群馬県草津町の黒岩信忠町長(78)と肉体関係を持ったと虚偽の告発をしたとして、名誉毀損と虚偽告訴の罪に問われた元草津町議の新井祥子被告人に対して、前橋地裁は9月29日、懲役2年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した(求刑・懲役2年)。
事件をめぐっては、新井氏が黒岩町長に165万円の損害賠償を支払うよう命じる民事裁判の判決がすでに確定しているが、刑事裁判の判決が出るのは今回が初めて。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●前橋地裁「わいせつ行為があった音声は一切ない」
判決などによると、新井氏はライターの男性と共謀して「黒岩信忠町長と肉体関係をもちました」などと書かれた電子書籍を発行し、黒岩町長の名誉を毀損した。そして、実際は性被害を受けていないにもかかわらず虚偽の告訴状を前橋地検に提出したとされる。
当初、性被害を受けたといううったえがあった2015年1月の町長室での出来事について、新井氏は法廷でも、黒岩町長から体を触られたりスカートをまくられたりしたなどとして、「被害にあったことは間違いない」と主張した。
これに対し、前橋地裁の山下博司裁判長は判決で、新井氏が黒岩町長と面会した際に録音していた音声データに「わいせつ行為が行われたという音声は一切ない」と認定し、新井氏の主張を退けた。
また、新井氏が「電子書籍はライターが無断で発行した」などと主張したことについて、前橋地裁は、出版の話を伝えられた新井氏がライターに「任せる」などと伝えていたことなどを挙げ、「肉体関係を持ったという話が電子書籍に引用されることを十分認識していた」と指摘し、ライターとの共謀を認定した。
虚偽の性被害告発の経緯をまとめた表(弁護士ドットコムニュース作成)
●黒岩町長「まさにテロや通り魔事件と同じ」
この日も裁判を傍聴した黒岩町長は判決後、群馬県庁にある記者クラブで記者会見を開き、次のように話した。
「この冤罪事件に、私が0.1%でも非があったなら反省しますが、微塵もありません。まさに、テロもしくは通り魔事件と同じです。
事件から6年、ようやく世界に拡散された忌まわしい冤罪事件は、民事訴訟および刑事訴訟の判決を受け、終焉を迎えることになります。
事件当初から町長黒岩を信じ、支援していただいたみなさま、草津町の不名誉を晴らすため行動していただいた町民のみなさま、心よりお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」
判決後に記者会見を開く黒岩町長(2025年9月29日、前橋市の群馬県庁で、弁護士ドットコム撮影)
●民事裁判では損害賠償の支払い命令が確定
問題の発端は、2019年11月に電子書籍「草津温泉 漆黒の闇5」(すでに販売打ち切り)が出版されたことだった。
当時、草津町の議員だった新井氏は、黒岩町長と性関係を持ったという証言をライターに伝え、ライターは十分な裏付けを取らないまま電子書籍を出版した。
黒岩町長は当初から一貫して疑惑を否定し、2019年12月に新井氏とライターを名誉毀損の疑いで刑事告訴。新井氏から強制わいせつの疑いで刑事告訴されたことから、2021年12月に新井氏を虚偽告訴の疑いでも刑事告訴し、前橋地検が2022年10月に新井氏を起訴していた。
ライターについては、前橋地裁が2024年1月、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡し、その後確定した。
また、刑事告訴とは別に、黒岩町長は2019年12月、虚偽の告発により名誉を毀損されたとして新井氏とライター、新井氏を支援していた町議の男性の計3人に損害賠償を求めて提訴。
この民事裁判では、前橋地裁が2024年4月、黒岩町長と新井氏の間に性交渉はなかったと認定し、新井氏に275万円を(うち110万円をライターと連帯して)支払うよう命じた。
ライターは110万円とその遅延損害金を合わせた計約133万円を黒岩町長側に支払ったが、新井氏は判決を不服として控訴。しかし、東京高裁も2024年11月、黒岩町長と性交渉を持ったとする新井氏の告白がうそだったと認定し、275万円から110万円を差し引いた165万円の支払いを新井氏に命じ、確定した。