どこもかしこも、エーテリアスばかりだ…(涙目) 作:bbbーb・bーbb
これからも宜しくお願いします。
これ数字は基本漢数字で書いたほうが読みやすいのか……?
「うぅ……疲れましたぁ……」
しょんぼりと肩を落とす福福、疲れ果てているアキラに改めて謝る狩人。君だけのせいじゃないと返される。やはり、この男は優しすぎる。
留置場にぶち込まれて2時間、本格的な尋問が始まった際に福福が己の身分を明かすと、治安官達は一斉に「なら大丈夫か」と狩人らを殆ど検査もなしに解放した。雲嶽山というのはずいぶん信頼されているようだ。
それと、彼女の名の区切り方は橘・福福なのだということを知った。最初からずっとそう言ってたはずなんですが、と彼女は少し頬を膨らませていた。
四方八方、至近距離からライフルを突きつけられ「助けて! 衛非地区大好き」と叫ぶアキラの顔*1が頭から離れないでいると、突如福福の耳が反り返る。
小さな彼女を先頭として、一行は遂に「適当観」、アキラの暫くの拠点となる場所に到着したのだ。まあ気を取り直して、と福福が木製の大扉を開け放つ。
「ようこそ! ここが適当観です!」
狩人が辺りを見回してみると、ヤーナムではまず見ない建築様式の建物が連なっている様が目に入った。
天井は低く、瓦の屋根が連なっており、扉の殆どは開き戸ではなく木製の引き戸であった。
独自文化を全面に押し出したものであり、それは狩人の知的好奇心を大いに刺激、満足させるものであったが、その様式の名前は中々思い出せなかった。
英国の田舎村に生まれた彼に異文化と触れ合う機会は少なく、更にその微かな記憶も輸血により消し飛んでいたのだ。
新たな地に啓蒙を得るや否や、そういえばこの前ヤーナムで拾った画本にこういった建築物が描いてあったと気づき、狩人が一人唸る。気づいてみれば、そもそもこの衛非地区自体の様式も画本に載っていたものであった。
話していた言語もそれに関係しているのだろうか。考えを巡らせている狩人が、ようやく住人に気がついた。屋根から落ちる猫をキャッチしていたようだ。
まず目に入ったのは、ふさふさの巨体。ほんの一瞬湧いた微々たる殺意を抑える。もう、慣れたものであった。
真っ白な毛並みの中、鉄製の帽子からは黒い目元が覗いていた。
「おおっ! あんた達が新しい弟子かあっ? おかしいな、お師さんは『一人だけ』って言ってたはずなんだが……」
「ええ、そうですね。姉弟子さん、そのお方は一体どちらで──なぜ殺意を向けるんです?」
突如目の前の男から放たれた凄まじい殺意に困惑する
一方狩人も、目の前に居る胡散臭すぎる男に全力の警戒を向けていた。
顔つきと言い口調といい眼鏡といい、全てが胡散臭い。今にも崖から背中を蹴り飛ばしてきそうな顔である。ハゲてはいないが。
「
「ええっ!? シ、シリオン差別ですか!? どうして急に……ひどいですよぉ!」
思わずぼそりと呟いた言葉は福福の耳に届いてしまった。ショックに目を潤わせる福福。シリオン差別と聞いて場の空気が警戒に満ち満ちてしまった。
アキラがなんとか誤解を解き場を諌めたところで、屋敷の奥から見覚えのある輪郭が覗き出した。儀玄である。
狩人を見るなり一瞬ぎょっと表情を歪めたが、すぐにアキラへと向き直し笑顔を浮かべた。
「ようこそ、適当観へ。ただ一時とて、ここがお前さんの家となる……」
思わず眉がぴくりと動いたが、気のせいかと狩人は肩をすくめた。起きていたのかと潘が目を丸くする。死人のような顔で帰ってくるなり「寝る」とだけ呟き、風呂に入った後倒れるように眠ったのだという。
早速潘が新しい弟子たちに料理を振る舞うこととなった。福福が目を輝かせるも、新弟子の為のものだから駄目だ、乾パンでも食っていろと中々な言われ方をされ肩を落としてしまった。
一段落話がついたあと、奇妙な衣装に身を包んだアキラが儀玄に声をかける。興味深い服だ、後で自分のも貰おうと決める狩人。
「そういえば師匠、この『適当観』という名前には、何か理由があるのかい?」
「ああ、それはだな……」
ふふ、と少し笑ったあと、儀玄はこの館の名が「適当観」たる所以を語り始めた。
なんでも、かつて雲嶽山の先人がこの土地の風水を視ていた際、地主に何をしているのか聞かれ、風水が良いと知られては足元を見られると考えた結果「『適当』に『観』ていただけだ」と答えた事が由来なのだという。
皮肉の効いた良い名前だ。火薬庫とは正反対のネーミングセンス*2に笑顔を浮かべる狩人。あれもあれで良いものではあるのだが。飾らない武骨さが却って男心を揺さぶる。
「……それで、お前さんはなんでここに居るんだ?」
「私にも分からん。友人についてまわっていただけだ。また襲われでもしたら危ないのでな」
肩をすくめる狩人に、顔を覆う儀玄。なんなのだこいつは。
尤も、狩人の習性を鑑みれば驚く話でも無いのだが。
狩人、もとい不死人というものは、集団になると途端に知能の下がる生き物である。一人なら必ず賢いというわけでもないが。
仲間の誰かが前を歩いていれば、不死人達はとりあえずその後ろをついてまわるものなのだ。それも無言で。
半ば脳死状態でペンギンが如く固まって走り回り、先頭が穴にでも落ちようものならその勢いのまま止まれずに集団身投げを起こすのが様式美なのである。その先頭の者ですら何も考えていないことがあるのだからお手上げであろう。
「……まあ、恩もあるしな。ちょっとした術くらいなら教えてやるさ」
真珠ナメクジを噛み潰したような顔で、儀玄が声を絞り出した。儀玄は、ただ狩人のことを不気味に思っていたのだ。
カリフラワーの時はもちろん、人間に戻ってからも、彼はずっとそうであった。人間の形をしていても、それが人を越えた「何か」であることは分かるのだ。特に、彼女程の強者であれば。
不死。人類があらゆる時代で追い求め、しかし遂に手にできなかったものを、当たり前のように有している。それが凡そ知るべきでない手段で成されていることも、それとなく察せられたが。
「知っての通り、死なずの身なのでな。全力で相手をしてもらいたい。文字通り、殺す気で、だ」
儀玄が、アキラを見やる。頷く彼を見て大きくため息をついた。
「安心してくれ、師匠。人間の姿でも、彼は不死身さ。僕はその辺を『適当』に『観』てまわるとするよ」
もう一度ため息をつくと、今度はふっ、と口角を上げる儀玄。狩人の方を向き直すと「恨まんでくれよ」とだけ言い、共に広場へと向かっていった。
「そちらこそ、うっかり殺してしまっても恨まないでくれたまえよ」
次にアキラが彼を見たのは、福福が乾パンを食べている倉庫の中であった。たったの一撃で何十メートルもふっ飛ばされ、三枚の石塀と五枚の木壁をぶち抜いてきたのだ。
腰を抜かし、乾パンの缶を抱きかかえたままがたがたと驚きに震える福福。口からはぱんぱんに詰め込んだ乾パン、その粉が漏れ出していた。
「大丈夫か?」
全身の骨がひしゃげた狩人に、儀玄が話しかける。そんな筈が無いだろうと乾パンをなんとか飲み込んだ福福が叫ぶ。
「お師匠さま!? 何してるんですかぁっ!」
「手合わせを頼まれてな。加減無用と言われたので、そうしただけだ」
「だからって、お師匠さまが人間相手に本気を出して良い訳ないじゃないですか! お弟子さんが『出』の字みたいになっちゃってますよぉ!」
だんだんと、その声は震え始めた。パニックと悲しみ、そして恐怖から、その瞳には涙が浮かび始めていた。なに大丈夫だと儀玄が服についた埃を払う。
「心配するな、福福。そいつなら唾でもつけておけば治る」
「そんなわけないじゃないですかぁっ! 頭狩人になっちゃったんですか!?」
本人の前で言うかね。失言に気付いた福福がはっと口を押さえる。
輸血液をとしきりに唱える狩人を無理やり布団に潜らせたところで、来客だと潘が声を上げた。
大丈夫ですからねと抱き締められたのち、部屋に一人残された狩人。奇跡的に折れていない右腕を使いすぐさま輸血液で回復すると、部屋に生えていたランタンから夢へと帰った。
夢の中で、狩人は思案した。あの「ミアズマ」なるものについて。
人間の身体だと侵食を受け、幻覚を見せられるのだという。存在しない筈のものが見えるという経験には墓地街のテレポート目玉ババアで慣れてはいるが、別に無いに越したことはない。
啓蒙や神秘の影響を受けずに活動するには、やはり「アレ」しか無いな。狩人は、おもむろにカレル文字関連の器具を掴んだ。
数時間後、TOPS傘下の特殊開発企業「ポーセルメックス」の幹部、ダミアンと名乗るどうにも胡散臭い男との会話と住民への聞き込みを終えた彼らが気を落ち着ける間もなく、屋敷中に一般修行者の叫びが響き渡った。
「うぁぁぁ カ……カリフラワーが廊下を練り歩いてる」
何故か上裸に汗だらだらで歩き回るそれに「本物の蹴り」をぶち込み物理的に元居た部屋へ叩き戻す儀玄であった。
「すまない……ミアズマに対抗する良い方法を思いついたと思ったのだ……」
人の姿へ戻り、アキラと儀玄を前に叱責を受ける狩人。彼らの前やホロウ外でのカリフラワー化は固く禁じられた。
「カリ……フラワー…………?」
やっと解放された狩人が広間へ出ると、何があったのか説明を受ける福福が頭の後ろに宇宙を展開していた。セスも同じ事をしていたのを鑑みるに、猫科のシリオンは心から困惑すると皆こうなるようだ。
まあそれはそれとして、とアキラが話し始める。いつもの通り、ホロウ探索の話である。期待により途端にそわそわとし始める狩人。
ポーセルメックスなる開発企業はラマニアンホロウ内で鉱山を運営しているのだが、その中で起きた労災がどうにも怪しいのだという。
なんでも、ポーセルメックスがコスト削減に偽の侵食緩和剤を使っていた疑惑があるのだという。そして、その労災の内容とは「エーテルの予想外なまでの侵食」。
「怪しいな、殺すか」
「待ってくれ! せめて、証拠を集めてからじゃないと困る。そもそも無闇に人を殺すな、ということは置いておくとしてもね」
アキラ、というより兄妹の倫理観は、狩人のおかげで知らず知らずの内に少し歪んでいた。それでも殺人に否定的な態度でいられるのは流石といったところである。
早速ロープウェイでホロウ内へと潜ると、ロア先生なる人物が迎えてきた。ポーセルメックスに変わり安価で侵食緩和剤を作っているのだという。その薬名、「
少し怪しい雰囲気を感じる、白衣の男であった。釈淵よりはマシだが。リンを迎えに行った釈淵の無事を祈りながら、狩人らは奥へと進んでいった。
彼らの戦い方は見事なものであった。潘の巨体から繰り出される重撃は、しかし流れる川のように流麗な軌道を描き、時折名状しがたきチャーハンのようなものを撒き散らして攻撃していた。
その傍らでは、福福が鉤爪を振り回しエーテリアス達を切り裂いていた。あまりの速度に、狩人はその残像しか追うことができなかった。
ここぞという時には飼っているらしい鉄球のような機械虎、
だが最も驚いたのは、彼女が鉄球に乗り始めた時である。
鉄球に乗るなり超高速で回転し、その勢いで敵にぶつかり攻撃し始めたのだ。
今度
狩人は装いを変えていた。ヤーナムの狩装束に身を包み、左手にエヴェリン、右手には銀の直剣を握り、巨大な鞘を背負っていた。
探索、特に聖杯で神の墓を荒らして回る際は基本的にこの格好であった。ノコギリ鉈と同じく、とにかく状況適応力の高い武器であったのだ。狩装束の落ち着いた色感に暗い色の鞘が良い感じに溶け込み、見た目も良しである。
「お前さん、慎重なのか大胆なのか……どうにも良く分からんな」
「囲まれるのは苦手でな」
わざわざエーテリアス達を一匹ずつナイフや小石で釣り出しているのを見た潘に声をかけられる。恐ろしく強い大型のエーテリアス相手にも一人で突っ込んでいくことがあるわりには、小型のエーテリアス三体を慎重に各個撃破していくのを不思議に思われたのだ。
仕方の無いことであろう。狩人がヤーナムで最初に学ぶことは決まっているのだ。「囲まれたら死ぬ」である。囲んできたのが強敵か雑魚かなど関係ない。集団に囲まれてタコ殴りにされれば、まず助かりはしないのだ。
不死人の戦いは、
尤も当然、そんなことを儀玄達が知る筈もなく、ただ「強さのわりに集団と犬をやけに恐れる変人」を前に困惑するのみなのであったが。
「それにしても、お弟子さんが獣とか言い出した時はびっくりしちゃいましたよ。トラウマがあるって聞いて納得はできましたけど……」
「……なんだと?」
眉をひそめる儀玄に、福福がことの成り行きを説明する。福福が話せば話すほど、儀玄の顔は険しくなっていった。
ふと、儀玄が狩人の方を見やる。敵を倒したはいいものの重たい一撃を食らい、地面に倒れている。暫くして、おい、と福福に声をかける儀玄。
「その鉤爪、少し貸せ」
「えっ? ああ、はい……良いですけど……」
困惑を表情に出しながらも彼女が鉤爪を手渡すと、儀玄はそのまま狩人へと向かっていった。
「ああ、すまない。手痛い一撃をもらってな。少し起き上がるのを手伝ってくれはしないかね」
笑顔で手を差し出す狩人の耳が、じゃきん、という小気味の良い音を捉える。見れば、彼女の両手からは恐ろしく鋭い鉤爪が飛び出していた。何をされるのか大体察する狩人。
「ああいや、やはり大丈夫だ、ありが──AHHHHHHHH!!!!」
脇腹から肺へと向かって思い切り突き刺さる鉤爪に、狩人が耳をつんざくような絶叫を上げる。そのまま無理やり起き上がらせた儀玄が鉤爪を引き抜くと、開いた穴達から水鉄砲のように血が噴き出した。
助かった、ありがとうと鉤爪を返す儀玄。突然己の得物を血みどろにされ呆然とフリーズする福福をしばらくの間引きずって進むこととなる一行であった。
流石に次回からストーリー進めないとな……儀玄さんの三人称がわからん。
新バージョンの章名見ました?何が何でも書きたい。
因みにこの小説でアキラがやたら顔を青くしたりするのは私の性癖だからです。嫌いなわけではないです。それはそれとしてすまない。朔は次回か次次回で出します。