僕はげきからマホイップと世界を巡る   作:三笠みくら

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澪標の魂

 

 

結局、ルセちゃんはあの場で死んだわけではなかった。けれど脳死状態で、目を覚ますこともないだろうとのこと。ルセちゃんの家族には、彼女のことは詳しくは言わなかった。眠るルセちゃんに泣いて縋りつくお兄さんを見ていたら、そんなことは言えないと思ったから。

 

 

ウツロイドの触手で人形になった人たちは、ルセちゃんが眠った後次第に意識というか、自我を取り戻したらしい。僕とルセちゃんが放り出されたのはポニ島の海岸だった。しばらくしてユウリさんに電話をかけると、すぐに飛んできてくれた。

 

 

「アマネくん!無事だったんだ、良かったあ!!」

 

「本当に……あれ、その子…」

 

「…ルセちゃん。眠っちゃった」

 

「…そっか」

 

 

そのひと言でみんな察してくれたのか、それ以上追求されることはなかった。グラジオさんの勧めで、僕たちはエーテルパラダイスに行くことになった。カイオーガ様に乗せてもらって、エーテルパラダイスに到着した。辿り着くと、ルザミーネさんとリーリエさんが迎えてくれた。

 

 

「皆さん、いらっしゃい。ここがわたくしたちのエーテルパラダイス。とにかく皆さんお疲れでしょう、リーリエ、皆さんをご案内して」

 

「はい!皆さん、こちらです!」

 

 

ルセちゃんを預け、僕たちはエーテルパラダイスの休憩室のような場所に通された。話によると、僕がウルトラディープシーに引き摺り込まれた後、空間の裂け目からウツロイドたちが現れたらしく、皆ウツロイドと戦っていたとのこと。

 

 

「でも…皆無事で良かった」

 

「それはこっちのセリフだよ!アマネくんが引き摺り込まれて…すっごく心配だったんだから!」

 

「ほんと、アオイちゃんの言う通り!ねー」

 

「…なんか2人とも、仲良くなってます?」

 

 

どうやら祭壇での戦いで、アオイちゃんとユウリさんは背中を預けて戦ったらしい。その結果、2人は仲良くなったのだった。良かった良かった。

 

 

「アマネ、お前は今から検査を受けてもらう。現状異常はなさそうだが、ウルトラスペースに入ったんだ。念の為な」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

グラジオさんに言われ、僕は検査を受けることになった。MRIや脳波といったもので、そんなに時間は掛からなかった。結果は異常なし。皆のいる部屋に入ると、皆やたら豪華なティーパーティを開いていた。

 

 

「え、なにこれ」

 

「ルザミーネさんがね、皆さんゆっくりしてくださいって用意してくれたの!すごくない!?」

 

「うわあ、これすごい高級なティーカップだよ、知り合いのカフェの人が高くて仕入れられないって言ってたやつ」

 

「ガラルでも話題のやつだー、写真撮っちゃお」

 

 

皆が思い思いにティーパーティを楽しんでいるのを見て、僕もなんだか楽しくなってくる。

 

 

「ほらアマネくん、アマネくんも座って!」

 

 

アオイちゃんに促され、僕もティーパーティに参加する。色とりどりのお菓子に、いい匂いの紅茶。それを少し楽しんだ後、エーテルパラダイスの2階…保護区に足を運んだ。そこにはアマージョ、ジバコイル、ウインディ、ポリゴン2、ミロカロス、ワルビアル…つまり、ルセちゃんのポケモンがいた。アマージョやワルビアルは暴れているけど、他の子たちは大人しく保護されている。

 

 

「トレーナーからよほど酷い目に遭ってきたのか、人間を信用していないんです」

 

 

そう職員さんはぼやいた。実際ルセちゃんは手持ちのポケモンを思いやるなんてことはしていなかった。それどころかポケモンの力を引き出すために暴力を振るっていた。きっとやつあたりのわざマシンを使ったら、最高の威力が出るだろう。それぐらいには酷い目に遭っていた。

 

 

「そうですか…」

 

「でも安心なさって、わたくしたちは決してポケモンを見捨てない」

 

 

その声に振り向くと、ルザミーネさんが立っていた。ルザミーネさんは、僕の肩にそっと手を置く。

 

 

「わたくしは、ポケモンたちを愛してる。それがたとえ報われなくても、愛しい何かのために努力する。それが大切なことなのです」

 

「ルザミーネさんは、優しいんですね」

 

「うふふ、ありがとう。でもわたくしにこのことを教えてくれたのは、リーリエ…娘ですのよ」

 

「……娘?」

 

 

その言葉にハテナマークを浮かべる。え、家族なんだろうなーとは思ってたけど…娘!?

 

 

「うふふ、そんなに驚かなくても」

 

「驚きますよ!!ルザミーネさんお母さんなんですか!?」

 

「ええ。グラジオとリーリエの母です」

 

「はいぃ!?」

 

「ああ、面白い反応…確かハウくんもそのように驚いてくれたわね」

 

「驚きました…」

 

「うふふ…まあその話はいいとして。かつてはわたくしも、自分の愛するもの…いいえ、わたくしが好きなものだけがあればいいと考え、我が子を支配していましたの」

 

「そんなことが?」

 

「ええ、今考えたら独善的にも程のある考えでしたけど。でもそれを、リーリエは違うと教えてくれた。傷ついても、たとえ報われなくても、前を見て進んでいく。それが大切なことなのです」

 

 

自分に言い聞かせるように、ルザミーネさんはそう語る。その言葉に、僕はルセちゃんを思い出す。彼女は、自分の愛するものだろうがそうじゃなかろうが、支配することしか知らなかった。もしもそれに違うと言えていたら、何か変わっていたんだろうか。ルセちゃんと、普通の友達になれる未来もあったんだろうか。

 

そう考えて、すぐに首を横に振った。できなかったことを考えても、ルセちゃんとのことは変わらない。僕は、ルセちゃんのことを背負って生きていく。彼女の歪んだ想いも、あったかもしれない苦しみも。それを知っているのは、僕だけだから。

 

 

「大好きだよ、アマネ」

 

 

いつだったか、ルセちゃんは僕にそう語った。

 

 

 

「大嫌いだよ、きみのことなんか」

 

 

そう彼女に呟いて、僕は皆のいる部屋に戻った。

 

 

 

 




ウツロイド
ルセの前にウツロイドが現れたのは、彼女の歪んだ愛にウツロイドが反応したからです。ウツロイドは愛を求めていました。ルセとウツロイドは、支配することしか知らない。自分にそっくりな彼女に、ウツロイドは惹かれました。なのでルセとひとつになり、彼女の望みを叶えようとしました。しかしルセからは道具としか思われていませんでした。最後にルセと分離したのは、ウツロイドがせめて彼女だけでも生かそうとした結果です。


クイーンビースト
ウツロイドとルセが融合した姿。姿はルザミーネ時とほぼ同じ。ウツロイドの神経毒、支配する力がルセという支配欲の強い人間と融合したことで増幅。結果ウツロイドの女王となった。ウツロイドたちも支配されて能力が強化されており、覆い被さらずとも触手で刺しただけで人形にできたのもその力。
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