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うらしま

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

うらしま海洋研究開発機構が運用している深海巡航自律型無人潜水機(AUV)である。命名は、海底にある龍宮城へ行ったという日本の伝説浦島太郎にちなむ。

開発経緯

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地球温暖化の原因究明には北極海の海洋データの取得・解析が不可欠である一方、容易に近づくこと が困難であった。この北極海の調査を有効に行う手段として長距離航行可能な巡航型の自律型無人潜水機の開発が望まれ、北極海の海氷下を自律航行できるAUV開発のための試験機として、1998年に開発が着手された[1]

2000年にリチウムイオン電池を動力源とした状態で納入されたが、その後航続距離延伸を目的として動力源を燃料電池に換装する工事が2002年に完了した[1]

2003年、燃料電池搭載の無人探査機として、世界で初めて水深300メートルの潜航に成功。最大潜航深度1,507メートル、連続航続距離30キロメートル、潜航時間7時間を記録した。 2005年、駿河湾の水深800メートルで、56時間、317キロメートルの連続長距離航走に成功した[2]

2009年、実用機として完成し、公募対象探査機として深海探査研究に利用開始された[2]。この時点での最大潜航深度は3,500メートルであった[2]が、これでは排他的経済水域(EEZ)の45パーセントしか調査できなかった[3]

2022年に改造工事を開始し、より強い水圧に耐えられるよう船体内部の重要機器を収める耐圧容器をアルミ製からチタン製に変更するなどした[3]。2025年5月、海洋研究開発機構は、深さ8,000メートルまで潜れるよう改造した無人深海探査機「うらしま8000」を報道陣に公開した[3]。EEZの98パーセントを調査でき、海底資源の探査や、海溝沿いで起きる地震の研究での活用が期待されている[3]。うらしま8000を開発した背景には、深海探査が科学研究や資源開発などで重要性が増す一方、有人深海探査艇しんかい6500の老朽化が進み、日本が自国の海域を十分に把握できない状況に対する危機感があるとされる[4]。ただ、うらしま8000は試料採取はできないため、有人機や遠隔操作型ロボット(ROV)と組み合わせる必要がある[5]

2025年7月21日、うらしま8000が伊豆・小笠原海溝での試験航海で水深8,015・8メートルに到達した[6]。国内で開発したAUVとしては、最も深い記録となる[6]

システム構成

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調査機器として、自動多点採水装置、CTDOセンサー、低照度デジタルカメラ、サイドスキャンソーナー、サブボトムプロファイラ、マルチビーム測深機などを装備する[7]

諸元

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脚注

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  1. ^ a b 前田俊夫・石黒慎二・ 横山和久・広川潔・久留長生・谷俊宏. “燃料電池搭載深海巡航探査機 “うらしま””. 三菱重工技報 VOL.43 NO.1: 2006. 2024年1月29日閲覧。
  2. ^ a b c d 深 海 巡 航 探 査 機「 う ら し ま 」”. 国立開発研究法人海洋研究開発機構. 2024年1月29日閲覧。
  3. ^ a b c d 無人深海探査機「うらしま8000」公開…日本のEEZほぼカバー、海底資源探査や地震研究で活用期待”. 読売新聞オンライン (2025年5月12日). 2025年5月13日閲覧。
  4. ^ 晋史, 小野 (2025年5月12日). “深海探査は中国1強 「深海大国」日本の能力後退で危機感、安全保障上の不安材料”. 産経新聞:産経ニュース. 2025年5月14日閲覧。
  5. ^ しんかい6500老朽化、迫る設計寿命 文科省、無人機開発優先へ:朝日新聞”. 朝日新聞 (2024年8月11日). 2025年5月14日閲覧。
  6. ^ a b 産経新聞 (2025年7月29日). “海洋機構の深海無人探査機「うらしま8000」が水深8015・8メートルに到達”. 産経新聞:産経ニュース. 2025年7月31日閲覧。
  7. ^ 新型AUVの御紹介”. 文部科学省. 2025年8月1日閲覧。
  8. ^ a b c d e 深海巡航探査機「うらしま8000」 | JAMSTEC | 海洋研究開発機構 | ジャムステック”. www.jamstec.go.jp. 2025年7月31日閲覧。
  9. ^ a b c d 前田俊夫、石黒慎二、横山和久、広川潔、橋本彰、奥田幸人、谷 俊宏 (2004). 三菱重工技報 (三菱重工) 41 (6). https://www.mhi.com/jp/technology/review/sites/g/files/jwhtju2326/files/tr/pdf/416/416344.pdf. 

関連項目

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外部リンク

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