カンムリ雪原をざくざくと歩いていく。周りを見ると、こおりタイプのポケモンが歩いている。ユキハミなんて踏んでしまいそう。
「うわー、この雪原すごいねえ。パルデアにはこういうところないからなあ」
「そっか、雪山はあるんだっけ」
「………」
会話をしながら、僕たちはカンムリ雪原を進んでいく。当然というべきか、人影は見えない。
「そういえばボタンちゃんは?」
「ボタンは寒いのと運動無理だからピオニーさんと一緒。でも後方支援はしてくれてるよ。気になるものとか写真送ったらすぐボタンが調べてくれるから!」
「そっか、なら安心だね」
「………!!」
「レッドさん?」
レッドさんが僕の袖を引っ張る。指差した先には、大きなリュックを背負った誰かが歩いていくのが見えた。
「ダンデさん…じゃないですよね」
「………」
「確かに。カンムリ雪原を歩いてる人ならダンデさんを見たかも」
リュックの人物に声をかけようと走る。が、滑って転んでしまった。すると、紫色の小さいポケモンが近づいてきた。
「べのん?」
「どうしたベベノム…人間か?」
リュックの人が手を差し伸べてくれる。手を掴んで立ち上がると、リュックの人はかなりかっこいい男の人だった。目つきの悪い、ダウナー系のイケメンって感じだ。
「えっと、すみません。ここでダンデさんを見ませんでしたか?こういう人なんですけど…」
「…知らないな」
そうぶっきらぼうに言い切って、お兄さんは立ち去ろうとする。けれど、ベベノムと呼ばれたポケモンは僕から離れようとしない。
「…ベベノム?」
「べのん!」
「…悪いが、少し調べさせてもらうぞ」
「えっ?」
そう言うと、お兄さんは何やら小さな機械を取り出してきた。その機械で、僕の体をスキャンする。スキャンを終えると、お兄さんはため息をついた。
「あ、あの…」
「ああ、悪いな。あんた、ウルトラホールを通ったことがあるだろ」
「え!?今の機械って、それを調べるやつだったんですか!?」
「ああ。そうだな…どこかで話でもするか」
「だったらキャンプしましょ!いろいろ話もありますから」
こうして僕たちとお兄さんはキャンプをすることになった。お兄さんは手早くキャンプの用意を手伝ってくれる。
「まず…俺の名前はマルゴ、こっちはベベノム。ウルトラホールについて調べてる物好きだ」
「僕はアマネです。こちらは師匠のレッドさん」
「………」
「わたしはアオイ!アマネくんの友達です!」
「そうか、それで話だが。俺は色んな地方を旅してるんだが…以前にアローラで大量に空間が歪んでな」
「え、それって…」
アローラで大量に空間が歪んだ。それはつまり、大量にウルトラホールが開いたという事。思い当たるのは、ひとつしかない。ルセちゃんの起こした事件だ。
あの時、ルセちゃん自身がウツロイドと融合してウルトラホールを自在に使って触手で人々を洗脳した。触手を出すたびにウルトラホールが開いていたので、おそらくそのことだろう。
「それに引っ張られてかは知らんが、他の場所でもウルトラホールが出現するようになってな。それを追って俺はガラル…カンムリ雪原に来たんだ」
「………」
「カンムリ雪原で特にウルトラホールのエネルギーが発見されてな。お前たちも変には思ってるんじゃないのか?」
「っていうと?」
「たとえば…あそこにいるアマルス。あいつは本来化石から復元されなければ現代に蘇ることのできないポケモンだ。それなのにカンムリ雪原では当然のように歩いている。おかしいと思わないか?」
「うーん、でもテラリウムドームではタテトプスとか歩いてたし…環境によるんじゃないですか?」
「…そうか、なら言い方を変える。今カンムリ雪原ではウルトラホールが開いて異変が起きている。その分かりやすい例が化石ポケモンだったんだがな」
「なんか、ごめんなさい」
「別にいい。それで本題だが…ウルトラホールには、エネルギーがある。それを通った人間のエネルギーを求めて、ウルトラビーストは現れる。現状出現してはいないらしいが…まあ時間の問題だろうな」
ウルトラホールを通った人間。それはつまり僕のこと。僕が来たことで異変が発生するかもしれない…?
「おまけにガラル本土でもウルトラホールのエネルギーが観測されたらしい。場所は確か…シュートシティだったか」
マルゴさんに、エネルギーの観測された場所を見せてもらう。画面を見て驚愕した。そこはリーグ委員会のあるビル…つまりダンデさんのいた場所だ。もしや、ダンデさんはウルトラホールに取り込まれた…?
「…ウルトラホールに取り込まれるとどうなるんでしょうか」
「大抵はその先に繋がってる空間に放り出される。だがそれは片道切符…戻れるかなんて分からん」
「そんな…」
どうしよう。ユウリさんと、ホップさんとも約束したのに。僕の時は多分ウツロイドが帰してくれたんだろうけど、ダンデさんの場合はどうなるか……
「アマネくん…大丈夫?」
「うん、いや大丈夫ではないけど…」
「……分かった、お前らの人探し…俺も手伝う」
「え、でも…」
「そのダンデとやらは弱いか?」
「そんなわけないです!ダンデさんはガラルの元チャンピオンなんですから!方向音痴はともかく…」
「そうか、なら安心だな。俺も伊達に修羅場をくぐってない、協力ぐらいはできるさ」
「マルゴさん…ありがとうございます」
「その代わり、俺の調査にも協力してもらうぞ。と言っても闇雲にウルトラホールと関連のあることを調べるだけだがな」
「はい!」
マルゴさんの手を握る。笑い方は下手くそだけど、いい人なんだろうな、とは伝わってきた。
マルゴ
カンムリ雪原にいたお兄さん。高身長ダウナー系イケメン。笑うのが苦手。ウルトラホールの謎を解き明かすことに固執している。
ベベノム
マルゴさんのポケモン。ウルトラホールのエネルギーを察知できる。人懐っこい。優しい女の子が好き。