らぷ
ディープダーク・レゾナンス【東方錦上京短編集】 - らぷの小説 - pixiv
ディープダーク・レゾナンス【東方錦上京短編集】 - らぷの小説 - pixiv
15,229文字
東方短編集
ディープダーク・レゾナンス【東方錦上京短編集】
【⚠️東方錦上京の重大なネタバレを含みます】

本編を読破したので取り急ぎ初読の感想のような形で出力したものです。ここで色々喋るとネタバレになりかねないので詳しいことは文末のあとがきで。1週間でExクリアまで辿り着けなかったのでExボスちゃんは不在です。また後日。

今作は4ボスちゃんが刺さりました。が、テーマ曲を聴きながら感情をぐちゃぐちゃにして書いてたせいで今はじわじわと6ボスちゃんがアツいです。自分の感情を昂らせた状態で勢いのままに書き殴った話が一番完成度が高いのでよくやるんですが、いかんせん精神に来るので本当に困ります。特に今作、重すぎ。

Exボスが書き上がりました。→ novel/25927597
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68223
2025年8月25日 23:00

【懐中時計の骸~塵塚ウバメ】
 何の義理があってのことかは知らないが、あの人間にきっと悪意は無いのだろう。聖域を元に戻してくれるというなら遠慮なく任せておけば良いだけの話だと私は思う。山姥の長の責任感なんてそんなものだ。古株だからという理由で慕われてこそいるようだが、そもそも私に長の自覚など然程無い。あの愛おしき自由な臆病者達に、敬うべき古株の隣人は要っても上に立つ王など必要無いのだ。
 だから一刻も早く私が考えなくてはならないことはただ一点、私を締め出したこの忌々しい結界が消えるまでの宿木を探すことである。運の悪いことに夏も盛りのこの季節、月都の魔力と深い林冠に覆われた聖域の中ならいざ知らず、陽射しを遮る物の無い酷暑の外を無策で歩き回っていてはそのうち行き倒れになりかねない。幸いにして一つあてはあった。聖域の森のすぐ外れ、丁度背後の森を護るように聖域と外界の境界線上に縄張りを構える知り合いの山姥。それなりに長く棲んでいたと思うし、歳も私と大差無いように見えるが、彼女は頑なに私を王と呼び名実共に距離を置いていた。恐らくあまり好かれてはいないのだろうな、というのには鈍感な私でも気付いていたが、ああ見えて彼女は優しい奴だ、頼ればほんの少しの居候くらいはさせてくれるだろう。
 楓の木の立ち並ぶ裾野を目指し、なるべく目立たない林道を選んで長く伸びた草を掻き分けていく。もう何百年ぶりに出歩いたかも分からない聖域の外の景色は記憶の底に沈んでいたそれと少しも変わらないままだった。太陽の光が容赦なく皮膚を刺しそれが焼けるように痛むので、慌てて適当な大樹の陰に身を寄せる。丁度私が身体を預けた先、幹で休んでいた蝉が驚いて甲高い音とともに飛び去って行った。それを見送って初めて、蝉の声がじりじりと耳に届くようになる。なんて煩い場所だ、と思った。そうか、聖域の中では蝉の声が聞こえないのか。
 これでは無事に帰っても皮膚が爛れてしまうのではないか、と暑さに負けて汗を滲ませる左腕を眺め吐息を零す。なるべく日陰を選んで行こうと気を取り直したその時、背後からこちらを呼び止める声が届いた。
「お早う、珍しいね。今日って何かあったっけ?」
聞き覚えの無い声。それでも私に向けられたものであることは間違いないのでとりあえず片足を引いて振り返る。声の主は私の顔を見るなり訝しげに帽子の鍔を片手で持ち上げた。
「…て、ネムノさんかと思ったら。見ない顔だね、どこの人?」
「ネムノを知ってるのかい。」
「まあね、市場で知り合ってそれからたまーに喋るくらいだけど。当ててあげようか、君も山姥だね。」
「ご明察。」
「察するまでもなく。無愛想が顔に出てるから。」
「余計なお世話だ。」
私が反論する間に来訪者は無遠慮にこちらへ歩み寄り、この暑苦しい中ぽんと私の肩を引く。
「私は山城たかね。いつもはもっと山頂の方で山童やってんの。よろしくね。」
「…塵塚ウバメ。聖域のもんだ。今はちょいと事情があって…あんまり考えてないけど、ネムノの所にでも世話になろうかと思って。」
「そりゃ丁度良かった。私もネムノさんに用事なの。送って行ってあげる。」
私が頷くより早く、たかねは腰の辺りまで伸びた薮を掻き分けて林道を下って行ってしまう。いきなりやって来て騒がしい奴め、と思ったが、不慣れな土地を一人で歩き回るというのもまた些か不安が残る。目的地の場所だってはっきりと分かっている訳ではない以上、今は黙って彼女の胸を借りることにした。あの堅物のネムノが気を許した知り合いならきっと悪い奴ではない筈だ。蓬に似た見たことのない草を折ってしまわぬように優しく踏み分け、夏の緑によく映える彼女の背中を見失わないうちに足早にそれを追いかけた。

 「…聖域が嫌に暗いようだが何かあったのか?」
顔を見るなり彼女は私へ向けて問うた。開口一番に仲間外れにされたたかねが不満げにこちらを見上げ促すものだから、さっさと切り上げてやろうと挨拶も無しに口を開く。
「何かあったことは確かみたいだけどね、私もよく知らない。今さっき人間の巫女がすっ飛んで行ったよ。」
「そうか、それならじきに収まるべな。たかね、茶でもくれっか。」
「お構いなく、大した用じゃないから。卸で使うから在庫を抑えて欲しいんだけどさ…」
たかねの話は小難しくて頭に入って来なかったので聞き流した。それより、ネムノがそんなことを言うようになったものかと思って少し感心した。何十年か前なら外からの干渉を蛇蝎の如く嫌がって、自分が何とかすると言って止めるのも聞かずに聖域の結界に挑んでいた頃ではなかったか。久しぶりに会ったというのに社交辞令の一つも言わせてはくれないし、隣の友人にちょっとした気遣いさえ出来ないのは相変わらずのことだったとしても。
 ふと見上げた先、楓の森には黄色い蝶が飛んでいた。樫の木の若い芽は根元からその身を深緑に染め、無遠慮に縄張りへと踏み込む二人の侵略者を温かく見つめ続けていた。どこからともなくやって来た虻を片手に追い払い、その指先をそのまま暑そうに首筋に回す。皮膚を伝う水滴が服を汚す前に拭い取り、長く伸びた髪を僅かに持ち上げ風を通す。理由はよく分からないが、ネムノの何気ないその仕草が、私の胸中に何故だか強い怒りを沸かした。私達の聖域を護るこの森も、隔絶された小さな聖域の主も確かに生きているのだ。そのことがどうしようもなく気持ち悪いと思った。
 目眩がする、と溜息を零しかけたのを噛み殺した───つもりだった。黒く狭まった視界をたかねに覗き込まれ、それでようやく自分が熱された土の上に膝をついていたことに気付く。
「…ウバメさん、大丈夫?顔色悪いよ?」
肩を貸そうと跪く彼女を遮り何とか立ち上がる。触れられたくない。焼け付く陽射し、蝉の声、彼女の体温全てが私の喉元を逆撫でする。
「日射病だべ。向こうで休んで来い。」
他人事のように呟いたネムノは恐らく何かを察していた。それでも、彼女は何も言わなかった。ただ私の背中を適当な木陰へ追いやり、不安そうに何度もこちらを気にかけるたかねを丸め込むと、話を切り上げて追い返した。去り際、お大事に、と手を振った彼女はまだ私を心配しているようだった。
 友人の背中を見送ったきり、私が呼吸を整えるまでの長い間ずっと、ネムノはじっと立ち尽くしたままその背の消えていった方角を見つめ続けた。やがて暑さに耐えかねたのか少し離れた木陰の下に腰を下ろし、押し黙ったまま木立の中に絡まった鴉の寝床と私の顔を交互に眺めていた。私が僅かに痺れる指先で頬の汗を拭うのを見届けて漸く、彼女はぽつりと呟いた。
「…あんまり酷なことを言ってくれるな。」
「…ごめんよ。」
「うちだってな…苦しい時は苦しい。」
それだけ言い残し、彼女は徐に腰を上げると踵を返し、木立の向こうへと姿を消した。山姥が背負うには大きすぎる葛藤を抱えたその背中が、私の謝罪を受け取ってくれたかどうかは分からない。それでも、彼女が望もうと望むまいと、どうあっても彼女は『山姥』なのだ。その事実にいつの間にか安堵の溜息を零していた自分が情けない。吐き出した不安は夏空の下に騒ぐ蝉の声に溶けて消えていった。



【旅路~道神馴子】
 その妖怪はある時ふらりとピラミッドへやって来た。生命の立ち入らぬ聖域の、山姥達ですら近寄らない小さな洞窟の底の底。彼女はかねてよりこの場所の存在を知っていたようで、まるで自宅に戻ってきたとでも言うように巨大な三角錐を望む岩場に腰を下ろした。入口に佇む私のことはすっかり無視したままで。
 長らく独りでこの場所に突っ立っていた私の目には、最早その来訪者が好奇心に満ちた観光客か、悪意ある侵略者かも分からなかった。ただ、今さっき人間の魔法使いが血相を変えてピラミッドの中へ駆け込んで行き、委細はよく知らないが何某かが解決したからと傷だらけで出てきたばかりだったので、一応は気を付けておこうかなどと考えていた。白い妖怪は何をするでもなく、何を話すでもなく、ただじっとピラミッドを見つめていた。声をかけるかどうか暫く葛藤して、やはり初めから悪者扱いは良くないとこちらも無視して腰を下ろそうとした丁度その時、彼女の穏やかな瞳がゆっくりとこちらを捉えた。途端に心臓が跳ね上がる。それが緊張か興奮かはよく分からない。動けなくなる私に向けて彼女は呟いた。
「…馴子、おいで。」
一度だけ告げ、彼女は再び眼下の墓地に向けて目を伏せた。呼んでおきながら私を待っているという様子でもない。その様が逆に好奇心を掻き立てて、私はわざと足音を立ててその妖怪の傍らに歩み寄る。それでもなお彼女が何も言わないので、思い切って肩を並べ腰を下ろした。見下ろした先のピラミッドは、洞窟の出口から差し込む木漏れ日が揺れるのに呼応して時折きらきらと輝いていた。
 その妖怪が何者かはよく分からなかった。妖怪と言うと山姥のようなもののことを指すはずだから、それと同じ妖怪と呼んで良いのかどうかもよく分からない。それはヒトのようでケモノのようで、或いは神のようでもあった。細めた瞳は虎に似て、鳥のように自由な魔力を纏い、真実を包み隠す堅牢な亀の甲羅の下に見透かした横顔は龍に似た。一頻り景色を堪能して満足したか、漸く彼女ははっきりと私に向けて問うた。
「…長いこと寂しかっただろ。まさか自我を持つほどとは思わなかった。あれから何年経ったかね。」
「あれから?」
「お前がここに置かれてからさ。」
私が私でなかった頃のことはもう覚えていない。いつから私が『道神馴子』になったのかも分からない。洞窟の出口を見透かして、ピラミッドに満月が重なり一筋の道ができるのを眺めていた記憶もぼんやりと残っているが、毎月同じ景色ばかり見ているのでそれがいつのものかは定かではない。
「知らない。でもそんなに寂しくはなかったわ。暇だったけど。」
「…そうか。」
「ねえ、貴方はなあに?」
「封獣チミ。お前には私が何に見える。」
「うーん、スフィンクス?」
「はっはっは、悪くはないな。それじゃ今日から私は聖域のスフィンクスだ。」
「…適当な人。」
「こう長生きしておるとな、何だって良いんだ。自分の本質が何かとかそんなもんは。」
チミの言うことは何もかも要領を得なかったが、その一言だけは理解できたような気がした。彼女はじっとこちらを見つめたまま続けた。
「馴子。少し散歩にでも行くか。」
「ダメだよ、ここを空けられないから。そういう風に作られてるの、私。」
「良いじゃないか少しくらい。大丈夫、今なら何かあっても魔理沙がどうにかするよ。」
諭すように告げ、彼女は徐に腰を上げると洞窟の出口へ向けて踵を返した。どうしたものか、と思わず眼下のピラミッドを振り返って気付く。
(…こんなに小さかったっけ。)
それは外から射し込む光に怯えるようにじっと縮こまって、何かから頑なに目を背けているように見えた。その様がふと哀れに思われた。出口の方を振り返る。光は巨大な口を開け、今にも頭から私の身を呑み込まんとしていた。もうこんな場所まで歩いて来てしまったのだ。素性も知らぬ妖怪に乗せられて。それならもう、洞窟の中も外も同じことだ。揺れる梢が作り出した光の水底へ、私は小走りにチミの後を追った。
 緑というのを私はその日初めて目にしたと思う。背中に光を背負うと色は違って見えるのだというのを初めて理解した。樫の木の若葉は深緑色のドレスに衣装替えをしている最中のようで、追いかけたチミの小さな背中も不思議と明るく輝いて見えた。少し歩いているとすぐに聴き慣れない音が耳を刺し、ふわりと空気が溶けたような香りがした。それが川の気配というやつだと悟るのに少しの時間も必要無かった。くぐもった音を立てて砂利を踏み分け、チミは再びその場に腰を下ろす。今度は足先を流れる水の中に投げ出して。真似して大きな平たい石の上に靴を揃え、靴下を脱ぎ捨てて煌めく粼の硝子を足先で割る。気温の割に水は思ったよりも冷たくて、ほんの一瞬ばかり躊躇したがこれはこれで心地よい。隣人はまあ座りなよ、と私を促した。
「こりゃさっきまで熊が水浴びしてたばっかりだな。一応気を付けてろよ、襲われないように。」
「何で分かるの?」
「水の匂いが違う。」
「こんなすぐ流れてっちゃうものに匂いなんてね。」
「嗅覚の話じゃない、何と言うか…“気”みたいな。」
「…余計分からない。」
「だろうな。塵塚にも言われた。私に言わせりゃお前ら全員ヒヨっ子だからまだ分からないだけさ。」
乾いた調子で笑い飛ばし、彼女は徐に手元に落ちていた石を拾い上げると水平に勢いをつけてそれを目の前の川へと投げ込んだ。石は水面を何度も弾み、対岸にぶつかって飛沫とともに溶けて見えなくなった。
「…わ、どうやるの、それ?」
真似して石を投げ込んでみるが何も起こらない。ただ太く沈んだ音とともに川底に転がり、それきり上がってくる気配すらない。
「平たい石を使うんだよ、こういう風に…」
告げて手頃な石を取り繕おうと手元に視線を落とし、そこで彼女は口篭る。釣られてその手元を覗き込むと、そこには小さな青い宝石が転がっていた。
「…魔理沙が落として行ったのか?」
「確かに、魔理沙が持ってたのに似てるかも。何て宝石?」
「瑠璃…いや、この濁った色はトルコ石かも知れんな。うん、そうに違いない。知っておるか、トルコというのは。」
「さあ…新種のモグラの名前?」
「遥か西方にある国の名前だそうだ。正直なところ私もよく知らんが…一つ確かなことは、この石は旅の安全や成功を齎す御守りだということだ。」
告げて彼女は私のスカートを引き寄せると無遠慮にポケットの中へ手を突っ込んで探り、小さな金色の環を取り出した。いつからか持っていたのには私も気付いていたが、特に使い道もなく、しかし何故だか捨てる気にもなれなくてしまい込んでいたものだった。環の表面には小さな窪みがあり、落ちていたその小さな青い宝石は窪みの中にぴたりとはまった。まるでこの為に磨き上げられていたかのように。そうして、宝石をあしらった装飾品となったそれを、彼女は私の左手に通した。試したことはなかったけれど、腕輪はまるで体の一部であるかのように私の手首に巻きついた。
「…うん、よく似合う。その石はお前にやろう。装飾が多すぎても邪魔になるかと思って外してしまったんだが…何となく持たせておいて良かった。」
「持たせて…?」
思わずオウム返ししたその瞬間、それまで正体を持たなかった白い妖怪の虚像が脳裏で形を結ぶ。どうして今まで気付かなかったんだろう。そうか、この人が、この人が私を───。
「私のせいで巻き込んだ形になったが…お前に怪我が無くて良かった。今までよく頑張ってくれたよ。お帰り、馴子。」
私の手を引く細い指先を強く、強く握り返す。不思議とこの手を離してはならないような気がした。これまで何とも思わなかった筈の孤独が、洞窟の中で過ごした日々が途端に酷く恐ろしいものだったかのように思えた。
「…チミ。」
「うん。」
「…寂しかった。」
自分が何を言っているのかはあまり分からなかった。気付いた時には口をついて告げていた。彼女は黙ったまま優しく私の背中を抱き寄せた。されるがままに身を預け、ふと見下ろした先の自分の左手。洞窟の入口のように深く暗い青、それでいて白く濁った正体の無い色。小さな宝石は長い旅路を祝福してくれているようにも見えた。



【扉の中の四季~ユイマン・浅間】
 竪穴の奥へと送り出した人間が異変は解決したなどと言いながら引き返して行って、それからすぐに幻想郷の神を名乗る訪問者が月都の賢者とともにこの地を訪れた。彼女らは私を交えて何やら話したいことがあったようだが、月の民の言うことに興味は無かったし、何故だか記憶が混乱して疲れていたので二人で勝手にやらせておいた。小難しい話はこちらまで聞こえていた、というかわざと聞こえるように話していたのだろうが、聞き流していたのでその中身が結局何だったのかは知らない。ただ随分長いこと真剣に話し込んでいたと思ったら、漸く話がまとまったのか隠岐奈とかいう神が虚空に扉を開いて別れを切り出し、豊姫の方は慇懃無礼な態度で何度もどうぞよろしくお願いします、などと繰り返していた。それから最後に一瞥と一礼を私に向けて残し、扉の向こうへ彼女は姿を消した。あの穏やかな視線がどういう意味を持っていたのか、私には分からなかったし知りたくもなかった。
 異界の空気を吐き出し、竪穴はせいせいしたとでも言うようにふっと一つ息をついた。地の底から迫り上がる生温い風を気味悪そうに眺め、扉が自然に消えるのを待ってから隠岐奈はこちらへ歩み寄ると囁くように告げた。
「…と、いうことですから。これから先のことは幻想郷でも監視しますし早いうちに何かしらの対策も講じます。貴殿にこれ以上の負担を強いることはもうないでしょう。これからは自由にして頂いて構いませんよ。」
彼女の言うことは相変わらずよく分からなかった。これは私が話を聞いていなかったためではないと思う。自由に、と言われたところで一体何をすれば良いというのか。返事に困ったので代わりに応じた。
「それ、やめて欲しいわ。神様同士なんだから。私の家なのに居心地悪い。」
「ええ、神様同士なのですから。貴殿の神域にもお邪魔する形を取っている以上はこれが礼節というものです。幻想郷流の、ですが…お気に召しませんでしたかな。」
「…何でも良いけど。それで、結局私はどうすれば良いの?」
「何もしなくて良いのですよ。そうなるように我々もこれから動きます。」
「何もしないなんて退屈で死んじゃうわ。私はここを守る為にここにいるんだから、取らないでよ、仕事。」
「初めからそうでは無かった筈ではないのですか。もう覚えていないのですか。」
「…分からない。」
「…やめましょう、他人の私が知ったような口をきいたところできっと貴殿もご不快でしょうから。使命などというくだらない話よりも…故郷のことは覚えておいでですか。お暇の間は外で鹿狩りでも如何ですか。」
「覚えてるわ。ここに似てすごく綺麗なの。きっと外より…幻想郷より綺麗だわ。」
「…聞き及んでおります。」
穏やかな調子で応じた彼女の声色には、しかし明らかな哀れみが滲んで聞こえた。私に哀れまれたくは無いだろう、と勝手に推し量ったのは隠岐奈の方なのに。相手にしないつもりでいたが、思わず口をついて応じてしまう。
「…ここだって綺麗な場所でしょう?それで良いじゃない。それだけで良いのよ。私はこの場所に、この仕事に、この生き方に十分すぎるくらい満足してる。これで良い?」
「…申し訳ない。」
燃えるような赤色の壁に向けて呟き、隠岐奈は再び虚空に一つ扉を開く。今度は私に差し出すかのように。開かれて歪められた空間の向こうから光と熱気が押し寄せ思わず目を細めた。噎せ返るような草の匂い。小さな揚羽蝶が一匹、框を越えて竪穴の中へと飛び込み、咄嗟に差し出した私の指先に羽を休めた。
「…外は夏の盛りですよ。」
遠くで煩いくらいに響く蝉の悲鳴、威勢よく飛び回る鴉の鳴き声、妖精達が遊ぶ声。目を背けるようにして見上げた先の青空は絵の具で塗り込められたように真っ青で、竪穴の青い壁と変わらない筈なのに、寧ろ扉の向こうのそれの方が作り物のようで気持ち悪いと思った。それでも蝶は居心地悪そうにしていたから、再び外へ放してやった。彼の背中は眼下の森に溶けて消えた。ふと視線を持ち上げ森の終わりを探して見えなくなった蝶を追いかけるけれど、緑はどこまでも大地を覆い、遠く大きな山までも食らいつくかのように侵食するばかりであった。竪穴の緑の壁と変わらない筈のその景色が、やはり気持ち悪いと思った。思わず扉を立て切ってしまう。私にはもう、忘れてしまった他人を愛することなど出来ようもない。
 隠岐奈は特に何も言わず、その様子をぼんやりと眺めていた。縋るように彼女の瞳を見上げ、ふと昔の記憶が脳裏を掠めた。ヒト、いや、神だろうか。かつて彼女のように、この場所で私の傍らにいてくれた誰か。捕まえることはかなわなかったけれど。逃がした巨大な魚が蠢く蟠りとなって胸中で暴れ回るのが妙に苦しくて、隠岐奈の知ったことではないのは重々に知りながら口を開かずにはいられなかった。
「…私ね、会わなきゃいけない人がいるような気がするの。その人は、きっと外にいるんじゃないと思うの。」
「…どこにいるんです?」
「分からない、けど…。」
忘れてしまった他人を愛することなど出来はしないのだ。私自身もそのことは知っている、と思っていた。それでも、もしもそのことが事実なら、何もかもを過去に置き去りにしてきてしまった私はもう何を愛することも出来ないではないか。目を背けていた事実をありありと突きつけられる。今のままで良かった筈なのに。満足していたと思っていたのに。そもそも、満足って何だっけ。
「…上ばかり見せようとしていた私が間違っていたのかもしれません。」
隠岐奈はぽつりと呟いた。そうして、懐から小さな赤い宝石を取り出した。先程通路で処理した虚像───いや、人間が持っていたのと同じものだった。
「どうぞ、差し上げます。今の貴方には足元の石一つでさえきっと大きな支えとなるでしょう。よく探してご覧なさい。探し物というのは得てしてすぐ足元に転がっているものです。ヒトも神も、何故だかいつもそのことには気付けない。」
透き通った赤い石を私の手に託し、踵を返すと三度虚空へ据え付けるようにして扉を一つ開いた。
「この場所の時間も再び動き出すことでしょう。もう、変わって良いのですよ。」
それだけ言い残し、隠岐奈は框の向こうの異界へと姿を消した。今度は少しも待つことなく扉は消えた。竪穴はまだ少し緊張しているようで、中には少し熱くて歪んだ空気が滞留していた。手元の石に視線を落とす。ふと背後で聴き慣れない音がした。振り返った先には小さな石が列を成し、竪穴の底の暗闇まで長く続いていた。彼らは私を呼んでいるようだった。
 何故だか近付いてはならないような気がして見ないようにしていた場所。それでも不思議ともう躊躇いは無かった。探し物はきっとこの先にあるのだろうという出処の知れない確証だけが私の背中を突き動かす。もう迷う必要は無い。握り締めた手の中で、異界の石は紅く強く光り輝いていた。



【恒久不変のプリンセス~磐永阿梨夜】
 鼓膜を震わせる音。人間の声でなければ一体何だというのか。誰かと言葉を交わしたことさえいつが最後か分からないほど久方振りのことだったというのに。しかしそれは間違いなく、祭殿の裏手の岩塊が崩れ落ちる音だった。駆け込んだ先は小さな裏庭のようになって、私が作ったことを私自身忘れ去っていたものだが、そこにはかつてこの場所に社を構えるのに掘り起こした化石達が堆く積み上げられ高い壁を作り出していた。そうして今やその壁は跡形もなく崩れ、未だ静まらぬ土埃の下に金色の輝きを隠していた。恐る恐る持ち上げ引っ張り出したそれは採掘具のようだった。安っぽい見た目に反して随分重いので、両手で抱き抱えるように支えるのを強いられる。
 どこをどう工事すれば聖域の地下深くに沈むこの祭殿を掘り当てられるのか。逆に器用にも程がある。不届き者の面を拝んでやろうと崩れた化石の山を持ち上げようとしたその時、抱えていた採掘具を背後からひょいと抜き取られる。
「…悪い、邪魔してるぜ。それだけ返してくれ。」
いくら油断していたとは言え、この私がかくもあっさりと背後を取られることがあって良いものか。咄嗟に振り返った先にしかし人の姿は無い。採掘具の柄を抱えた細い蟲の触覚は私の傍らをするりと通り抜け、折り重なった瓦礫の隙間へ金色のツルハシを引きずり込んだ。一瞬の沈黙の後瓦礫は内側から崩れ、中から一人の鉱婦が姿を現した。
「おお、中々すげえ場所に出たな。で、何者だ、お前は。」
「…こちらの台詞だと思わない?」
「…一理ある。俺は姫虫百々世。」
土埃を払い応じる彼女の精神を見透かし、広大な祭壇の周囲の空間に寄り集まった情報の波を一頻り検索してようやくその正体に辿り着く。随分と情報が少ないのも、この地下深くの社に辿り着くことが出来たのも、成程彼女が私と同類だからか。
「…ああ、虹龍洞の大蜈蚣ね、貴方。」
「お、良く知ってるな。」
「うちに何かご用事?」
「いやあ、気になるだろ、聖域の地下なんて。偽天棚のすぐ下にあるのに地脈の流れも鉱物の組成も知らないんだぜ。飯綱丸には何故かめちゃめちゃきつく止められてるし…だからこっそり夜の散歩に、な。」
「…禁止されるのには相応の理由があるというのを今後の為にも覚えておいた方が良い。」
「そうらしいな。どうせ飯綱丸もここのことを知ってた訳じゃあないだろうが…何なんだ、ここ?」
「私は磐永阿梨夜。幻想郷の中核の…」
「イワナガヒメ!?あの!?」
名乗ってやった途端、祭殿の天井やら鳥居の根元の化石やらを物珍しげに眺めていた彼女の視線が真っ直ぐに私を射抜く。何となく居心地が悪くて思わず左手で目元に触れた。
「…あら、見た目の割によくご存知。」
「馬鹿言うなよ、何百年間借りしてると思ってる。妖怪の山の主祭神なんだろ?世話になってるぜ。」
「…世話したつもりはあまり無いけど。」
「俺の寝床だって元々はお前の土地だ。不思議なもんでな、魅須丸の神域ってことにしてやるのはあんなに腹立たしいのに…だから事実かどうかは置いといて、俺の中ではお前の土地を間借りしてることにしてる。」
「ええ、まあ…元を正せば私の土地ではある。でも良いの、どこの神様の神域になってようと…それこそ蜈蚣の巣になってても別に。私はもうこんな僻地に閉じこもってることだから。」
「俺が言うのもなんだが何してるんだ、こんな場所で。」
「何もしてないの。それが仕事だから。」
「哀れな奴だねえ。」
「…初めて言われたわ、面と向かって。」
「俺は社交辞令は好かん。」
告げて懐から拳ほどの大きさの石塊を取り出し、私の方へ投げて寄越す。ずっしりと重いそれは傍目にはただの岩のようだったが、組成に沿って力を篭めると手で簡単に真っ二つに割れ、中から小さな虹色の鉱石塊が顔を覗かせた。
「手土産要るか?お前好きそうだもんな、そういう変な石。」
「…『変な石が好きそうな神』か、私は。」
問い質した時には既に百々世の興味は私から境内の岩塊の方へと移っていた。別に構わないか、と思う。不名誉な響きだが何故だか吝かでもない。
「…ジオード状になるのね、龍珠って。」
「いや、俺も初めて見た。聖域に近付くほど明らかに変質してる。お前の影響なんじゃねえの?それかそっちが龍珠本来の形質、とか。」
「的を射ている…かもね。私も初めて見たけれど。」
「お、何の化石だ、これ。」
何となく気になって鳥居の足元にかがみ込む百々世の手元をそっと覗く。咄嗟に教えてやりたいと思ったのだ。私はもしかして今、楽しい、と思ったのか。
「…三葉虫じゃない?」
「ああ、この辺が腹面で…知ってるか?ここの背板の折り返しとハイポストーマが生物鉱化されやすい組成だから化石として多く残る。」
「有機ポリマーと結びついた石灰質の硬化、だった?そうね、これは腹板がよく残ってる。」
「難しい言い方は知らんが中々の美人だぜ、こいつ。脚の数以外は負けてるかもな。」
「…持って行く?」
「良いのか。なら遠慮なく。」
「お土産、私からも。それにしても初めて見たわ、節足動物の死骸に向かって美人だなんて言う奇特な人。」
「俺も初めて見たぜ、面と向かってそれを言う奴。」
「社交辞令は好かないんでしょ。蟲は苦手。」
「そりゃこんな羽虫の一匹もいない場所に引きこもってるからだ。ちったあ換気しろよ。」
「それこそ蟲が入るでしょ。」
丁度百々世のように、と、口には出さないが僅かに目を細め告げてみる。彼女は満足そうにぽんと膝を打ち告げた。
「お前、良い奴だなあ。また入っても良いか?」
咄嗟に返事を遣ることは出来なかった。百々世なら別に良い、と不意に思った。それでも、その返事を口に出してはいけないような気がしたし、口に出したくもなかった。
「…もう来ないで。」
「…そんなに蟲は嫌いか?」
「…嫌い。何もかも全部。生き物なんて皆嫌い。」
「それ、お前がここに独りでいるのと何か関係あんの?」
「貴方の知ったことじゃない。」
もう少し彼女と話していたい、そう感じたのは紛れもない事実だった筈なのに。誰であれ何かと共に在ることが今はただ億劫で、気恥ずかしくて、或いは怖かった。
「…期待させないで。期待したって何も叶わないのに。だったら初めから独りで良い。最後の一人は慣れてるから。」
今までだってそうだった。錦上京の民の言うことを真に受けた私が莫迦だったんじゃないか。だから『彼女』を傷付けた。だから『彼女』を独りにしてしまった。私が『彼女』を壊したのだ。奴らの戯言を私が信じたばかりに。初めから信じてはならなかったのだ、他人なんて、幻想なんて、世界なんてものは初めから。
 百々世は黙って聞いていたが、やがて諦めたように膝を打って立ち上がると採掘具を抱えて踵を返す。思わずその背を目で追いかけてしまうけれど、これ以上声をかける勇気は残されていなかった。私と関わっては彼女まで傷付けてしまうかもしれないから。今日のことは互いに忘れてしまった方が良い。彼女は暫くの間じっと元来た坑道を見つめていたが、ややあって明らかに私に向けられた大きな独り言を一言ばかり虚空へ嘯いた。
「…参ったなあ。適当に掘ってきたもんだから手土産抱えて引き返すには狭すぎる。こいつがいなきゃ身軽で良いんだが。」
告げてから彼女は小脇に抱えていた採掘具のうちの一方をいきなりこちらへ投げて寄越す。思わず受け止めてしまったが、見た目に反して持ち上げるのに苦労するほど重いのをすっかり失念していた。取り落としかけたのを慌てて両手で抱き抱える。
「それ、お前が預かっとけ。今度取りに来る。」
「…邪魔なのはその重そうな化石でしょ。」
「こいつはダメだ、典に自慢するから。」
三葉虫の亡骸を愛おしげに指先に弄ぶ、彼女が満足げな顔をしていた理由は何度干渉を試みても読み取れなかった。露骨に精神に触れられたので不快に感じたか、彼女は口を開いてもいない私を遮るようにひらひらと手を振り告げた。
「…生憎と貰った恩は他所に回すように教育されてるんでね。『またな』、阿梨夜。」
穏やかな調子で言い残し、彼女は再び折り重なった瓦礫の山の向こう側へと姿を消した。残されたのは重い採掘具と小さな虹色のジオードだけ。そっとその中を覗き込む。鉱石は少し指先を動かす度に極光色に光り輝き、幾度もその表情を変化させていた。
 あの人間をこの場所に呼び寄せたことで、止めていた時間が動き出してしまったのかもしれない。変化を続ける不思議な石が聖域の結界を毀し、ピラミッドの封印を解き、百々世をここまで呼び込んだ。苦肉の策とは言え判断を誤ったかもしれないな、と独り深く長い吐息を零す。或いは、いつかこの選択は間違っていなかったのだと胸を張って言える時が訪れるのだろうか。未来というものを迎えに行った経験が私には無いのだから想像もつかない。それでもこれから先は、自分の足で歩いて行かなければならないのだろう。見上げた先、祭殿の天井は低く薄暗く死んだように停滞して、曇り空の夜を想起させる濁った闇を、それでも美しいと思った。



【あとがき】
「懐中時計の骸」
 錦上京本編で明かされた「聖域とは何か」の答え合わせ、これに寄りかかっていると何も見えて来ないのだろうな、ということだけは理解しました。「聖域を作る」とは何か、このことに焦点を当てて書いた作品です。常に誰かの宿木で在ること、きっと幸せでしょうが私には重すぎるような気もします。致命的なくらいに誰より優しいネムノだからこそ、天空璋のあのおまけtxtになるのかな、という思いです。ウバメのテキストを見た時は温度差で驚愕したものですが、きっとウバメの方こそ「本質」なんだろうなあ。我々が七夕坂までの作品で見てきたものは聖域でも何でもなかったんだと思います。色んな意味で。
 そういうキャラ付けなのか全然感嘆符をつけて喋らない原作のウバメですが、その割に立ち絵がアレなので変なツボに刺さってます。やたら感情表現がしっかりしてる天空璋のネムノと逆でも良かったぐらいだろ。魔理沙ルートの会話、恐らく異変石をかざしてみたりしているものと思いますが、あの流れが2025年のベスト可愛いだと思います。「訳分からんことするな」、静かに怒っててほんとに可愛い。

「旅路」
 魔理沙ブルシのED後のお話。いきなり大事な情報を全部一気に流し込まれて大変困惑しましたが、やっぱり馴子のことをまだ覚えていて、「私が作った」と自慢げに告げて、「たまには気にかけてやってくれ」とまで言うチミの母性が一番印象的だったように思います。ある程度ストーリーが見えてきて、阿梨ユイのドロドロの過去に上塗りされていつの間にか諦観にされてしまった悲鳴を見てきた後だったからこそ、どれだけ時間が経ってもただ「覚えている」ということ、その優しさと強さが身に染みて私まで救われたような気がしました。こんな人に作って貰えた馴子も幸せ者だ。
 頑なに洞窟の「出口」と書いていたものが最後には「入口」に変わっているの、お気付き頂けているでしょうか。錦上京本編で味わった、ピラミッドに囚われた2人が正体不明の敵から悲劇のヒロインへと変化する、視点を無理やり引っ張られて残酷な「現実」を突きつけられるあの不快な美しさが忘れられず、今回は馴子の視点を借りて再現に至っています。あれを完全再現でもう一回やると重すぎて胃もたれするので本作ではなるべく無難なオチで。獣王園もそうですが、今作は特にシナリオライターとしての博麗神主の本気が垣間見えた作品だったように思います。文字書きとして襟を正される思いです。本当に良い作品だった。何もかも。

「扉の中の四季」
 世間はユイ阿梨の流れであって、本作も視点をユイマンに持たせた都合上気付いたらそんなような話になっていましたが、私はいつまでも阿梨ユイを主張し続けたいと思っています。やたらと矢印のでかい拗らせ不器用のヘタレ攻めだっていて良いと思いますし、距離を置くことが何より大きな愛の形だって正解だと思いますし、それこそが前作のざんひさによって与えられた示唆のような気がしています。だからこそ、本作でも最後に背中を押すのはユイマン自身の意思ではない。考察が深まりきっていないのであんまり直接的なことを書く勇気はありませんでしたが、これこそ阿梨ユイであれという確固たる意思だけは、この百合豚、忘れることは無いつもりです。近いうちに必ず書きます。
 珍しく初見でがっつりビジュが刺さったな、というような気がしています。百々世以来四年ぶりかなあ。じゃあそんなに珍しくもない。阿梨夜は噛めば噛むほど味がするタイプだと思っていますが、ユイマンに関しては殆ど一目惚れだったと思います。お陰様で今や寝ても覚めてもユイマンのことばかり。抱え落ちして舌打ちしながらリトライを押すのも四割豊姫六割ユイマンのせいですが、激狭めんどくさ通常も激ヤバラスペすらも愛おしい。まずもって魔理沙のボムが懐中電灯すぎて押す前に一時もうちょっと削ってからの方が良いかなという気持ちにさせられるのが悪いよなあ…。

「恒久不変のプリンセス」
 このペンギンがアツい2025入選作品(自薦100%)。百々世には傍にいてくれる誰かがいて、そこに寄りかかれる弱さと強さがあって、果たしてそれは阿梨夜にとってみれば何に見えるのでしょうね。巨大な墓標の下に自ら閉じ込めた心ではきっと痛みももう感じられないのに、それでもまだ他者の痛みに本気で寄り添う阿梨夜の背中が大好きです。誰からも認められることはなく、返ってくることもない献身を外から眺めることしか出来ない立場としては、もう変わって良いんだよ、幸せになって良いんだよ、という思いしかありません。それが彼女にとってどんなに残酷な言葉かは承知の上で。純狐、今からでも遅くないからやっぱり滅ぼさないか錦の上に建つこの世の悪を。
 二人が最後まで互いの身体に触れないのも、或いは安心感さえ憶えておきながら互いの過去を追求しようとしないのも、二人が自然に持ち合わせ無意識に引いた自分と相手を護る線。踏み越える勇気はなくても流れる時間に任せれば良い、というのは「生き物」としての百々世にしか出せない答えだったと思いますが。ただほんのりと未来に希望を持たせるような終わり方で濁してあります。勿論私自身の確固たる解釈は持った上で書いてはいますが、その先に何を見るかは読み手次第と致しましょう。せめて流転する未来の中に、阿梨夜の幸せがあらんことを。

 ご精読ありがとうございました。今度は錦上京Exと卒論が片付いた後に。

ディープダーク・レゾナンス【東方錦上京短編集】
【⚠️東方錦上京の重大なネタバレを含みます】

本編を読破したので取り急ぎ初読の感想のような形で出力したものです。ここで色々喋るとネタバレになりかねないので詳しいことは文末のあとがきで。1週間でExクリアまで辿り着けなかったのでExボスちゃんは不在です。また後日。

今作は4ボスちゃんが刺さりました。が、テーマ曲を聴きながら感情をぐちゃぐちゃにして書いてたせいで今はじわじわと6ボスちゃんがアツいです。自分の感情を昂らせた状態で勢いのままに書き殴った話が一番完成度が高いのでよくやるんですが、いかんせん精神に来るので本当に困ります。特に今作、重すぎ。

Exボスが書き上がりました。→ novel/25927597
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2025年8月25日 23:00
らぷ
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