グラジオさんとシェードジャングルで洗脳への対策を話していると、何やら足音が聞こえてきた。
「しっ…足音が聞こえる。それも随分規則的な…もしや人形か?」
「とりあえず隠れよ…」
茂みに隠れて観察していると、近未来的なスーツに身を包んだ2人組が歩いてきた。
「ふむ…いないな。確かにここに生体反応があったんだが…」
「えー、ダルスの見間違いじゃないの?」
「動くな!」
2人組に、グラジオさんがそう叫ぶ。2人組は大人しく両手を挙げて立ち止まった。
「話を聞いてほしい。我々は怪しい者ではない」
「その格好は充分怪しいと思うが…」
「あはは、ダルス言われてるー」
「まあまあ…会話もできるみたいだし、とりあえず話聞きましょ?」
「ああ、そうだな。オレはグラジオ。」
「ワタシはダルス、こちらはアマモ。我々はウルトラ調査隊と言うものだ」
「ウルトラ調査隊?SF映画みたいでかっこいい…」
「この状況はパニックホラーだけどね…」
「それで?ウルトラ調査隊は何をしているんだ?」
「単刀直入に言うが、我々は別世界から来た」
ダルスさんの言葉に、僕たちは驚く。けれどダルスさんたちの素顔は、明らかにメイクなどではない色白だった。
「ネクロズマというポケモンによって光が奪われた世界…まあ今はこのことはいいな。ともかく我々は別世界の人間。そして今アローラに起きている異常も知っている」
「…話を聞こうか」
「感謝する。我々はウルトラホールの研究を行っていてな。だがつい先日、ある異世界で異常なまでにウルトラビーストのエネルギーが増幅したんだ」
「ある異世界?」
「うん!ウルトラディープシーって言うねー、ウツロイドの住んでる世界!」
「ウツロイド…!!」
アマモちゃんの口からウツロイド、という単語が出て、僕たちに緊張が走る。
「だが知っての通りウツロイドは凶悪な存在…下手に刺激してもいけない、我々は観測するに留めていたんだ」
「なのにどうしてアローラに?」
「アローラでも、同様の反応が起きたからだ。我々の世界と違い、アローラはウルトラビーストの被害が少ないからな。これは異常だと思ったんだ」
「なるほど…それで、何か気づいたことなんてあるんですか?」
「ああ。まずアローラで出現している洗脳の触手。あれはウツロイド1体のものではない、複数のウツロイドが出している」
「何それ、まるでウツロイドがアローラを狙ってるみたい…」
「そうかもしれないな。だが話はこれからだ。そのウツロイドたちは、女王に従っているらしい」
「女王?」
「ああ、ミツハニーにとってのビークインのようなものだ…この例えは合っているか?」
「大丈夫です、続けて」
「女王とやらが出現したのもまた先日。ウツロイドの中でも特に強大かつ凶悪な存在ゆえ、我々は女王と呼んでいる」
「そうなんですね…」
そうダルスさんの話を聞いていると、僕のスマホロトムが空気を読まずに鳴った。しかもまた非通知。心臓が跳ねるけど、出ることにした。
「…もしもし?」
『やっほー、アマネ』
「………!!」
ルセちゃんだ。今すぐ切りたいが、何か言いたいことがあるから電話してきたんだろう。
『びっくりしてるねー。まあ今アローラひどいもんね』
「ルセちゃんは大丈夫なの?」
『あはは、アマネやさしーい。でも大丈夫だよ、わたしはちゃんと別の場所にいるから』
「それで?何の用?」
『あのね、わたしのお友達がアマネに会いたいんだって。わたしも会いたいけど』
「…だったら来たらいいんじゃないの」
『それができたら苦労しないよー。今この場から動けないもん』
「まあそっか」
『それでね、アマネを招待しようと思って』
「…招待?」
『そうそう。どうせならわたしもアマネをひと目見たいし』
「どこにいるの」
『内緒♡でもどうせだからヒントあげちゃう』
「普通に教えてよ」
『じゃあ言うねー。ポニ島の月輪の祭壇。そこに来てくれたらわかるから』
言いたいことだけ言って、ルセちゃんからの電話は切れた。ポニ島の、しかも月輪の祭壇?なぜそんなところを指定するんだろうか。
「ねえねえ、今のってお友達?」
「アマモちゃん。友達っていうかなんというか…」
「ふうん…でもその子、ウルトラディープシーにいるよ」
「えっ!?」
アマモちゃんから予想外のことを言われ、僕は驚く。ルセちゃんが別世界に?なんでそんなことに…
「だって…後ろから海中みたいな音が聞こえたでしょ。あと不思議な鳴き声」
そう言われて録音を再生してみると、確かにごぽぽ、と泡の立つ音と。
じぇるるっぷ
というどこか儚くて、不気味な声。声というのも憚られるけど。
「じゃあ、ルセちゃんはウルトラディープシーに?」
「たぶんね」
「お前の電話の相手…ポニ島の月輪の祭壇を指定したな。そこは特にウルトラホールの出入りがしやすい場所なんだ。おそらくウルトラディープシーに呼び出すつもりだ」
「よし…なら行ってみる価値はあるな。ウツロイドの事件の解決もできるかもしれない」
ルセちゃんがウルトラディープシーにいる。ウツロイドの洗脳事件の解決を求めて、僕たちはポニ島に向かうことにした。