「クックック……。随分と暴れ回られているようですね。非常に楽しませて頂いておりますよ」
失礼ながら勝手にお邪魔させて頂きました、と私が便利屋とゲーム開発部に渡す魔法書を整理していた時に黒服が拠点に現れた。
「まさかビナーだけでなく名も無き神々の王女まで手に入れてしまうとは本当に予想外でした。しかもあのような手段で……ククッ、クックックック!無名の司祭が今キヴォトスにいないのが残念でなりませんね。クククッ!」
どのような反応をするか見物だったのですが、とかなり楽しそうに笑っている。というか黒服はやはりかなり情報通のようだ。私の為した事だけでなくアリスの正体まで勘付いているようだ。
「よく来たな。今コーヒーでも出すから少し待っててくれ。――あぁそうだ。この拠点とアビドスの拠点はテレポーターが繋がってるから、万が一ホシノ達と出くわしたらただじゃ済まないだろうから気を付けてな」
ユメとホシノはセットになって遊びに来ることがある。たまにシロコも混じって色々とねだってくる。
「――ククッ、留意します。そういえば死者蘇生すらも行ってましたね……。本当に意味が分かりません」
「示唆したのは君だろう?まぁ私も二年も前に死亡した者を生き返らせられるとは思わなかったが」
「私も同じ気持ちですよ。――しかし、私も貴方も生徒を使って実験をしているというのに、どうして先生は貴方には甘いのでしょうか」
多分初対面の印象の差じゃないかね。当時のアビドスの現状でそれを盾に身柄を得ようとするのは中々に鬼畜だと思う。――媚薬漬けよりはマシか?分からん。
……ホシノに有精卵を産ませて孵化させたホシノを黒服に渡すのはどうだ?いや流石にまずいか。しかしこれでもしホシノに対して完全に諦めがつくなら一考の余地はありそうだが、今もホシノの事は狙っているのだろうか?
「結局黒服ってなんでホシノを狙ってたんだ?」
「おや、てっきりビナーや王女に関する情報をお聞きになられるかと思いましたが」
「そっちに関してはいずれミレニアムの子が調べるそうだから遠くない内に判明するだろうと思ってな。だが君のしようとした事は君に聞かなきゃ分からないからな」
「ふむ、まぁいいでしょう。どうせ諦めた実験ですし、減るものではありません。面白い物も見させて頂きましたし、その礼ということで」
「ホシノさんはキヴォトスで最高の神秘を持っておりましてね。そこに恐怖を適用させるとどうなるか見る予定でした。まぁ、結果は知っての通りです」
なるほどな。最高の神秘と恐怖か。うんうん。
――なにそれ?
当然のように知らない単語出すのやめてもらえないか?キヴォトス最高というからには比較対象がいてこその言葉のはずだ。という事は神秘というものはこのキヴォトスに住む者は誰しも持っている物という事か?
「正確にはキヴォトスの生徒全員が、ですね。ヘイローなんかが分かりやすいかと思います。あれを持つ生徒は神秘を持っていると解釈して頂いて問題ありません」
ほーう、なるほどな。では恐怖とは?ノースティリスにも恐怖の状態異常はあるが流石に同一のものではないと思うが……。
「神秘の裏側にあるものが恐怖である、というのが我々の知るところです。生きている生徒に我々の観測した恐怖を適用しようとしたのがホシノさんを狙った理由ですね」
なるほど分からん。
生きているとわざわざ形容しているところからして死んでいる生徒に適用は不可、あるいは裏側という言葉を捻じ曲げて解釈し、恐怖=死であり神秘=生と捉える事は出来るか?
そして生きている生徒に死の概念を与えるとどうなるかの実験をしようとした、という感じだろうか。普通に死んで終わりそうだが面白そうな実験ではある。
――最初に出会ったのが黒服だったら私は確実にゲマトリアに居たな。普通に興味深い事をしてるじゃないか。
「クックック……ご興味を持てて頂けたようで何よりです。最近では私の同胞ですがヘイローを破壊する爆弾、なんてものも作りましてね」
ほう?生徒はヘイローによって守られていると私は考えていたがヘイローそのものを破壊するという発想は無かったな。というか生徒はヘイローを破壊されるとどうなるんだ?
「ヘイローの破壊は死に直結します。肉体が死ねばヘイローも壊れ、ヘイローが壊れれば肉体も死にます」
キヴォトスの子達は中々面白い生態をしているのだな。私が言えた事ではないが。
「作成者の名前はゴルコンダ。彼とあともう一人、マエストロという同志がいるのですが、彼らも貴方に興味を持っていましてね。よろしければご紹介しますよ」
「私がゲマトリアの一員に見られても困るんだがな。まぁ話すだけなら問題はなかろう。今度会わせてくれ」
「二人も喜ぶでしょう。特にマエストロは新たなインスピレーションを得られるかもしれないと言ってましたから」
あまり期待されすぎても困る。ヘイローを破壊する爆弾を作ったりインスピレーションという言葉を使うという事は技術者のような感じだろう。私は作り手ではなく使い手だしな。
こうしてしばしお互いの近況の報告と世間話を黒服と交わした。
「という訳だ先生。ヘイローを破壊する爆弾とやらには気を付けてくれ」
そして私はシャーレに赴き先生へとチクっていた。
「う、うん分かった。でも一つだけいい?」
「どうした?」
「君って実はゲマトリアじゃないよね?」
急に何を言い出すんだこの人は。私があんな汚い大人に見えているというのか。全く以て甚だ心外だ。
「いや今でも黒服と交流があって更には他のメンバーとも会う約束をするのは割と言い逃れ出来なくない?」
「言い訳の出来ない正論をぶつけるのはやめてくれたまえ。私の首が締まる」
「自覚あるじゃん!アリスもなんだか凄い事になっちゃうし、イオリの時に私に言ってたけど人の事言えないからね?うちのアロナも怯えてたよ?」
アロナ?アロナとは一体誰の事だろうか。
「あぁ、そういえば紹介……は出来ないんだけど、私の頼れるAIの子でね。理由は分からないけど私にしか姿も声も認識する事が出来ないんだ」
へぇ。先生の元にもそんな面白生物がいたのか。
「このシッテムの箱の中にいるんだ。これも私にしか使えない物なんだけどね」
彼にしか使えないとなるとファクション効果付きの装備か?だとすれば神々の賜り物に匹敵する代物という事か?キヴォトスの固定アーティファクトなのは確実だろうな。正直欲しいが私に扱えないなら意味は無いかもしれないが、先生が先生としての役目を終えたら貰えたりしないだろうか。
そうして先生がシッテムの箱を見せてくれる。見た目はただのタブレットのようだが……するとシッテムの箱から声が聞こえてくる。
『せ、先生!この人アリスさんを調教したやばい人じゃないですか!私も同じ目に合っちゃったらどうするんですか!?』
「大丈夫だよアロナ。私にしか見えてないんだから心配ないよ」
…………なるほどな?
『で、でもあの人AIに卵産ませるんですよ!?私も産まされちゃうかもと考えたら不安にもなりますよ!』
「そんなに産みたいなら言ってくれれば良かったのに、アロナとやら。君が望むように沢山産ませてやるぞ?」
『ひっ!わ、私は結構です!このアロナちゃんにはお嫁さんになるという大切な夢が――へっ?』
「やぁ、こんにちはアロナ」
『ど、ど、どおしてえええええええええ!!??!?どうして私の姿が見えてるんですかぁ!?』
知らん。普通に気になるから原因究明はしたい。とはいえ心当たりはある。透明可視のエンチャントのせいではなかろうか。
「え、本当に見えてる……?君は本当に滅茶苦茶だね。生徒には全くアロナの声聞こえてなかったのに」
「心当たりがないではない。ノースティリスには透明なものを見る事が出来るエンチャントがあってな。それのせいかもしれない。少々実験がしたいから試させてくれ」
そう言って怯えるアロナを見据えながら透明可視の付いたエンチャントの装備を外してみる。するとアロナの姿がさっぱり見えなくなった。
「今もアロナは何かしゃべっているか?」
「うーん、未だにぷるぷる震えちゃってて会話できそうにないね」
どんだけ怖がってるんだ。いや仕方のない事だとは思うが、媚薬漬けにするとどう反応が変わるか見たくなるからあまり楽しい反応をしないで欲しい。
「アロナ。君に卵を産ませるような真似はしないから安心してくれ」
「……本当ですか?だってさ。今は本当に聞こえてないみたいだね」
なるほどな。という事はやはり透明可視のおかげで見えていたのだろう。改めて死者蘇生しかり透明可視しかり、ノースティリスの法則は無法にすぎるな。私は装備を戻してもう一度アロナを見据える。
「本当だとも。あの時の事は情報を得る為にやった行為であって趣味というわけではないからな。安心してくれ」
『わ、分かりました……。あ、あらためましてアロナです。よろしくお願いします』
「よろしくアロナ。ちなみに産みたくなったらいつでも言ってくれていいからな」
『け、結構ですぅ!』
いや中々愉快な子だ。こんな元気な子といるなら先生も退屈しないだろうな。
「あまりいじめないであげて。アロナは普段からすごく良い子なんだから」
『せ、せんせぇ……!』
「すまない、中々いじり甲斐があってな」
そうしてしばらく先生と雑談を交わし、ゲヘナへと戻った。
**********
ヒナにお弁当を届けにゲヘナ学園に向かい、しばし言葉を交わす。
「――やっぱり貴方の作ったご飯は美味しい。いつもありがとう」
こちらとしてもヒナにはこれから更に強くなって欲しいし、美味しそうに食べてくれるのは純粋に嬉しいから用意するのは大して苦にもならない。
「そういえば最近ミレニアムに行ってるって聞いてたけど、何をしてるの?」
「あぁ、実は世界を滅ぼす兵器がミレニアムに居てな。今は生徒として生きてるんだがその子の問題を解決させてたんだ」
そしてアリスの事について簡単に内容を伝えた。
「へぇ、先生の拾ってきた女の子が、ね。貴方もだけど先生も中々にトラブルに見舞われやすい性質なのね」
まぁ貴方の場合は自分からトラブル起こしてる方が多いかしら、と付け加えるヒナ。失敬な。
「まぁシャーレはそれが仕事だろうしな。それでも世界の危機という規模は少し驚いたが」
でも結局ケイが行動を起こす前に封殺したからどの程度の力があるのかは分からず仕舞いだったな。いずれノースティリスの方に連れて行って全力を出してみてもらうか?
「でもどうやって解決させたの?今もミレニアムに通ってるんでしょう?」
「あぁ、それは――」
いや、流石に全部正直に答えるのはまずくないか?正直に答えたら確実に引かれそうな気がしてならない。ここは適当に言葉を濁して――
「ふーん、私には言えない事してたんだ」
「い、いやそういうわけではないんだが……ヒナに言えないというより他人に大っぴらに言えないというかだな」
「いいから教えて」
はい。
ヒナの謎の圧力に屈して順番にミレニアムで起こった出来事を全て白状した。
「…………浮気した」
え?今の話に浮ついた話あったか?
「ペットを増やす予定ないって言った」
「確かに言ったな……。しかしあれは便利屋の事で――」
「女の子を媚薬漬けにして調教して自分の物にした」
「――した、な。うん、した」
そうやって字面にされるとただペットを増やしただけなのにも拘わらず何だかやばいことした気になってしまう。
「……好き、なの?」
「ん?アリスとケイか?」
「それもあるし、そうやって調教するのも」
待ってほしい。決して誤解しないで欲しいがあれはあくまで情報収集の為に行った事であってアリスとケイをモノにするために行った事じゃない。情報を集めた結果そうなってしまっただけなのだ。無実とまでは主張しないが当初はその気は無かった。
「そういう訳でアリスとケイは確かに好きではあるがそういう意味ではヒナの事も好きだぞ」
「ふぇ!?す、好きって……!」
興味のないやつなどペットになどしない。育成にかかるリソースもただではないのだからどうでもいい奴にかまけている暇はないのだ。
「あぁ、好きだ。そもそも私からペットに誘っておいて興味無いとかあるわけもないだろう?」
「そ、それはそうかもしれないけど……やっぱり浮気者」
何故だ……。ペットの事が好きなのは当然だというのに。
「――っと、そうだ。ヒナに渡したい物があったんだ」
そう言って懐から指輪を取り出す。ケイにレールガンを渡した時にヒナにも何かあげようと思っていたのだが、やはり速度は正義という事でスピードの指輪を用意した。ルーンの指輪が作れたらエンチャントを好きなのを付けられるからそっちをあげたかったのだがレシピが存在しないので仕方がない。
「スピードの指輪というやつでな。これを装備するだけでヒナの速度が上がる。今までより速く動けるようになるから便利だと思う」
「ぇ?――い、いいの?」
「あぁ、出来れば貰ってくれると嬉しい」
「う、うんっ。…………えへ、えへへっ」
ヒナは嬉しそうに指輪をしばらく眺め、しばらくすると手袋を外し左手の薬指に嵌めた。そしてもう一度指輪を眺めていた。かなり喜んでくれているようで何よりだ。
「――ありがとう。大切にするね」
「あぁ、今度は首輪辺りを用意しておくよ。それなら装備しても邪魔にはならないだろうからな」
服装備とかだと基本制服を着てるヒナには着る機会も少ないだろうしいつでも装備出来る首輪は妥当なところだろう。
「くびっ……まぁ貴方のペットだし、仕方ないよね……うん、仕方ない。楽しみにしてる」
確か火炎耐性がかなり高いやつがあった気がする。首輪だけで免疫を得られるかどうかまでは記憶が朧気だが倉庫から引っ張って明日にでも渡そう。火炎耐性はキヴォトスでも役に立つだろう。ビナーが火炎属性の光線を放ってきていたし、ヒナはメテオを覚えているからもし使った時も燃える事は無くなるからな。
「ふふっ、首輪……私、飼われちゃうんだ……」
なんかヒナが妖しく笑ってるんだけど気のせいじゃないよなこれ。
総合評価2000いきました。本当にありがとうございます。elinが題材の小説はかなり少なくて当初不安だったのですが沢山の方に読まれて嬉しく思います。ブルアカはすげーぜ。
なんかヒナちゃが歪み始めてない…?なんでだ…?うーん…湿気足すか!