、いえ、さすがにそういうワケには……」

 

「フンッ、偶々よい立地に建てられた地方都市に握られた経済と物流の主導権を取り戻すことが、貴様らの推し進める水運事業の根幹であろう? その程度のことは言われずとも察するから余計な説明は要らんと申しておるのだ」

 

「…………」

 

 

 ……ここに至るまでに気を引き締めていた信陵君に油断はありませんでした。これは彼の想像を超えていたのです。

 

 王の立場にありながら潜入工作をしていたことにも驚かされましたが、真の驚愕はそれを許容する斉のお国柄です。

 

 燕の楽毅によってゼロからの再建を余儀なくされた斉は、周代より脈々と受け継がれた以前とは完全に別の国に生まれ変わっていたのです。

 

 それを可能としたのは焦土からの復興となったが故に、旧弊を改めてより優れたものを取り入れることに抵抗のない気風──それこそが王建王に鳳明への興味を持たせ、開封へ足を運ばせた最大の要因なのでしょう。

 

 

「あとは共同文書の作成と調印だけよ。……だというのに余計な手間をかけさせる神経が分からぬぞ、信陵君。他にも要望があるなら取り入れてやるゆえ担当者と話せ」

 

 

 ですから、これはまずい流れです。

 

 鳳明は気にしないでしょうが、王建王が開封に出入りしていたのが本当ならば、深刻な技術流出が生じているのは確実です。

 

 それらは自国の落ち度ですから斉を責める立場にありませんが、信陵君としては流出した技術項目だけでも確認したい。

 

 

 さすがに開封の王宮に保管している鳳明の設計図は流出していないでしょうから、再現に手こずっている技術も多々あるでしょう。

 

 ならば共同文書に技術交流の項目をねじ込み、教導官の派遣が叶えば石炭やコークス、高炉などの国家機密が流出していないか確認することも……だが王建王に過去の遺物と見られたこの流れで、私の意見が取り入れられる余地があるだろうか?

 

 まったく、何もかも王建王の言う通りだ。なまじ鳳明の指導がなければ実用化に苦労する文官達を見ていただけに、知られたところで何もできやしないとタカを括って、機密保持の徹底が疎かになっていたようだ。

 

 この失態から挽回するにはもはや──そのように思い悩む信陵君でしたが、ここで思わぬ人物の登場によって救われることになります。

 

 

「ヒョヒョヒョ。そう決めつけることもありますまい、王建王よ」

 

「きっ、貴殿は!?」

 

「……蔡沢か」

 

 

 チッと忌々しそうに舌打ちした王建王が玉座に座り直し、初めて場の主導権を他者に譲りました。

 

 

「ヒョヒョヒョ。一瞥以来お変わりなくと申し上げるのは、あまり適切ではありませんな。正直見違えましたぞ、信陵君」

 

「……いや、お恥ずかしい姿をお見せして誠に面目ない、蔡沢殿」

 

「なんのなんの。この老耄もここにきて随分苦労させられましたからな。お気持ちはわかりますぞ」

 

 

 ──この飄々とした老人の名は蔡沢。

 

 秦の昭王の信託を得て、中華の諸国を巡る専任の外交官。

 

 蔡沢自身も海千山千の古狸であり、手強い競争相手でもありますが……王建王と違って自身の常識が通じる相手であり、色々と気を遣ってくれる好々爺でもあります。

 

 王建王の相手に疲れた信陵君が救われた気分になるのもわかりますが、この老人の本質はあくまで昭王に忠誠を誓った外交官──。

 

 

「まったくこの国の人々は突飛な王建王に慣れすぎて、視線を交わせば言いたいことは伝わったと決めつける悪癖がありましてな。困ったものです」

 

「抜かせ。貴様の場合は話が長すぎるのだ。少しは老い先短い時間を大切にしたらどうだ」

 

「大切にしておりますとも。故に、鳳明殿に聞きたい話は一つだけ……そうではありませんか、王建王?」

 

「……アレなら貴様に任せるが、子供をいじめるのはほどほどしろよ」

 

「ヒョヒョヒョ、人聞きの悪い」

 

 

 ……やはり来たか。

 

 王建王との間に蔡沢が入ってくれたからでしょうか。信陵君はこの時、彼らが鳳明に何を尋ねようとしているのか察することができました。

 

 だから、安心して鳳明に任せたのです……。

 

 

「──お初に、鳳明殿。貴殿の噂は予々(かねがね)。秦の外交官を務める蔡沢と申す者ですじゃ」

 

「初めまして蔡沢様。なんか魏国のことを全部やってくれって言われた呉鳳明です。よろしくお願いします」

 

 

 さすがにこの挨拶は予想外だったのでしょう。蔡沢の片眉が跳ね上がり、王建王が二度ほど瞬きをします。

 

 信陵君は笑いを堪えるのに必死です。

 

 

「コホン……さて鳳明殿。この老耄も貴殿がこの国で何をやろうとしているか承知しており、そのことは大変よろしい。ですが、その先はどうなさる?」

 

「うーん、色々と考えていますが、とりあえず浪漫(ローマ)に使者を派遣したいですね」

 

「『浪漫?』」

 

 

 あまりに聞き慣れない単語に蔡沢と王建王が唱和し(ハモり)ます。

 

 

絹の道(シルクロード)の終着点に栄える中華全土に匹敵する大国ですよ。ご存知ありませんか?」

 

「不勉強で申し訳ありませんな……。して、鳳明殿はその大国に使者を派遣して何と致す? 盟を結び魏国の立場を強化する所存か?」

 

「いえ、新しいお菓子や料理を作るのに必要な加加阿(カカオ)珈琲(コーヒー)、それと馬鈴薯(ジャガイモ)が欲しいんですよ。あの国ならあるかなって……もしなかったら帆船の設計図を渡して、新大陸まで取りに行っていただこうかと」

 

 

 今度は完全に理解不能だったのでしょう。視線のやり取りで善後策を協議する蔡沢と王建王の姿に、信陵君はスカッとした気分を味わっていました。

 

 

 どうだ、完全に意味不明だろう。今あるものだけで知ったような気になりやがって。

 

 これが呉鳳明だ。我々は常日頃からこんな生き物と付き合ってるんだぞ。舐められてたまるか、と。

 

 

「オホン、よく分からないところもありますが、その国とも交易を行うなら、魏国はますます豊かになるでしょうな」

 

「はい。でもそのためには匈奴の有力士族と交渉して、商人達の安全を確保しないといけないんですよね」

 

「…………」

 

 

 このうえ中華の国々を悩ます遊牧民と話をつける用意があると知った蔡沢は、一時的に何も言えなくなりましたが……あえて踏み込むこともないと割り切ったのでしょう。しつこく何度目かの疑念をぶつけました。

 

 

「その点もよろしい。もう何でもよろしい。この蔡沢が知りたいのは、ここ数年で飛躍的に国力を高め、さらには水運事業で盤石となった魏国の動向よ」

 

「動向と申しますと?」

 

「……今の貴国ならば死に体となった韓の吸収も容易い。そうしてかつての力を完全に取り戻した魏は中華に覇を唱えますかな? 数多の国々を滅ぼし、中華全土を征服する……今まさにそれをやらんといている昭王に仕える儂が言うのはなんだが、鳳鳴殿にお聞きしたいのはそういう事じゃ」

 

「えっ、中華の征服? しませんよそんな勿体ない」

 

「もっ、勿体ない? いま勿体ないと申されましたか!?」

 

「はいっ、申し上げました」

 

 

 この段階になると信陵君は笑いを噛み殺すことができなくなっていました。

 

 

「だって魏国が中華を征服したら何でもかんでも魏国風になっちゃいそうじゃないですか? 他国があるからそれぞれの特産品を交易でき、それぞれ独自に発達した文化や食事が入ってくるのに、何でもかんでもウチのやり方を押し付けたばかりに廃れちゃったら大変ですよ。だから僕は勿体ないと申しました」

 

 

 思わぬ回答に二の句が継げない蔡沢が沈黙して、信陵君の笑い声だけが響き渡り……やがて王建王の爆笑がそこに加わります。

 

 

「気に入ったッ!! オレは鳳明と手を組むこと決めたぞ者どもッッ……!!」

 

 

 そしてズカズカと玉座のある高台から降りてきて、鳳明の肩をガッシリ抱いて強引に握手しました。

 

 

「とりあえず貴様は何が欲しい? オレが持ってるモノなら何でもくれてやる。その代わり開封料理の調理本を寄越せ。こちらでも試させているがどうも上手くいかなくてな」

 

「あ、そういうコトなら海の幸を食べてみたいです。できれば大きな蟹があるといいな」

 

「いいともっ、オレ達はもはや兄弟も同然よ! 最高の蟹鍋を用意してやる!!」

 

 

 その騒動を最初は微笑ましく見守っていた信陵君でしたが、一時的に回復した彼のメンタルは再び下降線を辿ることになります。

 

 

「ところでせっかく兄弟になったのだ。互いの妹を妻にするというのはどうだ? オレが言うのもなんだが妹は数多の求婚者が押し寄せるほどの器量であるし、貴様の妹も実にいいケツをしていたからな」

 

「えっ? い、いえ、そういうのは本人の意思が一番肝要ですし……」

 

「なんだそのウブな反応は? 貴様ときたら魏王の娘と懇意と評判だが……まだ手もつけておらんのか?」

 

「………はい」

 

「では未だに右手で処理しておると?」

 

「…………いえ。そういうのも丹に悪いかなって」

 

 

 下品に指を丸めて縦に振る王建王の姿に、信陵君の頭はフットーしそうになりました。

 

 

 ……やはりコイツは嫌いだ。やめろ。私たちの鳳明を汚すな。余計な知恵を授けるな。

 

 鬼のような形相でそれを見る信陵君は、背中をポンッと叩かれて正気に戻りました。

 

 

「やれやれ、やられましたな」

 

「……蔡沢殿?」

 

「こちらに来て儂の自信は削られる一方でしたが、今日ほど話についていけなかったのは初めてじゃよ。老骨を鞭打って頑張ってきましたが、儂もそろそろ引退期(いんたいどき)かのォ?」

 

「なんのなんの。それは私も同じですよ。まさかこんなにも性格の悪い鳳明がもう一人いるとは思いませんでした」

 

「ヒョヒョヒョ、それは上手いこと言ったのう。一人でも大変なのによもや三人目はおりますまいな?」

 

「さあ……?」

 

 

 ──その時は次の職場を考えないとな。

 

 うっかり最悪の未来を連想してしまった二人ですが、信陵君にはもう一つの疑問も思い浮かびました。

 

 

「ところで蔡沢殿はこの話を昭王に?」

 

「……うむ。王建王の話だけではなく、鳳明殿や開封の話もたびたび報告したが、どうも范雎辺りが差し留められておるのか、正確な話が昭王の耳まで届いておらんようでな」

 

「なるほど……道理で昭王の反応が鈍いわけだ」

 

 

 昭王の気性をよく知っている信陵君は蔡沢の話に深く納得しました。

 

 

 ……もし知っていたら、昭王は侵略などというまどろっこしい手段を採らない。

 

 とりあえず直接来る。そして寄越せ寄越せと無理難題を吹っ掛ける。それがない時点で昭王が魏の全容を把握してないのは明白だ。

 

 

「ま、儂もいずれ帰国せぬわけにいかぬが、時期は慎重に選ぶつもりじゃ。暗殺など恐れませんが、そうなっては方々(ほうぼう)に迷惑を掛けることになりますからな」

 

「そうなさってください」

 

 

 蔡沢は“誰に”とは言わなかったし、信陵君も警告など伝えませんでした。

 

 必要があればそうする立場ではありますが、好んで対立したいとも思わなかったのです。

 

 

「いかんいかん、その考えはいかんぞ鳳明。よいか、その娘も女の方から誘うのは如何にもはしたないと承知の上でそうしておるのだ。ならば男の責務は明白であろう。とりあえずオレの妹を貴様の世話役につけるが、嫁ぐ時期は選ばせてやる。だから貴様は開封に帰ったらその娘を抱いてやれ。……いいな? 男と男の約束だぞ?」

 

「いや、だからですね王建王……」

 

 

 真っ当な社会であれば先に生まれた者から順番に死んでいく。

 

 自分達も遠からず大地に還る。

 

 だからあの二人の若者に未来を託すのは正しいのだ。

 

 

「なに、オレも初めて同士で気後れするのはわかってる。だからな、ここに滞在してるうちにオレの妹で男になっても構わんが、こういうのは年上の手慣れた女が一番であろうよ。

 例えばそこな信陵君の縁者なる娘はなかなかであったぞ? オレとそやつの手は付いておるが、適度に気が強くていい女よ。そやつに頼めばあの娘だ、世話になってる男の命令で仕方なく股を開き、悔しそうな顔をするであろうからな。まさに適任よ」

 

 

 だがそれでもっ、やっぱりコイツだけは大嫌いだバァーカ……!!

 

 

 極め付けに有能なのは認める。おそらくはあの娘が言い寄られて困っているのに、気づいてやれなかった迂闊さも認めよう。

 

 しかしそれでもっ、まだ未成年の鳳明にこんな心底下劣な話をして困らせているのを目にすると、この場で差し違えることができない無念で頭がおかしくなりそうだ──。

 

 

 双方の立場ゆえに自制して、最後まで王建王に手を出さなかった信陵君でしたが、帰国後に軽度の心的外傷後ストレス障害を発症してしばらく悪夢に(うな)されたそうです。

 

 

 そして後日──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞けば聞くほど良い話ではないか。儂はこの話を受けようと思うが、そなたはどうじゃ。何か存念があるなら申してみよ、相如」

 

「ではお答えします。この者を生かして帰してはなりません。信陵君ともどもこの場で処するべきです」

 

「ほう? 客を手にかけるのは初めてだが、相如が言うのだ。儂に異論はないのォ」

 

 

 趙との交渉に乗り出した鳳明は生まれて初めて刃を向けられました──。

 

 

 

 

 

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