夜半、ここはシュートシティの北部
かつてマクロコスモスの本社だった場所、今はバトルタワーと呼ばれる場所。
そこの屋上で俺は何をするでもなくスマホロトムを弄る、中のロトムは嫌がっているが俺は気にしない。
今から起こる事を考えれば顔がニヤけるのが止まらない、それに比べれば相棒の不満なんてなんのそのって感じだ。
少し離れたところでエレベーターの音が鳴る、待ち人来たれりだな。
俺がそちらを向くと一人の少女が立っていた、側にはこちらを威嚇するように異形のポケモンが浮かんでる。
白いケープを身に纏って、神官のようにも女神のようにも見える、無造作に伸ばした髪はそれでも彼女は美少女だとわかる。
そんな少女に俺は思わず舌なめずりしてしまう、
「なんのよう?」
それを見て少女は明らかに不機嫌な表情を隠そうともせず問いかけてくる。
「それにあの人達に何をしたの」
そう言って周りを見る彼女、
彼女の周りにいる人間は一目で異常だとわかる表情をしていた、生気がない目、なのに表情は笑顔まるで次の命令を待っているように直立不動。
何よりこの状況、本来ならば夜でも人の出入りのあるバトルタワーで今ここには彼女を連れてきた人間以外人っ子一人いない、なのにライトアップされたバトルコート、明らかな不審者を前になにもしない警備員、おかしいことだらけだ。
「ちょっとお願いしただけだよ」
そう言ってスマホロトムを見せる、嘘は言ってない、ただちょっと中に入ってるアプリで言うことを聞いてもらっただけ。
「なんのよう……だったな」
俺はそう言って俺は彼女をそして彼女の周りを浮かぶ異形に指を向ける。
「お前らを倒して俺はお前らを手に入れる」
「世迷言……?」
「いいや本音で本気さ」
呆れる彼女にモンスターボールを取り出す。
「チャレンジャーリンドウが勝負をしかけてきた」
なーんちゃって。
「チャンピオンユウリ」
バトルしようぜ。
●
我ながらゴミのような人生だった。
親はギンガ団のアカギ教信者
幼い頃から福利厚生ばっちりの表側とは違う裏側に所属する両親に連れられ、なまじっか俺はお頭の出来が良かったらしく強制入社、晴れて九歳の頃にはギンガ団の下っ端兼研究者。
二徹三徹は余裕の職場環境で上司に叱責される日々。
正式な社員ではない俺には給与など払われる筈もなく無休無賃金。
一度給与をくれと強請ったこともあったが鼻で笑われ労働に対価を求めるな、アカギ様の理想を叶える為の礎になれたならそれが何よりの幸せである、とか言われる。
労働したから金をくれ。
俺の人生よりもアカギ教の高尚な理想とやらの方が大事であると齢九歳で宣告されそれからは歯車として生きた。
そんな俺の心の支えは外出の時に偶に見つけるお宝本と俺にお宝本をくれるじいちゃんだった。
「じいちゃん、オレおっきくなったらクソダサヘアー宇宙人じゃない綺麗なお姉さんといっぱいお付き合いしたい」
「おおうリン坊はハーレムがいいのか、リン坊は剛毅じゃのう」
「ハーレム?ってなに?」
「ハーレムはのお綺麗なお姉さんといっぱいお付き合いして毎日パーリーピーポーな状態で楽しく暮らすことじゃよ」
「俺、ハーレムがいい!」
「リン坊ならいつかできるぞ、リン坊はいい子じゃからのう」
「じゃからいつもどおりこのカメラを回しながらお姉さんに僕の◯の玉綺麗でしょう買ってくださいといってこれを渡して来なさい」
「うん!わかった!」
両親に疎まれてた俺を唯一かまって話を聞いてくれたじいちゃん、いつの間にか会えなくなってしまって、それきり会えなくなってしまったけどじいちゃんの言葉を糧にして生きた。
真面目風に任務や研究をこなし偶に盾付きながら、潰されちまえクソブラックがと恨み言を吐きながらギンガ団には報告せず手持ちを増やす日々。
すべてはハーレムのため、綺麗なお姉さんと付き合うため。
五年後そんな日々は唐突に終わりを迎えた。
チャンピオンによって組織の裏側は暴かれアカギは失踪、ギンガ団は崩壊した。
俺は歓喜したようやくこのどん詰まりの日々が終わるのだと、俺は自由だと。
だがそうはならなかった。
どんな司法取引があったのか表のギンガ団はまともな企業として再出発、だがギンガ団の行ったテロ行為の規模が大きく全員無罪という訳にはいかなかったのだ。
結果三湖の湖を吹っ飛ばした事件及び重要文化財の破壊、シンオウを恐怖に陥れた異常気象、それらはギンガ団とは無関係のテロ組織の仕業とされその実行犯としてギンガ団裏の仕事をしてた人間達が逮捕された。
まぁやべーことしてたのは事実だしさもありなんなんだがただ俺にとって不味かったのはその逮捕者の中に実の両親が混じっていたことである。
小遣いくれたこともなく何処かに連れてってくれたこともない親子らしい記憶のない自分の無能さを世間に責任転嫁し続けアカギが作る新世界とやらを目指した両親からの最初で最後のプレゼントは犯罪者の息子のレッテルだった。
結局俺はギンガ団の下っ端から逃げられなかった。
身寄りもない、お金もない、宿もない、挙句に親はちょっとあっぱらなテロリスト。
そんな子供に世間は優しくない。
バトルの腕には自信があったからそれで身を立てようにもパスは発行して貰えず、働き口もなくみんなを食わせていくことも難しい。
進退窮まった俺はいつかの公園で俺は空を見上げる。
ブラック企業に食いつぶされ親から逃げられず自分と一緒にいてくれる家族を養う甲斐性もない。
本当にゴミみたいな人生だった。
…………綺麗な奥さん欲しかったなぁ。
そんな俺の顔にとあるチラシが覆い被さる。
誰かが捨てたゴミ…………今の俺にはピッタリな……
だがチラシの内容を見た時俺の脳裏に電流が走った。
思わず乾いた笑いが出る、そして思う。
ふふふ、そうだこれまでゴミみたいな人生だったんだこれからはクズとしてどんなことでもして生きていこうと。
俺はチラシをもう一度見る、そこに書かれていたのは……
『催眠アプリ(本物!)これで私もハーレムを作りました!!』
そうだこの催眠アプリでハーレム王に俺はなる!!
そして綺麗なお姉さんに養ってもらう!!
これこそ人間のクズの発想。
どうせ俺にもポケモン達にも優しく優しくなかった世界だ!だったら俺ももう真面目に(?)生きようなんて思わない!催眠クズ野郎として生きてやる。
今思えば俺はこの時壊れてしまったのだと思う、善悪の秤は壊れてもう戻ることはない。
こうして俺は人に心を弄ぶ、催眠クズ野郎として生きていく事を決めた。
●
「で、これが催眠アプリの完成機ってわけ」
「テワケじゃないロトが…………」
一年後俺は完成した催眠アプリをスマホロトムにインストールしていた。
場所はギンガ団の隠しアジト。
あの後クズ宣言をした俺はギンガ団時代の知識を総動員し使われてなかったアジトをしらみ潰しあたり八件目のここに安住の地を見つけていた。
というのもあのチラシに書かれていた催眠アプリは課金制で正直無一文の俺ではご利用ができなかったのである、俺は絶望した、だが逆に考えてみた、作っちゃえばタダじゃね?と。
「それで作っちゃうノガ、リンドウのオソロシイところロトが……」
そういいながらダウンロードが終わった機体に入り込み俺の周りを飛び回る。
こいつは普段スマホを居候先にしているので手持ちには入ってないがやる時はやる頼りになるこいつは昔ギンガ団のパシリだった頃ハクタイ名物もりのようかんの近くで拾った卵から孵った比較的付き合いの長い家族であるロトム。
人生でじいちゃんと先生以外の話し相手に恵まれてなかった俺の貴重な話相手でもある。
「ソレデーどうするロトかぁ?適当な相手見つけてアプリを使うんロトかー?」
だが所詮はポケモンと人間付き合いの長さでは種族の壁は越えられないのかもしれない。
俺は目の前で情緒のない事を抜かすロトムにため息をつく。
「あれだよなー、ロトムはさ人の感情の機微とか奥ゆかしさとかそういうのわかってないよなー、そんなことする訳ないじゃんよ」
「イラッ」
口でイラって言っても可愛くないぞー
「俺はマインドコントロールで意識も意思もない相手イチャイチャしても嬉しくないの、そんなのおままごとじゃんかそんなの一生続けても楽しく無いじゃん」
俺は純愛派でピュアっピュアな恋愛感で生きてんだから、無理矢理とか絶対無理、NTRは悪い文明。
「ナンカ色んなヒトにケンカ売った気がスルロトが……じゃあナンデそんなモン作ったロト?」
「決まってんだろ催眠かけて心理誘導して距離縮めて最終的に催眠かけてない状態でもリンドウくん好きって言って貰う為だよ」
そしてあわよくば綺麗な年上のお姉さんに押し倒されて童貞を捨てたい。
「エー周りくどくないロトかー、てかソレクズロトー?」
いやクズだろ騙して心操って最終的にヒモ狙いでハーレム作ろうとしてるんだから。
因みに俺はこの一年みんなにちゃんとしたものを食べてもらう為に料理も勉強したし身元引受人なってくれるんらちゃんと働く気もある。
なんか納得いってない感を出すロトムを無視して俺は雑誌を取り出す。
「それよりこれ見ろよ」
「なんロトこれ」
「ガラルジムリーダーのお宝本」
本には褐色美人のお姉さまの水着写真が写ってる
健康的な露出、薄く見える腹筋、輝く曲線美、最高である。
そして次のページには何も楽しくなさそうな顔で映るお子ちゃま。
俺はそいつを指差して。
「そしてこいつが最初のターゲット」
そう言ってロトムにページの解説を見せる。
「群雄割拠のガラル地方で三年間ムハイのチャンピオン、ユウリ…………」
「そう、そいつに催眠をかけてガラルのお姉さま達への導線を作る、チャンピオンの紹介ならジムリーダーにも簡単に会えるし本丸を抑えちまえばもうこっちのもんだろ、後はゆっくり時間かけて俺の催眠でガラルを侵食していく、そして俺はガラルでハーレム王になる」
だからまずユウリなのだ、正直年上趣味の俺にとってユウリは好みじゃない、筈だ、だがユウリに俺が恋人だと暗示をかけ少しずつ好感度を稼げばガラル攻略はずっと楽になる。
「キュウに悪役っぽいロトね」
「クズだからな」
「だから当日はこうギンガ団の下っ端みたいにクズ感強いキャラでいこう!」
「台無しロト…………」
●
そして冒頭に戻る、いやちょっと進んだか?
俺のポケモンが戦闘不能になりモンスターボールに戻っていく。
「もういいでしょう諦めたら?」
激闘を物語る傷だらけのバトルコート。
かなり食いついたが残り手持ちは一体、相手は剣を咥えたワン公にもう一体。
二対一の状況でユウリの勝利宣言にも似た言葉が響く。
さすがはガラル最強のチャンピオンだ正直舐めてたしここまで追い込まれるつもりもなかったしもっと楽に勝てると思ってた。
まさしく圧倒的
だが
俺は最後のモンスターボールに手を伸ばす。
諦めるつもりなんて毛頭ない!
「まだやるの?」
「当たり前だろ」
親なし金なし宿もなし、だけど俺にはまだ俺を信じてくれるポケモンと催眠アプリの力がある、それがあれば俺たちは伝説にも幻にも負けない。
そして俺は幸せを手に入れる、素敵な奥さんを手に入れる。
テメェのクソつまんなそうな仏頂面も赤らめ上目遣いに変えて見せる!
その下が見えないせいでやたら視界に悪いエロケープを脱がせてエプロン着せて一緒にカレーを作ってやる!
だから
「勝つつもりなの?」
違う
「勝つさ!!」
催眠アプリと俺のポケモンの最強タッグでガラルハーレムを作るその日まで
「いけ―――――」
『ギギギガガガガアァァァァァァァァァァ!!!』
俺の戦いはここからだ