パートナーから暴力を受けた父親がいる家庭では児童虐待が2倍に…男女両方へのサポートが必要
子どもが生まれる前後の時期に、パートナーから暴力を受けたという父親が13.6%にのぼり、そうした家庭では、家庭内での子どもへの虐待が約2倍になっていたことが国立成育医療研究センターなどの研究で明らかになりました。 これは、国立成育医療研究センターと東京大学、東北大学などの共同研究班が発表したものです。研究班は、2021年8月にインターネットで行われた調査に答えた、生後1年以内の子どもを育てる父親1248人のデータを分析したということです。 それによりますと、父親のうち13.6%が、この7か月間に、妊娠中や出産後のパートナーから心理的、身体的、経済的、性的な家庭内暴力(DV)を経験したことがあると回答しました。 そして、父親たちに、子どもへの虐待の有無についても聞いたところ、加害者が誰かはアンケートで聞いていないものの、実際に家庭内で「子どもへの虐待があった」と答えた割合は、父親がパートナーによる暴力を受けていない家庭に比べて2倍になっていたということです。詳しくみると、子どもへの身体的虐待は約2.0倍、心理的虐待は約2.1倍、ネグレクトは約3.1倍起きていたということです。 こうした結果について、研究班は、父親が暴力の被害を受けている場合、家庭内の緊張や子どもとの関係や接し方を介して、子どもへの虐待につながる可能性が考えられると指摘しました。 そして暴力の被害を経験した父親は、心理的苦痛を抱えるリスクが高まっているとして、家庭内暴力の被害者は女性だけでなく、男性もなりうるという前提にたち、男女問わずメンタルヘルスの支援を受けられる体制や男性が相談しやすいような専用窓口の設置なども必要だと説明しています。 なお研究班は「この研究は、特定の誰かを加害者とみなすものではなく、むしろ家庭内の関係性の緊張が親子関係に影響し、加害者、被害者問わず、誰もが支援の対象になりうるという視点を共有するものです」「加害者が誰であっても、子どもから見れば支援が必要であると言える」「家庭内暴力を受けた女性への支援は引きつづき必要だが、男女どちらにも支援が必要だ」と強調しています。 成育医療研究センター社会医学研究部の帯包エリカ研究員(母子保健や児童虐待予防が専門)は「今回の調査は、あくまで本人の申告に基づくものである上、父親への暴力と子どもへの虐待が起きた時期が同時なのか、ずれがあるのかはわからず、因果関係が断定はできない」とした上で、「日本では、家庭内暴力の被害者は女性が多いという固定観念があるが、男性も被害者になりうると考え、保健や医療の専門職などが意識や声かけを変える必要がある」と指摘しました。 具体的には、妊娠届の際や両親学級、父親学級などで「パートナーとの関係に悩みはないですか」などと性別に中立的な質問でスクリーニング調査を行うなどが考えられるということです。 また父親自身が「男は強くなければ」といった意識を持っている場合、被害を受けていても、それを認めにくい、人に言えない、相談しにくい、といった傾向もあるとして、相談しやすい体制作りなども必要だということです。 また、育休をとる男性が増える中、産前産後の緊張が高まる時期に、両親が一緒にいる時間が増えると、ストレスが生じる可能性もあるということで、役割分担を事前に話し合うなど、育休をとるだけでなく、そのあり方も考える必要があるということです。