佐藤勝利『A Bird on Tiptoe』インタビュー
インタビュー日:『A Bird on Tiptoe』の表紙サンプルと色校(印刷の見本)が初めて出た日
──初めて色校をご覧になって、いかがですか?
うん、すごくいいと思います。もちろんデータでは(レイアウトを)見ていたんですけど、全然違いますね。手の中に収まると、急に現実味が出るというか。
──装丁や用紙など、かなり凝った仕様になっていますが、その点は意図していましたか?
もともと自分の中に「普通のものを作りたい」っていう感覚があまりないので、周りが提案してくれることに対して「面白そうだからそっちのほうがいいね」とか「そういうのがいいね」とか言うぐらい。いい写真集になったのは、本当に友だちでもある真澄ちゃん(石田真澄・写真家)と大和(大和佳克・編集者)のおかげです。
──企画の立ち上げからお聞きします。2024年1月にInstagramを開設したときから石田真澄さんが撮影されていますが、石田さんにお願いした理由は?
雑誌『MORE』の連載(2019年)で初めてお会いして、居心地がよかったんですよね。撮られてるときの空気感も、写真の出来上がりも。それまで、ずっと「キメたほうがいいものができる」というやり方で仕事することが多かったので、ちょっと毛色が違うというか。そのとき一緒だった『MORE』連載のメイクを担当していたNOBUKIYOさんも、真澄ちゃんも、ふたりとも「心配ない」っていうか。「何も言わなくてもいいものができるんだ」っていう安心感があって。空気感が合う人たちっていうのかな。世の中のことについて自分だけがハテナをつけていたことを、やっとわかってくれる人が見つかった感じがして。それで、インスタを始めるときに、真澄ちゃんとNOBUKIYOさんとスタイリストの真壁いずみさんにお願いしたんです。
──インスタ開設にあたり、まずどんなことを考えましたか?
もともと僕はSNSにネガティブなイメージはなかったんですけど、事務所として「やれる」となったタイミングがちょっと遅めで(笑)。今から始めるなら、普通にやるだけじゃなくて向き合い方を考えなきゃなって。人と違うことをやりたいというベースもあって、結果的におしゃれにやろうと思ったんだと思います。
──それが、日常的な投稿ではなく、小さなギャラリーにする、という方向性だったんですね。
そうですね。最初は日常の写真を投稿することも考えてはいたんです。いっぱい見てもらうためには、リアルタイムで毎日更新したほうがいいってことはわかりますし。でも、NOBUKIYOさんに「性格的にやらなくなることは、やらないほうがいい」って言われて(笑)、確かに、(頻繁な更新が)最初だけになっちゃうのもなって。それで、最初のやり方のまま数か月続けていたら、ほんとにちょっとだけ話題にもなったみたいで……。試しに一度だけ、自分の愛犬を撮って投稿してみたんですけど、やっぱり誰かに撮ってもらったほうが僕には合ってるかな(笑)。
──「佐藤勝利Instagram」のブランディングという意味でも、自己プロデュース力がすばらしいですよね。この方向性はどうやって作っていったんですか?
最初に、真澄ちゃんとNOBUKIYOさんと真壁さん──そのときは3人だったので──のLINEに、インスタで表現したいテーマを書いて送りました。「自分はこういう人です」っていうワードを箇条書きで。
──たとえばどんなワードを?
恥ずかしいんですけど、「無邪気さ」「悪戯心」とか、「透明感」「洒落気」「新世代感」など、自分の根っこや持ち味を色々書いて送りました。というのも、自分を隠すような、かっこよく作られた本来の自分じゃないものを写すのは嫌だなと思っていて。おしゃれに仕上がっても、個性とか自分らしさが出ないのは嫌だから、ちゃんと「自分自身」を撮ってもらいたいっていうのが最初からあったんですよね。
──Instagramでの撮影を続けるうちに、編集者の大和さんが加わり、スタイリングにも少し関わるようになって。写真集制作の話も具体的になっていったそうですね。
写真集を作るためにインスタをやっていたわけではないんですけど、「せっかくだから、いつか写真集みたいなのが作れたら面白いかもね」って話にはなっていて。結果的に一冊になったという感じです。
──勝利さんの中にも、写真集にしたいという希望はあったんですか?
作品を作ること自体はいつでもウェルカムというか(笑)。もともと10代の頃から写真集を作ってみたいって気持ちはあって、僕がガンガン言っていれば別のタイミングで出ていたかもしれないけど、どちらかというと「いつかできたらいいな」くらいの気持ちで。写真集はビジュアルを出すものだから、自分から「出したい」って言うのは恥ずかしかったんですよね。提案できないから、誰か言ってくれない?って(笑)。でも、タイミングと出会いが重なった今だからこそ、ベストな形で出せたかなと思います。
──写真集を制作しながら気づいたことや変化はありましたか?
僕たちで「作りたい」って言って、そこに自分もいますけど、基本は真澄ちゃんと大和、そしてスタッフさんに任せていたので。楽しく過ごしてたら1冊になったって感じですね。イメージ通りに出来上がったので、僕はほとんどすることなかったです(笑)。
──面白い試みとして、大和さんが知り合いの方から服を借りてきて、スタイリングされたりしたそうですね。
そうそう、大和は面白い提案をするんですよ(笑)。提案されて「それ面白いじゃん」って思うし、出来上がったものを見て、またいいなと思ったし。やっぱり、仕事には人間がでますよね。
──ストーリーのある服を着て、リスボンや台中、群馬や東京のふとした街角で撮られているときの気持ちは、普段と違いましたか?
気持ちは違うんだと思いますけど、仕事って感覚があまりなかったですね。撮影なんだけど、センスのいい友だちとただ遊びに行っている感じというか(笑)。
──遊びに行って、その合間に撮られてるという感じ?
そうですね。リスボンは本当に時間がなくて、お土産を買う時間もなかったんですけど(笑)。僕としては美味しいものを食べれたので満足ですけど、日本に帰った先には、仕事の人とかメンバーとかお土産を渡す人がいますからね。逆に、台中は着いたらすぐお土産屋さんに直行しました(笑)。
──カメラを向けられて作品になるという自覚はありつつも、「仕事」とか「いつもの撮影」という感覚ではなかったんですね。
そうですね。これだけいいものができるから、ただ仲がいいからやってるわけじゃないですけど。でも、意識して「考えないようにする」みたいなところはありました。客観的に見て、自分は(顔が)決まりやすいタイプだと思うので。
──この写真集は国内外のさまざまな場所で撮影されていますが、どのページにも等しく美しい時間が写っていて。勝利さんの佇まいも、写真によって、現在の年齢にも、無邪気な子供にも、成熟した大人にも見える。石田真澄さんの写真は、「きっとこういう人なんだろうな」という勝利さんの本質を捉えているように感じました。
確かに。「この時期、仕事ではこういうことがあって」みたいな変化も、まったく感じられないですね。
──ご自身ではどんな自分が写っていると思いますか?
うまく言えないですけど……取り繕ってないし、「こう見せよう」みたいなことを全く考えてないんで、ありのままかなっていうのは思いますけど。
──そのせいか、勝利さんがすごく近い存在に感じられる作品になっていますよね。普段の表情だったり、仲のいい人や家族が見ている勝利さんに近いものが写ってる気がします。
うん。そうですね。
──自分の本質が写っている写真集を発表するのを恥ずかしがる人もいると思いますが、勝利さんはどうですか?
逆に僕は、かっこつけてるほうが恥ずかしいんです。なんだろう、「このチームの作品」だから恥ずかしくないというか。自分だけの作品って感じがそもそもないし、このチームの一員として作品に乗っかってる感覚が強いです。真澄ちゃんは「いい写真撮りたい」って思ってくれているから「いい写真集にできたらいいな」と思うし、大和も「ちょっと写真集作ってみようよ」って言ってくれたから。「自分だけの気持ちでやろう」っていう感じではなかったですね。
──それぞれの想いと才能が集結していて、勝利さんはその中のひとりだという。だからこそ、客観的にいい写真集だと思える?
そうですね。あと、「これまであまりやれてないことをやりたい」とか、「(一般的に世に出ているものが)そういう方向性の写真集じゃないものが多いから」っていう感覚も大きかったと思います。
──なるほど。
もともと、かっこつけるとかキメるということは、自分のルーツとかアイデンティティーにないものなんですよね。仕事上、できるようになりましたけど(笑)、得意じゃない分野で。でも、この写真集にいる自分やこういう世界観は、小さい頃から好きだったものというか。だから、(写真集を手に取りながら)「これはわかる」って感じです。むしろ、こっちのほうが得意っていう(笑)。
──そういう意味でも、100パーセント自分がいいと思える写真集を出せたってことですね。
そうですね。出会いが重なりましたし、インスタを始めたぐらいの時期から、環境的に自分のやりたいことができるようになったタイミングでもあったので。
──ダウ90000の蓮見翔さん、演出の橋本和明さんとコントユニットを立ち上げたり、積極的に面白いことをやっていますしね。
割とやってるんですよ、ちょっと踏み込んだことを(笑)。
──写真集も勝利さん発信の作品のひとつですが、どんなふうに受け取ってほしいですか?
写真集を作ろうっていう話になったときから思っているんですけど、発売の瞬間だけじゃなくて、ちゃんと未来に残るものになってほしいなと思っていて。話題性や売上だけじゃなくて、写真集自体がいい作品として残るものになってほしい。真澄ちゃんや大和、関わってくれたみんなの代表作──って言うのはちょっと恥ずかしいですけど、でも、そうなってほしいですね。
──『A Bird on Tiptoe』というタイトルへの印象は?
いいなあって思いました。もっとシンプルなタイトル案もあったけど、それだと決まり切っちゃうし。今のタイトルは含みがあって伝えたいこともあるので、すごくいいなと思います。真澄ちゃんと大和のなかで、僕はちょっと鳥っぽいイメージがあるみたいですね(笑)。これまで鳥に似てるって言われたことはないんですけど、言われればそんな感じなのかなって。
──写真集には、Instagram開設のときに挙げた「自分はこういう人です」というテーマは内包されていると思いますか?
そうですね。そう思います。
──去年の1月から今年の7月まで、約1年6か月の勝利さんがつまっている一冊になりました。29歳の誕生日に発売されますが、勝利さんご自身は『A Bird on Tiptoe』という写真集をどう受け取っていますか?
そうだなあ。撮影期間自体はここ最近の1年6か月なんですけど、それよりもっと奥の、29年分が入ってる感じがしますね。いろんな場所で撮りましたけど、「その瞬間だけ」を切り取ってる感じではなくて……「生まれてから今まで、これまで生きてきた時間の全部」を振り返って写してもらえてると思います。
聞き手:上田智子