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山形新幹線の新型車両「E8系」で故障相次ぐ…JR東日本が策定、新たな対策の中身

山形新幹線の新型車両「E8系」で故障相次ぐ…JR東日本が策定、新たな対策の中身

山形新幹線新型車両「E8系」

JR東日本は山形新幹線の新型車両「E8系」で故障が相次いだことを受け、新たな対策をまとめた。今回の車両故障で原因となった補助電源装置を念頭に、電子機器については交換用の部品を常備するとともにメーカーとの連携を強化。車両故障や輸送障害の発生時に車両センターと指令、運転士が速やかに対応を協議する仕組みも構築する。山形新幹線はE8系の運用離脱に伴い、約1カ月半にわたりダイヤが大幅に乱れた。鉄道事業者として、高い安全性・安定性が求められる。(高屋優理)

JR東日本の喜勢陽一社長は9日の会見で「新幹線の安全哲学を一段高いレベルに進化させ、安全対策を徹底したい」と明言。運行体制を強化する方針を示した。その一つが、電子機器の故障時に必要となる交換部品の常備だ。工場に一定数以上の予備品を置き、状況に応じてすぐに交換できる仕組みを整える。また電子機器のメーカーも巻き込み、健全性を確認しながら一定周期での交換を徹底していく計画を明らかにした。

E8系に限らず、新幹線では今後の新型車両でも新たな電子部品が搭載されることが想定される。喜勢社長は「信頼性や冗長性を強化するという考え方で回路設計する」とし、メーカーと設計段階から密に連携を取る姿勢を打ち出した。

もう一つが、“最前線”にいる運転士による応急措置を可能にする支援体制の構築だ。車両故障や輸送障害が発生した際、早期の運転再開には運転士の動きが重要になる。そこで、運転台のモニター表示を運転士と指令員、車両基地に常駐する新幹線の車両構造に精通した車両技術担当者が共有・確認。専門家の視点から、いち早く原因を特定することを目指す。

E8系は6月17日、運用中だった4編成で補助電源装置が故障。追って、車両基地の1編成でも故障が見つかった。JR東日本は5編成の運用を中止したほか、異常がなかった6編成でも単独運転を中止。原因究明を進め、7月に半導体素子と制御基板の組み合わせで異常な制御電流が流れたことが原因と特定した。同社はこれを受け、補助電源装置の修理と点検を開始。8月には、山形新幹線の定期列車で通常ダイヤの復帰にこぎ着けた。

JR東日本はこのほど、11月中旬までに故障した15編成すべてが運用可能になる見通しと発表。これまで繁忙期の臨時列車は運行できず減便を強いられていたが、E8系の全編成で営業運転が可能になれば山形新幹線のダイヤは平常化できる。2025年内には、当初の計画通りE3系からの置き換えも完了するめどが立った。

ただ、8月には東北新幹線の「E5系」で非常ブレーキがかかり、3時間にわたり運転を見合わせる事象が発生した。原因は現在も究明中で、現場は次々と起こるトラブルの対応に追われる状況にある。喜勢社長は「社員の技術力が下がっているわけではない」と強調するが、負のループを止めない限り、信頼の回復は難しくなる。

日刊工業新聞 2025年09月15日
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