カイオーガ様の背中に乗せてもらって、僕たちはポニ島に向かうことにした。その間、グラジオさんはアローラの知り合いの人たちに電話しているけど、誰も出ない。
「ダメだ…ハウもクチナシさんも、スカル団も出やしない…」
「やっぱり屋外に出たから触手にやられちゃったのかな?」
「だろうな。ウツロイドの神経毒は凶悪だ、どれだけ精神が強靭だろうが意味を為さない」
どれだけ話をしても、一向に突破口は見えてこない。沈んだ気分のまま、海中を進んでいく。やがてポニ島の海上に到着して、静かに上陸する。
「ポニ島は人口が少ないからな、人形に襲われる心配もないだろう」
「でも建物もなさそうだよ、気をつけないと」
コソコソと隠れながら、僕たちは進んでいく。すると、何やら海パンのお兄さんが走ってきていた。
「ハァ、ハァ…畜生、なんだってんだ!あんたら、まともな人間だよな!?よかった…」
「お兄さんも、あの触手に?」
「ああ。つっても俺は無事なんだけど…彼女がやられちまったんだよ!可愛い彼女が人形みたいになっちまって…」
お兄さんは嘆いている。しかし、やたら背中を掻いているのが気になった。
「お兄さん、背中どうかしたんですか?」
「え?ああ、ちょっと、痒くてさ」
「そうなんですね」
「ほんとに かゆい なあ」
「…お兄さん?」
「うまいもん で も」
「これ、は…」
「かゆ い うま」
「逃げろっ!!」
お兄さんの目が、ぐるんと回った。どうやら気づかないうちに触手に刺されていたようだ。毒だから、人によって回り方が違うのかもしれない、とダルスさんは推測した。そうこうしているうちにポニの大峡谷に到着した。
「よし…ここのポケモンたちは強力だ。気を引き締めていくぞ」
「はい!」
「任せてください!」
僕たちはポニの大峡谷を進んでいく。道中強力なポケモンたちに襲われたが、みんなで蹴散らした。やがて、ポニの大峡谷の最奥…月輪の祭壇に到着した。祭壇の中央には、裂け目がある。
「ここが、月輪の祭壇…」
「でも、ルセちゃんはいないみたいですね」
その時。僕のスマホロトムが鳴る。連絡先はもちろん……非通知。覚悟を決めて、電話に答える。
『アマネー。来てくれたんだ』
「来たけど…ルセちゃんはどこにいるの?」
『えへへ、嬉しいなぁ。わたしの地元にアマネが来てくれて、これから会えるんだもんねえ』
「…どこにいるの」
『もう。乙女心は複雑なんだから。まあいいや、アマネもわたしに会いたがってるってことだよね?じゃあ…』
『迎えに いくね』
その瞬間。裂け目から無数の触手が現れ、僕の体を掴んだ。ものすごい力と速さで引き摺り込まれる。
「アマネくんっ!!」
アオイちゃんとユウリさんが手を伸ばしてくれたけど、その手は届かなかった。
「ほみ、ほみ…」
「ん……フラン…?」
フランが僕のほっぺをぺちぺちと叩く。目を覚ますと心配そうに見つめるフランと……無数のウツロイドが目に入った。
じぇるるっぷ じぇるるっぷ じぇるるっぷ
攻撃するでもなく、ただぷかぷか浮かんでいる。鍾乳洞のようにきらきら輝く岩が、宝石のよう。しかしその美しさではどうにも隠しきれない、おぞましさと薄気味悪さで鳥肌が立った。
「あはは、アマネ、いらっしゃい」
ルセちゃんの声が聞こえる。心なしかいつもよりもご機嫌で、いつにも増して甘い声だった。その声に振り向いた。
そのことを、心の底から後悔した。
白目の部分は黒くなり、ブロンドだったはずの髪は真っ白になり。すらりとした足は、深海のようにどす黒くなっている。そして何より、ウツロイドの体に包まれている。透明なドームにルセちゃんを閉じ込めたような。それでいて、ルセちゃんがウツロイドを支配しているような。
とにもかくにも、おぞましかった。
「いらっしゃいアマネ。2人きりだね……?」
にたり。怪物は、嬉しそうに笑った。