「ん、んん……。――見慣れた天井だな」
セイアとの対話を終え目が覚めた。いつものベッドで寝ていた事から本当に夢を見ていただけらしい。だがセイアと会話していたせいかあまり眠れたような気がしない。王様ベッドでなければ疲労を回復しきれなかったかもしれない。
「――おはようございます、ご主人様」
「ん、あぁ、トキか。おはよう」
「はい、ですがもうそろそろお昼になりますよ。まさかリオ様のように昼夜逆転した生活をお送りになられているのですか?」
「いや、昨日は色々と作業していてな。しかもそれなりにおかしな夢も見ていたせいでな」
というかリオはそんな不規則な生活を送っているのか。トキを普段から側に置いてるのはその辺りの生活能力が低いからか?確かにこう言ってはなんだがリオが一人でちゃんとした生活を送れるようなイメージはあまり無いな。
「なるほど。ところで、そろそろお昼なのでお腹が空きました」
「メイドがご飯をたかるのか……。いや、それ以前に」
「?」
「なんでトキがいるんだ……?」
本当に何でだ?特に約束などはしていなかったはずだが、何か用事があるのか?
「いえ、ただ何となく遊びにきただけです」
「なるほどな?とりあえず歓迎するよ。今日は特に予定は無かったはずだしな」
そういえばセイアから採れた卵は回収出来ているのだろうか。夢の中だとどうなるんだろうと思いながら鞄を確認してみるとちゃんと卵が収納されていた。なるほど、理由はさっぱり分からないが夢の中であっても卵の採取は可能という事か。という事は産卵薬で上げた好意も恐らくそのままである可能性が高いな。
「何を見てるんです?――なるほど、卵ですか。また誰か調教したのですね」
「う、うんまぁ、そうだな」
「次は一体誰に手を出したんですか?アビドスですか?ゲヘナですか?」
「ティーパーティーだな」
「気のせいでしょうか。調教したという話題からはとても出てきてはいけない名前が出たような気がしますが」
やはりトキもそう思うか。私もちょっと流石にまずいんじゃないかという気がしてきている。
「流石はご主人様。これから条約を結ぼうとしている相手を調教する事でその絆を確固たるものにしようとしたわけですね」
絶対思ってもいないような事を言ってのけるトキだが、細かい事を考えていても仕方がない。せっせとご飯でも作るとしよう。
「トキは何か食べたい物はあるか?」
「私は何でも構いません」
「じゃあ私はパスタが良いです。デザートはプリンでお願いしますね」
「パスタか。じゃあペペロンチーノかミートスパゲティのどっちが……ん?」
トキ以外の声がしたのでそちらに振り返ってみると何故かイロハが居た。イロハはあれからたまに拠点に来てはサボりにくる事がある。建前としてはマコトに言われた通りに篭絡とやらをしに来ているので問題は無いと宣っていたが、基本的にうちに来てやる事はゲームを持ち込んでぐーたらして菓子をせがんでくるくらいだ。私が拠点にいる時は暇を持て余している事が多いから自分もサボりやすくて良いなどと言っていた。良くはないだろ。――というかこの状況だと今までの話を聞かれているのではなかろうか。
「安心してください。どこかの誰かさんが調教した話はトキさんから色々聞いてますから」
「何も安心できる要素はないが?――おいトキ」
「申し訳ございません。つい口が勝手に動いてしまいました。メイドのオイタを躾けるのは主人の役目だと思いますが、いかがなされますか?」
こいつ、無敵か?
イロハの前でやるのは流石に気まずすぎるのでトキは置いてご飯を作る事にする。イロハはミートスパゲティを所望との事なのでそちらを作る。
「よし、作るか」
「そのお肉はなんですか?見たことのないものですが」
「これはカオスドラゴンの霜降り肉だな。美味いぞ。栄養価も高い」
「ドラゴン、ですか。こう見ると改めて貴方は異世界の人なんだなと感じさせられますね」
そういえば何だかんだでノースティリスに連れていった事があるのはヒナと片足突っ込んだ便利屋くらいだ。エデン条約が片付いたら時間もとれるだろうからいずれヒナ含めたペット達を連れてネフィアデビューさせたいところだな。
「エデン条約が終わったらトキもノースティリスを案内しよう。あのアビ・エシュフをリオの建設しているエリドゥ以外でも使えたら心強いんだがな」
「楽しみにしています。アビ・エシュフに関しては私の方から進言してみます。リオ様であれば意外となんとかできるかもしれません」
だといいが。アビ・エシュフの回避能力はエリドゥあってのもののようだし難しいかもしれないな……。まぁだめだったらトキにも魔法を覚えさせてそれで戦わせれば問題ないだろう。
「ところでトキはリオに付きっきりだったと思うが、よく遊びにくる時間を捻出出来たな?少し驚いたよ」
「リオ様は最近私にも自由な時間が必要だろうと仰って以前より空き時間が増えました」
確かに前に縛りすぎてたかもみたいな事は言ってたな。だが急に空き時間が出来た事で手持ち無沙汰になってしまったのだそう。C&Cの所に行ったりしたらどうだと言ってみたが今まで関わりがないのでどう接しに行けばいいか分からないらしい。嘘だろ、私にはあれだけ無遠慮の癖にそこで日和るのか……?
「トキの愉快な性格であればすぐに友達が出来そうなものだがな。アビドスでもすぐ仲良くなってあの謎の覆面を貰っていたし」
「中々楽しい人達でした。シロコ先輩には銀行強盗をしようと誘われましたね」
相変わらずシロコは好ましい倫理観を持っている。頭ノースティリスだ。
「トキならゲーム開発部も歓迎してくれるだろうし臆せず突撃してみるといい。きっと大丈夫だ。――よし、出来た」
イロハを呼んでご飯を三人で食べる。イロハにマコトのアリウスとの状況を聞きたいがトキが居るから聞くに聞けない。流石にミレニアムを巻き込む訳にもいかないしな。そう思いながら箸を進めているとイロハが口を開く。
「そういえば、先生が今トリニティにいるらしいですよ。補習授業をしに行ったそうです」
「なに?先生がトリニティに向かうとは聞いていたが、そんな理由だったのか」
随分先生っぽい事をしに行くんだな。いや先生だから当然ではあるのだが、今まで彼の活動を考えると教鞭を取るとは思ってもいなかった。
「一体誰から聞いたんです?――あぁ、そういえばティーパーティーに手を出してるんでしたね。マコト先輩が聞いたらどんな反応するでしょうね」
言い方がちょっとアレだがその通りだ。セイアは近く向かう事になると言っていたが既に到着していたのか。予知夢は過去や未来時間関係ないというような事を言っていたが、あの時会ったセイアは私にとっては過去のセイアだったりしたのだろうか。それとも本人に詳しい時間軸の判断は付かないか。まぁこの辺はまたいずれ聞いてみるとして、今は先生の事だ。
早速モモトークにて先生がトリニティ入りを果たした事を聞いたことを伝え、トリニティとゲヘナ間で行われるエデン条約の調印式にてアリウスというトリニティの分校の襲撃が予見されている事。アリウスがゲヘナに接触し、トリニティを裏切りアリウスにつくように提案を投げかけてきたこと。もしかしたらトリニティにも同じアリウスからの提案を受けた者がいる可能性があること。既にトリニティではティーパーティーの百合園セイアが襲撃を受け身を隠している事。セイアの襲撃の際にはヘイローを破壊する爆弾が使用されており、アリウスの背後にはゲマトリアが関わっているのでくれぐれも警戒し、私から得た情報の扱いは慎重にとも。最後に可能であればトリニティで信用を得てこの情報をトリニティに齎し調印式での防衛を固めて欲しい事を伝えた。
ふむ、こうして羅列すると中々に酷い情報量だ。先生にとってはただの補習授業だっただろうにいきなり学校間の紛争の問題に発展しているのだから先生も堪ったものではないだろうな。
「ありがとうイロハ。おかげで先生に情報を早めに渡せたよ。後はあっちでもうまくやってくれるといいんだが」
「いえいえ。でも結局調印式の日はどうするんですか?その様子だと逃げて終わり、って感じじゃありませんよね」
「事情が変わってな。アリウスの背後には大人の存在がついているようなんだ。ヘイローを破壊する爆弾なんていう生徒にとって危険すぎる代物を扱うから私手ずからそいつは始末する」
「――そう、ですか。相手には同情しますね……。万魔殿はどう動きましょうか。まぁマコト先輩の判断次第ではありますが」
「その辺りはまた今度彼女の元へ行って協議しよう。結局はトリニティがどう動くのかにもよるしな。先生の成果次第だ」
「分かりました。マコト先輩にも伝えておきますね」
「よろしく頼むよ」
「話はよく分かりませんが私が聞いても良い話なのでしょうかこれは」
そういえばトキが居たのを忘れてた。さっきまで話すわけにはいかないとか言っていたのに。あまりに間抜けすぎるがトキであれば口止めすれば大丈夫だろう。
「ふむ、良くは無いな。くれぐれも他言は無用で頼む。私の事を話すのと同程度に喋られては本気で困ってしまうからな」
「お任せください。完璧メイドたるトキちゃんは主人の武勇伝以外は勝手に話すつもりはありません」
トキの中で調教は武勇伝扱いなの……?
そういった会話をしていると先生からの返事が来ていたので見てみる。
【事情は分かったし色々聞きたい事は沢山あるんだけど、情報の洪水を流すのは勘弁してほしいかな】
ごもっともな返事を頂いてしまった。
【こっちでも上手くやってみるよ。ゲヘナの方は君が対処してくれたと思っていいのかな?】
【その認識でいい。君にだけ伝えておくとアリウスの襲撃にこちらの万魔殿の羽沼マコトが加担しようとしていてな。マコトが私の存在を知って加担するのをやめたのが今回の襲撃を知るきっかけだった。本人は一応未遂という事で絞首台で校門前に半日程晒し上げるという罰で済ませてある】
【そ、そっか。でもごめんね。私の役目だったはずの事を君にやらせてしまって。トリニティの方は上手くやってみせるよ。任せて】
【気にしなくていい。そも一人でこのキヴォトスを全て見ると言うのが物理的に無理な話だからな。健闘を祈る】
【進展があったらまた連絡するね】
こうして無事先生と連携を取る事が出来たので後は向こうの成果を待つとしよう。
この後はイロハのやっているゲームをトキと眺めたりしていた。
「このゲーム中々不思議ですね。市民を攻撃したかと思えば突然ドラゴンや巨人が大量に湧いて謎の風が吹いたりと。どうしてそんな事が起こるのでしょうか」
「巨人はともかくドラゴンを能動的に湧かせる事が出来るのは羨ましいな。ノースティリスでも同じ事が出来れば肉集めが格段に楽になるんだが」
「結構自由な事がやれて楽しいんですよこれ。惜しむべきは開発が途中で止まってしまっていてストーリーが全て作られてないんですよ」
それは勿体ないな。ゲームに詳しくない私でも良いなと思える出来なのに。演奏家を倒すとたまに手に入るストラディバリウスなる楽器とかもあったがノースティリスも吟遊詩人が持っていたりしないだろうか。ちょっと今度殺し回ってみるか?
「ほう?潜れば潜るほど敵が強くなるダンジョンか。ノースティリスにも同じところがあるぞ」
「え、そうなんですか?私なら絶対行きたくないですね……」
「中々楽しいんだがな……。私ですら殴られれば一撃で殺されかねないようなやつらが深層にはゴロゴロといるからな」
「なんでそんな嬉しそうなんです?貴方ってそんな戦闘狂だったんですか?」
「私も殺されるのは嫌ですが興味はあります。ノースティリスへ連れて行ってもらう日が待ち遠しいですね」
イロハはやはり嫌がっているがトキは好感触だな。すくつはまだ厳しいがいつかの目標としてキヴォトスで集めたペットですくつ攻略をするのも楽しそうだ。
「爆発で街が全部更地に?」
「これはキャッツクレイドルという爆弾ですね。裏組織の集まる酒場で買う事が出来るんですけどこれが中々に爽快感があって好きです」
「羨ましすぎる……。ダルフィといえどこんな物はきっと置いてないぞ……」
「どうして貴方はさっきから自分の世界と比べるんです?」
「イロハのゲームを見ていたら何故かノースティリスが恋しくなってきたな……。トキ、良ければ魔法を覚えてみるか?」
「良いんですか?是非お願いします」
「イロハはどうする?君さえ良ければ教えるぞ」
「そうですね。折角ですし簡単なのをお願いします」
「魔法を覚えるには本を読むだけでいい。めんどくさがりなイロハにはうってつけだと思うぞ」
「やはり二人共優秀だな。読書に失敗することなく全て習得したか」
「そうでしょうとも。もっと褒めてください、迅速に」
「これだけで覚えられるなんて不思議ですね……。イブキに見せたら喜んでくれそうですね」
「イロハに教えた魔法の一つの動物召喚はたまに恐竜が呼び出される事もあるから広い所で行うようにしてくれ。子猫が出てきたりもするがな」
「差が激しすぎません?ちゃんと言う事聞いてくれるんですか?」
「あぁ、問題ない。念じて追放すれば動物もその場から消える。まぁ安定して唱えるには詠唱を鍛えないとだめかもしれないが」
こうしてイロハのゲームを眺めたり魔法を教えたりして時間が過ぎていった。
「それじゃあ私はそろそろ万魔殿の方へ戻ります」
「分かった。お土産にプリンをイブキに渡してあげてくれ」
「ありがとうございます」
「私もリオ様の元へ戻ります。今日はありがとうございました」
「あぁ、トキにもプリンを渡しておく。リオと仲良く食べてくれ」
私もヒナに見繕った首輪を渡しに行こうと思い、トキを拠点で見送ってからイロハと共にゲヘナ学園へ向かう事にした。
「今度イブキを紹介させてください。イブキも会いたがっていましたから。とても素直でかわいい子ですよ」
「分かった。楽しみにしている。話には聞いたが確か飛び級というのをしているんだったか」
年齢は十一歳で本来ならば小学生という立場のはずなのだが飛び級で今は高校生一年生らしい。どれほど優秀ならそんな事が可能なのだろうか。
「はい。可愛くて賢いなんて反則ですよ全く」
相も変わらず溺愛しているようだ。これが目に入れても痛くないというやつか。
「あ、すっかり言い忘れてたんですけど、アリウスから調印式前に飛行艇を渡される事になったみたいです。ミサイルを回避するためだとか」
「飛行艇?あの空を飛ぶ機械か。なるほどな……」
裏切られる事を前提に考えるならばロクなものではない事は想像がつく。飛行艇の高さから撃墜させて落とせば乗員はただでは済まないだろう。
「マコト先輩は最初喜んでたんですけど、どうせ罠ですよって話をしたらやっぱり憤慨してましたね」
「なんだかイメージが容易につくな……。しかし調印式当日までアリウスと関係を持つかは不透明だからな。トリニティの方に襲撃の情報が渡れば恐らくアリウスもこちらを警戒して接触を控えるだろうからな」
恐らく飛行艇の贈与の話自体が無くなるだろうから特に気にする必要はないはずだ。
「結局はトリニティの動き次第ですか。出来れば情報を信じてこちらの楽をさせて欲しいですね」
「そうだな。こればっかりは先生を信じるしかない。あぁ、そういえばマコトに今はエデン条約を締結させる気があるのかも聞いておく必要もあるか」
「今でも興味ないの一言で一蹴しそうですけどね、あの人なら」
私もそんな気はする。一応どうしてもエデン条約を締結させたくないのであればエデン条約を無かった事に出来るかもしれない手が一つだけあるからそれを使ってもいいと思っている。
「そんな案があるんですか?」
「あぁ。単純にマコトがアリウスと加担して調印式で襲撃を企てていたという事をトリニティに伝えるだけで済むだろうと思っている」
まぁそうすればなおの事ゲヘナとトリニティの溝が深まる可能性があるのが瑕だが。
「ナチュラルにマコト先輩を売ろうとしますね。まぁ確かにそれなら出来そうですが、正直にこの案を話しても首を縦には振りそうにないですよ?」
「それならそれで構わない。一応エデン条約の破談の手段として伝えておいてくれ」
これには私情も含んでいる。実は私はエデン条約にはあまり積極的ではない。恐らくマコトのヒナに対する謎の対抗心からして、ETOが設立されようものなら風紀委員会とETOの二足の草鞋を履かせようとする気がしているからだ。ヒナが風紀委員会を引退するのであればエデン条約が結ばれても良かったのだが、今のヒナを見る限りそれほど辞めようと思っている様には感じられない。ヒナの責任感の強さからして押し付けられたらそれを務めようとするかもしれないし、ヒナとの時間が取りにくくなるのはこちらとしては困る。出来れば頷いて欲しいところだ。
まぁ、望み薄かな。
そうしてゲヘナ学園に着きイロハと別れ、私は風紀委員会の元へ向かう事にした。
お気に入りが1000を超えました。多くの方に読まれて大変嬉しく思います。いつも本当にありがとうございます。そして多くの方に目が留まったという事はTPOを弁える必要性があると考えました。故にこれからは節度を持って清く正しい模範的なティリス民として書いていきたいと思いますので、今後とも本作品をよろしくお願いいたします。