「脳死マシーン」「臓器摘出バス」…中国の“臓器移植”の実態。中国で死刑囚の“まだ生きている遺体”から臓器移植した医師の後悔も

2025/05/03 14:00
臓器ブローカー すがる患者をむさぼり喰う業者たち
腎臓は国内で希望しても15年待ち。その間に多くの患者が死に至る(写真:kai/PIXTA)
治らぬ病を抱え、臓器移植の道を探る患者は多い。しかし移植用臓器は世界的に不足し、殊に日本ではまったく足りない。
例えば腎臓は国内で希望しても15年待ち。その間に多くの患者が死に至る。
いきおい患者は海外渡航移植の斡旋業者に接触。が、それは世界中ほぼ全面的禁止の臓器売買である確率がきわめて高い。手術は衛生状態さえ保証されず杜撰で、結果は一か八か。
貧しい国々の臓器を求め彷徨う患者と、数千万円を要求する業者。背後には国際組織。
そうした臓器移植のリアルを克明に記した新著『臓器ブローカー すがる患者をむさぼり喰う業者たち』より、一部を抜粋・編集しお届けする。
目次

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死刑囚の“まだ生きている遺体”からの移植

イギリスに亡命した中国人医師エンヴァー・トフティ(EnverTohti)は、まだ生存している死刑囚から臓器を取り出した経験を持つ。

1995年6月、当時のトフティはウルムチ中央鉄道病院の外科医だった。ウルムチは、新疆ウイグル自治区の首府だ。主任外科医から「熱くなる仕事」だと告げられ、翌朝9時に医療チームと救急車の準備をするように指示された。

麻酔科医と2人の助手を乗せ、救急車は主任外科医が乗る車の後について行った。しかし、車内はすぐに重い空気につつまれる。救急車が向かっていたのは、反体制派グループを処刑する西山処刑場だとわかったからだ。険しい丘の手前で2台の車は止まった。

トフティは主任外科医から命じられた。

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「銃声が聞こえたら丘の向こうに回り込め」

しばらくすると銃声が聞こえた。一斉射撃のようで、何発もの銃声が響き渡った。再び主任外科医の車の後について走った。

車が止まった場所には、射殺されたばかりの遺体が転がっていた。10体なのか20体なのか、それを数えている余裕はトフティにはなかった。武装警官が声を上げた。

「こいつだ」

30歳ぐらいの男で、他の囚人はすべて坊主頭だったが、彼だけは長髪だった。外科医であるトフティは、もう1点、その男に他の囚人とは異なるところがあることに気づいた。「その男だけは、右胸を撃ち抜かれていた」

「手術しろ」主任外科医が命じた。

「何の手術をするんですか。すでに死んでいるのに……」

だが、男は死んではいなかった。

主任外科医は再度、命令した。

「肝臓と腎臓を摘出せよ」

指示は「その男から」というものだった。男はすぐに救急車に運び込まれた。

「麻酔は不要。生命維持装置も不要」主任外科医の声が響いた。「意識はない。メスを入れても反応はしない」

麻酔科医は何もしようとしなかった。

トフティが男の体にメスを入れた。男の体が大きくのけぞった。命令されるままにトフティは肝臓と腎臓を摘出した。

その後、それでも男の心臓はまだ動き、脈打っていた。トフティに残された仕事は、遺族のために開腹部の縫合を丁寧にすることだけだった。

翌日、主任外科医が「昨日はいつも通りの日だったよな?」とトフティに語りかけてきた。主任は臓器摘出を口外しないように釘を刺してきたのだ。「はい」とトフティは答えるしかなかった。

のちにトフティはイギリスに亡命する。が、まだ生存していた死刑囚から臓器を取り出した事実を語るのには、15年という歳月が必要だった。

トフティが亡命したのは、この摘出手術が理由ではない。新疆ウイグル自治区は中国の実験場ともいわれ、核実験なども度々行われた。その周辺地区でがん患者が多発している事実を西側に流したことで、身の危険を感じたからだ。

「西側の価値観を知り、事実を明かさなければいけないと考えるようになりました」

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謝礼二千数百万円が関係各方面に飛び交う

1990年代の中国の移植医療は、臨床経験を積み重ねる段階で、こうした強引な方法を繰り返しながら進歩を遂げてきた。中国の移植医療レベルは、アメリカや日本とほぼ同じ水準を維持していると思われる。

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そして、今も中国で移植を受ける患者、受けたいと望む日本人患者は少なくない。中国でなら渡航から帰国まで2カ月から3カ月で移植が可能なのだ。

つまり、レシピエントに適合するドナー臓器が、それだけの期間で現れる、ということだ。

2007年以降、難病患者支援の会からは、毎月、定期的にレシピエントが中国に送られ、腎臓移植手術を受けていた。

「中国側の病院とも信頼関係が築かれています」

菊池は悪びれることなく私の取材に答えていた。

ドナーに関しての情報が書面で説明されることはない。しかし、死刑囚からの臓器移植の場合、臓器提供の知らせは午前中にレシピエント側に伝えられるのが一般的らしい。

〈北京からきた臓器〉

これが死刑囚から提供された臓器を指す、関係者間で通用する隠語だ。

中国での腎臓移植費用はおよそ二千数百万円。そして、この移植費用は毎年数百万円単位で上がっていった。

難病患者支援の会の評判を聞いた医師から、中国での移植を望む患者が紹介されてくるようになった。そうした患者を中国に送ったケースがいくつもある。移植に成功してレシピエントが日本に戻ると、医師から連絡が入った。

「一部の医師は、患者紹介の謝礼を私に要求してきました」

難病患者支援の会は東京国税局の税務調査を受けている。設立から2009年までの2年間に、海外での臓器移植の斡旋で受け取った金など総額約6000万円の所得隠しを指摘され、修正申告をしている。

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仲介役は日本の泌尿器科医、透析医

菊池はこれらの金の使途について、渡航移植患者を紹介してくれた医師への謝礼だったと認めている。

中国への渡航移植は、斡旋組織と患者といった単純な構図ではなく、そこに、日本の泌尿器科医、透析医が仲介役を果たしてきたという現実も見過ごすことはできない。

患者を難病患者支援の会に取り次いだ医師は、患者の詳細な治療歴、症状、移植に必要なデータを記載した紹介状を、渡航先の病院、医師宛に作成する。紹介状の費用だけではなく、手術に成功すれば患者から日本側の医師に対して、当然のように「謝礼」が支払われてきた。つまり1件の移植手術について、数千万円の金が患者、斡旋組織、医療関係者の間で飛び交う極めて胡散臭い世界なのだ。

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現在はインターネットの普及もあり、患者個人が斡旋組織と直接、接触するケースが増えてきた。また2008年のイスタンブール宣言以降は、医師側も斡旋組織への患者紹介を控えるようになった。

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新鮮な臓器を摘出できる、中国の「脳死マシーン」

中国は、ウイグル族を犠牲にしながら臓器移植技術を向上させてきた。「大紀元」(中国から脱出した反共産党の人たちが作ったアメリカに拠点を置くメディア)は、中国が死刑囚を脳死にする機械を作った、と報道している。大紀元は日本語版も発行されている。

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「中国は2000年代、人を意図的に脳死させる『脳死マシーン』を開発した。側頭部を打撃することで脳幹を停止させ、人を瞬く間に脳死にさせるこの機械は、2012年2月に重慶の米国領事館に逃亡した法医学者で重慶公安部長だった王立軍(現在、服役中)が考案したもの」(「大紀元」佐渡道世 2019年1月10日)

中国の死刑は、1997年から「銃殺または注射等」と定められている。だが、銃殺あるいは薬物による刑の執行をしていては、移植用の臓器として使えなくなる。そのために死刑執行の手段として「脳死マシーン」が開発されたのかもしれない。

移植は、心停止した死体からの臓器よりも、脳死ドナーから摘出した臓器のほうが、生着率が高くなる。

さらに脳死の臓器よりも生体から摘出した臓器を、阻血時間(移植臓器に血流が再開されるまでの時間)を可能な限り短縮してレシピエントに移植したほうが、生着率、生存率が高くなる。

これは想像でしかないが、わざわざ脳死にする必要はなく、おそらく生きたまま臓器は摘出(生体腎移植と同様に摘出)されているのだろう。私と同じように考える日本の移植医もいる。しかし、そのためには、臓器摘出チームと優れた麻酔科医が必要になる。

そうした手間を省くために脳死マシーンが使われているのかもしれない。脳死状態で臓器を摘出し保存液に浸せば、現在では遠隔地への移動も可能だ。

臓器摘出の手術施設を備えたバスも確認されている。

このようにして死刑囚から摘出された臓器が日本人患者を含む外国人患者に移植されてきた。

高橋 幸春 ノンフィクション作家、小説家

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たかはし ゆきはる / Yukiharu Takahashi

1950年、埼玉県生まれ。早稲田大学を卒業後、ブラジルへ移住。1975年から3年間、サンパウロで発行されている邦字新聞「パウリスタ新聞」(現・ブラジル日報)の記者を務める。帰国後、高橋幸春のペンネームでノンフィクションを執筆。2000年からは麻野涼名義で小説も手がける。ノンフィクションに『カリブ海の「楽園」』(潮ノンフィクション賞受賞)、『蒼氓の大地』(講談社ノンフィクション賞受賞)、小説に『天皇の船』(江戸川乱歩賞候補「大河の殺意」を改題)、『国籍不明』(大藪春彦賞候補)、ドラマ化された『死の臓器』などがある

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