リオにモモトークで呼ばれてミレニアムに赴き、彼女から依頼を要請されたところから話は始まった。
「黒崎コユキ?」
「えぇ、セミナーに所属していた子なのだけれど、ちょっと……いえ、結構な問題児なの」
「まぁ債権を勝手に発行するような子だものな」
彼女の持つ能力は非常に高いらしく、ミレニアムとしても重宝しているそうなのだがあまりの問題行動の数々によりセミナーを脱退させられたらしい。曰くどのような暗号も驚異的な早さで解くことが出来るとか何とか。ノースティリスで例えるならどんなレベルの高い鍵付き宝箱であっても開錠可能、といった感じだろうか。それならば確かに凄い。命の恩人から貰ったあの無駄に重い宝箱を早期に開ける事が出来たらどれだけ良かったことか。
「そうね……。本当なら私がエリドゥの為に債権を発行したいくらいなのだけれど、まぁこれは戯言ね。貴方にはコユキの身柄が捕縛されるのを見届けて欲しいの」
――――?
なんだか変わった言い回しだ。少なくとも私が直接黒崎コユキを捕まえる訳ではないらしい。
どうやらユウカがC&Cに捕縛の依頼を出したのだが、C&Cは毎度それなりに周りに被害を出しているようで、その分の被害請求もバカにならないらしい。今回はストッパー役に先生をC&Cに付けているのだが、私も別口からC&Cの行動を見て彼女達の出す被害が果たして本当に正当な(?)ものなのかを確かめて欲しいとのこと。
「もし不必要に周りに被害を出したり暴れたりしていたら教えてちょうだい。彼女達の今後の予算を考える必要があるから」
特にアカネとネルの動向には注意して、とのことだった。
なるほど。数多くのクエストや依頼を受けてきたが監視依頼というのは私としても初めての経験ではなかろうか。ちょっと面白そうだ。これは受けるしかあるまい。
「分かった、面白そうだし引き受けるよ」
「ありがとう。貴方の補佐にはトキを付けるから一緒に行動してちょうだい」
「よろしくお願いします、ご主人様」
「トキもいるなら大分余裕のある仕事になりそうだな」
ただ見張るだけだしトキの補佐が必要になる場面が来るとも思えないが、彼女が居るならただの監視であっても退屈はしないだろう。
「これがコユキの居る場所と思われる船、ゴールデンフリース号の招待状よ。ただここはちょっと問題点があって……」
「ん?」
「乗員は何故かバニー服の着用を義務付けられているの」
「――なるほど?いや待て、それはまさか……私もか?」
「…………多分?」
「ご主人様のバニー姿ですか。――ぷぷっ」
ぷぷっじゃないが?途端に受けたくなくなったぞ。何故依頼を了承してからそんな事を言うんだ。卑怯だぞ!
「ごめんなさい、わざとじゃなかったのだけれど……」
「大の大人のバニー姿になんぞ需要があるはずもないだろう……。いや待てよ?」
そういえばある意味お誂え向きのポーションがあったような気がする。そう思いながら鞄からホルモン薬を取り出し、それを飲む。すると私の姿がみるみる変わっていき、大人の女性の姿へと変貌した。
「「――――はい?」」
「この姿であればバニー服を着ても違和感はないだろう。これで問題は無いな」
「大ありよ?いえ、問題は解決したけれど……貴方の世界ではそんな簡単に性別を変えられるの?」
「流石ご主人様ですね。しかし女性になっても中々魅力的ですね……特にその胸部装甲は」
トキが気持ち恨みがましい目で私を見てくる。私の魅力が高いせいなのかやたらと起伏のある姿なのは否めない。元が男なので私にとっては違和感しかないが、今の私はリオに近い体型をしている。
「――胸が大きくても不便な事の方が多いのだけれど」
「……ぺっ!」
「トキ!?」
リオとトキになんだか溝が生まれてしまった気がする。とはいえトキも小さいわけではないと思うので気にしなくても良いと思うが……。
「いやん、ご主人様に視姦されてます。恥ずかしい……」
真顔で言うな真顔で。
「まぁ……ともかくお願いね」
そういう事になった。
**********
「ここがゴールデンフリース号か。これまた立派な船だな」
「はい。リオ様によるとここでは賭博のようなものが行われているそうです」
一応ここはオデュッセイア海洋高等学校が管理しているそうなのだが、このゴールデンフリース号だけは独自の運用がされているらしく、オデュッセイアの生徒会もその中身は把握しきれていないらしい。何故そんな生徒会ですら知りえていない事をリオが知っているのかという突っ込みは野暮だろうか。まぁ彼女の優秀さを考えるとおかしくはないのか?
「そして船内のゲームで勝ち進むほどランクが上がっていき、AランクやSランクの待遇はとんでもなく高いのだとか。特にSランクはこの船内だけに限定すれば王様のような扱いだそうですよ?」
「なるほどなぁ。なら私達もSランクを目指して少しばかり遊んでいくか」
「はい。どちらが先にSランクへ到達できるか競争しましょう」
ほう?私が一体誰を信仰しているのか分かって言っているのだろうか。
「勝った方が負けた方を好きに出来るという条件でいきましょう」
――分かってて言ってないか?負ける気満々だろこの子。
「っと、乗船する前に服を着替えてしまいましょうか」
くっ、バニー服にはエンチャントが全く付いていないから少し耐久面が不安だ。そう思いながら着替えてみるとサイズがぴったりだったのはいいのだが、露出が多くてなんだかスースーする。これ少し激しく動いたら胸がこぼれてしまうんじゃないか……?
「お、落ち着かん……。何故こんな服の装備が義務付けられているんだ」
「大変似合っておりますよご主人様。憎らしい程に」
「褒められても嬉しくは無いな……。だがトキはよく似合っている。メイド服ではない姿を見るのは初めてだからなんだか新鮮だ」
私は黒を基調としたバニー服で、トキは青を基調としたバニー服だ。細かい事に兎の尻尾も尾てい骨の部分にあしらわれており、ディテールはかなり凝っているように思う。無駄に。
「ふふん。では今度は制服姿のトキちゃんもお披露目して差し上げます。きっと悩殺間違いなしですよ」
「そうか。楽しみにしているよ」
そういえばトキも学生なのだから制服はあるのか。あまり制服姿で勉強している姿を想像出来ないが、それは私がまだまだトキを知らない証拠だな。
――調教されたあられもない姿は知っているというのにおかしな話だ。
そうして船内に入ったが、オデュッセイアが把握しきれていない内部と言われていたがかなりの盛況だ。沢山の人が集まる遊戯施設と思しき場所では一喜一憂の声がそこかしこから聞こえてくる。
「だーっ!BランクからCランクに落ちたー!くそー!」
「あーあ。カレーのから揚げトッピングが無くなっちゃったね」
「から揚げ返して……」
どうやらBランクまでは微笑ましい待遇のようだ。Aランクから待遇が最上級になるとの事だったが、どれだけの差があるのか少し楽しみだな。
「私もせめてから揚げは欲しいですね。Bランクは目指さないとだめそうです」
いや君から勝負を挑んできたんだからSランクを目指してもらわねば困る。やっぱり勝つ気ないだろ。
「ほう、プレイラウンジとな。対戦形式で勝ち上がっていく感じか……。さて、エヘカトル様の力を見せてやろう」
懐にラッキーダガーを仕込んでいざ出陣。
「おーっと!黒いバニー服を着た胸のおっきなお姉さんが三連勝だ!そしてCランクへの昇格が決定だー!」
「胸のおっきなお姉さんによる怒涛の五連勝!これで一気にBランクへと昇格しました!一体どこまで勝ち星を拾い続けるのか――――!?」
「別のこちらのテーブルではアスナ様が五連勝!一気にBランクへと昇格だー!とんでもない人材が一気に二人も現れてしまったぞー!」
ほう?私以外にもどうやら運の強い者がいるようだ。一旦こちらは中断してそちらの様子を見に行こうか。
「ふっふーん!ちょろいちょろーい!さぁ次の対戦相手はだれだー!」
中々に元気な子だ。――なんだか見覚えのあるような子な気がするが、どこで見たかな……。
「あれはアスナ先輩ですね。同じC&Cの先輩です」
「あぁ、なるほど。前にアリスとの戦いの映像を見た時に確かに映っていたなあの子。そうか、もうC&Cは到着していたのか。しかし他のメンツは見当たらないようだが……」
「アスナ先輩は基本的に遊撃という形で好きに動いてもらう事が多いそうです。なので彼女だけ今は単独で動いているのでしょう。なぜゲームをしているのかは分かりませんが」
「なるほどな。まぁトキの先輩なら挨拶だけでも行こうか。結局まだ他のC&Cとはまだ交流を持っていないのだろう?」
「はい。なので今日は少し楽しみにしていました」
そういう事ならもっと早くに気付いてトキの為に動いてあげれば良かったな。リオには他のC&C達への接触は止められていないから問題はないだろう。
「もし。中々に調子が良さそうだね。良ければ話相手ついでに一局どうかな?」
「およ?良いよ良いよ!私アスナ!よろしくね!」
「あぁ、よろしく。隣にいるのはトキだ。ここではあまり大きな声では言えないが君と同じC&Cで君の後輩にあたる」
「コールサインゼロフォー、飛鳥馬トキです。初めましてアスナ先輩」
「ほぇ……?へー!後輩ちゃんが居たんだー!よろしくね、トキちゃん!――あれ、でもどうしてここに?」
「私も君たちと似た目的だよ。リオ会長からの依頼でね。今日は先生というストッパーが内部にいるだろう?私たちは外部からのストッパー、のようなものかな。まぁお目付け役のようなものだが、あまり気にしないでくれていい」
「ご主人様の知り合いってことね!りょーかい!」
あまり細かい事は気にしない性質のようだ。まぁ話が早いのは助かる。このまま是非ともトキと交流を深めて欲しい。
「ご主人様お気をつけて。アスナ先輩もご主人様に劣らぬ幸運の持ち主のようです」
「あぁ、どうやらそのようだ。油断はしないさ」
「トキちゃんは私の事知ってるんだね!私はあんまりトキちゃんの事知らないから色々教えてね!」
「はい、もちろんです。アスナ先輩」
「またしても引き分け!これで四連続の引き分けです!幸運の女神同士の対決は一向に譲る気配がありません!」
想像以上だ。アスナの幸運は私に匹敵するようだ。だが私たちを幸運の女神呼ばわりは不敬にすぎるのでやめて欲しい。私が過激派だったらここは火の海と化していたぞ。
しかし、アスナの幸運の高さはもしや――
「君もエヘカトル様の信者なのか……?」
「エヘカトルさま……?」
まぁ知らないよな……。私はかなりの信仰心がある筈なのだが、それでもなお決着が付かないのは天性によるものか。やはりキヴォトスは逸材が多いな。これでアスナがエヘカトル様を信仰したら一体どうなってしまうのだろう。
「私の信奉する幸運の女神でな。私の幸運の高さはエヘカトル様の賜物だ」
「ほえ~……じゃあ私も信仰しちゃおっかな?」
めっちゃ軽い。まぁそれはそれで有りだ。今は祭壇を持っていないからいずれ試してもらってもいいかもしれない。まだキヴォトスの者がノースティリスの神々を信仰できるかは試していない。これがもし出来たら異世界にも神々の威光を知らしめる事が可能となる。
そう考えて次の対戦に移ろうとしたところで、遠くから爆発音が聞こえてきた。
「あれ、今爆発音がしなかったか?」
「え、うそ。もしかして強盗かテロリスト?」
「まぁここには人も金も集まるから不思議じゃないが……警備は一体どうなってる?」
私たちを観戦していた者達が動揺している。アスナもきょとんとしているが次第に何か思い出したかのように言い出す。
「あっ、多分アカネがやらかしちゃったかな?」
ご主人様に怒られてないかなー、とアカネを心配している。不覚を取られた心配をしていないのはこの子の楽観性によるものか、信頼によるものか……。
「確かアカネ先輩は爆発物を好んでましたね。そのせいでしょうか」
「ふむ、この対戦はお預けとするか。トキ、私たちは一度先生達の様子を探りに行こう」
「かしこまりました」
「そういうわけで悪いアスナ。勝負は一旦ここまでとしよう。また改めて手合わせを願いたい」
「多分アカネなら問題ないと思うけど、分かった!私はここでもうちょっと遊んでいくから、またねー!トキちゃんも気を付けてね!」
「ありがとうございます」
アスナはまだまだ遊び足りないらしい。私としても同じ気持ちなのでさっさと様子を見てゲームに戻りたいところだ。
**********
爆発の方向へ向かうとバニー服を着た警備兵が幾人も倒れており、そこから少し離れたところに先生とC&Cの面々が立っていた。
「もしかして、ネルは女子中学生だった……!?」
「はぁっ!?何言ってんだ!?」
何やら呑気な会話が聞こえてくる。とりあえず話し掛けておくか。
「ふむ、随分と派手にやらかしたものだな。先生よ」
「あ?――誰だてめぇら?」
ん?ネルとは初対面ではないはずだが……まぁ会ったのはたった一度だけだし覚えてないのは無理もないか。そして私が話し掛けたせいで彼女達が臨戦態勢へ入ってしまった。
「警備の者ではないようだが、見られてしまったからにはただで帰すわけにはいかない」
黒髪の私と同じ黒いバニー服を着た子がとても物騒な事を言ってくる。なるほど、このままだと戦闘へと突入しそうだな。それも楽しそうだが、とりあえず先生の出方を見るか……。
「えっと、あまり手荒にはしないようにね?」
おっと?先生すら私の事を知らんぷりか?そっちがその気ならば仕方あるまい。やってやろうじゃないか!
「――ご主人様。今の貴方の性別をお忘れですか?」
「ん?――あぁそうだった。今の私は女だったな」
「「「え?」」」
「その話し方にやけに強い気配……いや、まさかとは思うけどよぉ……」
「リーダー、心当たりがあるのですか?」
「あるにはある……が、そいつは男だったはずだ。なんで女になってんだ?」
「もしかして……君なのかい?」
「正解だ先生。諸事情があって少し性別を変えていた。ネル以外は初めましてだな。そして私の隣にいるのは――」
「コールサインゼロフォー、飛鳥馬トキです。初めまして、C&Cの先輩方」
「あら……五人目のC&Cがいるとは話だけは聞いていましたが、実在していたんですね」
どうやら亜麻色の髪の眼鏡を掛けた子はトキの存在を知っていたらしい。
「やっぱてめーかよ。なんでんなとこに居んだよ。しかも私達の後輩を連れて」
「先生が君たちと行動しているのと大体同じ理由さ。私の依頼の出どころはリオだがね」
「げっ……あいつの差し金かよ」
「私はそんな彼のメイドです。――それにしてもやらかしましたねネル先輩。やーいやーい」
「あぁ!?てめぇ後輩の癖に言ってくれるじゃねえか!?」
「助けてくださいご主人様。先輩にいびられそうです」
「おいそいつの後ろに隠れんな!お前はそこどけ!」
仲良くしてくれんか……?後ネルを煽るのやめような……。
「とりあえず、その二人は味方って事でいいのか?私は角楯カリン。よろしく」
「室笠アカネです。よろしくお願いします」
カリンとアカネから自己紹介を受け取り私も自己紹介を返す。そして彼女達に私がここに来た経緯を軽く話す。
「君がここにいる理由はなんとなくわかったけど、どうして女性の姿になってるの?」
「そこだよ。しかもなんだそのスタイル。ふざけてんのかお前」
ネルにまで体型を咎められる。まぁ確かに彼女はこの中で一番、なんというか、慎ましい。ヒナと同程度と言えば伝わるだろうか。
「ふざけてはいない……。どうやらこの船ではバニー服の着用が義務付けられていると聞いてな。違和感を消す為に仕方なく性別を変えたんだよ」
「ごめん、ちょっと意味が分からないかな。性別ってそんな簡単に変えられるものだっけ?」
「まぁノースティリスにはそういう薬があるんだ。それにしても何故先生はいつも通りの服装なんだ?これでは私がバニー服を着た意味がないではないか!?」
これにはさすがに憤慨だ。私とて一応恥を忍んで着ているのだぞ。
「私は一応潜入って形でここに居るから……いや理由になってないか。でも君ほどの度胸は
流石にないからね……」
「なんかムカついてきたな……。アカネかカリンよ。バニー服の予備とかはあるか?」
「一応持っていますが……まさか先生に着せるおつもりで?」
「無論だ。私が着ているのに先生が着ていないのは不平等だ」
「えぇ!?流石にそれは嫌だよ!?」
「やかましい、さっさとこれを飲め!」
「えなにそれは――んぐぅ!?」
そして私は先生にホルモン薬を飲ませ先生も女体化させた。よし、これで平等だな。
「えぇ……?本当に先生が女性になった……」
「い、意味わかんねー……」
「うわぁ、本当に女性になっちゃった……これ戻せるの?」
自分の胸を感慨深そうに揉みながら先生が訪ねてくる。それは問題ないが生徒の前で胸を堂々と揉むものではないと思うぞ。
「あの、先生……いくら自分の胸といえど、その……」
「あっ、ごめん!ちょっと流石に気になっちゃって」
「まぁお気持ちは分かりますが……」
「ちょっと予定外の事が連続で起きたが、とりあえずここから離れよう」
カリンがそう提案するので私たちはこの場から撤退して彼女達が拠点にしている部屋へとお邪魔する事にした。
「なんで先生までスタイル良くなんだよ……トキくらいはあるよな?――不平等だろこれ」
強く生きろ、ネル。
イルヴァ豆知識
・運
今作においては運はそれほど重要度の高いステータスではなくなっている。
――が、運の値が高いほど宝くじ箱の当たりも出やすくなるので、宝くじ箱をありったけ買い集めて開けるだけでそれなりの金策になったりする。後は土地の幸運の月が訪れやすくなったり、ダメージのダイス値が高くなりやすくなる。
固定アーティファクトの存在もあり、Elinにおいて最強信仰の一つの候補でもある。スタミナ吸収がラッキーダガーにしか無いのはズルだよズル。
投稿が遅くなって本当に申し訳ない……。エデン条約をどう収集付けるか考えていたらいつの間にか日が経っててこれはまずいと思って番外編という形ですが投稿しました。
もうティリス民って事でエデン条約も滅茶苦茶にしちゃっていいかなぁ……。
アリスクにもちゃんとスポットライトを当てようとするとどうしても調印式の襲撃が必須な気がしてならないんだけど、情報を先生とティリス民が握ってるせいで襲撃を起こせる気がしないんだよなぁ!?誰だよこんな状況にしたやつぁ!!!俺だ!!!!!