ガラル地方 エンジンスタジアム
ポケモンリーグチャンピオンがユウリとなってから初めてのジムチャレンジ。そんな記念すべきジムチャレンジの開会式のため、ジムチャレンジャーがエンジンスタジアムに集っていた。
「すいません、受付をしたいんですけど…」
「はい、推薦状を見せてください!」
赤いマホイップを連れたひとりの少年が、推薦状を受付スタッフに見せる。するとスタッフは驚愕した。
「え、チャンピオン・ユウリの推薦状!?何者ですか!?」
「あはは…まあ、仲良しです」
「そうですか…ではジムチャレンジに挑む際に必要な背番号をお願いします!好きな数字の組み合わせで構いませんよ!」
「なるほど…でももう数字は決まってます!186でお願いします!」
「186…分かりました、それでは控え室で着替えをお願いします」
少年は、控え室に入ってユニフォームに着替える。相棒のマホイップは、彼のことを見つめている。
「なあに、フラン。ユニフォームが気になる?」
「ほみ!」
「あはは、まあ珍しいよね。ジムチャレンジでしか着れないし…」
「すみません、そろそろお時間です!」
「あっ、はーい!」
エンジンスタジアム バトルコート
バトルコートでは、ジムチャレンジの開会式が行われていた。リーグ委員長・ダンデとチャンピオン・ユウリによって盛大に開催を宣言された開会式では、今現在チャレンジャーの紹介が行われている。みなリーグ関係者から推薦状を受け取った選りすぐりのポケモントレーナー。
けれどそんな中でも、特に注目されているチャレンジャーが、今バトルコートに一歩踏み出そうとしていた。
「さあチャンピオン・ユウリ!次がいよいよ最後のチャレンジャーだぜ!君から紹介を頼む!」
「はい!最後のチャレンジャーは、わたしが推薦状を書きました!!」
その言葉に、会場がざわつく。チャンピオン・ユウリが推薦状を書いた逸材。一体どんな強いトレーナーが姿を見せるのかと、会場や配信サイトは期待に揺れる。
「さあ、それでは入場してもらいましょう!チャレンジャー・アマネ!!」
アマネは、バトルコートに一歩踏み出した。会場中から歓声と視線を浴びる。彼は緊張しつつも、皆に手を振った。
こうしてチャレンジャーの紹介が終わり、アマネはエンジンスタジアムに戻った。
「アマネくん!」
「ユウリさん」
「えへへ、開会式どうだった?緊張したでしょー」
「はい。でも楽しかったです!こんないっぱいの人に、僕のポケモンたちの勇姿を見せられると思うと!」
「だよね!じゃあ次はジム!ターフジム、頑張ってね!アマネくんのこと、信じてる!」
ユウリに激励され、ホテルで夜を過ごした後。アマネはエンジンシティからターフタウンまで歩き出した。その道中、4ばんどうろ。
「ん?なんか人だかりが…」
アマネが人だかりの中から覗き込むと、そこには1匹のイーブイがいた。どうやらこのイーブイを捕まえようとしたトレーナーたちを、イーブイは蹴散らしたらしい。おまけにトレーナーたちからきのみや食べ物を巻き上げていた。
「これは…ひどいな」
「あっ、君ジムチャレンジャーだろ!?頼むよ、あのイーブイをなんとかしてくれ!」
「………」
イーブイは特段人間を警戒している、というわけではないようだった。むしろ都合のいい駒だと思っているようだ。力でねじ伏せて、相手を支配するのを楽しんでいるような。そんなイーブイに、アマネはきのみを差し出す。
「イーブイ、確かに力で相手を支配するのは分かりやすいやり方かもしれない。でもね、それじゃあ大切なものは手に入らない」
「………」
「ね、きみも寂しいんじゃない?」
「………」
イーブイはアマネの言葉を理解したのか、きのみをひと口かじる。
「ブイッ!?」
「あ、ごめんこれマトマのみだった。辛いの苦手だったんだね」
「ブイ…」
「じゃあ、ヒメリのみどうぞ」
今度こそ辛くないきのみをイーブイに差し出す。イーブイは警戒していたものの、きのみをかじると美味しかったのか、完食した。
「ふふ、かわいい」
「…ブイ」
「え、一緒に行きたいの?」
「ブイ!」
イーブイが、アマネの手にあるモンスターボールに頭をスリスリする。仲間になってあげる、と言わんばかりのイーブイに苦笑いしながらも、アマネは新しいモンスターボールを用意した。
「じゃあイーブイ、僕と一緒に来てくれる?」
「ブイ!」
前足をボールに当てて、イーブイが入る。数回揺れて、イーブイは無事ゲットされた。
「えへへ…これでイーブイゲットだ、嬉しいな」
「ほみ!」
「でも確かに…イーブイだけ辛いのが苦手なのはちょっと困るけど…まあいっか!それは僕の仕事だし!」
「ほみ〜」
「じゃあ出ておいで、イーブイ」
ボールからイーブイを外に出す。イーブイはいかにも自信たっぷり、という風にアマネを見つめてみせた。
「あはは、頼りになりそう」
「ブイ!」
「さて、新しい仲間もできたところで…」
アマネは前を向く。その目線の先には、最初のジム、ターフスタジアムが見えていた。
「ジムチャレンジ、頑張ろう!!」
End
エピローグ
エンジンシティ駅 ホームにて
アマネは、人を待っていた。やがて電車がホームに着き、その人物が姿を見せる。
「アマネ!久しぶりね」
「ブルーさん!それから…」
「………!!」
レッドさんは僕を見るなり抱きついてきた。よほど嬉しいのか、顔をスリスリしてくる。髪が当たって痛い。
「はいはい、再会が嬉しいのはわかるけどね。まあいいわ、せっかくガラルに来たんだもの。カフェでお茶しましょ。お話はそこで」
ブルーさんに促され、エンジンシティのカフェに入る。それぞれ注文を済ませ、会話を始める。
「それで?ジムチャレンジはどうなの?」
「いやあ、例年に比べて厳しくなってますよ。やっぱりチャンピオンがユウリさんになったからでしょうね」
「なるほどねえ…でもね、アマネ」
「?」
「最初の3つのジムをピカチュウで3タテしたあんたが言っても説得力ないのよ」
「あー…」
いやあ、参ったね。実はジムチャレンジに向けて色々特訓とかしてたんだけど…まあ、うちのピカチュウ…アマリは強いからね。獄炎ボルテッカーに10まんボルト、そしてなみのり。そのわざで突破できちゃうんだ。
「レッドさんとの特訓のおかげですよ」
「………!!」
「レッドも嬉しそうね。まあアマネに会えるってなって大はしゃぎしてたもの」
「そうなんですか?」
「そうよ!あれだけ下山するの嫌がってたのに、アマネのジムチャレンジ見に行かないかって言ったらすぐに降りたんだもの」
「………(コクリ)」
「あはは、レッドさんもそう思ってくれてるなら嬉しいです。レッドさんは僕の師匠ですもん!」
「………!!!」
レッドさんがまた抱きついてくる。しかもさっきより勢いもあるし力も強い。絞め技みたいだ。
「そういえばグリーンさんは来てないんですか?」
「ああ、あいつ?ジムの仕事で忙しいから。それにほら、アマネとレッドのこと口滑らせたじゃない?ワタシそれ許してないから」
「………」
さすがはブルーさんだ。グリーンさんとはあんまり話したことないけど、ブルーさんに勝てないんだろうなというのは分かる。あ、口喧嘩の話ね。
「それで最近は大丈夫?ほら、ガラルは最近事件起きたでしょ」
「事件?」
「ほら、ワイルドエリアで身元不明の男性の遺体発見ですって。遺体の損傷も激しいらしくて…怖いわよねえ」
そんなことが。正直ワイルドエリアはかなり広いから、行方不明者も出ているらしい。でもそういうのは初めて聞いたな。
「まあいいわ。そういえば聞いたわよ、イーブイ捕まえたんですって?」
「………!」
「そうなんです、強い子ですよ」
「………(フスフス)」
「え、レッドさんが特訓つけてくれるんですか?」
「………(コクリ)」
こうして僕のイーブイは、ワイルドエリアでレッドさんに特訓をつけられることになりました。
数日後
「やっほー、レッド、アマネ。特訓どうよ?」
「ブルーさん!はい、イーブイが進化系のタイプ8種類のわざを覚えるようになりました!」
「何それチート?」
僕がチート級ポケモンの使い手だと話題になるのは、それから少し後のお話。
イーブイ メス
特性:てきおうりょく
4ばんどうろで捕まったイーブイ。通常のイーブイよりも力が強く、自信に満ち溢れている。アマネに懐いている。レッドさんとの特訓で相棒イーブイのように8種のタイプのわざを覚えるようになった。進化系のタイプのわざなんだから特性の対象にできるよね、というレッドさんの特訓で8種のわざにもてきおうりょくが乗る。
ちなみに
ルセはあれから眠ったままでしたが、アマネがジムチャレンジの開会式に出た後に息を引き取りました。
ルセの兄はルセを復活させる方法を探してガラルに行きました。しかしワイルドエリアでポケモンに襲われ行方不明になったそうです。