いだいなるきょじんのおう われわれはここにのこす
「大き……なんだろうこの石像エレキにちょっと似てるけど……」
「なんか書いてある……えっと……」
やぶれたるきょじん こどくなきょじん うしなうことをおそれるきょじん
じゅばくはおもく てあしはかたい
こころはこごえていたいのなか こころうごきだすのはおもく じかんとともにうごきだす
こはんときのじかんのめぐりふるえはとまりしんのきょじんのじかんがおとずれる
「すぐれたる…………とぅすくる……でいいのかな?その後は掠れてよめないや」
「エレキ?これってどういう意味だろ、巨人の王様は始めから全力は出せないってこと?」
「ギュイィザクド」
「やっぱりそうなんだ!でもこはんときってなんだろ、マグノリア博士に聞けばわかるかなぁ」
「巨人の王、レジギガスか…………」
●
「行け、レジギガス」
「ギギギガガガガアァァァァァァァァァァ!!!」
白い巨人がバトルコートに降り立ち土煙を上げながら夜空に咆哮を上げる
その姿に昔の記憶が揺り起こされる。
そのポケモンの姿は私がかつて見た石像のままだった。
伝説の巨人の王レジギガス。
だけど少年の六体目を見た私には何の感情の揺らぎも無かった。
●
深夜、私の前に現れた不審者にして挑戦者。
目的はムゲンダイナと私という彼の意図は今持ってわからないが、私をここに連れて来た人間やここまで案内した人間の様子を見ればまともな人間でないのはわかる。
或いは彼らをおかしくした力で私を使ってムゲンダイナを掌握するのが目的なのかも知れない……
知れないが……私にとってはどうでもいいことだった。
彼がポケモン勝負を挑んできた時点で結末は決まっていたから。
あわやという場面もあった、未知のポケモンに出し抜かれることもあった、
強さはダンテに匹敵するかもしれない、彼は強い。
でもそれでも私には勝てない。
私は負けないから
ましてや
かつてカンムリ雪原の定めの遺跡で見た碑文を思い出す。
エレキと出会ったあの場所で見た巨人の王に関するもの、
巨人の弱点。
巨人は最初から本気で動くことができない。
だからこれでおしまい
君が誰か結局知らないけど
いつもと同じように
君は強かったけど
だれも私には勝てないから……
結局いつもと変わらない。
だれにもわたしは負けないから
負けられないから。
「ザシアン、せいなる……」
「レジギガス、ギガインパクト」
「がっ!?」
最後の指示を出そうとした瞬間ザシアンが何かに轢かれ吹き飛ばされ、バトルコートのセーフティーバリアに衝突する。
「え………?」
吹き飛ば……された?
「ザシアン!」
「……ウルォ!」
私が声をかけるとザシアンは弱々しいながら勇ましく返事を返す、まだ戦える。
相性の差でなんとか堪えられた、それが無ければ耐えられなかった。
何が起きているのかわからないまま私はザシアンに指示を出そうとする。
とりあえず、ギガインパクトの反動で止まってるところで立て直す。
「ギギギ、ギギギ」
だがそんな暇は無かった、すでに巨人が目の前にきてる。
「レジギガス、もう一発だ」
そして無慈悲な鉄槌がザシアンを襲う、そして今度こそザシアンは耐えられず目を回している。
「ザシアン戦闘不能」
呆然とする私に彼は冷淡に告げる。
彼はまるで当然だという顔をしていた
レジギガスがとくせいを無視したことも、あの巨体で一瞬でザシアンの目の前に現れたスピードも反動などまるでないかのように技を使ったことも全て当然だという顔をしていた。
「言ったろ勝つって、もう勝ったような顔しやがって、今どんな気持ちー(笑)どんな気持ちー?」
ここぞという場面で煽ってくる彼……
今どんな気持ちか?どんな気持ちかって…………?
『巨人の王レジギガスか…………じゃあ最初からからゼンリョクになったら最強ってことだよね!』
『じゃあムゲンより強いかな?』
『ギュイィーーギュギュ』
『ははっ当然だって?…………いつか戦ってみたな…………その人なら』
『わたしに勝てるかな…………?』
どんな…………キモチ…………カ……?
「俺のレジギガスが最強過ぎて呆然としてるのはわかるけどよ」
「出せよ、ムゲンダイナ」
●
あーぶーねー
一生懸命煽って当然ですよみたいな顔してるが内心冷や汗ダラッダラな俺である。
レジギガスを見た瞬間明らか空気が緩んだから奇襲かけてみたけど成功してよかったー。
もしユウリが最初から油断せずザシアンをダイマックスして潰しにきてたら負けはしないだろうがこちらも切り札を切らねばならず不利な状況でムゲンダイナを迎えなきゃいけないところだった訳で。
ユウリの奴がレジギガスのとくせいを知ってたのは本気でラッキーだった。
レジ系のポケモンも持ってたし、まつろわぬ民の遺跡のどれかに行ったことがあるのかも知れない、あれ結構どこにでもあるし……。
だがユウリがレジギガスのとくせいを
そう俺のレジギガスのとくせいはスロースターターじゃない。
正確にはスロースターターじゃなくなったと言った方が正しいか。
昔の話である、俺はレジギガスは何故スロースタートなのかと考えたことがあった、
レジギガスには創造神と戦ったという説もある、だがその時既にスロースターターだったとは考えにくい、流石にその状態で創造神と戦うのはロック過ぎるだろう。
つまりスロースタートは後天的くっついたとくせいの可能性が高い。
では問題はどうしてそうなったのか、創造神との戦いでかけられたデバフとも考えたが完全に抑えられてるわけじゃなく逆に時間経過で呪縛が緩まるというのは逆ならわかるが少し違和感があった。
なので俺はこれは外的要因ではなく内的要因、心の問題ではないかと考えてみることにした。
だがレジギガスはあまり昔のことを話したがらないシャイな奴なので原因はわからない。
俺はレジギガスと膝を突き合わせて話し合った…………
「ぶっちゃけレジギガス的にはどうなんだ……スロースタートを克服したいと思ってるのか?」
すると少し考える素振りを見せた後
「ギギギ ギギギギ」
どうやら克服はしたいらしい(動き的に)
ではどうするか、俺はクズトレーナーを目指すもの、つまり。
「催眠による自己肯定感爆上げ大作戦だ!」
「イヤそうはならんロト」
なっとるやろがい!
俺はレジギガスの催眠による自己暗示で自己肯定感を上げまくったひたすら褒め、悪かったとこがあっても叱るのではなく一緒にどうすればよくなるか考え、子供たちを思って涙を流す時にはみんなで寝たりもした。
「ギギギ ギギギ ガガガ…………?(ずっとそばにいてくれる?)」
「当たり前だろ、俺はお前のトレーナーなんだから、俺がレジギガスと離れる時はお前が俺をいらないって言う時だけだよ」
「ギギギガガガガガガガガ!!」
「ちょっやめろって!もう言わないから」
星空の下でしたそんな会話も今ではいい思い出だ。
レジギガスが自分を信じられるようにレジギガスが俺の指示を信じられるように、そうした日々は身を結び、いつしかレジギガスからスロースタートは消え、代わりに新しいとくせいを得た。
そしてレジギガスは最初から全力で動ける上無反動で技を撃つことができる自己肯定感マシマシの完全体レジギガスになったのだ。
いや何で無反動で技を撃てるのかは俺にもわからない…………気づいたらできるようになってた俺は宇宙ニャルマーになった。
そんなレジギガスでも危ないと思わせられる
これでイーブンまで持っていった、
そして俺は次の相手を睨みつける。
奴こそが俺がこんなバトルする羽目になってる理由だからだ。
俺の野望を阻もうとする俺の怨敵。
お前がいなかったらもっと楽が出来たのに……ぶっちゃけチャンピオンとバトルする気なんか更々なかったのに……。
バトルに集中するために忘れてた怒りが沸々と込み上げてくる。
絶対に……
絶対に許さんぞムゲンダイナ!!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!
という思いを視線にこめる。
来いムゲンダイナ
俺はお前を倒すためにやってきた。