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美由紀
「うわぁぁぁぁ!」
中央線を乗り越えてこっちの車線に突っ込んできた対向車を避けたものの、ガードレールごと、運転中の俺は崖下へと落ちて──。
「え、あ、れ、で、出るっ……!?」
「あむ、じゅるじゅる、ん、ん、ん、んーっ!」
知らない天井の下で目を覚ましたと思ったら、俺より少し年下の艶やかな、長い黒髪の美少女にフェラチオされた上で、射精させられていた──。
俺は高村京也。来春から社会人になる大学生。家の車を借りて、峠向こうのショッピングモールへ買い出しに向かう途中で、事故に遭った。
「えっと、それで君が助けてくれたと」
「はい、特に出血などは無かったようですが、頭を打たれていたのか、数日は目を覚まされませんでした」
微笑みながら、ベッドの傍の椅子で説明をしてくれる彼女は、月宮美由紀と名乗った。俺の名前は、身に着けていた免許等で確認が取れていたらしい。携帯や財布等の貴重品は枕元にまとめてくれていたようだ。
「そっか。助けてくれてありがとう。とりあえず、家に連絡を取らないとな……」
「えっと、お待ちになられた方がいいかと思います」
さっきまで俺のモノを頬張っていた淫蕩な一面はおくびにも出さず、彼女はやんわりと俺を制止する。
「……どうしてさ?」
「『京也さま』の身体は、今、異常な状態にあるからです」
「え?」
「京也さまはお優しいのですね、私を責めたりなさらない。けれど、私が先程、貴方様に行っていた行為は異常と認識されていますよね?」
そういうと、突然、彼女は身に着けていたロングワンピースの裾をまくりあげ始める。ビックリした俺が制止しようとも彼女の動きは止まらない。
「はしたないと詰られても構いません。私は今、貴方の傍にいるだけで、こんなにも発情しているのです……」
清楚なデザインのワンピースの下には、彼女はショーツを履いていなかった。整えられたアンダーヘアの傍にぴっちり閉じた割れ目があり、そこからはトロリとした彼女の体液が途絶えることなく湧き出てきている……!
「み、美由紀さん、な、なにを……!」
目を離せない。整った美貌の彼女が、俺の前に自らの性器を晒している。
「崖から落ちた貴方を見つけて、涼香に協力してもらって、車の中から助け出してから……私や涼香の変調が始まりました。貴方の身体に触れれば、触れるほど、貴方が欲しくて仕方が無くなって、どうにも我慢がきかなくなってしまった……」
足をゆっくりと広げた彼女の秘部から、つつつ、と太ももへ伝い落ちる一筋。自らもそれを感知したのか、彼女がぶるりと震える。
「今の貴方は……いとも簡単に異性を狂わせるのです。そして、それは京也様の匂いに始まり、匂いよりも汗、汗よりも迸る精が、より私達を狂わせ、貴方のモノになりたくて仕方なくなる……」
「美由紀、さん」
視線が合わさった。途端、彼女が我慢ならないとばかりに、俺の胸へと飛び込んでくる。
「そして、貴方の瞳に魅入られれば、もう……離れられない。予感は、しておりました。ああ、美由紀はもう貴方様のものなのです」
わけが分からない。だが、ハッキリとしているのは、彼女が発情していて、そのせいで、俺の胸元へと飛び込んできたということ。
「詳しい説明は後程致します……哀れに思うなら、どうぞ美由紀を貫いて下さいませ……」
「し、しかし……!」
「妊娠の心配なら不要ですから……どうぞ、美由紀を、貴方の女に」
一度、精を放って、元気が無くなったはずの俺の下半身は、いつしかガチガチに硬くなり、完全に屹立した格好となっていた。この上品な話し振りや、部屋の調度品からして、俺には今後も縁の無い『良家のお嬢様』だ。そのお嬢様を好きにしていい機会など、早々あるもんじゃない。
それでも、微かに残る俺の躊躇いが、彼女に念を押させる言葉を投げかけた。
「一時の感情に、囚われちゃ、だって、美由紀さんは、どこかのお嬢様だろ」
「籍は残っていますが、とうに半分見捨てられた身。この山間の地で静かに朽ちていくしか無い女でしたから。抱いて頂ければ、理由もお明かし致します」
彼女の口振りからは俺の懸念は不要だという意思が伝わる。そして、俺は欲に、負けた。
「……うわ」
彼女が身に着けているブラジャーからして、高級品なのが分かる。肌触りが違った。そして、その下着に負けぬ、彼女の肌のきめ細やかさや張りは、若さだけに頼ることなく、普段から徹底した手入れを欠かさないのだろうと想像できる、素晴らしいものだった。
「もっと強く触れて、くださいまし。多少、乱暴にされたとて、壊れたりなどしませんから」
痕をつけるだけでも躊躇われるような、この肌を、綺麗なお椀型の膨らみをゆっくりと揉み解していく。弾力としっとりとした感触と共に、彼女の肌が熱を持っているのだと、しっかり感じ取ることが出来る。
「美由紀さん、吸いますよ」
「はい、優し過ぎて切ないですから、いっそ強く、お願い致します」
膨らみの突端で硬くしこっていた乳首を、彼女の望み通り、強く吸い上げる。
「んぁあああああっ!」
彼女が刺激に俺の頭を引き寄せるように腕を回して、俺の鼻腔は彼女の乳房にのめり込む格好となる。……女の子の肌は、こんなにも甘く、心地良い香りがするものだったのか?
「京也さまぁ、京也さまぁ! もっと、もっとくださいまし!」
少しずつ、触れる程度にしか込めていなかった力を強めつつ、俺は夢中で彼女の乳首に吸い付く。俺が触れたり吸い込む力を変えることで、彼女は甲高い声、可愛く囁くように漏れる喘ぎ声、激しい吐息……色々な音を奏でてくれた。
「ごめん、俺、あんまり経験無くて、もう我慢が」
「はい……私も、もう」
彼女の入口に、先走りを出し始めている自分の一物をあてがい、俺は誘われるがままに腰を沈めていく──。
「くぁっ、これ、ヤバいっ」
彼女の内部は火傷すると錯覚してしまうほどの熱と、潤滑油代わりの液体を潤沢に溢れさせていて、自分の想定以上に、俺は一気に彼女の奥深くまで突き入れてしまっていた。
止まらない勢いは、ブチンと何かを破る感覚を味わい、そのままコツンと先端が肉壁に当たる衝撃でやっと収まりを見せる。
「っ──!」
彼女に初めて、悦楽以外の、苦悶の表情が混じった。さっきの感覚、まさかそうなのか?
「美由紀さん、まさか、初めて……!?」
「はい、美由紀の初めて、京也さまに奪って頂きました……貴方の瞳を見つめたまま、奪って欲しいと願っておりましたから、私はとても幸せです」
「……そんな」
初めての男が俺なんて。この人は、一体。だのに、初めてのはずの彼女の中は、俺を絶え間なく締め付け、かつ、蠢いて、俺の子種を待ちわびるように、動く。
「はぁ、京也さまが楽しめるように、身体まで変えられていたと感じていたのは、気のせいじゃ無かった……ああん、ビリビリするけど、初めてがこんなに気持ち良いだなんて……!」
あろうことか、彼女の腰はぎごちなくも前後に動いて、自分で悦楽を貪ろうとしている。
「京也さまっ、今は、私の中に出すことだけを考えて下さいましっ! お願いですからっ!」
経験の無い俺が、その誘惑に耐えられることはなく、初めての彼女への気遣いもままならぬまま、腰をひたすら打ち込み始めて、彼女の子宮へ精を吐き出すべく、スパートを始めた。
「ぐ、ぐぅっ! 美由紀さん、もう、もう持たない、出す、出すよっ!」
「は、はい、く、くださいませっ! 京也さまの熱い精を、私の中に! 貴方様の精で、私も、ああ、き、来ます──っ! イク──っ!」
初対面の美少女に誘われるまま、俺は彼女の初めてを奪い、そして、共に絶頂を迎えたのだった。
「……俺の身体は、異性を虜にする何かが出ているということ?」
「はい……京也さまの身体、そして瞳も、貴方を何よりも優先するようにしか考えられなくなるよう、相手を変えていくのです。そして、貴方が欲しくて仕方がなくなってしまう……」
行為が終わり、寝台に横になった俺の腕の中で、美由紀さんは説明を再開してくれた。事故で頭を強く打った衝撃で、俺は異性を発情させ、強制的に引き付けるフェロモンらしきものを常時垂れ流しにしている状態なのだと、彼女は言う。
「眠りにあるからと、男性の性器を貪るなど、あってはならぬことだと分かっていても、我慢が出来なくなって、貴方の精を受け容れれば、さらに貴方の存在が心を埋め尽くしていって……この衝動は京也さまに近づくほど強くなり、視線を合わせたことで、一時たりとも耐え難いものに変わりました。そして今、貴方に抱かれたことで、私は『京也さまのもの』なのだと自認しておりますし、そのことに強い喜びを感じております」
瞳を潤ませて、うっとりとした顔で、自分が俺のモノなのだと語る美由紀さん。彼女が説明するように、一人の女性の在り様を完全に改変してしまっていた。
「身体の在り様まで変えられていたのには驚きましたが、京也さまと共に果てるために必要なことだったと思えば、むしろ良かったと思えますし。それと、これはしっかりとお伝えしておきたいのですが、京也さまが責任を感じることはございません。衝動だけで、私は貴方に抱かれたわけではありませんから」
「どういう、こと?」
「私は、京也さんの精を初めて飲むまで、原因不明の言語障害を抱えておりました。生まれつきらしく、何かを話そうとすると、うめき声にしかならなかったのです。人が何を話すかは理解も出来ましたし、文字を書くことでのやり取りは出来たのですが、私の家は、京也さまの仰っていた通り、それなりに名の通った家です。言葉すらまともに話せぬ娘など不要と隔離され、このような山間地の離れに、世話係の涼香と二人暮らしをしておりました」
そんな理由で、と一瞬思うが、それは一般的な家に生まれた、俺の価値観での話。彼女が隔離されるのが当たり前と語る以上、とやかく言う権利は無いと思えた。
「異性とは関わることなどなく、この地で朽ちていくのだと、それが運命なのだと、そう思っておりました。けれど、私は京也さまに出会った」
「美由紀さん……」
「貴方のモノになるために、私は『言葉』を得たのだ、と勝手に思っております。喋ることが出来るようになった幼き子が短期間でこれほど流暢に言葉を話せるわけはありません。私が思ったことをそのまま、すぐに言葉に乗せて伝えられる。この奇跡は、京也さまが与えてくれたもの……。だから、私は、貴方から離れようとは思えなかった」
「……俺は何も、してないよ。俺は、美由紀さんに命を助けられた。美由紀さんは俺の命の恩人だ」
「でしたら、命の恩人の願いですわ。私をこのまま、一人の女として扱って下さいませ。避妊は私の側でしっかり行いますわ。実家に私が言葉を取り戻せたことを伝えるつもりはありませんから、私は外向きには言葉の不自由なお嬢様のままです」
「……それは」
枕元の傍にある小さな置台にある錠剤と水を、彼女はごくりと飲み干した。
「自由に好きな時にいつでも抱ける女とでも思って下さいまし。私は、貴方にお仕えすることが喜びと感じるのですから」
こうして、俺は自覚の無いまま、一人の女性を自分の都合の良い女性へと作り変えてしまったと、知ることになったのだった。