僕はげきからマホイップと世界を巡る   作:三笠みくら

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其は、醜い恋のように

 

 

彼女から、唇を離す。ぽかんとしていたものの、すぐににたりと笑う。

 

 

「なあに、アマネ。愛情表現?」

 

「………」

 

「言ってくれなきゃ分かんないよ………?」

 

 

ルセちゃんが固まる。疑問の表情は、少しして苦悶の表情へと変わった。

 

 

「あ、あああぁぁ!?痛い、痛い!!辛い、からぁい!!なに、なんなの!?」

 

 

……フランが、僕のそばにいてくれてよかった。フランは確かにパワージェムを受けて倒れた。でもフランは、僕を悲しませまいと持ち堪えてくれていた。そしてルセちゃんが油断している隙に、フランからこっそり激辛クリームを出してもらった。あとは簡単、それを口に含んで彼女に口づけるだけ。ルセちゃんが激辛が大嫌いなのは知っていたからね。

 

 

「あ、うぁ、あぁ……」

 

「いまだ、フラン…」

 

 

 

「ホットクリーム!!」

 

 

女王であるルセちゃんが悶えている間、ウツロイドたちは動けない。それを理解して、全方位にホットクリームを発射する。ウツロイドたちに口があるのか知らないけど、とりあえず妨害できればそれでいい。そして何より…

 

 

「い゛っ……ああああ!!!」

 

 

ルセちゃんは、耐えられないだろう。大きな体のそこら中にホットクリームがついて、その熱で悶絶している。その瞬間、眩い光に包まれた。

 

 

「うっ……!?」

 

 

思わず、目を閉じる。まだ何かあったのか……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ます。するとそこには青空があった。背中もなにやらざらざらしている。起き上がると、そこは海岸だった。人々が倒れているが、それよりも。

 

 

僕の隣には、ルセちゃんが横たわっていた。見た目は元に戻って、静かに目を閉じている。生きているのかと確認すると、心臓の音がしたので一安心。

 

 

「…ふふ、えっち」

 

「起きたの」

 

「まあね。ウツロイドは離れちゃったみたいだけどね」

 

「そう…」

 

 

そこで、僕は違和感に気づいた。ルセちゃんに、起き上がる気配がない。一瞬疲れているだけなのかとも思ったけど、それにしては指の1本も動いていない。

 

 

「…起きないの?」

 

「あー、起き上がれない、って方が正しいかな」

 

「え?」

 

「ほら、ウツロイドって相手に神経毒を注いで支配するじゃない?そんなウツロイドとひとつになっちゃったからさー。わたしの体、もう神経毒で動かないの」

 

「………」

 

 

驚愕した。確かにそんな話は聞いたけど、まさか合体した相手にも神経毒が適用されるなんて。

 

 

「それにしても…嬉しいなぁ、わたし、アマネにキスしてもらっちゃったあ」

 

「ああするしか無かったの」

 

「でもファーストキスがあんな辛いのなんて最悪。どうせなら柑橘系が良かった」

 

「だから…」

 

「ねぇアマネ、アマネは他の女の子とキスしたことある?」

 

「あるわけないじゃん」

 

「やったあ、じゃあわたしがアマネのファーストキスの相手なんだ。嬉しい」

 

 

ルセちゃんはいつものように話を聞かないし、自分のことばかり話す。でもいつもと違って、どこか力がなかった。

 

 

「ルセちゃんは知らないだろうけど、僕のポケモン…フランはあの攻撃を耐えてくれたんだ。僕を悲しませないように」

 

「ああ…なつき度だっけ?そういうの、本当にあるんだねえ」

 

「ルセちゃんのポケモンは…そういうのないよね」

 

「あるわけないじゃん、必要だとも思わないし」

 

「そりゃそっか」

 

「でもそうだな…知りたい、とは思ってたよ」

 

「と言うと?」

 

「わたしさ、普通が分からないの。普通に好きになるとか、普通に助け合うとかが。わたしの世界では強いのと弱いのがいて、強い方が弱い方を支配する。それだけだからさ」

 

「…そう」

 

「だからアマネのことも、いつもみたいに支配しようって思ったの。でも…」

 

「でも?」

 

「なんかアマネと一緒にいる子のこと見たらさ…ああいうの、いいなって」

 

 

ルセちゃんは、普通の心が欠けている子なんだと思う。それを振り翳してポケモンたちやいろんな人を傷つけたのは絶対に間違いだけど、どこかで普通になりたかったのかな。

 

 

「あーあ、せっかく何か分かりそうだったのにな」

 

「これから知っていけばいいじゃん」

 

「あー…それは無理。なんて言うかな…分かっちゃうの。もう体の感覚もないし、これ死ぬなーって」

 

 

ぎょっとする。死という単語が出てきたことにも、自分の死に対して驚きもしない彼女にも。

 

 

「死にたくないとか、思わないの」

 

「思わないね、もうやれることはやったし。それにこれ以上生きてても意味ないかなって」

 

「何それ…まだやり直せるかもしれないのに?」

 

「…ふふっ、アマネは優しいねえ。わたしがいなくなってむしろ清々するんじゃないの?」

 

「いや、確かにいなくなって欲しいとは思ってたよ?でもそれはあくまでいなくなって欲しいであって、死んでほしいじゃないんだよ」

 

「…そう」

 

 

ルセちゃんは、ぼんやりと空を見上げる。僕らとは裏腹に、太陽はかんかん照りだ。

 

 

「ねえアマネ、最後にお願いがあるんだけど」

 

「なに?」

 

「もういっかい、キスしてくれる?」

 

「……だめ」

 

「なんで」

 

「だって。舌、噛みちぎる気でしょ」

 

「……あはは、ばれた」

 

 

いつものように、彼女はあははと笑う。でも、見るからに力がなくなっている。

 

 

「じゃあ、最後にひとつ言わせて」

 

「奇遇だね、僕もひとつ言いたかった」

 

「じゃあせーので言おうよ、せーの」

 

 

 

 

「わたしは」

 

「僕は」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたに、会えて良かった」

 

「きみに、会わなきゃ良かった」

 

 

 

 

 

お互いに、顔を見合わせて笑う。ルセちゃんは、静かに目を閉じる。

 

 

 

 

そのあと、ルセちゃんが目を開けることはなかった。

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